下
【1月18日】旭記念日創作発表スレッド【お祭りワッショイ】
49:★ヤッサバ隊長 2004/01/20(火) 11:13 ●魏延 空白の一夜● …体が何だか重い。 …頭が割れるように痛い。 …今、何時だっけ。 …ええっと……ま、いっか。 1月18日、早朝。 魏延は、この日が学園の休日であるのを良い事に、すっかり深い眠りの中にあった。 しかし、彼女はある違和感を感じ始めていた。 冬だから、寒いのは分かる。 だが、その身を包むのはいつも寝る際に着用しているパジャマでは無く…。 「ううっ、寒っ…」 体全体を覆う奇妙な気だるさを吹き飛ばすような寒さが、彼女の身を痛い程に刺した。 そのお陰で、ようやく魏延の瞼が開かれる。 「んん〜っ…!」 そして、上半身を起こすと、全身に溜まった奇妙な疲れをほぐすべく、大きく伸びをする。 だが、その時ようやく魏延はある事に気づいた。 「な…っ!?」 目を下にやって、自身の体を見渡す。 すると、彼女の身を包むのは白いカッターシャツ一枚のみだったのである!! 「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁッ!?」 魏延は、某有名刑事ドラマの若手刑事の殉職シーンの名台詞のごとき絶叫を、部屋中に響かせた。 彼女自身、何故このような姿でいるか全く理解出来なかったのである。 (ええと、思い出すのよ…昨日の夜は…そう! 今日が休日だってんで、帰宅部の宴会に出席したんだった…!!) 魏延の脳裏に、段々と昨夜の様子が思い出されてきた。 (そっか…あたし、酒を部長達に飲まされて…) そもそも、未成年の飲酒は法律に反するのだが、蒼天学園自体半ば治外法権の学園であるからして、生徒中に飲酒の習慣が広がっていても、全く不思議ではない。 無論、生徒会には風紀委員が存在するし、帰宅部連合内に於いても、やたらその手の事に厳しい輩もいるのだが。 しかし、だからと言って読者諸兄は真似しないように。 (ええっと…それから……) 「オラ〜! 文長、飲んどるかぁ〜!?」 「おおう!? 文長、酒宴の席でそんな堅いカッコしてんじゃねーよ! オラ、脱げェ!!」 「や、やめて下さい、張飛先輩ッ!! み、皆!! 見てないで止めてェッ!!」 酒豪の簡雍だけならまだしも、この日は帰宅部員ほぼ全員が酒気を帯びていた。 魏延は張飛によって制服の上着を脱がされ、カッターシャツ一枚にされてしまう。 魏延は必死になって抵抗しようとするが、悲しいかな人並み外れた腕力を誇る魏延ですら、張飛の前では赤子同然であった。 さらに、制服のカッターが第一ボタン、第二ボタンと、次々と外されてゆく。 「ギャーーーーッ!! 何であたしだけこんな事されなきゃならないのよォッ!?」 「オラオラ! 抵抗するんじゃない、いっちゃえよ!!」 なおも、マウントポジションの体勢で酒瓶を直接口に当てて飲まされる。 頭の中がグルグルと回転し、最早思考もロクにおぼつかない。 「はぅーっ…」 そして、魏延は目を回して完全に出来上がってしまうのであった。 「オーッ!! ええ飲みっぷりやったで文長!!」 「ええ。漢女たるもの、酒に強くなければならないものね」 その様を、自身も酔っ払いながら観戦する劉備と関羽。 ってゆーか関羽さんよ、あんたも止めんのかい。 「グフフフ〜、良いわねェ、ぶんちょうタンの乱れっぷり!! 貰ったァッ!!」 カッターシャツの第二ボタンまでも外され、胸の谷間を覗かせているへべれけ魏延に向けて次々とシャッターを切る簡雍。 もしその手のサイトに掲載すれば一日でメガヒットも夢では無さそうな写真になりそうな「それ」は、後に魏延の怒りの復讐劇によって見事全て回収されるのであるが、それについてはまた次の機会。 「えぅ〜…やめれくらさいよぉ、簡雍先輩ぃぃ〜…」 最早彼女は漢魏延と呼ばれた豪傑などでは無く、ただの酔っ払い娘と化していた。 そんな中で、普段は彼女の剛毅さに押され気味であった諸葛亮一派の一人、楊儀が魏延に詰め寄る。 「あはは〜☆ 魏延、あんたも酒が入るとそんなんになっちゃうんだぁ。 ウフフ、いいわぁ……」 かなり危険な笑みをこぼす楊儀。 普段であれば、魏延がそんな彼女を一喝した後、泥沼の口喧嘩に突入するところであろう。 しかし、魏延は最早目の前の人物が誰なのかすら理解出来なかった。 「ほええ〜…?」 「部長〜ッ!! 魏延借りてって良いですかぁ〜?」 「ええでぇ〜、ウチらも、もう十分堪能したしなぁ」 劉備は、楊儀が何をしようとしているのか全く察する事が出来ず、事もあろうに快諾してしまうのだった。 「ありがとうございま〜す。んじゃ、行こっかァ?」 「う、うぃ〜ッ…了解であります、隊長!!」 楊儀は、魏延の腕を掴んで、ズルズルと部屋を後にする。 そして、そんな彼女の顔には妖しげな笑みがこぼれていた……。 「さ〜て、コイツへの日ごろの恨みをどうやって返してやろうかしら。 やっぱり、こーゆー時わぁ……ウフフ…」 「ううう〜、」 頭の中で、良からぬ妄想を抱きつつ、楊儀は魏延を引っ張って仮眠室までやってきた。 そして、準備万端で敷かれていた大き目の布団に魏延を寝かせると、スカートを脱がせ…。 「はう〜…何なのよぉ〜?」 酔っ払って思考回路が働かない魏延は、これから何が起ころうとしているのか、全く理解出来ないでいた。 そして、楊儀が実は女色家であると言う事実も。 「さ〜て、いっただっきま〜す…♪」 こうして、楊儀と魏延の夜は更けてゆく。 この後、ここで一体何が行われたのか。それは読者諸兄の想像にお任せするとしよう。 ちなみに、その後仮眠室にやってきた一人の部員が、魏延がカッターシャツのボタンをすべて外された挙句下着を下ろされた姿で発見した時には、既に楊儀の姿は無かったという。 その部員は慌てて魏延の衣服を直し、その他の部員を呼んで魏延の自室に運んだという訳である。 「お、思い出した…思い出したわ……!!!!」 全てを思い出したとき、魏延の怒りは爆発寸前であった。 そして、怒りの矛先が楊儀、そしてかのような乱れた姿を写真に収めた簡雍に向いたのは言うまでも無い。 酒を飲ませて酔いつぶれさせた劉備達に対しては、部長及び幹部という手前、心の中で怒りの炎を燻らせるのみで留まったのだが…。 「許すまじ、楊儀ィィィッ!!!」 今回の教訓。 魏延に酒を飲ませるな。
50:★ヤッサバ隊長 2004/01/20(火) 11:32 ちう訳で、昨日掲載した「アレ」の詳細であります。 本来ならSSの挿絵として一緒に掲載したいところだったのですが、 流石にマズいかな、と(^^; 「アレ」を別窓に表示してお読み頂ければ幸い。 それにしても、楊儀にアレな本性があるという設定を勝手に継ぎ足してしまい、誠に申し訳ありません(滝汗 なお、その夜魏延と楊儀が二人っきりで一体ナニが行われたかについては、余りにも刺激の強い内容となってしまう為に、割愛させて頂きましたが(^^; まぁ、魏延があんな風になる為には、酒でも無ければ不可能ですし…。 反則技とは思いつつも、メーターが振り切れるような中身にしてしまって、本当にごめんなさい(^^; PS.良く考えたら学園暦31年1月18日だと、関羽は荊州総代の任について荊州攻略を始めた頃ですな(滝汗 まぁ、矛盾については深く考えないで下さるとありがたい(^^;
51:★ヤッサバ隊長 2004/01/20(火) 11:38 >雪月華さん ご愁傷様でした…ごゆっくりと充電され、春にまた相見えんことを。 ちうか、PCがイカレるのは致命的ですなぁ…私ももう、いつどうなってしまうか分からないのでドキドキもんです(^^;
52:★惟新 2004/01/20(火) 21:07 ■■■■ Party's Party! ■■■■ ☆★ 始まり ★☆ 息を吐くと、白かった。それが面白くて、何度も息を吐いてみる。 「冬だねぇ…」 一頻り寒さに身を震わせると、朱儁はのそりのそりと歩き始めた。 まだ黄巾事件は発生していない。この時期、学園は比較的穏やかだった。 朱儁が招集を受けてやって来ると、すでに面子は揃っていた。 「おいっす!」 声とともに手刀を突き出す。 しかし、室内は重い空気。 「あれ…どったの?」 腕を組んだ皇甫嵩が、頭だけをこっちに向けた。 「休日返上、なんだそうだ」 「なんですとー!」 素早くカサカサ走り、朱儁は皇甫嵩にしがみ付く。 「そんな殺生なぁ! せっかくの休みだよ? ほら、のんびりおコタに入ってー」 「お前の妄想に付き合ってる暇は無い」 「…ううー。子幹ー、最近義真が冷たいよー」 「ふふ…よしよし」 しがみ付いてきた朱儁の頭を、盧植が撫でる。 しかし、皇甫嵩が薄ら笑う。 「言っとくが公偉、休みを取り上げたのは子幹だぞ」 「えぇ?」 朱儁が覗き込むと、盧植はニコニコしている。 「おのれ騙したな! ね、建陽は? 建陽は味方だよね?」 「ふあぁぁ……んに?」 眠そうに、丁原は目を擦る。話を聞いていないのは一目瞭然。 「観念しろ。ここにお前の味方は一人もいない」 「ふみゅう…」 肩を落とし、朱儁は椅子に腰掛けた。触覚もしんなり。 そこに、一枚のプリントが差し出される。 「地図?」 下[丕β]、の文字。 顔を上げるとそこには盧植。 「18日は、お使いに行ってきて欲しいの」 地図に目を落とすと、交通手段、所要時間が書いてある。目的地は…… 「メロン?」 「そう。それを10玉ほど」 「10玉ぁ!? それ配達してもらおうよ〜」 ふにゃふにゃと、机に突っ伏す。 それでも、盧植はニコニコと。 「こっちから一人行って、品定めしたのを持って来いって」 「もう…誰よ、そんなこと言ったの…」 盧植は一層ニッコリ笑い、胸の前で手を合わせる。 「鄭玄先輩」 「……マジ?」 「マジマジ」 ウンウン頷かれる。 鄭玄といえば、ある意味学園最強の人。孔丘校長の熱烈なファンでもある。 校長は食通として有名だから、鄭玄がそれに倣うのも想像に難くなかった。 ――そんなこんなで。 盧植はヘイホー牧場へミルクを。 丁原は晋陽へミカンを。 朱儁は下[丕β]へメロンを。 そして、皇甫嵩は漢陽へイチゴを。 それぞれ取りに行くことになったのである。 何のためのお使いかは、盧植だけが知っていた。
53:★惟新 2004/01/20(火) 21:08 ☆★ 盧植 ★☆ 盧植がバスを降りると、そこには4名の女生徒がいた。制服から、中等部だとわかる。 「ご無沙汰です、先生」 言ったのは、公孫[王贊]。その横に劉備、後ろには関羽、張飛。 「ごきげんよう、伯珪、玄徳。それに、皆さん」 優雅にご挨拶。さらに言葉を繋ぐ。 「ごめんね、手伝わせてしまって。それも、こんな朝早くに」 「そんなんいいんすよ〜」 と劉備。 「こいつらなんて牧場や牧場や、牛や馬や動物やと喜んでますよって!」 「あ…いや…」 関羽が手を挙げかけるが、諦めろ、と張飛に肩をたたかれる。 盧植は歩みを進め、その二人の前へ。 「関羽さんに、張飛さんでしたね。これからも玄徳のこと、よろしくお願いしますね」 きらめく笑顔。それは薔薇の花が咲いたように華やかで。 二人にとって盧植は、彼女たちが惚れ込んだ姉貴が、さらに師と仰ぐ人である。…当然、 「はい!」 と、目を輝かせるのだった。 「ところで…」 盧植が辺りを見渡す。 「確かもうお一人…」 「あああ、あれは急に具合が悪ぅなりましてん…」 ぶっちゃけ、簡雍は逃げた。 「そう、それは残念ね。ご挨拶が出来ると楽しみにしてたのに」 「いや〜ホンマですわ〜」 言いつつ、劉備は耳たぶをいじる。 この頃の劉備には、嘘をつくと耳たぶをいじる癖があった。 (あらあら…) 盧植はくすりと笑う。 「さあ、それでは参りましょうか」 ――登ること数分。 「牧場や牧場や! 牛や馬や動物や〜!」 劉備が駆け回る。 「おーい、あんまはしゃいで怪我すんなよ〜って、劉備あんたがはしゃぐんか!?」 公孫[王贊]が盛大につっこむ。 「え? 何ですぅ?」 劉備は、無邪気に首をかしげ。 「あらあら、玄徳ったら…」 盧植は鈴の鳴る声で笑う。 と、そこへ。 「おはようございます!」 闊達な声が響く。 振り返ると、数名の男子。南匈奴高校畜産科の生徒である。 学校側とは話がつけていて、彼らはミルクを運ぶ手伝いをしてくれる約束だった。 「まあ。ごきげんよう、皆様」 そして、盧植は優雅にご挨拶。 途端、男子たちに衝撃にも似たどよめきが走る。 「可愛い…」 「可憐だ…」 「美しい…」 「くぅ〜!」 「タマンネー!」 思い思いに身悶える野郎ども。 公孫[王贊]はそれを遠巻きに見やりつつボソリと。 「騙されてる、騙されてるよ…」 「何か、おっしゃいまして?」 くるり。盧植先生が怖いくらいの笑顔で振り返る。 その袖口に目をやると――二丁の拳銃がキラリ。 「ひっぃ! い、いや、何でも…あはは…」 公孫[王贊]は思わず頭をかいて誤魔化す…が、男子たちの視線に気付いて一変。 「オラ! お前ら何見てやがる! とっとと出すもん出しやがれ!」 公孫[王贊]ご自慢の大声量に、男子生徒A〜Eは驚きすくみあがった。 「あ、姐さん…それじゃまるでカツアゲみたいでんがな…」 劉備が思わずつっこむ。その横で関羽が 「それ以前に男子高校生を怯えさせる女子中学生というのも問題かと…」 などと言うが、誰も聞いていやしない。 そんな中、盧植が割って入った。 「伯珪、ダメですよ? そんなふうにおっしゃっては… あの方たちは私たちの手伝いをしてくださるのでしょう?」 そして向き直り、 「ごめんなさいね。この子も口が悪いだけで、とてもいい子なんですよ」 そう言って、また優雅に頭を下げる。 男たちは再度盛り上がり… 「だから騙されてるってば」 公孫[王贊]は頭を抱えるのであった。 実はこの男子生徒の中に、のちに中華市中を放浪することとなる於夫羅がいたのだが、 それはまた別のお話である。
54:★惟新 2004/01/20(火) 21:08 ☆★ 丁原 ★☆ 「ん…ふぅ……っ!」 思いっきり伸びをする。 そのまま体を回し、軽く体操。 「さ、目が覚ますぞっと!」 パンパン! 顔をたたく。 そこで、丁原はやっと周囲の光景を見る。 「あれ?」 想像していたのとはまったく違う世界。 薄暗い空は相変わらずだが、見渡せば、山、山、山。 あっちこっちから鶏の鳴き声が響いてくる。 「何ここ? タイムスリップ? …んなわけないか」 丁原はまだ血の巡らない頭を、必死に回転させる。 早朝まだ暗いうち。晋陽方面行きのバスに乗って、アナウンスが聞こえて、降りて… 「あれ?」 アナウンスが聞こえてから、記憶が飛んでいるような。 「う〜ん、う〜ん」 悩んでいると、どこからか息遣いが聞こえてくる。 目をやると、目深にフードをかぶった大柄な人物が、軽く走っていた。早朝ジョギングらしい。 「お、ちょうどいいや。おーい!」 駆け寄りながら、手を振ってみせる。 …が、まったくの無視。 「んが。…何もシカトすることないじゃんか!」 ムキになって並走。小柄な丁原と並ぶと、相手がいかに大きいかがわかる。 しかし、その巨人は相変わらずお構いなし。 「むむむ…」 5秒。大噴火。 「ムッカー!」 丁原は巨人の腰を掴み、必死に止めようとする。 …が。 「ひえええええ〜っ!」 全く止まらず、逆に引きずられてしまった。 「ま、負けてたまるかーっ!」 何とか体勢を立て直し、今度は巨人の前に出る。 「ぐぬぬぬぬぬ〜っ!」 巨人のお腹に両手を当て、全力で止めようとする。 すると。急に、体が軽くなった。 「ふに?」 巨人と同じ目線。 目が合って、互いにパチクリする。 そこでやっと、丁原は自分が持ち上げられていることに気付いた。 「うわああん! 放せ!」 ジタバタもがく。その手が、偶然相手のフードを浮かせた。 「あ…」 覗く、鋭い双眸。屈強そうな顎。そして、ドレッドヘアー。 「わお、クール!!」 見るなり、丁原は親指をグッとつき出した。 巨人は首をかしげた。 「くー…る?」 「カッコイイってこと!」 やっと降ろされて、丁原はぴょんぴょん飛び跳ねた。 次第に、巨人の瞳が驚きの色を帯びる。 「カッコ、イイ…の?」 「可愛い、の方が良かった?」 「なっ…」 ありありと、頬が紅潮する。 なんか、面白い。丁原は、そう思った。 「ここは五原。私は、呂布。蒼天学園中等部、3年」 「そっか、あんたも蒼天学園なんだ」 丁原が下から覗き込む。 「ね、こんなところでさ、いつも何して暮らしてんの?」 「え……熊さんと戦ったり……」 「クマ!?」 それじゃ金太郎である。 「クマって…あの、月の輪熊とか、グリズリーとか?」 「いや…熊さんは…近所のおじさん…」 盛大にコケる。 「ああビックリした。それで? 何でこんなところに住んでるのさ?」 「生まれた、山だから」 そう言って、呂布は遠くの山々に視線を投げかける。 「ふぅん」 丁原は片眉を跳ね上げ。 「ね、たまにはさ、街に行こうよ?」 「街…?」 「一緒についてきなよ。なんか、あんた面白いしさ」 「いや、でも…」 「今日は何も無いんだろ? それとも、何かある?」 「いや、特に…」 「じゃあ決まり! 急ぐから、今から行くよ!」 丁原が引っ張る。 最初のときとは打って変わって、呂布が引きずられる。 「え、あ、でも…今朝のメニューは…鯨の竜田揚げ…」 「アハ! あんたいつの時代の人だよー?」 バシバシ叩かれ。呂布の抗弁は、空しく終わったのであった。 のち、丁原が[千千]州校区総代に任じられたとき、二人はまた再会を果たすが、 それはまた別のお話である。
55:★惟新 2004/01/20(火) 21:08 ☆★ 朱儁 ★☆ 「どんな〜坂〜、こんな〜坂〜」 楽しそうに歌いながら、朱儁は緩い坂をどんどん上る。 早朝。川沿いの町、下[丕β]。 ここに、それはそれはたいそう美味しい温室メロンがあるそうな。 「品定め…ってことは、味見くらいできるよねー?」 思い浮かべては、うっとりと目を輝かせるのであった。 そのとき、朱儁の触覚がぴくんと反応した。 「うみゅ?」 辺りを見渡す…と、そこには年配のご婦人。 駅への階段を、杖を突きながらゆっくりゆっくり昇っている。 その階段が、また長い。 「うわ。ここってまた不親切な駅だわ」 お年寄りは大切に、というキャッチコピーとともに、 くれぐれも寄り道しないでね、という盧植の声が聞こえる。 2秒ほど朱儁の触角が揺れ。ピーン! 「ま、ちょっとくらい遅れてもいいよね」 言いながら小走りに駆け寄り、老婦人に声をかけたのであった。 ――すぐに、朱儁はそれを後悔することになる。 なぜなら、この駅を訪れるお年寄りは、しばらく尽きることが無かったからである。 「……や、やぁ…みんな……」 思いっきり息を切らせ、ヘロヘロになりながら朱儁は手を挙げる。 彼女は駅の階段を何往復もしたのち、上り坂をひたすら走ってきたのだった。 「お、お疲れ様です……」 朱儁の凄惨な姿に、待っていた中等部の女生徒たちが一様に引きつる。 「さ…行こうか……」 「あ、あの、大丈夫ですか? 少し休まれては……」 気遣う女生徒。 しかし。 「いいの」 「…はい?」 朱儁の目がくわっと見開く。 「いいの!! 私が行きたいの!!!」 「は、ハイィッ!?」 迫る。壮絶な勢いで迫る。 「ひ、ひぐっ……わ、わかりましたぁ〜…」 哀れ、情けをかけた女生徒は今や半泣き状態である。 だが、それでも朱儁は。 (まだ、まだなのよ…私は成し遂げていないのよ… そう…メロンを食べるまでは!!!) 結局、今度は朱儁のほうが助けられるカタチで歩き、 やっとこさ、ガラス張りの温室の所へ辿り着く。 (着いた……これで、やっと……) 「おお、やっといらしたか。程普、案内ご苦労!」 「は、はい…」 程普はまだ半泣きだった。 彼女に代わり、声をかけてきた女生徒が朱儁を支える。 「何があったかは存じませんが、大変でいらしたようですね」 (メロン…メロン…) 「私、依頼を受けておりました、孫堅と申します」 (メロン…メロン…) 「あまりに遅かったものですから、先にこちらで品定めをし、梱包まで済ませておきましたよ」 (メロ…ん?) ギギィ…と、朱儁が孫堅を見上げる。 「今、なんと…?」 「? ですから、後はもう運ぶだけだと」 「なっ……!!」 ズギャーン! 朱儁の全身を雷撃が貫く。 (なっ、なんですってぇえええええ!!!) 心で叫ぶとともに、朱儁はその場に崩れ折れた。 「どうなさいました? 朱儁先輩? 先輩?」 どこか遠くで、孫堅の声が聞こえる。 薄れゆく意識の中で、しかし、朱儁は永遠の誓いを立てたのである。 (孫堅め…いつの日か思いっきりこき使ってやるぅう! この恨み…晴らさでおく…べき…か……) 「先輩? 先輩ー!?」 そんなこととは露知らず。孫堅は呼びかけ続けたのであった。 数ヵ月後。黄巾事件が勃発すると朱儁は孫堅を帷幄に招き宿願を果たすが、 それはまた別のお話である。
56:★惟新 2004/01/20(火) 21:09 ☆★ 皇甫嵩 ★☆ 風が、少し砂っぽい。 漢陽に降り立って、最初に感じたのはそれだった。 ふいに圧迫感を覚え、思わず立ち止まる。 そこへ、何かが投げ込まれた。 「何者!?」 反射的に掴むと、それは竹刀。 「これは一体…」 突如現れる“気”。 すぐに構え、摺り足で周囲をぐるりと見渡す。 「……上か!」 朝日を背に跳躍する肢体。その顔には覆面。 地に落ちたかと思うと、それは驚異的な速さで迫って来た。 気合を一閃。 「チェストオオ!!」 ざっ。 あと一歩踏み入れば打ち込む、というすんでのところで、覆面は後方へ跳んだ。 しばしの睨み合い。そして。 「……恐れ入りました。さすがは、音に聞こえた剣の達人です」 覆面は無防備だが、皇甫嵩は残心したまま。 「何ゆえの狼藉か」 「二の太刀要らずの剣」 自らの覆面に手を掛け。 「その二の太刀とやらを、見てみたかったのです」 「……ほう」 現れた姿は、まさに美丈夫だった。 皇甫嵩自身もかなりの長身であり、密かに“ミスター蒼天”などと呼ばれていたりするが、 しかし、相手のそれは上回る感すらあった。 その相手が、長躯を曲げて膝を折った。 「ご無礼の段、何卒お許しください。私は中等部3年、傅燮と申します」 そこではじめて、皇甫嵩は竹刀を納めた。 「そうか、君が傅燮か。噂には聞いていたが、ずいぶんと無茶をする」 仕事振りには定評があるが、なかなかの問題児。 盧植からはそのように聞かされていた。 「それで、気は済んだのか?」 「はい。これで、心置きなくあなたの指揮に従うことが出来ます」 そう言って、再び傅燮は長躯を折った。 皇甫嵩は溜息をつき、 「小癪な物言いをする」 竹刀を手渡し、苦く笑った。 注文のイチゴを受け取っていたときだった。 「おや。あなたは、もしや皇甫嵩様では?」 振り向くと、高等部の制服。 しかし生憎と、皇甫嵩にはその顔に見覚えが無かった。 「失礼。どこかで、お目にかかりましたか」 「いえいえ、私が勝手に存じ上げているだけでございます」 恭しく頭を下げる。 「私、韓遂、と申します。端役とは申せ、蒼天会でお役目を頂戴しております」 「ああ、そうでしたか。これは失礼申し上げた」 皇甫嵩もまた恭しく頭を下げる。 「ときに…」 韓遂。 「皇甫嵩様は、いかなるご用向きでこちらまで?」 「用向き、ですか」 お使いでイチゴを買いに、なんて言いにくいことだが。 「イチゴを運んでおります」 現場を見られてしまっては言い逃れも出来ない。 「そうですか、イチゴを」 「そうです、イチゴを」 言って、不適に笑いあう二人。 ふいに、韓遂の目が妖しく光った。 「皇甫嵩様ほどの大人物にイチゴを運ばせるとは、蒼天会も大したもので」 ジリ… 知らず、体が下がる。 直感が叫んでいた。この女は危険だ、近寄ってはならない、と。 皇甫嵩の異変に気付いたか、韓遂は和やかに笑って見せた。 「それでは、お気をつけて、イチゴをお運びください」 「ありがとう。私は気をつけて、イチゴを運ぶことにします」 笑顔を交わし。韓遂は踵を返した。 その背中、ウェーブのかかった長い黒髪を眺めつつ。 皇甫嵩は、恐るべき時代の到来を、予感せずにはいられなかった。 皇甫嵩、傅燮、韓遂。三人の運命は複雑に絡み合い、時代を創っていく。しかし、 それはまた別のお話である。
57:★惟新 2004/01/20(火) 21:09 ☆★ Party's Party! ★☆ 昼過ぎには、四人ともその役目を終わらせていた。 搬送を手伝ってくれた人たちにはそれぞれが丁重に礼を述べ、送り出したが、 呂布だけは、丁原が離さなかった。どうやら、今夜は泊めてやるつもりらしい。 皇甫嵩、朱儁、丁原、呂布の四人は、何となしに集まって、しばらく休んでいた。 「ああ、ちょうど良かった!」 そこへタタタ…と、盧植が駆け寄って来て、 「皆様、鄭玄先輩がお呼びになってますわ」 そう言って、ニッコリと微笑むのだった。 「ほう……」 皇甫嵩が感嘆の声を上げる。 その横で、鄭玄が誇らしげに胸を張った。 ウェディングケーキと見紛うような、巨大ケーキ。 まだ完成途上であったが、その大きさは並外れたものだった。 新年パーティ。 それも劉家の主催で、袁家をはじめとした超名門のお嬢様だけが参加を許されるという代物。 その目玉として鄭玄が依頼されたケーキが、これだった。 盧植は、いうなれば鄭玄の弟子。それで鄭玄に頼まれたのが、今回のことだった。 「これは、凄い…」 まだ溜息をつく皇甫嵩を、朱儁がつっついた。 「わかるのぉ? 芸術科目総崩れの、義・真・さ…ぐむ!?」 「…うるさい」 皇甫嵩に触角を掴まれ、朱儁はジタバタもがく。 それを横目に苦笑しつつ、盧植が鄭玄に話しかけた。 「最終的、球状のケーキになるんですよね?」 「そう! 我が渾身の『渾天儀ケーキ』は、そこではじめて完成するの!」 さらに一層、鄭玄は胸を張る…が。 「でもね、ちょっと困ったことになってて…」 調理場。 「なっ…」 「ふぇ…」 皇甫嵩、朱儁の両名が同時に声を上げた。 調理場には死屍累々。エプロン姿の女の子たちが、ぐったりとしている。 「あ、あの、これは一体…?」 目を丸める盧植に、鄭玄は。 「まったく最近の子は根性が無いのよ! あのね、言っときますけれど、私だって鬼じゃありません。 寸法の狂いも0,5ミリ、0,3度までは許したのよ!」 「…………」 一同絶句。 「そ・こ・で」 鄭玄はにっこりと笑った。 カチャカチャカチャ… 「何で私がこんなことを…」 三角巾にエプロンを着込んだ皇甫嵩が、泡立て器を握り締めてプルプル震える。 「ええー? 結構楽しいヨー?」 「いいよなお前はいっつも楽しくて!」 皇甫嵩が朱儁にマジつっこみをかます。 ピシッ! 痛そうな音に首をすくませれば。 「ほら、そこ集中して!」 彼女らの後ろでは、現場監督の鄭玄が手の内で鞭を弄んでいた。 一方、会場では盧植の指揮の下、5、6名ほどがケーキを組み立てていた。 「もうちょい右、右!」 「こ、こうか…?」 呂布に肩車をしてもらって、丁原が高いところの飾り付けをしている。 盧植はそれを盗み見ては、嬉しそうに笑うのだった。 「し、死ぬー」 「…………」 はじめの元気はどこへやら、朱儁はバッタリと倒れた。 その横で、皇甫嵩も膝をつく。 3時間に及ぶ苦闘の果てにやっと解放され、二人は休憩室へと入った。 そこでしばらく休息していると。 バタン! 物凄い勢いでドアが開く。 「!?」 二人は跳ね起き、入り口に向かって構える。 …入ってきたのは、盧植。 盧植は困ったような笑顔で、小さく手を振った。 「……ん?」 朱儁は目を瞬くが、よく見ると…盧植、浮いてる? 視線を上に戻すと、盧植は襟首を掴まれていて…その後ろには… 「い、威明姉さん……?」 それは間違いなく皇甫嵩の姉、皇甫規であった。 室内に入ってくるなり、盧植を降ろす。 「は、はは…」 そのまま床にへたり込む盧植。 皇甫嵩は息を呑み、 「姉さん、なぜここに…」 「義真」 「は、はい…」 一呼吸。 「あんたよくもこのあたしから逃げ回ってくれたわね!?」 「あああああいやいや、落ち着いて姉さん!!」 「何が落ち着いてですって!? あんたね、うちにもこのパーティにお誘いがあったのよ!? あたしはもう引退したから代わりにあんたに出てもらうつもりでいたのに… それなのにあんたときたらあたしの顔を見るなり!!」 「そ、それはその…ほら、姉さんも受験で」 「おだまりっ!!」 皇甫嵩、打つ手なし。 朱儁は身を縮め、こっそり部屋から抜け出そうとしたものの… 「どこに行くのかしら? 公偉ちゃん?」 お姉さまに触覚を捕まえられてしまい、観念したのか黙ってひたすら涙を流す。 「さあ義真、あんたも観念なさい… いまならフリフリのドレス一日の刑で済ませてあげるわよ…!」 「!?」 皇甫嵩は色を失い、歯噛みする。 (本当に、本当に何も打つ手は無いのか!?) ……皇甫嵩は、覚悟を決めた。 「たとえ、及ばずとも」 ゆらり、立ち上がる。 「戦って倒れるは、剣士の誉れっ!」 叫び、得物を取り出す。 (今の私には、これしかない。 だが、私たちはあれだけ苦しい修羅場を戦い抜き、生き残ったのだ!) その得物――泡立て器が、鈍い光を放つ。 「ふふん。面白い!」 ゴゴゴ… 皇甫規の全身からオーラが立ち上り、それが竜を形作る。 対峙する皇甫嵩からもまた虎が生まれ、竜虎もまた相対する。 廊下の外。 そこには、何か面白そう? と、丁原が来ていた。 「すごーい! 修羅場だよ呂布ー!」 と、呂布の背中で、のんきにはしゃぐ。 (何という…力だ…) 巨大な二つの気に、呂布も思わず全身の血が滾る。 (戦いたい! 私も、戦いたい!) その体から壮絶な気が発せられ、やがてそれは鬼神を… 「何お前まで燃えとんじゃ!」 耳元で大声を出され、呂布はハッと我に返った。 ――結局。 皇甫嵩は三日間、フリフリドレスの生活を余儀なくされたのであった。 ━━━━━━━━━━━━━おしまい。━━━━━━━━━━━━━━━
58:★惟新 2004/01/20(火) 21:22 すみませんすみません…_| ̄|○ 一度やりたかったんす、この四人の話… 気がつくといやに長い話になってしまいました(^_^;) このカルテットってもうすでにキャラが立ってましたから、 そのおかげですごく動かしやすかったですし、楽しゅうございました。 …とはいえ、他人が読んで楽しい作品になれたとは限りませんが… さて、告知です。 祭りは明日、つまり21日で一旦終わらせようかと思います。 もちろん、>>2にもあります通り、もしお作りになられてましたら たとえ22日以降でもこちらに投稿されてかまいません。 運悪く祭りに間に合われなくとも、もし、お作りになられたのでしたら、ぜひ、発表を!
上
前
次
1-
新
書
写
板
AA
設
索
【1月18日】旭記念日創作発表スレッド【お祭りワッショイ】 http://gukko.net/i0ch/test/read.cgi/gaksan2/1074230785/l50