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882:北畠蒼陽 2006/02/27(月) 05:27 [nworo@hotmail.com] 「……無刀取りでも気取るつもりですか」 上泉伊勢から柳生石舟斎に伝えられた新陰流の極意。 「まさか。あんなのが使えるのは歴史に名前を残すようなバケモノだけよ」 にっこりと笑いながら…… 「でも状況を見て利用する、って技術は私程度でもできるわ」 足元の砂を蹴り飛ばす。 こんなものを目くらましにするつもりか。バカにしてッ!? バックステップしてかわそうとする丁奉の正面……砂煙の向こうから斧のようなものが振り下ろされるイメージ。 慌てて目を向ける。 そこには砂煙を抜け……砂を蹴り飛ばすのと同時に全力で前進していたのだろう毋丘倹が拳を握っていた。 間に合わない! 丁奉は迷わず木刀を捨て、正確に心臓を狙って打ち出される正拳をなんとかガードする。 自分からジャンプしてパンチの衝撃を殺してなお、丁奉のガードした腕に鈍痛が走る。 「あぁ、決めたつもりだったんだけどなぁ」 ぼやくように言う毋丘倹。 「まぁ、そっちも木刀を失ったわけだし、よしとしましょ」 足元に転がる木刀に見向きもせず再びポケットに両手を入れる。 小細工と圧倒的な力。 これが蒼天会最強の戦乙女、毋丘倹。 丁奉は深呼吸する。 間合いは槍の間合い。剣には遠く、ましてや無手の間合いではない。 しかしさっきの毋丘倹のダッシュを見る限り、彼女であればこの間合いを一瞬で詰めることが可能だろう。 ……そこまで考えて丁奉は舌を巻いた。 なるほど、さっきのダッシュを見せ付けたのはこの間合いを自分が一瞬で詰められることをアピールし、警戒させるためか。 一挙手一投足に意味がある。ではなぜそれをアピールしなければならないか。 ……恐らくは…… ふっと、丁奉の力が抜ける。 「?」 そして構えを解き、ゆっくりと毋丘倹に向かって歩を進めた。 「なるほど。ばれちゃったか」 毋丘倹が苦笑を浮かべる。 あの距離は本来の毋丘倹の間合いではないのだろう。 ただあの間合いを嫌って不用意に丁奉が近寄ることがあれば自分の間合いに入った瞬間に牙を剥く。 「先輩、お互い忙しい身ですし一撃だけで決めましょう」 「賛成だわ」 丁奉が立ち止まる。 毋丘倹が薄く笑った。 何の前触れもなく…… 2人が交差する。 「こっちの……勝ちです」 丁奉の拳が毋丘倹の心臓を捉え寸止めされていた。 「そうね。あなたの勝ちよ」 毋丘倹は微笑む。 勝者と敗者が決定する。 風が吹いた。 「戦場はまだ止まらないわ。あなたは自分の剣を振るえる場所に行きなさい」 毋丘倹の言葉に丁奉は頷いた。
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