【1月18日】旭記念日創作発表スレッド【お祭りワッショイ】
122:海月 亮2005/01/19(水) 20:02
-長湖、新春の攻防戦 そのいち-


揚州学区・呉郡学生寮、その陸遜の部屋。その扉が乱暴に開け放たれると、必死の形相をした二人の少女が転がり込んだ。そしてまた、乱暴に扉が閉じた。
一人は、緑なす黒髪をショートボブに切り揃えた少女−長湖部実働部隊の総括責任者・陸遜。
もう一人は、その頭の両サイドに、何かの耳のように跳ねたクセ毛があるロングヘアの少女。今年卒業を控え、推薦での進学も決定したものの、来年も特別顧問として残留が確定している諸葛瑾だ。
二人は暗がりの中でお互いの顔を見合わせると、強張った顔のままで呟いた。その衣服は、大分乱れており、彼女達がどんな目に遭ったかをよく物語っている。
「こ、ここまで来れば一安心ですね、子瑜先輩…」
「え、ええ…ようやく、逃げ切ったわね」
ここのところ平穏そのものだった長湖部。
正月の松の内も大分過ぎた1月18日に存在する学園休校日。この日に行われた体験入部イベントもそこそこの成功を見せた。でもって次の日も特別休校ということで、その夜に新年会を兼ねた打ち上げを行うことになったのだ。
昨年は帰宅部連合との悶着でそれどころではなく、さらに孫権が公孫淵の裏切り行為に相当なストレスを溜めている事を考慮し、少々羽目を外すくらいは…というのが、発案者・陸遜の弁だった。しかし特別に招いた、卒業を控えた魯粛や甘寧らのリタイア組参加希望者のリクエストに応え、酒の類を持ち込むことを容認したのが間違いの始まりだった。
案の定、先ず孫権が暴走した。公孫淵の一件から来た鬱憤に加え、いつも宴席を支配していたシャンパンが、よりアルコール度数の高いチューハイや日本酒に替わっていたことで、テンションの上がりようが半端でなくなっていた。
いつもなら止める筈の張昭が不在で、ストッパーの谷利が一緒になって呑んでいたのも災いした。甘寧の暴走を止められる呂蒙が、センター試験の為に学園を離れていたのも不運だった。
しかも悪いことに、一滴もアルコールを口にしたことがない凌統が、特待生として大学進学が決まったことに気をよくして大杯を干し…正確には、甘寧と魯粛が面白がって凌統の口に一升瓶を突っ込んだのだが…とにかくこれで酒乱の本性を顕した凌統が大暴れを始めたのが狂乱に拍車をかけたのだ。
陸遜を筆頭として大人しくやっていた連中が、孫権を筆頭とした酒乱共の襲撃を受け、程なくして会場は阿鼻叫喚のサバトと化した。その狼藉っぷりに恐怖した何人かが会場を次々に飛び出していくと、夜の帳の落ちた建業棟周辺で、酔いどれ天使と哀れな小羊達による鬼ごっこが展開されたのだ。
普段大人しい孫登や孫和すら、酔った勢いで陸遜にへばりついてくる有様だった。操を奪われそうになった(w)すんでのところで二人は何とか脱出し、会場からそう遠くない呉郡寮へ逃げ延びた、と言うわけだ。
「とにかく…」
「…ええ」
「「助かったぁ…」」
二人は同時に、その場にへたり込んでしまった。

所変わって、会場のすぐ傍の物陰に、二人の少女が隠れている。
一人は艶やかな黒髪を三つ編みに結った、気の強そうな少女。縁無しの眼鏡が、妙にはまっている。
もう一人は、亜麻色髪をセミロングにした小柄の少女。白のリボンをヘアバンドのように結っており、それが暗がりでは妙に目立って見える。
「…どうしよう〜…はぐれちゃったよぅ…」
「しっ! 情けない声出さないの。つーか敬文、そのリボン目立つから、外しときなさい」
「うぐぅ…うん…」
敬文こと、長湖部次期部長後見補佐を務める薛綜は、震える手で結ったリボンを外し、ポケットに仕舞いこんだ。もう一人、眼鏡の少女は長湖部風紀委員長の厳S、字を曼才。
こういう宴会事だからこそ、会場に居なければならない彼女達が、何故会場から遁走し隠れているのか…理由は陸遜達と何ら変わることはなかった。
「仲翔さんが居なかったらどうなってたか解らないわね…まぁ、あのヒトもどうなったことやら」
しみじみと呟く厳S。
この年度頭の宴会で、虞翻は孫権の逆鱗に触れて交州学区に左遷されていたのだが、今日は卒業間際という事で特別に交州から呼び戻されていた。そう言う引け目もあってか、この日の虞翻は陸遜や厳S達に混じっていた。直截な物言いも影を潜め、これまで彼女を快く思っていなかった者達とも、この日はかなり打ち解けていた。
孫権その他が暴走を始め、混乱を極めた時に逃げる連中の殿軍を買って出たのも虞翻だった。かつて、課外活動で孫策を窮地から救った杖術の腕を活かし、群がる酔いどれ天使達を捌く虞翻の姿を思い返し、薛綜の目に涙が溢れる。
「うぅ…仲翔さぁん…」
「泣かないの敬文! 仲翔さんの犠牲を無駄にしないため、絶対に呉郡寮まで逃げましょう、ね?」
「…ぐすっ…今日一緒に居ても…」
「あたしもこんな日に正直、一人は御免よ。合図したらここを出て全力で走るわよ…いい?」
「うん…」
そうして、そーっと暗がりから顔を出し、辺りを確認した厳S。
「よし…いちにのさんで飛び出すわよ…いち、にの…」
息を飲む二人。
「さんッ!」
合図と共に飛び出した…のは、二人だけではなかった。
「残念―――ッ!」
「!!」
視認出来ない両サイドの死角、そこから三つの影が実にいいタイミングで飛び出し、二人に折り重なるように飛びついたのだ。
「ふっふっふー! この朱桓様から逃れようなんざ百年早ぇんじゃい!」
「さっすが〜、あたい、あんたのこと見直したよ休穆ぅ〜」
「姿隠して声隠さず〜甘いぜぇお二人さんよぅ」
飛び出してきたのは朱桓と朱然、そして全Nだった。いつか対蒼天会の学園無双で、戦略上の行き違いがあって大喧嘩した朱桓と全Nだったが、何時の間にか仲直りしていたらしい。
「ちっくしょー! やっとここまで逃げてきたってのに〜!」
「うぐぅぅ〜!」
悔しそうにうめく厳Sと、その下で苦しそうにもがく薛綜の上で、
「…んで、分け前どうするぅ?」
「あたいはどっちでもいいよ〜? 休穆は?」
「う〜ん…じゃあうち等は敬文もらいっ! いいよな義封?」
「おーけーおーけー。じゃあ子黄は曼才持ってってね♪」
「有難き幸せ〜」
分け前相談をする三人であった。

(続く)
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