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【1月18日】旭記念日創作発表スレッド【お祭りワッショイ】
59:★惟新 2004/01/20(火) 21:51 >雪月華 な、何ですと!? なんというご不幸… いやいや、祭りを盛り下げるなどとお気になさらず! 雪月華様のお気持ちは察するに余りあります…が、 充電&冷却期間、ですか… どうしても、と言われるのでしたら仕方ありませんが… 私たちはいつでもお帰りをお待ちしております。 桜の花の散る頃、もしくは桜の葉の散る頃。 どうかその頃には、こちらにお帰りくださりませ。 さらにパワーアップした雪月華様を、心の楽しみにお待ち申し上げております。
60:★惟新 2004/01/20(火) 22:01 >おーぷんえっぐ様 本気でワラタ!! お腹痛いですってば〜!! そもそも着想が素晴らしい! 私だったら絶対思いつかないですよ! いやいや、気が付くとお祭りの趣旨自体が いわゆる「萌え」とは違うところに行ってますんで、ご心配なく(^_^;) そもそも私個人は「萌え」を一般的な色気とか、可愛らしさに限定するつもりはなく… たとえば”偉大なる呪い!”のキャラたちも、物語も、私には十分「萌え」に感じるわけで… もちろんこれは新しい言葉ですし、概念ですから、色々と難しいんですけど(^_^;) >ヤッサバ隊長様 グッジョブ!! お代官様な張飛ってばもう何てことを… 妙にしおらしくやられる泥酔魏延に(;´Д`)ハァハァ まさかその挙句楊儀に…なんて、魏延にしてみれば一生の恥辱! これはさぞや恐ろしい復讐劇が始まることでしょう…(^_^;)
61:那御 2004/01/20(火) 23:52 >雪月華様 ぬぅ・・・PCの昇天は、避けられないこととはいえ、 突然のご不幸・・・お心お察しします。 我々はいつでも、お待ちしておりますので、じっくり充電&冷却なさって下さい。 >おーぷんえっぐ様 呪いだ!これは絶対に呪いだ(何)! いや、爆笑ですよw。1ページの横○の顔の時点で呼吸不可となりましたw 「萌え」の要素に関しても、我々がイィ!と思えば、 それが「萌え」になるのではないでしょうか?
62:那御 2004/01/21(水) 00:07 >ヤッサバ隊長 魏延がぁ!Σ( ̄□ ̄; 泥酔魏延、脅威の人材揃いの帰宅部連合に屈す!w そして楊儀が・・・怖い・・・なにより、後が怖い。 簡雍も、回収される前に一部を回していたり・・・ >惟新様 グッジョブ! 各章に、後漢ズ4人のエピソードに関わる小ネタがあり、 どういうパーティなのか?と思っていたところ、姉さん登場w! 嗚呼、哀れ義真、公偉、子幹は威明姉さんに捕縛・・・ 皇甫嵩のフリフリドレス・・・(;´Д`)ハァハァ
63:★ヤッサバ隊長 2004/01/21(水) 17:52 >惟新殿 後漢カルテットマンセー(w 後に歴史を動かすことになる大人物達の、雄飛前夜のエピソードを見事に描いておりますな。 それにしても姉さん恐ろしすぎ…この人が引退する前に黄巾事件が勃発していたらどうなっていたやら(^^; また、公偉タンの触覚がとても上手い具合に使用されており、その辺も萌えポイントか。 >おーぷんえっぐサン もう、全編うち回りながら笑いつづけてました(^^; そう言えば、ゴ●タ版の皇甫嵩ってば、やけに小物っぽいキャラとして描かれてましたけど…(^^; 無双3での皇甫嵩が総大将のクセに情けないのは、その影響アリ?(^^;
64:★ぐっこ@管理人 2004/01/21(水) 23:52 旭記念特別短編集 サタデイ・ナイト ■悪魔襲来 「それ」は、突然に襲ってきた。 午前3時過ぎ――。 不寝番の高等部生以外、全員が寝静まっている深夜。 「それ」は、何の前触れもなしに、呉匡へ襲い掛かってきた。 最初は、激痛。物凄く重く、鈍い激痛だった。 (え――?) 呉匡の意識はその瞬間に覚醒していた。 しかし、夢の世界から現実へ意識がスイッチする間にも、激痛は醒めない悪夢のように 酷さを増していた。 (な、何、これ――っ!?) 思うよりも先に、第二波。剥き出しの筋肉を鉤爪で引きちぎられる、信じられない程の 痛み。いや、痛みなんてものではなかった。 「ア……ア……! ア…ッ!」 もう訳がわからず、ただ激痛から逃れようと、呉匡は自分でも気がつかないうちに、絶 叫していた。 正確には、呉匡はこのときの自分の声で、はっきりと目覚めたといえる。 「何!?」 「どうしたの!?呉匡さん!?」 呉匡の二人のルームメイトが、同時にはね起きた。 すぐに真っ暗な部屋が、急に明るくなった。 二段ベッドの上段で、呉匡は身をよじらせて激痛から逃れようとしていた。 大声を出したら、痛みが治まるどころか、意識がハッキリしたせいで、余計に非現実的 な激痛が呉匡を襲ったのだった。 「どうしたの!? どこか痛いの!?」 梯子から身を乗り出すようにして、呉匡へ声をかける袁紹さん。 しかし呉匡は、うなずくことも出来ず、陸揚げされた海老のように、体を丸めて身悶え するだけだった。 「お腹?お腹なの!? 大変、救急車を呼ばないとっ――!」 いささか取り乱した様子で言う袁紹さんに、ようやく呉匡は、小さな声で伝えることが できた。 「あ…し…が」 「――え?」 「あし、つった…すごく…!」 「足…?」 「あ――.こむら返りだな、呉匡たん」 と、許攸さんが一段目のベッドに乗っかって、呉匡の寝るベッドの手すりごしに、呉匡 が抑えている部位を見て言った。 そう。 呉匡は、ふくらはぎの筋肉を押さえて、七転八倒していたのである。 「――驚かさないでよ、全く、大げさなんだから」 袁紹さんがはーっとため息をついている。 でも、そんなことを言われても。 本当に痛いんですってば。さっきよりは、幾分か楽になったけど、ふくらはぎの筋肉を 引きちぎる様な痛みは、まだ続いているのだ。 「ありゃあ、大げさじゃないよ。袁紹はなったことないの?」 「幸いにね」 袁紹さんは、許攸さんからひったくった家庭医学辞典でこむら返りの項を探してくれて いた。許攸さんは脱線して別の病気を読み耽っていたようだ。 「――ふうん、足の指を引っ張ってふくらはぎを伸ばす…か。やってみる? 呉匡さん」 「絶対無理!」 涙声で訴える。呉匡のふくらはぎの筋肉は、もうガチガチに収縮してめいいっぱい上に 引き上げられている。引っ張るとか伸ばすとか、想像するだけで気を失いそうだ。 「うーん、こりゃ元に戻るの、二日はかかるなあ。今日は大人しくしとかなきゃ」 許攸さんが、ふたたび二段ベッドの呉匡の様子を見て、重々しく言った。 「え…じゃあ、今日のパーティは?李膺さまとのダンスは?」 「少なくともダンスは無理」 「そんなあ…痛あっ!?」 慌てて立ち上がりかけた呉匡は、再び炸裂した激痛にもんどりうって転げまわった。 時計は、午前4時を指そうとしている。 ――この日は、学園の創立記念式典のある「旭日記念」の最終日であった。
65:★ぐっこ@管理人 2004/01/21(水) 23:59 ■秘め事 蒼天会・内務局長執務室。 この広大な部屋の主である、麗しの李膺さまは、壁に掛けられた蒼天の旌旗を背に、静 かに佇んでいた。 腕を組んだまま呉匡の報告を黙って聞いていたけど、ふと呟くように言った。 「――そう。大変だったわね」 相変わらず抑揚に乏しい、低い声。無機質で、無感情。 でも。 あぅ…李膺さま、怒ってる…怒ってるよ! 呉匡には解ってしまうのだった。 紅珊瑚で造られた小さなタツノオトシゴが、李膺さまの指にはじかれ、胸元でちりんと 音を立てた。 身を飾ることにとんと無頓着だった李膺さまが、たった一つだけ所有しているアクセサ リー。 その贈り主である呉匡は、首をすくめて「お姉さま」の叱言に身構えていた。 でも―― 「痛かったでしょう? 片足?両足?」 「えと、…右足です」 呉匡の答えを聞きながら、李膺さまは立ち上がり、部屋の隅のラックから鞄を下ろした。 しばらくごそごそしていたかと思うと、中からスプレーを取り出してきた。 「まっすぐここに来たんでしょう?医療棟へ寄ってきたらいいのに」 「はあ…でも」 それだと、李膺さまに知らせるのが遅れてしまう。 李膺さまはどうか知らないけど、少なくとも呉匡は楽しみに待っていた創立祭最終日。 一月も前から、李膺さまと踊ることだけを夢見て、この日のためにソシアル・ダンスを特 訓してきた。下級書記、しかも中等部の自分がパーティに参加できるよう、色んな方から アドバイスと有形無形のサポートを頂いて、嫌がる李膺さまを粘り強くダンスにお誘いし て――ようやくOKを頂いたのが、先週のことだった。 そして今日、多忙なスケジュールを都合して貰って、夕方から時間を空けてもらってい たというのに―― 何もかもが…当日になって無駄になってしまった。 それも誘った方の呉匡が原因で。 なんて無様なんだろう。 だからせめて、一秒でも早く、李膺さまに直接お知らせして、謝らないと。 呉匡は朝一番、痛い足を引き摺って、李膺さまの執務室に直行したのだった。 「それにしても、間が悪い子ね」 「…すみません」 ここに掛けて、と出して頂いたパイプ椅子に座ると、李膺さまはいきなり呉匡の脚もと にしゃがんだ。 「炎症を起こすといけないから、今すこし冷やすわよ。後できちんと冷湿布を貼って貰い なさい」 言うや、李膺さまは呉匡の素足をちょっと持ち上げてソックスを足首まで下ろし、、ス ポーツ選手なんかがよく使う冷却スプレーを、ふくらはぎの所に吹き付けた。 「☆○@■★※!?」 「なんて声出すの」 「だって…!」 普通びっくりしますってば! 呆然となすがままにされていたけど、いま呉匡の手当てをしてくださっているのは、高等 部三年生の大先輩。畏れ多くも先の司隷校区総代、そして学園都市六万のナンバー4たる“ 八俊”筆頭さまなのだ。 その李膺さまが、出来の悪い中等部の後輩の足元に屈みこんで、甲斐甲斐しく手当てを なさっている! “司州の秩序”と全校生徒から畏怖され、「李膺さまが見てる」と学園中の悪党が竦み 上がり、呉匡など恐ろしくて顔さえまともに仰ぎ見ることができなかった、あの李膺さま が。 今でも関心の無い人の顔を覚えるのが極端に苦手で、全般的に人間嫌いで、その逆に動 物好きなのは変わってないけど…。それでも、少し呉匡に対して笑ってくださるようにな ったと思う。 まあ、呉匡を「愛玩動物」の一種として認識してるだけかもしれないけど… 「で、今日のパーティーはどうするの?」 「――李膺さまは、どうなさるんですか?」 「ダンスはやめておく。勿論パーティーには参加するけどね。会長が出られるのだし。出 ないわけにはいかない」 「私は――」 どうしよう。踊れないのに、高等部のお姉さまや、招待客のお偉いさんばかりが何百人 と集るパーティーに顔を出していいわけがない。 と―― 重々しい音を立てて、執務室の扉が開かれた。 すらりとした、長身の「王子様」が、美しい「姫君」を連れて入ってきた。 「――と、失礼。お取り込み中だったか」 開口一番、王子様――いや、男装の麗人(男装して無いけど)のほうが、男装歌劇団のト ップスターのような声で言った。 (――お取り込み中?) と、呉匡は、自分の膝と膝のあいだから顔をのぞかせている李膺さまと目を見合わせて、 二人して小首をかしげた。 どちらが先に気づいたかは解らない。 呉匡はのけぞるように、李膺さまは飛び退るように、二人は慌てて体を離した。 二人きりの部屋で、なんという体勢だったのだろう! 遠目にはとんでもない光景に見え たかもしれない。 ああああ…顔が火照る…と、見れば李膺さまも、何か耳まで真っ赤だった。 「もう…可顒さま。お二人とも真面目なんですから、からかわないでください」 うしろで抗議の声を上げた「姫君」は、張?さん。 この一見フワフワのお人形みたいな張邈さんと、ダンディズム溢れる美青年顔の女剣士・ 可?さまの組み合わせは、本当に絵になる。かたや中等部三年生にして“八厨”のひとり、 かたや高等部一年生にして今年度“ミスター蒼天”。今日もダンスでペアを組むというか ら、ほとんど公認カップルのノリだった。 「休日登校ご苦労様。で、何の用?」 照れ隠しか、李膺さまはいつにましてツンツンした口調だった。 「パーティまで時間つぶしにブラブラしようと思いまして。――袁紹から聞いたよ。大変 だったみたいだね、呉匡さん。」 「はい…すみません。折角お手数おかけして頂いたのに、当日になってこんな…」 「ま、こういうこともあるよ。パーティには出るんでしょう?」 「それは…」 答えかけたとき、ふいに校内放送が呉匡の声を遮った。 ――中等部三年、呉匡さん、至急、雲台正面玄関までお越しください。 ――中等部三年、呉匡さん、至急、雲台正面玄関までお越しください。 一同は顔を見合わせた。 放送部員の美声はもう一度、三連休の真ん中で、人気のない校区に響き渡った。
66:★ぐっこ@管理人 2004/01/22(木) 00:00 ■家族の肖像 (誰だろう?) あれこれ考えながら、呉匡は道を急いだ。急ごうにも、びっこを引きながらだから、た いしたスピードは出ないけれど。 廊下ですれ違った何人かの見知らぬ先輩がたが、肩を貸してあげようか、と声を掛けて くださった。お気持ちはうれしいけど、李膺さまや可顒さまのお申し出を断ったのに、他の 方の力を借りるなんて、呉匡の気持ちが許さない。丁重にお断りした。 もっとも、蒼天会内務局があるのはクラウド・タワーの7階なわけで、ロビーまでエレベ ーターで降りればいいだけの話だけど 豪華なロビーを抜けて、外へ出る。 雪こそ降っていないが、外は底冷えするような寒さだ。でも今日は風もなく、穏やかな 冬の陽光が空に満ちている。 振り返ると、クラウド・タワー。 司隷特別校区に転校してきて、このビルを仰ぎ見てから、もう半年以上経っていた。 あの時は、たしか、後ろからふいに袁紹さんが声を掛けてきて―― 「お姉ちゃんゲットぉぉおお!」 すぐ後ろで、だしぬけに元気のよい女の子の声。石畳を蹴りつけるローファーの音。 この気配は――! 考えるよりも早く、呉匡の体は正確に反応していた。 振り向きざま後ろから殺到する気配に向かって、無事な左足一本で跳躍! 人影はふたり。呉匡はためらうことなく、最初の一人目の頭を踏みつけて、さらにジャ ンプした。 「わたしを踏み台にした!?」 下で叫んでいるようだが無視して、もう一人目の眼前に着陸すると、すばやくでこピン を食らわせた。 「痛あっ」 倒れるふたり。 (やったか――!?) 気を抜いた一瞬―― 「甘ぁ――いっ!」 横合いから裂帛の気合。 「しまった!」 悔やんだ瞬間には、呉匡の小さな体は、脇から抱き上げられていた。 「まだまだ甘いわねー、匡ちゃん」 聞き覚えのある、甘ったるいハスキーボイス。 「お母さん!」 背中向きの「高い高い」状態から、身をよじって下を見おろすと、そこには中学生の娘を 軽々と持ち上げている、わが母の姿があった。 「何? アンタ脚挫いたの?」 「ええと、コブラがえり」 「こむら返り。どうせ前の日までダンスの練習してたんでしょ? で、整理体操しないまま シャワー浴びて、夜も興奮してあまり眠らなかった――てとこかしら?」 「……。」 うう…全部あたってる。何者なんだこの人…ってお母さんだけど。 「――く――っ! 可愛い――っ!」 なんだか勝手に感極まったらしく、お母さんは思いっきり胸で抱きしめてきた。息が出 来ずにもがく呉匡。 道行く生徒たちが、この風変わりな母子をしげしげ眺めていた。 「で、なんでお母さんがいるの」 「何で…って、おばか」 お母さんのこの日のいでたちは。ラメラメ光る黒いロングブーツに、黒いロングコート。 下はたぶん黒いドレス。腰まで届く長い髪も、これまた見事な漆黒。 身長180センチ。この迫力ある黒ずくめのマザーは、あきれたように言った。 「創立祭のゲストよ。毎年来てるでしょ」 「あ。そうか」 お母さんの名前は呉漢。この学園都市のOGだ。 それも、第二次蒼天会、つまり現在の蒼天会の設立のときに活躍した、伝説的に有名人 なのだった。別に隠していた訳じゃないけど、お母さんの名前が知られたとき、あの袁紹 さんでさえパニック状態になって、サイン色紙を渡されたものだった。 そりゃあかっこいいことを認めるのはやぶさかでないけど、そこまできゃあきゃあ騒が れるほどの母じゃないと思う…。親ばかだし。 そんなこんなで、タワー前広場のベンチに腰掛けて、しばらく話をしていると、妹の呉 班と従妹の呉懿が、缶コーヒーを両手に持って駆け寄ってきた。 ふたりとも、遠州学園校区の中等部にあがったばかりの可愛い盛り。ちなみに最初に踏 み台にされたのが呉班で、でこピンされたのが呉懿だ。 「サンキュ」 「どいたしましてー」 異口同音に答える二人。実際、双子姉妹同然に育ってきたから、性格は正反対でも、シ ンクロ率は高いらしい。 ちょっと羨ましいかな、とも思う。 「今日、ちゃんとパーティー出なさいよ」 不意に、お母さんが言った。 また、見透かされてる… 「変に遠慮したら、せっかく席を用意してくれた人たちに失礼だからね。」 「…うん」 「それにお母さんも踊るし」 「踊るの!?」 やっぱり出たくなくなりました。 「んっふっふ。あなたにママンの新しい魅力を見せてあげるわ。いや、むしろ魅せてあげ ると」 「絶対遠慮します」 「ちょっとだけでいいから。遠くから見るだけで」 「いやです」 結局、熱いハグに捕まって音を上げ、とにかく出席すると約束させられた呉匡は、ひょ こひょこと片足をかばいながら、来た道を戻っていった。
67:★ぐっこ@管理人 2004/01/22(木) 00:01 ■百合さま 創立祭がはじまった。 一般の生徒たちにとっては、学校の創立記念日なんて、タナボタ休暇に過ぎないかもし れないけど、生徒会行事の運営に携わる人間にとっては、外部からもお客様を招く大切な 日だ。 司隷特別校区の高等部役員の多くが何週間も前から準備に駆り出され、当日も会場の警 護や案内のために百人単位が動員されている。 式典とパーティーに参加できるのは、招待されたお客様(ほとんどがOG)、教職員の 大人たち。 生徒からは、蒼天会・会長以下、連合生徒会の最高幹部、各校区の生徒会長、そしてわ ずかなゲストだけだった。 パーティ会場は、クラウド・タワー最上階にある、式典用大ホール。 なんだかホテルの「真珠の間」のような、学校施設とは思えない豪華なホールに、これ また豪華なシャンデリアが眩いばかりに輝き、全校区選りすぐりの奏者で構成された管弦 楽団が、絢爛豪華な祝宴の空間を演出していた。 ――これが、生徒会行事! 会場の設営から手配、招待状の発送、必要なら外部業者の手配・発注、連絡・運用、当 日の司会進行そのほか全ての業務が、生徒たちの手によるものだ。言うまでもなく、文化 祭や学芸会のレベルではない。 そして招待客の方々も、それを当たり前のこととして平然と談笑ている。 OGの方々は、ご自分達の時代も同じようにやってこられたのだし、他の父兄や招待客 の方々も、この学園都市がもつこの種の育成機能を知悉しているからなんだろう。 全校生徒を代表して、新たに蒼天会長に立てられた「霊さま」こと劉宏さまが開会を宣 言されると、いっせいに拍手がおこった。 その後、現学園理事長・劉秀さまの挨拶につづいて、新連合生徒会長・竇武さまの音頭 で、一同起立。壁に掛けられた特大の蒼天旗へ乾杯して、祝賀会がはじまった。 「すごい…」 雰囲気に呑まれた呉匡が、心細くつぶやいた。 実際、すごく心細かった。 中等部でこのパーティに参加しているのは、数えるほどしかいないのだ。 与えられたテーブルが、目立たない隅っこであるのが、唯一の救いだった。頼りの張邈さ んは、ダンスの準備で可顒さまと控え室へ行ってしまっているし、顔見知りの高等部の先輩 方は、遠くはなれた席で談笑している。 立食パーティじゃないので、勝手に立ち歩くのは気が引けた。 ただ、並べられる豪華なディナーを食べるだけ。 ちょっと離れた位置には、司州中等部生徒会長の袁術さんがいるけど、こんなときにだ け挨拶へいくというのも、お互いにいやな話だろうと思う。 ちょっと体を乗り出して、連合生徒会の席の方に李膺さまの姿を探してみたけど、見つ からない。そういえば連合生徒会長・竇武さまも、蒼天会長顧問役の陳蕃さまも、姿が見 えない。どうしたのだろう? と――、ふいにテーブルの向かいの席に、ふわりと誰かが腰掛けた。 「――あ」 「ごきげんよう。退屈そうね、呉匡さん」 「ご、ごきげんよう、姫百合さま」 姫百合さまは、ニッコリと微笑んだ。…一回お会いしただけなのに、覚えていらっしゃ ったとは! 学園都市を統べる劉一族のなかでも、“百合さま(リリウム)”の称号を冠することが 許されているのは、時期蒼天会長候補となる資格を持つ者だけ。 彼女たちは、一種の「皇族」として、階級章や蒼天会派序列とは違う次元で、他の生徒 とは一線を画している存在だった。 目の前にいる“リリウム・コンコロム”劉表さまは、呉匡とおなじ中等部三年生だけど、 百合さまであると同時に、張?さまと同じ清流会派序列の上位者でもある、凄い方なのだ。 改めて見回してみると、なるほど、“三君”のおひとりで、かつ現「乙女百合」の劉淑 さまと、次期乙女百合さまの劉虞さまが談笑してるし、「黒百合」劉焉さまや、劉繇さま、 その姉の劉岱さまなど、他の百合さま方も、かなりの数が招かれているようだった。 「なんというか…豪華ですね」 回りを見回しながら、呉匡は率直に感想を述べた。 「そうね」 劉表様は頷く。 「百合の展示会みたいね。ここらのブロックは」 呉匡が、さすがに口に出せなかった台詞を、あっさりとつぶやいた。 「まあ、こういう時くらいしか、一堂に会することもないから。呉匡さんも、観客として 楽しんだ方がいいわよ。」 「…そのつもりなんですけど」 「李膺さま」 「え?」 劉表様は、呉匡の反応を見てにっこりとほほえんだ。 「李膺さまが、これからダンスに参加されるのはご存じ?」 何ですって!? (私と踊れないなら、出ない――って仰ったのに!) わなわなと、震える呉匡。 誰が相手なのだろう。竇武さまと陳蕃さまはペアのはずだし…。“三君”の劉淑さまは、 そこで劉虞さまとお話しされてるし…。李膺さまと釣り合いのとれる方が、他にいるとは 思えない! いったい誰が! 煩悶する呉匡の様子を、面白そうに眺めていた劉表さまは、「ほら、じきに始まるわよ 」と会場を指さした。 会場はいつのまにか騒然としたざわめきに包まれ、ホール中央にまたがっていたコード 類が手早くどけられていた。ダンスのできる空間を空けようというのだろう。 参加希望者を募るアナウンスが流れ、幾人かが挙手しながら、案内状の方へ向かってい る。 「楽しみね、李膺さまのお相手」 「……。」 呉匡は黙ったままだった。悪気がないのはわかるけど、この劉表さまは、あきらかに呉匡 の反応を面白がっている。 こういういたずらを吹き込むとしたら――袁紹さん経由で、許攸さんあたりに違いない。 憮然とする呉匡をよそに、会場が急に薄暗くなり、管弦楽団の演奏が、どこかで聞いた ことのあるような、緩やかなワルツに代わった。
68:★ぐっこ@管理人 2004/01/22(木) 00:01 ■夜の夢 ――舞う。 みんなが、思い思いに、楽しそうに、幸せそうに、舞っている。 スポットライトが、ホール中央にさっと集中し、ひと組ひと組を代わる代わる照らし出 す。そのたびに、大きな拍手が会場内にひろがる。 さすがは、この日の席に呼ばれるだけあって、皆途方もなく上手だった。 男性パートのリードにあわせて、女性パートの方が、それこそ胡蝶のように軽やかに舞 う。めまぐるしく位置を変えながら、他のペアとぶつからないように、お互いに足を踏ま ないように、細心の注意を払い、かつ舞う。男性パートの方は、ゆとりを持って微笑みを 絶やさず、女性パートの方は視線を四囲に配り、笑顔を振りまいている。 …なんて、上手なんだろう。 呉匡の知らない先輩方だったけど、それでもこれだけの踊りができるのだ。 (…出なくてよかったかも) さすがに赤面する思いだった。 スポットライトが別のペアを照らし出す。 ――あ、可顒さまと張邈さんだ。 マニッシュタイプの式典服に身を包んだ可顒さまは、正直怖いくらいに似合っていた。 ペアである張邈さんも、いつにも増してお姫様ぶりを上げ、周囲を圧倒するように舞ってい た。 すごい。 お二人のダンスは、どちらも武闘派なだけあって、なんというか、ほとんど剣舞だった。 先ほどのペアに比べて、たとえば技術的な洗練は少々劣るかもしれないけど、代わりに 恋人同士が白刃で戯れ合っているような――なんというか、研ぎ澄まされた気を感じるほ どだ。 周りの人も、みんな感じるのだろう。ほう、という感嘆のつぶやきが聞こえた。 その後も、知ってる顔、知らない顔が入れ替わり立ち替わり、ライトを浴びた。 どうやら最初のペアと、次の何?さまたちが特別だったようで、続きのペアは、いわば普 通の踊り手であるらしかった(それでも呉匡なんかよりずっと上手だけど)。 連合生徒会会長の竇武さまと、蒼天会顧問の陳蕃さまのダンスは、陳蕃さまらしい几帳 面さで、きっちりと基礎のステップをはずさない。それでいて、ややストリート風に踊る 竇武さまを、流れるようにエスコートし、なんだか新しいダンスを見ているような気がし たものだ。 さらに何組かが過ぎたとき――。 呉匡はごく自然と、ライトに照らし出された李膺さまの姿を認めた。 李膺さまは… 「ドレス!?」 呉匡は素っ頓狂な声を上げた。 李膺さまはたいていの方より長身だから、まず間違いなく男性パートであると思ってい た。そもそも呉匡と踊るのだって、その予定だったはずだ。 しかし、いま李膺さまが身にまとっているのは、体にぴったりとフィットした、黒に近 い深赤のドレスだった。 その李膺さまの手を引いて、白い光の中に登場したのは―― 「お母さん!?」 呉匡はさっきよりもさらに大きな声を出した。 さすがに集中する視線に気づきもせず、わなわなと震える。 (なんで――なんで――!?) お母さんこと、後期蒼天会の初代格技部連総帥・学園公安弾圧委員長・通称“死神”“ ミス・ブラック”“皆殺しの黒”呉漢さまは。 真っ黒なタキシードを隙無く着こなし、その長身を翻しつつ、ホールの中央へ李膺さま をエスコートしていた。 長い髪を一つにくくり、紳士の余裕で微笑むさまは、なんというか、あの何?さまよりも 遙かにダンディだった。 そして。 あっという間もなく、いきなり李膺さまを抱きすくめた。 きゃああああ! と会場からいっせいに悲鳴とも歓声ともとれる声があがる。呉匡は、 ただただ震えているだけだ。 一瞬の間が、のろのろと通り過ぎ――。 荘重な曲が始まったとたん、二人は、舞いだした――。 李膺さまの執務室。 今夜は、本当に観客でしかなかった呉匡は、お疲れの李膺さまのために、せめて美味し いお茶を淹れているところだ。 さっきから、二人はなんとなく無言。 そもそも李膺さまの様子が、おかしい。 妙によそよそしい。そして、ちょっと不機嫌そうだった。 …そもそも、この日の始まりは、呉匡のこむら返りからだった。 もしアレがなければ、今頃呉匡は、李膺さまと今日一緒に踊ったダンスについて、パー ティーについて、楽しくまくし立てていたに違いないのに。 願わくば、今日一日が夜の夢でありますように… 呉匡は、またも暗澹たる気持ちにともすれば転落しかける心を励まして、何とか話題を 探そうとしていた。 と。 「――今日はお疲れさま」 李膺さまが、ぽつりと、不意に言った。 「あ、とんでもないです! 李膺さまこそ、お疲れさまでした!」 あわてて呉匡は返答した。――お茶をお出ししながら、笑顔で言おうと思ってたのに。 「ううん、私は踊っただけだったけど。呉匡はいろいろあったみたいだから」 「はあ…」 色々あったといえばそうだけど、そうすごいことがあった訳ではない。だいいち、一番 すごかったのは、李膺さまのダンスだったわけだし。 「――ええと、李膺さま」 「何?」 「その――母と、踊られてたところ拝見して――びっくりしました」 「ああ…」 李膺さまは、いつもの冷たい声で相槌をうった。 「てっきり男性パートを踊られると思っていたものですから」 「あれは――呉漢さまに、持ちかけられたの」 「…だと思います。でも、どうして受けられたのですか?」 「うん…ちょっと」 李膺さまは、珍しく口調を濁すと、視線を逸らした。 ――激しく気になる。 でも、気になると言えば、今日の李膺さまの見事なダンスだ。 授業で習うとはいえ、これまで李膺さまが女性パートを踊る回数は、ずっと少なかった はずだ。 でも、今日の李膺さまのダンスは、他の誰よりも美しくかった。贔屓目なしに、そう断 言できるほど。 「密かに特訓を?」 「してない。それどころか、あのステップは、授業で一度習ったきりだった」 「え…!?」 「呉漢さまのエスコートね。気が付いたら、勝手にああいう風に身体が動いているの」 へええ…。お母さん、そんな特技があったのか… 「凄いわよね」 李膺さまは、ようやく微笑んでくれた。
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