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【1月18日】旭記念日創作発表スレッド【お祭りワッショイ】
155:海月 亮 2006/01/19(木) 00:41 同期の桜は散らない- きっかけは一本の電話だった。 「…もしもし」 『あ、やっぱり居た。私。子瑜だよ』 その夜、年内最後の食事を終え、年明け間もなくの推薦入試に向けて少し勉強でもしようかと、自室に戻ろうと階段に足をかけたときだった。 父が医者、母が看護婦という仕事柄、珍しくこの年は家族団欒のかなっていた虞家の居間から、電話だと呼びつけられた。 彼女…虞翻にとって、こんな大晦日の夜にわざわざ電話をくれるような友人に、心当たりは少ない。無論その電話を寄越した主…諸葛瑾にしても、そういうことをしそうなイメージは湧いてこなかった。 ましてや、この年は互いに受験を控えた身。互いに模試の志望校合格率がほぼ七割前後という安全圏内に居はしたが…。 『ね、今日明日は暇…というか、どこかに出かける予定はないよね?』 「…ん…まぁ、確かにそんな出かけなきゃいけない理由も、特にないけど…」 確かに予定はなかったが、虞翻には"出かけたい"場所の心当たりはある。 『だったら、これから常山神社の二年参りに行かない?』 「え…二年参り?」 思わずどきっとして、一瞬言葉に詰まる虞翻。 これまでその口の悪さが災いして、あまり長湖部内でも親しいものが居なかったため"近寄りがたい一匹狼"になっていた彼女であるが、そのとっつきにくさに反して生来のお祭好き人間である彼女である。実は年末年始にまたがる一週間、学園都市最大の神社である常山神社の歳末年始の祭を見に行きたくて仕方のないところではあった。 しかし、流石の彼女も夜一人で出歩く気に慣れなかった。妹たちは妹たちで集まって祭を見に行くつもりで居たが、流石にそれに混ざっていくのも気が引けて、年明けて日が昇ってから行くつもりで居たのだ。 『部長は相変わらず南国の海、陸家も顧家も朱家も年始の集まりで、他に付き合ってくれそうな人もいなくてさ』 「でも、わざわざ二年参りでなくてもいいじゃない…明日でも別に」 『何言ってんのよ〜、せっかく高校生活最後の年末年始なんだから、たまには趣向を変えて、ね?』 やはり何か変だ、と虞翻は思った。 確かに行けるなら二年参りにも行ってみたいし、旅の道連れが向こうからやってきたわけだから願ったり叶ったりである。 だが問題は、その相手。 (確かに子瑜なら、信用できる相手だけど…) 一応、疎遠だったと思っていた幹部会の"仲間"達でも、今は自分を受け入れてくれるということも彼女は解っている。 しかし、幾ら気のおける仲間でも、油断のできない者と言うのはわずかながら存在する。基本的に"悪戯っ子"の集合体みたいな長湖部員のこと、今までそっけない態度をとってきた自分が急に尻尾を振って寄っていけば、どんな罠を仕掛けているものだか解ったものではない。 現に彼女は、一週間前のクリスマスパーティではえらい目に遭わされていた。 確かに楽しかったけど、終始自分は晒し者同然の扱いを受けていたのだ。隠し芸で得意の占いを実演したりするまではいいが、その後はほぼ自分のオンステージ状態。似ても居ないモノマネはやらされるわ、ゲームセンターにあるようなゲーム筐体を持ち出されて即興のダンスを踊らされたり…終いには孫権とその従姉妹達に赤ワイン漬けにされ、次の日は二日酔いでマトモに起きる事すらできない有様だった。 しかもその謀主が陸遜と歩隲だと知らされて以来、虞翻は陸遜に対してさえ何処か警戒心を捨てきれずに居る。相手の性格上、悪気があったわけではないことが解っているだけに、なおさらのことだ。 その点、諸葛瑾なら問題ない。喩えるなら、御人好しが服着て歩いているような…他人をハメるという観念から最も遠い思考パターンの持ち主だ。 (でも…どうして急に?) だから、突発的に何か行動に出るような…正確に言えば、自分の衝動に他人を巻き込むようなタイプではない彼女が、今日になって唐突にそんな行動に出たのが彼女には引っかかっていた。 『…お〜い…起きてる仲翔さん?』 電話から諸葛瑾の声が聞こえてきて、虞翻ははっとして自分の思考を打ち切った。 「あ…ごめん。解った、ご一緒させてもらおうかな」 『あなたならそう言ってくれると信じてたわ。こういうお祭、本当は大好きだからでしょ?』 「…誰から聞いたのよ」 『舐めてもらっちゃ困るわ。私の友達にはあなたの友達だって多いんだからね。子敬(魯粛)とか公紀(陸績)とか』 流石の虞翻も苦笑するしかなかった。 「そういえばそうだったわね…じゃ、待ち合わせは?」 『そうね…確か会稽から琅邪経由の常山行きがあるわよね? それの11頃のバスというのはどう?』 どうやらバスに乗り合わせていくということらしい。虞翻は手元にあったバスの時刻表…数日前に発行された、年始ダイアの記載されているものを確認する。 「会稽営業所発の年始特別便で、そっちに35分に着いて常山着が12時15分前っていうのがあるわ…それでどう?」 『おっけー、じゃあそれで』 「うん」 電話を切ってふと時計を確認する。待ち合わせに指定した時間までまだ二時間弱余裕がある。 「姉さんに電話なんて珍しいわね…誰から?」 妹たちと年末のお笑い特番を見ていたすぐ下の妹…といっても歳は四ツも離れているが…の虞レが、興味津々と言った風で寄ってきた。もうお互いに入浴は済ませ、それぞれがパジャマ姿だ。 コノヤロウ、一匹狼の私に電話をくれるような友達が居るのがそんなに不思議か…と喉まで出掛かったが、此処でムキになってしまったらどうあしらわれるか解ったものじゃない。 「子瑜から。受験生同士年を跨ぐデートのお誘いよ」 と、普段はまったく言わないような強烈な冗談をしれっと返して見せたら、居間のほうからいきなり、がたがたがたっと凄まじい音がした。何事かと思って覗いてみると、末妹の虞譚を以外の三人が、まるで鳩が豆鉄砲を喰らった様な顔をして、床にのけぞったり椅子からひっくり返っていたりと楽しい格好で呆けている。既に皆入浴を済ませたのか、そろってパジャマ姿である。 「……何やってんのよあんた達」 「…お、お、お姉ちゃんにそんな趣味があったなんて…」 いちばん手前に居たセミロング…三番目の妹・虞忠が何か恐ろしいものでも見たかのように呟く。 「はぁ?」 「頑張ってお姉ちゃん、あたしたちは応援してるからっ」 「世間が理解してくれなくても、あたしたちはずっと仲翔お姉ちゃんの味方だからね〜」 椅子から仲良くコケていた虞聳・虞キの双子姉妹が何時の間にか、虞翻のそれぞれの手をとって、何か哀れむような表情で見つめている。 此処まで来て、虞翻もようやく自分の冗談が冗談に思われてないことを理解したようだった。 「いや…あんた達、アレは冗談…」 「隠さなくていい、隠さなくていいからっ」 「あたしたち口は堅いほうだからっっ」 もしかしたらからかわれているのかも知れないが、最早怒るよりも苦笑するしかない虞翻。虞レも呆れ顔だ。 そして起こっている状況がよくわからない虞譚は、しきりに小首をかしげていた。
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