【1月18日】旭記念日創作発表スレッド【お祭りワッショイ】
185:海月 亮2006/01/22(日) 00:07
逢紀は穏やかに微笑んで、袁紹のほうへ視線を戻した。
「愚問ですよ、お嬢様」
「え?」
「そんなの、どうせ彼女の立場をやっかんだ郭図か辛評あたりが流したデマでしょう」
逢紀の答えに、袁紹は驚いたのか目を丸くした。
逢紀は更に続けて、
「あの娘があなたを慕う気持ちは本物ですし、大体あれほど一生懸命で正義感の強いあの娘がそんなことをするはずなんてありません!」
そう言い切った。
袁紹は想いもよらぬ逢紀の言葉に、戸惑ってさえいる風でもあった。
「…あなたは、あの娘のこと…その、嫌いだったんじゃ、なかったの…?」
「確かにあの娘が嫌いだったこと、否定はしませんよ…でも、私事は私事、公の事は公の事。流石に華北四校区の会計総括ともなれば、いくらあたしでも一人では荷が勝ちすぎます。今あの娘が…正南がその役目を外されたら、あたしが困りますから」
逢紀は悪戯っぽい笑顔で微笑む。
幼い頃から袁紹の側に仕え、令嬢専属のメイドとして厳しいくらいの教育を受けていた逢紀が、こういう笑顔を見せるのは袁紹の前だけであった。
袁紹も彼女の真意を汲み、微笑む。
「そう…あなたがそう言ってくれるなら、私も心配はないわ。この話については、聞かなかったことにしましょう」
「ええ、それが上策です」
そして逢紀は徐に立ち上がると、つかつかと執務室のドアに向かい、それを思いっきり開け放った。
「入りづらい雰囲気だったのは酌量の余地はあるけど…立ち聞きはいい傾向じゃないと思うわよ?」
「あ…」
扉の前にいたのは、飴色の光沢がある髪を、二本の赤いリボンでスタンダートなツインテールに纏めている、年相応の幼い顔立ちをした小柄な少女。
鳶色の瞳をわずかに潤ませ、ばつが悪そうに俯いてしまったその少女こそ、その話題に上っていた審配、字を正南そのひとであった。

袁紹に促されるまま、審配は袁紹、逢紀と向かい合う形でソファに座らされていた。
その手には、一通の手紙がある。
こうして彼女がやってきたということから、その内容は袁紹にも逢紀にもなんとなく予想がついた。
「え…えっと、その…私っ」
ふたりの視線を感じながら、彼女は親から仕置きを受ける子供のように、不安で震えていた。
「私…この生徒会の一員として日が浅くて…それにたいした能力もないのに、突然重要な役目を与えられた所為で、結局本初様の御期待を仇で返す結果になってしまいました…だから、私…」
「…悪いけど、それじゃ大いに困るのよ」
「え…?」
思いも寄らぬ方向から声が飛んできて、審配は驚いてその人物…逢紀のほうを向いた。
「生真面目なのもいいけどさ、そうやって思いつめて周りを振り回すのがあなたの悪い癖よ」
「あ…」
そうして、呆気にとられる審配の手から、その手紙を難なく取り上げる逢紀。
その中身を一瞥すると、果たして彼女の考えたとおりの内容であった。
この不始末を償うための、職務辞退の請願書。その末尾には、自分を認めてくれた袁紹への感謝の言葉と、同僚である逢紀に対する謝罪の言葉で締めくくられていた。
そのことに逢紀は何故か、嬉しくすら感じていた。
「なんだか…無碍に破り捨てるのも気が引けますから、とりあえずあたしが預かっておく、という形で宜しいですか?」
「ええ、あなたの良い様に計らって、元図さん」
逢紀の言葉からその内容を悟ったらしい袁紹は、鷹揚に頷く。
「ということだから…まぁ気にしないこと。また明日から、ちゃんとふたりで協力し合って、頑張って頂戴ね」
呆然としたままの審配。
何時の間にかその隣に腰掛けていた逢紀が、その背中を軽く叩く。
「は…はいっ!」
飛び上がるかのように立ち上がり、勢いよく深々と頭を下げる審配の姿に、逢紀は苦笑しながら、袁紹は穏やかに微笑みながらその顔を見合わせ、頷いた。
「と言うわけで、このお話はこれで終わり。もう大分良い時間になってしまったし…どうかしら、折角だから今日の夕食、正南さんも一緒に…どうかしら?」
「え…?」
驚き、戸惑う審配を他所に、袁紹は傍らの逢紀に目をやる。
「手配なら、今からでも間に合うと思いますが…」
「どう? 何かご予定があるなら、また別の日にでもいいけど」
その言葉を受け、審配は一瞬、逢紀のほうへ目をやった。
「景気づけ。お嬢様直々に、生徒会随一の働き者のあんたへのご褒美だってさ。受け取って吉だと思うけど?」
その笑顔に、自分がようやく受け入れてもらったことを感じ取り、審配の表情に笑顔が戻る。
「は、はいっ、是非とも!」
そして再び勢いよく頭を下げるその少女の姿に、今度は袁紹すらも苦笑するしかなかったという。


この日を境に、それまで不仲と専らの噂であった審配と逢紀は行動を共にするようになり、やがて無二の親友として、共に袁紹の為に身命を賭す事を約束しあったという。
しかし、それから間もなく行われた、春休みを跨いで行われた官渡公園決戦において袁氏生徒会は曹操率いる蒼天生徒会より総敗北を喫し、ふたりは凋落する袁氏生徒会のために奮戦するも、滅びの道を辿ることとなる…。

(終わり)
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