下
【1月18日】旭記念日創作発表スレッド【お祭りワッショイ】
183:海月 亮2006/01/22(日) 00:06
最初の頃は、どうにも気に食わない小娘だと思った。
ちょっと小利口なところを"あの方"に認められたからって、そのあとも身の程を弁えずに"あの方"の周りをうろちょろする目障りな犬っころ…そうとまで思ったこともあった。
きっとあの一件がなければ、あたしはあの娘を、一生受け入れることなどできなかったであろう。
-フローズン・ハートは笑顔に融けて-
あたしの主人…本初(袁紹)お嬢様が冀州学区に腰を落ち着けた頃のことだった。
幼い頃から本初お嬢様の側近くに仕え、いろいろ目をかけていただいたという恩義の分を差し引いても…お嬢様は聡明で寛大さ持ち併せ、何よりも魅力的な方だった。
名族・袁氏の血筋云々ではなく、生まれ持った気品、気高さのようなものがあった。
そして何より、お優しい方だと思う。
妹のように可愛がられていたあの曹操などは、言うに事欠いて「優柔不断で鷹揚なだけのお嬢様」などと陰口を叩いているらしいが…そんなことすら、ただ微笑んで気に留めずにもいた。
何時も「あの娘はただ、私にかまって欲しくて、わざと憎まれ口を叩いているのよ」と、言って。
そういうお嬢様だからこそ、私はこうして、側近くに仕えることができることを誇りにすら思っていた。
だからこそ…怖かったのだ。
あたし以上に優れた娘が、今あたしのいる場所を、いつか奪い去ってしまうのではないかと。
今思えばその娘は、かつてのあたしにとってそういう存在だったのかもしれない…。
「…元図さん?」
どのくらい時間がたっていたのだろう。
彼女…逢紀は、はっとして目の前の少女のほうへ視線を戻した。
「あ…す、すみません、あたし…」
袁氏生徒会の本拠地・冀州学区はギョウ棟の執務室内で、逢紀はその主・袁紹とただふたりきりで、向かい合ってソファに腰掛けている。
数日前、易京の地において宿敵・公孫サンの勢力を打ち払い、そのことにより華北四校区の覇者となった袁紹。逢紀は中学三年生ながら、その功績と才覚を認められ、華北四校区における会計事務の総括を任されるまでになった。
ある、少女と共に。
「あなたでも、周りを忘れてしまうくらい考え込んでしまうこともあるのね」
「う…」
咎めるでもなく、にっこりと微笑む袁紹の言葉に、申し訳ないやら恥ずかしいやらで俯いてしまう。
この日、彼女がこうして呼ばれたのには、ある重大な理由があった。
彼女と共に華北四校区の会計を総括するもう一人の少女についての、あるウワサ。
いわく、その少女が華北四校区の会計総括を任されたのをいいことに、その予算をこっそり横領し、なおかつ一般生徒に対して横柄に振る舞っているというものだ…。
「…私はどうしても、あの娘がそんなことをするような娘には見えないわ。けれど、こうして話題に上ってしまうということは、何らかの原因があると思うの…」
そう話す袁紹の表情は、とても悲しそうに見えた。
それはそうだろう。その話題に上った少女は、袁紹が直々にその才能を認め、取り立てたほどの逸材だったのだから。
事実、彼女はその鈍臭そうな見た目に反して、非常に頭の回転が速く、しかも武の面でも"ソードマスター"顔良が認めたほどの才能を秘めている。
そして、彼女はお嬢様の為に全力で尽くすことを…お嬢様の側に居れる事を、何よりも望んでいることを、逢紀は知っていた。
「あの娘には確かに素晴らしい能力があるし、何よりも一生懸命な娘だと思ってた。でも、こんな事態になっては、このまま彼女に大役を任せるのは厳しいような、そんな気がするの…」
俯く袁紹。
逢紀は、その言葉を噛み締めながら、何時か自分がその少女に対して行ってしまったある事件のことを思い出していた。
半月ほど前、逢紀とその少女が華北四校区の会計総括を任されて、間もなくのころの話だ…。
上前次1-新書写板AA設索