★しょーとれんじすと〜り〜東晋ハイスクール★
3:玉川雄一2002/02/08(金) 17:33
 祖逖が目指していたのは、外部学校に「奪われた」北方校区の奪回。すなわち、“北伐”であった。
 しかし、何せ、物もなければ人も足りない。祖逖と志を同じゅうする少女達の一団だけでは、
 到底成功はおぼつかなかった。そのため、彼女はここを訪れているのである。
 本来の蒼天会長は現在、北方校区で他校の勢力下にある。
 あるいは、既に「飛ばし」にあったとの噂もあった。
 現時点では、数少ない蒼天会幹部生き残りとして、この司馬睿が暫定的にトップの地位を代行していた。
 祖逖は、彼女から少しでもよい条件を引き出すべくなおも食い下がるのだった。
「うん、ごめんなさい、無理を言って…。でも、せめて人員と最低限の装備だけでも…」
「待って」
 そこへ、今一人の少女が祖逖を押しとどめるように進み出た。
 祖逖は一瞬口を開きかけたが、その少女の表情を見て口をつぐむ。
 少女の名は王導。徐州校区琅邪棟に学んだ名門、いわゆる「琅邪王氏」の一門に連なる身である。
 かつて司馬睿が琅邪棟長を務めていた縁で、王導は彼女のブレーン的な立場となっていた。
 彼女は祖逖の目を見つめると、少し間をおいて告げる。
「…わかりました。では、物資だけはできうる限り出しましょう。
 ですけど…ごめんなさい、人員はもう、こちらからは割けないの」
 王導のその言葉を聞いて、祖逖もこれ以上無理押しはできなかった。
 現状を鑑みれば、ここまでしてもらえれるだけでも御の字というものだろう。
 祖逖は大きく一息つくと、二人に向かって頭を下げた。
「本当に、無理なことお願いしてごめんなさい。でも、私は絶対にやり遂げてみせるから」
 祖逖の瞳には容易ならぬ決意の程が見て取れた。司馬睿は複雑な表情で答える。
「うん、大したことはしてあげられないけど、頑張って…」
 そして、少し考えた後、どこか後ろめたそうに付け加えた。
「それと、気休めかもしれないけど… 貴方を予州校区総代に任命します。
 生徒会があんなことになってしまっているから、私の名前で出しますね」
 それがせめてもの罪滅ぼしなのか、微妙なところではあったが…
「ありがとう。必ず奴らから学園を取り戻すわ。それまで、その地位、私が預かります」
 祖逖は今一度頭を下げた。
 王導は、何かを言おうとしたが結局口をつぐんだ。

 手続きを済ませると、祖逖は準備に取り掛かるため棟長室を辞去した。
 小走りにどこかへと走っていく姿を窓から眺めながら、王導はひとりごちた。
(士稚さん、ごめんなさい。私達は今、北伐には動けないわ。そしてたぶん、これからもずっと…)
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