【1月18日】旭記念日創作発表スレッド【お祭りワッショイ】
132:★教授2005/01/23(日) 12:45
■■ 旭記念日企画 〜十色の側面〜 ■■


「え、法正休みなの? 何でまた…」
 意気揚々とデジカメを手に会議室に姿を現した簡雍。法正休みの報を聞き驚きの色を隠せない様子だ。
 珍獣を見るような目をしながら、その報告をした伊籍は続けて休みの理由を話す。
「えーと。何でも風邪引いたらしくて…熱が39度程あるようです。身動き取れないし伝染しそうなので今日は大人しく寝てると電話がありました」
「たかだか39度で寝込むなよなぁ。鍛え方がなってねーっての」
 休みの理由に張飛が茶々を入れる。普通の人間は39度も熱を出せば寝込むのだが…彼女は違うらしい。
「まあ、休みの人間はこの際置いておいて…報告書のまとめを始めましょう。成都棟の花壇を踏み荒らした咎人の探索もしなければなりませんし……あら?」
 とんとんと報告書及び被害届をまとめながら李恢が会議室中を見渡す。しかし、ここにいるはずの面子が一人足りなくなっている事と窓が一つだけ開いてカーテンが風に靡いて寒い事に気づく。
 李恢は訝しがるのと好奇心も手伝ってか窓際を確認に行く。窓から顔を出して周囲の様子を見て、下を見下ろした。そこで目にした光景は―――
「張飛さん…ここ3階なのに…」
 規格外の衝撃に苦笑いしか浮かばない李恢。どうやら窓が開いていたのは張飛がそこから飛び降りて脱出を試みた形跡のようだ。しかも飛び降りて無事着地を果たした上に駆けて行く姿を見てしまったのでは苦笑いしか浮かばないのだろう。
 その時、今までだんまりだった簡雍が口を開いた。それと同時にドアを開けて出て行く。
「悪い、急用があったんだー。後、ヨロシク!」
「あ、ちょっと待ちなさい! 手伝わなきゃ終わらないよ!」
 伊籍の制止の声が届く前にドアは閉じる。たらりと冷や汗が流れた――


 場所は変わって法正の部屋――

「うー…私が風邪なんかでダウンするなんて…私のバカ…」
 ベッドに横になったまま法正は自分に悪態を吐いている。脇の棚にはミネラルウォーターのペットボトルと風邪薬が置かれている。更にその横に子供用の液体シロップと謎のアナログカウンター(現在11,800Pt)が鎮座していた。
「はぁ…もうやだなぁ…」
 うつ伏せになって溜息を吐く。ちょっとした病でも人はこんなにも弱くなる…身を持ってそれを実感している法正。いつもの強気姿勢は欠片も見当たらない。
 そんな弱弱しい姿に反応したのかカウンターがまた動いた。勿論、法正自身気づいてないし意識してやってる訳ではない。やはり謎のカウンターは謎のままだった。
「法正〜。生きてるかー」
 悲観に暮れる法正の部屋にノックもせずに簡雍が突然闖入してきた。勿論、法正は心臓が停止せんばかりに驚いたのだが。
「わわっ! 憲和! 何しにきたのよ!」
「何って、見舞いに決まってるでしょーが」
 見舞いときっぱり言い切った簡雍に対して真っ青を通り越して透き通りそうな色になる法正。
(憲和がお見舞い? え、見舞いだけで済むの? もしかしたら悪化の一途を辿るだけなんじゃ…)
 普段が普段の簡雍に疑問と警戒をしてしまうのは当然なのだが、今の法正には簡雍に対する抵抗力は皆無に等しい状態。進退此処に窮まれり、神様私を見捨てないで―――法正は神に祈るしかなかった。
 渦中の人――簡雍が法正に近づく。身動きが取り難い法正には最早逃げ道は残されていない。法正はそっと伸ばされる簡雍の手に思わず目を閉じてしまう、そして少々冷えた感覚が自分の額に感じられた。
「………え?」
「うーん…まだ熱高めかな」
 顔を顰めながら自分の額にも手を当てて熱の確認をする簡雍。思いもよらぬ行動に法正は別の意味で驚いている。
「えーと…ホントにお見舞い?」
 恐る恐る確認を取る法正。簡雍がその問いに一瞬呆けた顔をしたが、それも本当に一瞬だった。
「お見舞い以外の何だってのさ。まさか病人にいかがわしい事するとでも言うの? もしかして、そっちの方が良かったとか」
「それは絶対ないから」
 悪そうな笑みを顔ににじり寄る簡雍に真顔できっぱりと断りの返事を返す法正、あっそと踵を返した簡雍を見てほっと安堵の息を漏らす。だが、危機感知を担うべき人一倍優れた勘までは働かなかった。刹那の瞬間、簡雍の姿は既に法正が横になってる…その上にあった。マウントポジションを取られてしまったのだ。
「ち、ちょ…何もしないって…」
「服が透けてるよ…汗かいてるでしょ? 着替えるの…手伝ったげる」
 確かに風邪の副産物、高熱と暖を取るための布団の影響で多量の汗をかいている。しかし、今はそれに冷や汗と脂汗まで加わってしまった。
「い、いいわよ! 自分で…」
 語気を強めた言い方が誤解を生んだ、簡雍の顔が輝く。
「いい? いいんだね!」
「うわ、ちょっ…そんな事言ってな…。ひゃあ! そんなトコ…や、ん…やめ……やめてーっ!」
 無駄な抵抗をしながら簡雍の為すがままになってしまう法正、着せ替え人形の如く扱われてしまう。薄れ行く意識と理性の中、『コトバって難しいんだなぁ…』と思ったとか思わなかったとか―――


 ――で、1時間後。
 シャツとスパッツだった法正は簡雍の手によって猫柄パジャマ(背中に旭印)に着せ替えられていた。当の法正は赤い顔で横になっている。もっとも顔が赤いのは熱のせいだけではないのだが。1時間前まで着ていた着衣は簡雍が洗濯機に放り込んでいた。そして、その簡雍はと言うと―――
「〜〜♪」
 最近、流行している歌を口ずさみながら掃除機(竜巻式)を掛けている。物を動かして隅々まで掃除をしている辺りに真面目さが窺える。行ってはいけない世界にチェックメイトしている法正に自分も着替えると言い残して浴室に消えた簡雍が変身した姿、それはメイドだった。この格好には法正も思わず飲んでいた水を噴出して倒れこんでしまったのだが。
 そんな法正も今はぼんやりしながら掃除中の簡雍を目で追っている。
(うーん……結構几帳面なんだね…。歌上手いし…あの服も似合って………じゃなくて、真面目にやってくれるのはありがたいかも…)
 思考の中で道を踏み外しかけたが、一応感心はしているようだ。引き続き、ぼんやりと動きを追い始めた。ふと、机の上に目が留まる。自分用の薬…意味不明なカウンター(現在14,000Pt)…ここまでは分かる、だが、その隣に新たにビール缶が二本鎮座していた。
「け、憲和さん…そのアルコール成分がふんだんに盛り込まれた飲料は…」
 聞かずにはいられない、まさか飲まされる訳じゃないだろうか…そんな心配が過ぎる。が、それも杞憂に終わると共に不安も広がった。
「それは自分用。合間に飲んでるだけだから、気にしないで」
 事も無げに言う簡雍。口説いようだが、彼女は高校生である。法正の不安は高校生は飲んじゃダメではなくむしろ、自分用という言葉にあった。自分用という事は法正用も用意してある可能性が浮上したからだ。今、飲まされたら確実に二日は寝込む…ある種の危機を感じていた。法正が危機対策を痛む頭で捻り出してると、簡雍が覗き込んで来る。法正思考停止。
「掃除終わったけど、何か食べる?」
 意外や意外。まともな事言うもんだ…と感嘆の息をこぼす。
「そーね………任せるわ。…憲和って料理出来たっけ…」
「大した料理は作れないけど、御粥くらいで手を打ってよ…病人の必須だし」
「必須かしら…でも、それが一番かも……台所は適当に使っちゃっていいよ」
「おっけー」
 そそくさとキッチンに移動する簡雍。法正がふぅと軽く息を吐く。
「人って分からないものね…憲和にもあれだけの顔があるんだから…」
 その表情に小さな苦笑いを篭めて彼女の後姿を見ていた――
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