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927:海月 亮 2006/06/04(日) 21:20 ほんの十数分前、益州学区に程近い臨沮地区へ向かおうとする潘璋を呂蒙が呼び止めた。 「実はなぁ、この娘をあんたの軍団に加えて欲しいんだ」 「えー?」 呂蒙が連れてきた少女こそ、件の少女…馬忠である。 既に戦闘の段取りを組み終えたところで、逆に新たな人員を加えることは、組み上げた段取りを再構築しなければならないことを意味する。潘璋の不満げな反応も、至極当然のことだが…呂蒙の熱心な説得に潘璋が折れ、その少女は丁奉に指揮を一任されている銀幡軍団に預けられることと相成った。 話によればこの馬忠、どうも何らかのトラウマがあって、それ以来言葉を失ってしまったということだった。その代わりといってはなんだが、武術の達人であり、関羽に対してもかなり一方ならぬ感情を持っているという話だった。 挨拶を求めても、そっけない感じで会釈を返しただけで軍団の最後尾に引っ込んでしまったその少女を目で追いつつ、丁奉は呟いた。 「なんだか、とっつきにくそうな人ですね…」 「あぁ。しかも偶然とはいえ、あたしとまったく同姓同名だ。ちっと呼び分け考えてもらわんとなぁ」 「え?」 丁奉の傍に、少し柄の悪そうな金髪の少女が苦笑している。 彼女は銀幡軍団のナンバーツーにあたる、阿撞と呼ばれている少女だった。甘寧療養中の銀幡軍団の実質的なまとめ役であり、丁奉のサポート役でもある。 「なんだ承淵? まさか"阿撞"ってのがあたしの本名だと思ってたんじゃないだろうな?」 「あ…いえ、その」 年季の入った百戦錬磨のガンに、慌てる丁奉。 「そりゃあんた、まったく本名の話してなかったくせにそれはないやろ」 流暢な関西弁を喋る少女が助け舟を入れる。銀幡のナンバースリー、暴走した甘寧を止められる数少ない存在の一人である蘇飛である。 「そういううちも、話してなかったしな。堪忍な」 「ち、阿飛、あんたばっかいい方に廻るな」 固まったままの後輩の肩を叩きながら蘇飛が笑い、つられる様にして阿撞…馬忠も笑う。 「阿撞ってのは、あたしがピンでやんちゃやってたころの通り名でね…リーダーに拾われたあとも、面倒くさいからそのまま通してるのさ。まぁ名札なんてのも普段付けねーし、クラスどころか学年も違うから知らなくて当然だよな」 はぁ…とあっけにとられた感じの丁奉。 「まぁ別にええんやないの? あの娘は馬忠でええやろし、あんた呼ぶときは阿撞せぇばええわけやし」 「てきとーいってくれるなオイ…一応親からもらった名前だぞ?」 けらけらと楽しそうに笑う蘇飛と、苦笑する馬忠。 そんな先輩ふたりのやり取りを他所に、丁奉は何故か"もうひとりの"馬忠が気になっているようだった。 その容姿、仕草…そしてその雰囲気は、何処か自分の知っている人物に酷似している様に思えたからだ。後に近い将来、共に長湖部を支えていくことになるある少女…いや、正確に言えば、それと縁のある人物に。 「どうかしたのか?」 「あ…いえ、別に。行きましょうか」 自分よりはるかに年上のヤンキー軍団と、その寡黙な少女を促して、移動を始めた潘璋軍団の後尾につきながら、 (…まさか…ね) 彼女は頭を振り、その考えを否定した。 彼女の記憶にあるその人物は、決して戦陣に立つイメージは思い浮かばなかったからだ。 丁奉の思索を打ち破ったのは、突如耳に飛び込んできた怒号。 時刻にして五時半を少し周っていたが、冬という季節がら既に日は落ち、彼女達の目指す先には明かりが見て取れる。 街灯の明かりばかりではなく、この時間の戦闘になることを見越して持ち込まれた照明機材の光で、そこだけ昼間の如く明るくなっていた。その燭光で、暗がりからの攻撃をカモフラージュする意味もあった。 言うまでもなく、そこが関羽包囲網の最終ポイント。少女達が目指す場所でもあった。 「…よし、大魚は罠にかかった! 承淵、あんたは銀幡軍団とその無口ねーさん引き連れて義封と後詰めにつきな!」 そして、目指した最終戦場を見渡せる高台に軍団を展開させる潘璋。 「先輩は!?」 「このまま公奕ねーさんの軍と挟撃かける! あんたたちは包囲を完璧にして、アリの子一匹通すなよ!」 「はいっ!」 その丘に帰宅部勢と長湖部勢の激突を、そして丘の対岸に蒋欽の姿を見て取った彼女は、思い思いの獲物を手にして戦闘準備を整えた子飼いの軍団に檄を飛ばす。 「決死鋭鋒隊、あたしに続けッ!!」 潘璋を戦闘に、怒号と共に雪崩を打って駆け下りる鋭鋒隊。 時を同じくして、対岸から戦場へ雪崩れ込む蒋欽軍団。 そして、関羽の正面から姿を現す呂蒙率いる長湖部本隊。 (多勢に無勢…どう考えても逃げ道はない…でも…) その光景を、彼女は取り残されたその場から遠く眺めながら。 丁奉は、戦場の中央で沈黙を守る関羽の姿に、形容しがたい不吉ものを感じていた。
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