【1月18日】旭記念日創作発表スレッド【お祭りワッショイ】
151:雑号将軍2006/01/17(火) 22:35AAS
続き・・・・・・

この後もしばらく、ショッピングモールを歩き回った皇甫嵩と朱儁は近くにあったカフェテラスでティータイムを楽しんでいた。
「なんか、開会式の疲れがどっかに吹っ飛んじゃったわね」
「そうだな。たまにはこういうのもいいものだな」
 二人はそう言って、声を上げて笑っている。
太陽は二人の笑顔を象徴するかのように、空高く、そして、さんさんと照らしていた。
 二人がしばらく談笑していると、ある女生徒が声を掛けてきた。
どうも不思議な感じの少女だ。
「進呈」
 彼女はブレザーのポケットから、封筒を取りだし、二人に差し出した。
「うん・・・・・・?」
 皇甫嵩は封筒を受け取った。少女はじっと二人を見つめてくる。
「開けてもいいのか」
 皇甫嵩は一応、聞いてみることにした。まあ、渡しておいて開けてるなとは言わないだろうが、これが社会の礼儀なのだろう。
「正解」
 皇甫嵩と朱儁は同じように首をかしげた。その姿を見て、少女はに唇に手を当てコロコロと楽しそうに笑っている。
そんな光景がしばらく続いていると、不意に少女が口を開いた。
「あ、時間切れ・・・・・・ああ、これもどうぞ」
「お米券?」
「そうです。蒼天学園ならどこでも・・・・・・本当にもう、時間切れです」
 心地よい春風がカフェテラスを吹き抜けたとき、すでにその少女の姿は、なかった。
少女の摩訶不思議な言動に、皇甫嵩と朱儁の頭の中では無数のクエスションマークが駆けめぐっていた。
「な、なんだったんだ。優しさだけはありありと感じ取れたが・・・・・・」
「う、うん。なんだか、母性みたいなのを感じたけど・・・・・・」
 そして、しばしの沈黙。
「それで、義真。あの子が置いていった封筒の中に、何が入ってるの?」
 朱儁が沈黙を打ち破って、尋ねた。
皇甫嵩は握っていた封筒の封を丁寧に破った。そこからは、示し合わせたように、二枚のチケットが出てきた。
 そこには「蒼天学園の新鋭オペラ歌手・張角!旭日記念祭特別野外公演」と書かれていた。
「場所は・・・冀州校区の広宗音楽堂前自然公園、時間は七時開演か・・・・・・どうする、公偉?」
 皇甫嵩は取り出したチケットを読み上げると、顔を上げて朱儁に尋ねた。せっかくもらったチケットなので、皇甫嵩としては見に行きたかった。
しかし、「今日は付き合う」と言った手前、とりあえず、聞いてみることにしたのである。
「楽しそうだし、行こうか!」
「そ、そうか・・・・・・公偉がそう言うのなら、私も行くことにしよう」
 皇甫嵩は朱儁の同意を得られてうれしかったのだが、悟られないように、あえてこんな言い方をした。
「またまたぁ、そんなこと言っちゃってさあ。義真だって本当は行きたいんでしょっ」
 朱儁がそう言って、皇甫嵩を肘でつつく。
「むむむ。そ、そのなんだ・・・・・・ああ!もういい、行くぞ公偉!」
 言い訳を考えていた皇甫嵩だったが、結局、なにも思いつかず進退窮まったため、朱儁に背を向けて、足早に歩き出していた。
「もう、義真はシャイなんだからあ〜」
 朱儁は皇甫嵩の背中にそう言うと、自分も歩いていった。
 二人はもう、数分前に会った少女のことなど忘れてしまっていた。

「ここね。もう人がたくさん・・・義真、空いてる席ある?」
「ああ、なんとかな。それにしてもひどい人気だな・・・・・・」
 朱儁は精一杯背伸びしているのだが、残念ながら彼女の身長では前が見えなかった。そのため一七〇センチを超える長身の皇甫嵩が空席を確認していたと言うわけである。
 二人は広宗音楽堂前自然公園に来ていた。
この自然公園は広宗音楽堂の八〇〇メートル先にあり、たくさんの自然が広がっているのどかな公園である。と、言えば聞こえがいいが、その実は何か施設を建てるほどの予算が、慢性的に不足しているためなのである。
 しばらく歩き回った皇甫嵩と朱儁はやっとのことで、席を見つけて座ることができた。
ちょうど、二人が座ったのと同時に、割れんばかりの歓声が沸き起こった。
それもそのはず、ステージの奥から、一人の少女が姿を現したのである。
彼女こそが、このコンサートの主役、張角である。
 彼女は腰まで伸びた黒髪をなびかせ、それと対極的な白一色のドレスという衣装でステージの階段を上っていく。
さらに、ドレスの襟元からは黄色のスカーフを覗かせていた。
そんな張角の優しさに満ちあふれた女神のような美貌に、皇甫嵩と朱儁の二人は目を奪われていた。
 と、不意に朱儁が皇甫嵩に、恐る恐る声をかけた。
「ねえ、義真。あの人の目の色、両目とも違わない?」
「ああ、あれはオッドアイだ。それも金と銀のな・・・・・・」
 朱儁の質問に答えた皇甫嵩は思った。
(と、いうことは、彼女の片耳は聞こえない可能性が高い・・・・・・はたして、そんな状態で歌えるのか?)と。
 しかし、そんな皇甫嵩の不安は全くの杞憂となった。
 ステージの中央で歌う張角の歌声は音質、音程、声のつやなど、どこをとっても非の打ち所がなかったのである。
そしてその歌声は、彼女の身体から出るオーラを代弁していた。
例えて言うのであれば「母親の子守歌」といったところであろう。彼女の歌には、なにものをも包み込むような優しさがあった。
 皇甫嵩と朱儁は日頃の疲れも忘れて、張角の歌声に魅せられていた。

 ・・・・・・そして、歌が終わった。
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