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【1月18日】旭記念日創作発表スレッド【お祭りワッショイ】
18:★玉川雄一 2004/01/17(土) 22:52 吾粲の眼(2) 実は、今日は高等部による『長湖部体験入部イベント』が催されることになっていたのだ。 この蒼天学園では、中等部の生徒はそのほとんどが進級の道を選ぶ。 そのため進級を控えたこの時期に、一足先に中等部の生徒に活動を体験してもらおうということで 今年度から開催が決定していたのである。 長湖部は現メンバーが中等部時代に結成した団体が母体となっているため、 その流れを汲んで中等部からも「ユース参加」を募っている。 しかしそれに加わるのはよほど腕に覚えがあるかもしくは高等部からスカウトされたかというような生徒であり、 長湖部自体が発足間もないということもあってその浸透度はさして高くはなく、 現在の所は高等部進級後からの入部が多いようだった。 吾粲もこの呉棟で学んでゆく以上は長湖部に入部するものだとさして疑問に思うでもなく決めていたが、 だからといってそこで身を立てるなどとは想像したこともなく、 有り体にいえばさしたる動機も持ってはいなかったのだ。 「ああ、どうせ進級すればあそこに入部することになるだろうしさ。それに一緒に行く相手もいない」 と、興味もなさそうに −実際、ないのだが− 吾粲は首をすくめてみせた。 ちなみに最後の一言にさしたる意味はなく、顧邵にもっともらしく理由を付けて説明してみただけである。 彼女とてそれなりの人付き合いはあるが、基本的に一人でいることを苦にしない性格なので よくこうして黙々とトレーニングに励んでいるのだった。 だが、その一言は却って逆効果だったらしい。顧邵は吾粲の手を取ると、ニコニコと微笑みかけたのだ。 「それじゃ、私と一緒に行きましょうよ。ね?」 「おい、ちょ、ちょっと…」 顧邵は見かけに寄らず強引なところもあるらしく、グイグイと吾粲の手を引き歩き出す。 もとより抗えぬような力であるはずもないのだが、勢いに流されて吾粲は結局ついて行くことになってしまった。 (まあ、それでもいいか) どのみち、急用があるでもない。きっかけがあるのならば、顔を出してみても損はないだろう… 二人がしばらく堤防を歩くと、なじみの呉棟が見えてきた。 顧邵が教えてくれたことには、現在、長湖部の本部はここの高等部の敷地内にあるのだという。 思えば、青と白のジャージを着た高等部の生徒をよく見かけていたのはそのためだったのだろう。 その間にも色々と長湖部に関するレクチャーは続いていた。相槌を打つばかりの吾粲だったが、 話し上手の顧邵もさすがに一息ついたのを見計らうとふと気付いたことを尋ね返した。 「あのさ、孝則は長湖部のこと詳しいみたいだけど、誰か知り合いでもいるの?」 「え? …そうよ、姉さんがね、マネージャーやってるの。それで私も時々、遊びに行ったりしてるのよ」 名前は、顧雍っていうんだけど、と付け加える。それを聞いてようやく、吾粲も得心がいった。 「あ、そうか… 顧ファミリーだったのか」 「あら……? ええ、まあみんなからはそう言われてるわね」 顧邵は苦笑したが、すぐにもとの優しい表情に戻った。 吾粲は忘れていた、というかさして気に留めてもいなかったのだが、 この顧邵という少女の生家である顧家はこの辺りではちょっとした名門であり、 朱・張・陸と並んで“呉の四姓”と称されていた。 代々優秀な生徒を輩出してその多くは学園の生徒自治組織において指導者を務めており、 あるいは主将として功を挙げる者も少なくはなく、他の生徒たちからは一目置かれていたのである。 そして顧邵もその一員であるというのならば、人当たりの良さや話慣れした態度なども納得がゆく。 以前よりそういったつき合いに慣れているのだろう。 そして吾粲の見るところ、彼女はそれだけではなくおそらく天性の素質を持っている。 一方で顧邵の方としても自分の立場というものは弁えており、それと知って接してくる相手への応対も身に付いていた。 けして自らのステイタスに奢ることはなかったが、それなりに名の知れた存在であることは自覚しているだけに、 吾粲が見せたようなリアクションは新鮮でありまたどこか嬉しかったのだった。 そうして彼女は、見所のあるこの新たな友人をバックアップしようと決意したのである。 「うん、きっと孔休さんは長湖部で活躍できるはずよ。私が保証する」 そう言うと、まあ今の私の保証なんかアテにならないけどね、とペロリと舌を出して笑ってみせた。 彼女のそんな言動も笑って許せてしまうとなると、これは相性がいいのだろうか。 吾粲とて人付き合いが悪いわけではないにせよ、これほどまでに速やかに他人とうち解けたのは初めてのことだったのだ。 「そういう孝則はどうなのさ? 期待されてるんじゃないの」 別に揶揄したつもりはなかったし、顧邵の方もそうと汲み取ってくれたらしい。 少し歩みを早めると、吾粲の前で両腕を広げてみせる。やはり、彼女の体格はお世辞にも運動には向いていないようだ。 当人もその事は熟知しているのだろう、さして悲観するでもなく言葉を継ぐ。 「私は見ての通りだし、あんまり体が丈夫じゃないの。だから、姉さんみたいにマネージャー志望ね」 そういうのって結構向いてると思うのよ、と微笑むその表情に悔しさは微塵もない。 彼女ならよく気が利くだろうし、確かにマネージャー役には最適なのだろう。 裏方稼業の大切さは実感は薄いとはいえ吾粲も知っており、であればこそ顧邵を素直に応援する気になれた。 「ああ、きっとみんなの役に立てると思うよ」 「……ありがと」 彼女は微笑んでくれた。吾粲の気持ちは通じたのだ。 続く
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