【1月18日】旭記念日創作発表スレッド【お祭りワッショイ】
163:冷霊2006/01/19(木) 22:55
■雪降る戦場にて・2

「何で付いてきてんのよっ!」
「だって〜、一人じゃ心細いしぃ〜……」
「それじゃゲームになんないでしょ?っつーか離れなさいっ!」
ラク城棟裏庭。茂みに隠れている扶禁と、その後ろにぴったりとくっついている向存がいた。
「あーもうっ!邪魔だって言ってんでしょっ!」
「ねえ、二人で協力しようよ〜?扶禁ちゃんと一緒なら心強いし〜」
「ええいっ!さっさと離れなさいっ!」
扶禁は向存を振り切ろうとするが、上着を掴んでいる向存は扶禁にぐるぐると付いて回っている。
中々出来る芸当ではない。
「それなら……」
扶禁が向存の髪に手を伸ばす。
向存がバンダナを髪留め代わりにつけていたのは覚えている。
それを奪いさえすれば……グッと手を伸ばす。
「見つけたっ!」
高めの声と共に雪玉が飛んでくる。
「危ないっ!」
扶禁が咄嗟に向存を自分の方へ引っ張った。
耳を掠め、雪玉がボスッと地面にぶつかる。
「外しちゃったかー……ちぇ」
高沛が残念そうに言った。
「向存、早く退きなさいっ!邪魔っ!」
「あう〜、ちょっと待ってよ〜」
もたもたと立ち上がる向存。雪玉が飛来し、容赦無く足元を掠める。
扶禁もその下から這い出し、咄嗟に木陰に隠れた。
「扶禁に向存でしょ?いるのはわかってるわよー?」
ふっふっふと怪しげな笑い声が響く。
「は〜……むぐっ!」
(馬鹿ッ!馬鹿正直に返事する馬鹿が何処にいんのよっ!)
扶禁が急いで向存の口を塞ぐ。
が、遅かった。
「そこねっ!」
高沛が校舎を背に左から回り込む。手には二つの雪玉。
「向存ッ、左から来たわよっ!」
「は〜……あうっ」
立ち上がろうとした瞬間、不意に向存がバランスを崩した。
扶禁もろとも、もつれ合う様にして倒れ込む。
「向存?もしかして足……」
「えへへ……ごめんね〜……」
どうやら足首を捻ったらしい。
既に高沛の姿は見えている。
向こうも当然、こちらの位置を把握している。
もはや逃げるのは無理だろう。
正面から戦っても、間違いなく向存がやられる。
道は無い。
そう思った扶禁が取った行動は自分でも意外だった。

「向存覚悟っ!」
高沛が向存の無防備な背中目掛け、雪玉を投げる。
顔は笑っているが、玉を見る限り手心は加えていない。
ギリと奥歯を噛み締める。
次の瞬間、扶禁は向存を自分の方へと思いっ切り引っ張った。
そして、自分の身体を向存のいた位置へと差し入れる。
身体にズンと重い衝撃。呼吸が一瞬止まる感覚。
「扶禁ちゃん、大丈夫?」
向存が顔を覗き込んだ。
「いいから起きなさいっ!」
向存の背中を押し、立ち上がらせる。
立ち上がった向存が扶禁に手を伸ばした。
だが、扶禁は乱雑に手を振り払った。
「あたしに構うんじゃないっ!走れっ!」
ギリッと睨み付ける。
向存は少しだけ躊躇い、そして片足を引き摺り駆け出した。
「向存を逃がす余裕はあるみたいね」
「あの馬鹿のせいで逃げ遅れただけです」
高沛と扶禁が対峙する。
それぞれの手に握られているのはたった一つの雪玉。
「一撃で決めるわよー……おーけい?」
高沛がニッと笑う。
「そう簡単に行くと思わないほうがいいですよ?」
扶禁が口の端を僅かに緩める。
雪はまだ降り続けていた。
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