★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★
880:北畠蒼陽2006/02/27(月) 05:26 [nworo@hotmail.com]
彼女はどんな思いでこの戦場を見ているのだろう。

丁奉が彼女のそばに近寄ったとき……彼女は遠めに見たときと同じ佇まいでそこにいた。

彼女の目にはなにが映っているのだろう……?

「なにかしら……? 私はただの一般生徒よ」
すでに丁奉が傍によっていることに気づいていたのだろう、背を向けたまま彼女は丁奉に問いを発する。
「今はただの一般生徒だろうとなんだろうと……あなたの名前には意味があるんですよ」
丁奉の言葉に彼女はゆったりろ振り返る。
その顔は不思議なものでも見るような表情が浮かんでいる。
「私の名前に意味?」
……蒼天章なんてすでにないのに、わずらわしいことね。
苦笑を浮かべる彼女。
「有名税ってやつですよ、毋丘倹先輩」
丁奉の言葉に彼女……毋丘倹は苦笑を濃くする。

長湖部に身を寄せた文欽先輩はことあるごとに言っていた。
お前の剣は毋丘倹にははるかに及ばない、と。
同じく新陰流を使うものとして毋丘倹という名前は知っていた。
……私よりも強いのならなぜそうそうにリタイアなどするのか。
私はまだ、ここにいる!
文欽先輩の言葉はただの身内贔屓だろう。
毋丘倹先輩は弱いから、弱いからリタイアすることになったのだ。
弱いから……リタイア……
私の脳裏に誰よりも強くて、でも病気を押して戦場に立ち……私を生かして自分はリタイアした人の姿が浮かんだ。
爪を噛む。強く。強く。
私はその人よりも強いことを証明しなければならなかった。

「それで私にどうしろっていうのかしら。私もそろそろ帰って受験勉強でもしたいんだけど」
困ったように毋丘倹は首をかしげる。
受験勉強……あまりにも眼前の戦場にそぐわない単語に丁奉はあきれたような顔をする。
「勉強もせずに、こんなところにいていいんですか、先輩」
「そう。そうね……」
丁奉の嫌味に、しかし毋丘倹は再び戦場に目を向ける。

「これが……蒼天会3年生の最後の光だからね。私もあの中にいた人間として看取ってあげなきゃいけない」
1-AA