【1月18日】旭記念日創作発表スレッド【お祭りワッショイ】
128:7th2005/01/19(水) 22:31
さて、時刻は正午を回ろうとする頃。正月でごろごろしているとは云え、間食などしていなければ、健康な人間なら小腹も空く頃合いだ。
「……お腹空いた」
起きてまた寝て一時間余り。今まで沈黙を守っていた(単に寝ていた、とも云う)瞻が、のそりと炬燵から身を起こす。
「そりゃ空くでしょうよ。何たって半日以上食べてないんだからねアンタ…。ま、アタシもお腹空いてるから丁度良いか。均姉、何か食べるものあるー?」
「えーと、おせちとお雑煮の残りとお餅がありますね。後は私の秘蔵のサラミとか缶詰とか」
「何処の酒飲みだアンタ。ともあれ、朝も食べたものばっかりって事ね…」
瞻に向けていた半目を今度は均に向け直し、恪は溜息を吐いた。まだまだこの姉の生態については未知の部分も多い。姉妹のくせに謎、と云うのも或る意味問題だが。
それはさておき、昔より正月には餅を焼く・雑煮を温める・お茶を沸かす以外の事に火を使わないと云われる。近年ではその風習は失われつつあるが、諸葛家はどうやら昔からの風習を守るようにしているらしい。
「仕方無いわね。均の所蔵物はともかく、適当にぜんざいでも作りますか」
「えー、サラミは美味しいですよぅ」
均の反論をさらりと流し、皆が瑾の提案に肯く。どうやらこの家、辛党は少ないようだ。
「じゃあそう云う事で。…恪、亮と尚も呼んで来なさい。どうせロクでもない事しかしてないんだから、ドアぶち抜いて引っ張って来て良いわよ」
「あー、それについてなんだけど、亮姉ってばこの間ドアを改造したらしくってさ、アタシの力じゃアレ抜けないわ。多分耐爆シェルター並よ」
「…一体何から部屋を守ってるんだか。しかし困ったわね、どうしたものかしら」
ふむ、と顎に手を当てる瑾。しかしその次の瞬間、
「その必要はありませんぞ!!」
響いた声と同時、背後の襖が快音を立てて開く。そして流れ出る、白煙と高笑い。
ぶしゅー、と吹き出す煙を背負い、諸葛亮が腕を組んだポーズで仁王立ちしていた。その後ろ、諸葛尚がドライアイスの入ったバケツを、パタパタと団扇であおいでいる。
ひとしきりバカ笑いを上げたあと、亮は尚に向き直り、
「ふっふっふ。我が助手尚よ、どうかねこの装置。昨日から徹夜して制作した甲斐もあると云うもの」
「凄いですハカセ!まるでデパート屋上のステージみたいです!」
「うむ、これなら何処へ出しても恥ずかしくあるまい。完成だぞ我が助手よ」
「ハカセー!!」
「………あんたら一体何のコントよそれは」
感極まって抱き合う二人に、呆れと諦めを半々にカクテルした声で瑾が問う。本音を言えばツッコミさえ放棄したい気分なのだが、一応訊いておかないと延々とこの二人のコントを聞かされる羽目になるかも知れない。
「コントとは失礼な。これはただの実地試験です。幸い動作は確認しましたので、早々に片付けますが」
「そう、だったら早く片付けなさい。…一応訊いておくけど、それ何?」
「見ての通りですが、暇ですから説明位はしておきましょう」
そう言って、背負っていた装置を降ろす亮。その装置、原型となった物はは小型のリュックサックらしいのだが、所々に謎のボンベやら何かのアタッチメントと思しき物体が装着され、さらには何本もの細い管が突き出ていると云った、怪しさ全開のデザインだ。少なくとも街中でこんなモン背負っていたなら、まず間違いなく警察へしょっ引かれるだろう。見ての通りとか言っているが、どう見てもこれが何なのかは解らない。
「これは孫乾殿に頼まれて制作したもので、小型のドライアイス噴霧機です。何でも旭記念日の部活動説明会でヒーローショーをやるとか」
「ヒーローショー?帰宅部連合の出し物でやるの?」
「いえ、無届けですのでゲリラショーかと。とまぁその折に使用する訳です」
本来ならそれを取り締まる立場にある彼女が、こんな物を作ってまで協力していて良いのだろうか。答えは絶対に良くない、だ。
「つまり年をまたいでまで作っていた物がそれ、と云う事ですね。……馬鹿ですか貴女は」
「うわ相変わらず容赦ないな我が妹よ。お姉さん悲しくて微妙に嬉しいぞ」
何やら矛盾した発言を繰り出す亮。もしかすると精神的Mなのかも知れない。
「酸素が勿体ないので黙れ馬鹿姉。尚、貴女もこんな馬鹿と付き合う必要はありません。馬鹿が伝染りますよ」
「えー、楽しいのに」
「楽しくても駄目です。私的に馬鹿は法定伝染病と同レベルですからね、感染したら完治するまで学校に行けません。最悪の場合、生物災害(バイオハザード)指定で隔離されますよ。嫌でしょう、それは」
「う、うん。馬鹿って怖いね。ゾンビで拳銃でハーブで回復なんだねっ」
字面的にはそう間違ってもいないのだが、微妙に間違った認識をしている尚。この姉たちに囲まれて、末っ子がマトモに育っているのは奇跡に近い。尤も、この辺の認識に見られるように、少しずつ歪み初めているようだ。将来が不安な所である。
「亮姉さん、貴女も尚に変な事吹き込まない様に。貴女の馬鹿は特に凄いんですから。私的にはエボラ出血熱級です」
「致死率90%とはこれまた凄い。或る意味誇らしいな」
「ええ存分に誇って下さい。近い内に病名『馬鹿』で生物災害に認定されるでしょうから。人類初ですよ?良かったですね」
「うむ、脳が悪いのに良かったとはこれいかに、と云った感じだな。はっはっは」
本人達の認識では、せいぜい「軽口のたたき合い」と云った所なのだが、空気は物凄く刺々しい。周りの人間にはたまったものではない。
「思うんだけどさ、あの二人って同類なんじゃない?類友が亮姉で、同族嫌悪が喬」
「言い得て妙よねぇ…。二人ともイカレてるのは間違いないし」
「イカレてるって云うのはあんまりですよ。確かに二人とも何処かおかしいですけど」
「均姉さん、そう云うのは『他人と行動様式が一線を画している』って言うと良いよ。馬鹿が知的に聞こえるから」
「な、なんか文字数が多くて偉そうです。馬鹿って偉い?」
流石に大声で言うのも憚られるので、小声でひそひそミニ姉妹会議。包み隠さぬ本音なので、みんな結構酷い事を言っている。
そんな外野の心の内を余所に、舌戦はますますヒートアップ。
「時に喬よ、内政戦隊は只今5人目募集中だそうだがどうかね?今なら好きな色の全身タイツに、先程のバックパックが漏れなく付いてくるが。きっと似合うぞ。私の趣味的に」
「ふふ、だんだんと変態性がオープンになって来ましたね亮姉さん。心から辞退させて頂きますよ。それよりも貴女が入るべきでしょう。白い全身タイツにレインボー染め抜いて、リーダーでもないのに真ん中でポーズ付けてる……何てお似合いなポジション」
「○ャッカー電○隊とはこれまたマニアックな。だが私は現状で満足しているのだよ。考えてもみたまえ。『正義の味方としての博士』、この役割の方が遙かに私に相応しい」
「成程、確かに博士は良い感じの役どころですね。その変態マッディーな性格を存分に活かせますから」
「そうとも、マッドサイエンティストは世界を救うのだよ。ビバ科学の力。ラララ科学の子」
「ええ、ついでに言うと、世界を滅ぼすのも大抵マッドサイエンティストですが」
既に状況は加熱から混沌に移り、もはや常人の理解の及ばぬ域へと達しつつある。この二人、やはり似たもの同士か。
「えぇい、我が妹達ながら何て子達よ。何時育て方間違えたのかしら」
「ん、多分母さんの影響だと思う。母さんってほら、結構バイオレンスな人だし」
ちなみに彼女たちの母親の名は諸葛豊。蒼天学園OBで、現役時には清廉かつ正義の人として知られた硬骨の人である。年を経て家庭に入った後も、瞻の言にあるように性格の強さは健在のようだ。
「それにしてもこの馬鹿さ加減は変よ。均と恪と瞻は……まぁ多少問題有るけどあの二人程じゃないし」
「瑾姉、比べる相手が悪い上に、そもそもアタシは問題児じゃないっての!」
「後半無視するとして、流石に相手が悪いのは事実よねぇ…。尚、あの二人には近づかない事ね。馬鹿を通り越して大馬鹿になるから」
「え、えと…つまり、馬鹿ってバカなの!?」
「ああっ、尚ちゃんがついに正しい認識をっ!ううっ、良かったですねー」
ミニ姉妹会議も微妙な盛り上がりを見せている。やってる事は現実逃避以外の何者でもないのだが。
誰でも良いから何とかしてくれ、と云うのが一貫した外野陣の本音である。自分たちは手を出さない。ただ願うだけ。誰だって、進んで火の中に手を突っ込みたいなどとは思うまい。
その願いが祈りとなって天に通じたのか、ぴんぽーん、と家のチャイムが鳴る。
彼女らにとってそれはまさしく福音。もはや一も二もなく、我先にと争って駆け出す。向かう先は玄関のドアだ。
バタバタと転がるように走り込んできた5人。一番早かった瑾が代表でドアを開け―――
「どちら様ですかありがとうございます!!」
「なな、何や一体!?ウチ何か悪い事……や無くて何か善い事でもしたか!?」
その先には帰宅部連合総部長・劉備が、突然の事に目を丸くしていた。
「……と、これは劉備先輩、お見苦しい所をお見せしました。改めまして、明けましておめでとう御座います」
慌てて居住まいを正し、劉備に礼をする瑾。呆けていた劉備も、それに応じるように軽く一礼する。
「ん…ああ、新年おめでとさん。…しっかしさっきのは何や?えらい泡食っとった様やけど」
「いえ身内の事情ですのでお気になさらずに。しかし我が家に何の御用でしょうか?しかも御三方お揃いで」
先刻はパニックになって気付かなかったが、良く見れば劉備の後ろ、関羽・張飛が並んで立っている。家の中にいる諸葛亮を含めれば、帰宅部連合首脳陣の揃い踏みである。
「いや正月やしな、孔明誘って初詣にでも行こ思たんやけどな。丁度子竜も神社でバイトしとるし、巫女服見がてらな。…折角やから瑾のねーちゃん、アンタらも一緒に来るか?家族みんなで行った方が良いやろ?」
「はぁ…。しかし今両親は年始回りで家に居りませんし、妹達の事で先輩方に御迷惑をお掛けする訳には…」
躊躇する瑾。だがそれを叱り飛ばす様に、思わぬ所から声が出た。
「おいおい諸葛の姉さんよ、ウチの姉貴とこのアタシが、まさかその程度気にする程ケチな人間だと思ってんのか?」
張飛だ。口調こそ荒っぽいが、その表情は笑顔。人懐っこい感じの、良い笑顔だ。
「左様。学園内のしがらみも、今日ばかりは関係有りませぬ。今日は元日、年の初めの目出度き日ですよ」
続けて関羽。目元にたたえた微笑が、何時になく柔らかい。
「ちう訳や。昼メシがまだなら外で食べればええやん、屋台もいっぱい出とるで。ほれ、そこのちっこいの、おねーさんが何かオゴったるでえ〜」
「本当!?ワタアメとかでもいいのっ!?」
「ちょっ、尚!駄目だってば。先輩も妹を餌付けしないで下さい!」
「ええやんええやん、ワタアメの一本位、大した事あらへんて。ほな尚ちゃん、おねーさんに付いて来るかー?」
「うん!」
劉備に頭を撫でられながら、満面の笑顔で返事する尚。
「ほい決まり。どうよ瑾のねーちゃん、まさかこの子だけウチらに付いて行かせる気か?」
にんまりと勝ち誇る劉備の顔を見て、瑾は両手を上げた。流石は劉備、役者が違う。
「解りました。御迷惑を掛けさせて頂きます。そう云う訳だからみんな準備―――って」
振り返った先には誰も居ない。どうやら行くことが決まった時点で、皆早々に中に引っ込んで外出の準備を始めたらしい。
独り取り残された瑾の傍ら、劉備がさも可笑しそうに肩を震わせて笑いを噛み殺している。
「いやー、おもろい家族やな。退屈せんやろ、アンタ」
「ええ、本当に。毎日がエキセントリックの嵐で泣けますよ」
はぁ、と肩を落とす瑾。その背中を一発叩き、劉備が言う。
「泣くな、笑え。泣きながらでも笑え。笑う門には福来たる、って言うやろ。笑っとった方が人生たのしいで」
かか、と笑う劉備。瑾もつられて微笑し、
「そうですね、年の初めから泣き言はよしましょうか。何はともあれ」
背をのばし、威儀を正して劉備達に向き直る。
「本年も姉妹共々、宜しくお願いいたします」

かくて始まる新たな年。
それはきっと、楽しい年になる。そんな気がした――――
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