【1月18日】旭記念日創作発表スレッド【お祭りワッショイ】
198:7th2006/01/26(木) 21:34
魔女。
一般的には中世以前の欧州で、ドルイド・シャーマンの流れを汲んだ民間医術・占い師を生業とした人々の事を指す。
現在の魔女のイメージは、スラヴの魔女、ババ・ヤガーを基にして中世魔女狩り期に成立したもので、黒いウィッチドレスに三角帽、と云ったアレである。そしてもう一つ、忘れてはならぬものが……

セーラー襟つきのピンク色の服。レースのフリルつきミニスカート。星型の飾りつきの、これまたピンク色の帽子。背負ったナップザックにはご丁寧にも白い羽根の意匠が。トドメとばかりに、手に持った魔法のステッキはハート型をあしらった実にファンシーな物である。言うまでもなくコレもピンク色だ。
リリカルでラディカル、ファンタスティックにルナティック。このショッキングなコスチュームこそ、かの魔女っ娘、もしくは魔法少女と呼ばれるモノである。
その異常にファンタジックか衣装を身にまとうのは簡雍。ゴスロリは恥ずかしかった。スク水はもっと恥ずかしかった。ナースはまだマシだった。しかし、コレの恥ずかしさは、それらを超えて余りある。
何なんだこのビビッド過ぎる色彩は。加えて意匠・小物の一つ一つが無闇にファンシー。正気の沙汰とは思えない。
恨めしそうに隣の法正を見遣る簡雍。なるほど確かに法正も魔法少女的なコスチュームを身にまとっているものの、見た目は大分違う。
漆黒ののウィッチドレスに、白いエプロンを追加。頭には裏地にフリルをあしらった三角帽。手に持つは魔法の箒である。
細部こそファンシーであるものの、簡雍のものより大分落ち着いてシックな感じの仕上がりだ。まだ羞恥心が許せる範囲にある。
「差別だぞ玄徳! 何でアタシはコレで、法正はアレなんだ! 明確な説明を要求する!」
納得いかぬ、とばかりに抗議の声をあげる簡雍。それを聞いた劉備はニヤリと不敵にほくそ笑み、
「よしよし、そこまで言うなら回答したろやないか。耳の穴かかっぽじってって良く聞き」
「なら400字詰め原稿用紙で5枚以内、制限時間120分で答えなさい!」
「似合うから。」
「即答でしかも6文字かよ! 小論文の試験なら採点対象外だぞコラ!!」
いきり立つ簡雍だが、劉備は呵呵と笑って相手にしない。
まぁ回答が横着なだけで、劉備が言っていることも正論ではある。法正のようなクールでシャープな人間が着るよりも、簡雍のように少し抜けた、暖色味のある人間が着るほうが、あの服が似合うのは確かだ。
だからといって引き下がる訳にもいかない。良いから止めろと腕を振り回して力説するも、手に持ったステッキからピロパロと訳の解らぬ音が流れ出るため、全く迫力がない。
「何のオモチャよあれ…」
法正の呟きも尤もだ。安っぽい音に加え、電飾が発光しているあたり、幼児向けのオモチャにしか見えないのだが、
「あぁ、アレなら私がちょちょいと作りました。…本当はもっとこう、マジカルな兵装も内蔵したかったのですが、時間が無くて泣く泣くオミットしました。返す返すも残念でなりません」
どうやら諸葛亮謹製のアイテムらしい。しかし妙に不穏当な発言が有ったのは気のせいか。
「法正殿の箒にも、レーザー発振装置とか搭載したかったんですけどねぇ……」
何処の魔砲だ。
ついでに言うと、それは最早兵器だ。そんなモン作ってはいけません。
今更ながら、法正は薄ら寒くなった。普通の服を着させられるならまだ良い。しかしそれに孔明が関わっているとなると、妙なところで安心できない。
大きな不安をはらみつつ、改造計画は続くのだった。



メイド服。
メイドとは、主に清掃、洗濯、炊事などの家事労働を行う女性使用人を指す。
19世紀後半の英国、ハノーヴァー朝ヴィクトリア女王時代に於いて、使用人を雇うことはステータスシンボルの一つであった。しかし、第一次世界大戦を契機として女性労働力の再評価が始まると、女性の社会進出と共に急激に減少、メイドは消滅を余儀なくされた。だがメイドとその精神は滅んではいなかった。21世紀、メイドは別の側面を以って日本に復活したのである……。

濃紺のエプロンドレス。純白の袖カフス。すらりとした脚を包むは、これも白いオーバーニーソックス。ホワイトブリムを頭に載せたその出で立ちは、どう見てもメイドさんです。本当にありがとうございました。
「絶妙や…絶妙なメイドさんがおる…。このツン分とデレ分の見事過ぎる配合っ……! 想像以上の破壊力や…」
半ば放心しながら感嘆の声を上げる劉備。当の二人は、訳が解らないといった顔で、そんな彼女を眺めていた。
だが無理も無い。当人たちは自覚していないようだが、劉備が放心する程までに、二人のメイド姿は完璧だった。
メイドとは即ち家庭内労働者。主人との関係に存在するのは、主従関係ではなく、あくまで現実的な雇用関係である。それ故に、メイドにデレは不要。昨今のデレデレメイドとは一線を画した、ツン分9・デレ分1の黄金比。これこそがパーフェクトメイド。深遠なるメイド道、その極意である。
「ナイスですぞお二方。あまりの感激に、私、鼻血が出そうです」
鼻を押さえながら賞賛する諸葛亮。その後ろ、ギャラリーの中にも鼻を押さえている面々がちらほらと。その誰もが、鼻を押さえていないほうの手でサムズアップ。
「しかし良いのですか総帥。次がラストの予定ですが、これ程の破壊力を見せ付けられては、何をやっても見劣りするのでは?」
正論である。写真や動画は後で編集できても、この場にいる観衆を満足させることは難しいだろう。
「ふっふっふ、まぁ見とき。トリはトリらしく、最終兵器を投入せんとな」
我に秘策有り。そういった体で不敵にほくそ笑む劉備。これを超えるコスプレとは、果たして何なのか……?



最後の着せ替えを終えた二人を迎えたのは、雷の如き喝采と、一面の溜息。
足下には赤い絨毯が敷かれ、居並ぶ人々が紙吹雪を撒く。
そして二人の向かう先、少し高い壇上には、神父の格好をした劉備が、人の悪い笑顔で二人を眺めている。
これは、まるで……
「結婚式じゃねーか!!」
まるででも何でもなく結婚式である。
それもその筈。二人の衣装は、法正がタキシード姿、簡雍が純白のウェディングドレスである。結婚式にならない理由がない。
「え、ちょ、何で……? 何で私が新郎役な訳!?」
わたわたと狼狽する法正。結婚式っぽい演出もそうだが、何より自分が新郎役になっていることが納得いかないらしい。
「だって憲和の方が背ぇ低いやん。新婦の方が背が高いのはちょっとマヌケっぽいしな」
別に背格好など結婚する当人たちにとっては些細な要素であるが、今回はコスプレをさせて遊びつつ、部費も稼ごうと云う趣旨である。当然、しっかり様になっている方が望ましい。
「じゃあ二人とも、此処まで来て愛の誓約やってもらおうかいな。動画で撮ってることやし、しっかり演技してや〜」
「「何ぃーー!!」」
まさかそこまでさせる気か、と正気を疑うように抗議する二人。
「部長命令や。簡雍、法正、別に指輪交換せぇ言う訳でなし、さっさとやりぃ」
部長命令では仕方がない。まぁ確かに本当の結婚式ではないのだ。演技だと割り切れば、別段腹も立たない。
腹の中はさておき、演技に徹してしずしずと壇上に向かう簡雍と法正。両端にいる観衆の祝福が、なんとも不愉快だ。
そうして壇上まで来た二人に、劉備は大仰に聖書を広げ、厳かに問うた。観衆が静かになる中、ちゃっかりかけられた、メンデルスゾーン『結婚行進曲』が耳障りだ。
「汝、法正。この者を妻とし、一生愛することを誓いますか?」
「…………誓います」
答える法正。こんな奴を嫁にする者の気が知れぬ、と云うのが本音であるが。
「では汝、簡雍。この者を夫とし、一生愛することを誓いますか?」
「…………誓います」
答える簡雍。女同士に何させてんだバカヤロー、と云うのが本音ではあるが。
「此処に誓約は結ばれました。では皆の衆、拍手で祝福を!!」
劉備の宣言に従うように沸き起こる大拍手。そして、キスコール。
「うん、観衆の皆様も言っていることやし、期待に応えて誓いのキス、いっとこか?」
「「何ぃーー!!!」」
今回二回目の唱和。本気でソレをさせる気か、と意識が遠くなる二人。
なおも止まぬキスコールに、満足げに微笑む劉備。さては謀られたか、と気付くも、最早どうにもなりそうに無い。全ては、最初に劉備にしてやれれた時からケチがつき始めたのだ。
ちらり、とお互いの意思を目で確かめ合う。やるしかない。奇しくも同時にそんな悲愴な決意にたどり着いた二人であった。

しばし見詰め合う二人。そして、どちらからとも無く唇が近付いていき…………

全てをやり終えた二人。最早感動しない者など此処にはいない。大喝采が飛び交う中、目元をハンカチでぬぐいつつ、劉備は宣言した。
「これにて簡雍改造計画、及び法正改造計画の全工程を終了する! 我々の心に素晴らしい感動を与えてくれた二人に、盛大な拍手を!!」
燃え尽きた二人に対し、いっそう盛大に喝采が上がる。満足そうに頷いた劉備は、へたりこむ二人に対しおもむろにマイクを向けると、コメントを求めた。
返ってきた返事はこうだ。

「「次は絶対アンタの番だ」」

その言が実現したかどうかは、また別のお話。
ともあれ簡雍+法正改造計画、此処に閉幕と相成るのでした―――
1-AA