【1月18日】旭記念日創作発表スレッド【お祭りワッショイ】
184:海月 亮2006/01/22(日) 00:07
「何か、御用ですか?」
人気のない、ギョウ棟体育館の裏手。
数人の少女に取り囲まれながらも、その少女は気丈にも、その首魁と思しきロングヘアの少女…逢紀をを見据え返している。
双方の背丈の差もあるが…明らかに逢紀は、その少女に対して見下すような格好である。
「…あなた…はっきり言って目障りなの」
その冷たい言葉にも、目の前の少女は怯む様子をまったく見せていない。
むしろその言葉に、更に強い視線できっと見据え返してくるほどだった。
「何故ですか!? はっきり言いますが、私はあなたに恨まれる様なことをした覚えはありませんよっ!」
その態度に、逢紀は自分の神経を逆撫でされたような不快感…いや、憎悪すら覚えた。
「新参者の分際で、お嬢様にべたべたとまとわり付くその態度が、目障りだって言ってんのよッ!」
感情に任せるまま、彼女は振り上げた平手を思いっきり少女めがけて振り下ろす。
しかし、その"制裁の一撃"は、何処かあどけなさを残したその少女の顔に届くことはなかった。
「…ッ!?」
振り下ろした左手は少女が振り上げた右手に弾き返されてしまい、それどころか逢紀の身体もその衝撃の余波で後ずさりする格好になった。
取り囲んでいた少女達も、その様子に驚愕の色を隠せない。
「…そうやってあなた達は、今までもやってきたんですか…?」
少女の眼差しに、凄まじいまでの怒りの色がほどばしる。
「あなた達がこんなつまらないことをすれば、かえって本初様を悲しませることになるってこと、どうして解らないんですかっ!」
「何ですって…」
「私達が本初様のことが大好きなように、本初様だって私たちのことを大好きでいて下さってるんです! それがこんな醜い争いをして、傷つけあっているのを知ったら…きっとものすごく悲しまれます!」
少女の凛とした態度、声…いや、それ以上に、まるで解った様に主のことまで語るその少女の言葉に、逢紀どころか周囲の少女も顔を憤怒で紅潮させていた。
「っ…言わせておけばッ!」
憤怒が頂点に達した逢紀が少女の顔に向けて拳を振り上げる。
少女が跳ね除けようとするよりも早く、少女の両隣にいた少女が、素早くその両手を掴み、その動きを封じた。
一瞬の出来事に驚愕した少女は、その痛みを覚悟するように目を閉じた。

だが、その拳が少女の顔を捉えることはなかった。
「やめておけ」
振り上げた拳を後ろから掴まれ、逢紀は憤怒を露に後ろを振り返る。
「っの、邪魔を…っ!?」
その人物の姿を見た瞬間、彼女の顔から一気に血の気が引いた。
同学年の少女達よりも背の高い逢紀よりも、更に長身の、亜麻色の髪をポニーテールにした少女。
そして、その後ろにいたライトブラウンの髪をショートカットにした少女が、
「やれやれ…女の園の嫉妬による私刑とは…まったくもって美しくないですねぇ…」
大仰な仕草で、そう吐き捨てた。
「顔良先輩…儁乂さん」
再び目を開けた少女が、呆然とつぶやいた。
顔良は逢紀の手を掴んだまま、やれやれと言わんばかりに頭を振った。
「まったく…本初様からお前達の様子がおかしいから見て来いと仰せつかったから、嫌な予感はしていたんだがな…」
そして、少女の手を掴んでいる少女達に一瞥くれると、反射的にその両手を開放した。
「元図、正南の言うとおりだ。お前らがお互いにつまらん言いがかりをつけ合っていること、どれ程本初様を悲しませているか、少しは考えろ。本初様の側に仕えて長いお前であれば、そのくらいのこと解らぬわけではあるまい?」
「くっ…」
開放され、所在のなくなった拳を振り下ろし、その場から立ち去る逢紀。
急激に冷めていくその心の中には、何故か敗北感だけが残った。


思えば、この時からだっただろう。
あたしの中で彼女…審配に対するイメージが、それまでとはまったく違うベクトルに傾き始めたのは。

彼女はあの時、「私達」と言った。
つまり彼女は、本初お嬢様だけではなく、あたし達のことまで考えていたということに。
あたしは"新入り"のあの娘がお嬢様と親しくしていたことに、不快感と敵意をむき出しにしていたというのに。

彼女は、それ以降もあたしと馴れ合うようなことはなかった。
だがそれでも、彼女は与えられた責務を全うし、あたしが帳簿記入の上でやらかしたミスも、あたしのいないうちにこっそり直してくれたり、他にもさりげなく、あたしがやりやすいように取り計らってくれたことを、あたしは知ることとなった。
彼女は、本初お嬢様そのものは当然として…お嬢様を取り巻くすべてを、好きでいてくれるということに気づいたとき…あたしはその時から、彼女のことをもっと良く知りたいと思うようになっていた…。
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