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896:冷霊2006/03/22(水) 14:31
葭萌の夜〜白水陥落・参〜

「孟達、首尾はどないやったん?」
「問題無しね。三人とも慌てて準備してたわよ」
「そうか?そんなら大丈夫やな」
葭萌門管理棟。
部屋には劉備と孟達の二人きり、劉封は只今お茶を注ぎに行っている。
「で、話したいことってなんや?なんぞ、向こうさんの情報でもあるんか?」
孟達が僅かにかぶりを振った。どうやら情報を持ってきたわけではないらしい。
僅かに息を吸う。そして孟達ははっきりとした声で言い放った。
「蜀を取った後、貴方はどうするつもり?」
部屋の空気が止まる。
一瞬だけ孟達の視線を正面から受け止め、劉備は口を開いた。
「蒼天会に対抗出来るだけの勢力を作るだけや。蒼天会や長湖部の連中とは肌が合わんしな」
真面目な口調。滅多に見せない表情に、孟達は僅かに息を呑んだ。
「そやけど……」
不意に口調ががらりと変わった。
「ウチの周りにおる奴等と楽しい学園生活を送る。これが一番の目標や」
劉備がニッと笑ってみせた。
「その為やったらウチは何でもしたる。それがウチらの夢やからな」
本心からの台詞なのだろう。孟達にもそれが伝わっていた。
鬼にも仏にもなれる人物……それが劉備なのだと。
「なんや?劉璋はんの心配しとるんか?」
一瞬の間。
「ま、まあね。していないと言ったら嘘になるわ」
孟達は視線をそらし、窓の外に目をやる。外は次第に暗くなりつつある。
「そやなぁ……劉璋はんには雲長と一緒に荊州棟でも頼もうか。あっちなら治安もええし、劉璋はんには合うてると思うで」
劉備は立ち上がり、窓から外を眺めた。孟達の反応はない。
「なんや?安心してぇな。もちろん、東州のこともまとめて面倒見るつもりやで」
その言葉を聞いた途端、孟達の顔から表情が消えた。
ギィンッ!!
次の刹那、劉備のハリセンは孟達の短杖を受け止めていた。
「劉備……やはり君とは分かり合えない」
「そら残念やったな。東州の纏め役をオトせたら楽やったんやけどなぁ」
素早く両者は距離を取る。
「多分楊懐はんの方やろ?アンタならウチのこと、わかる思うてたんやけどなぁ」
残念そうに呟く劉備。孟達がマスクを掴み、剥ぎ取る。その下から現れたのは楊懐の顔。
「分かっているつもりだ……だからこそ渡せない」
楊懐は短杖を構え直す。
「そんならどうして劉璋はんにこだわるんや!今のやり方やったら益州は……」
「わかっている」
きっぱりと、しかし強い口調で言い切った。
「今のままでは蒼天会どころか張魯にも勝てないだろう。タマは益州校区を統べる器ではない」
「うわ、きっついなぁ……」
劉備が軽く苦笑いを浮かべる。
「だが……」
楊懐が再び口を開く。
「行き場の無い私達に場所をくれたのが君郎さんだった。趙イさんが私達が問題起こしたから追い出そうとしたとき、タマは言ってくれた。私達はここにいてもいいのだ、と」
両者の間に流れる緊張した空気は変わらない。
「タマと……季玉といる益州校区が私達の居場所なんだ。私の中にある益州校区に君はいない」
静かながらも強い口調。
「例え、ウチらが益州校区を劉璋はんに任せる言うてもか?」
劉備が一瞬、窓の外へと注意を向ける。
「タマと君、どちらが優れているかは自明の理だろう?頭は二つも要らない」
「それは関しては同感やな」
楊懐と劉備、互いに笑みを浮かべる。
だが、両者の瞳は真剣そのものである。
「姉貴、お茶淹れてきたけどー……」
「ホウ統さんが伝言があるってー……」
劉封と関平がやってきたのはそんなときであった。
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