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【1月18日】旭記念日創作発表スレッド【お祭りワッショイ】
124:海月 亮 2005/01/19(水) 20:05 「開けろおらぁ! 居るのはわぁってんらお〜!」 「逃亡者はお持ち帰りらぁ〜出て来いやぁ〜!」 鉄製の扉を執拗に蹴り続ける激しい音と、酔った魯粛と甘寧の声がする。蹴っているのは恐らく甘寧であろう。慌てた陸遜達は、下駄箱やテーブルでバリケードを固めて抵抗した。 「な、何、なんで? 何で居るのがバレたのよっ!?」 「そんなの知らないよっ!」 小声でやり取りする朱拠と吾粲。 「まさか…」 築かれたバリケードの上から、可愛らしいカエル柄の散りばめられたパジャマに着替えた陸遜が小窓から外の様子を伺った。そこには、制服のスカートとジャージのズボンをそれぞれの手に握り締めながら、物凄い形相で蹴りを入れてくる甘寧の姿が見えた。 「やっぱり…二人の匂いを嗅ぎつけたんだ…」 「んな馬鹿な! 犬じゃあるまいしそんなこと」 当然の物言いをする吾粲。しかし、陸遜は真顔で、 「承淵から聞いたことがあるの。興覇先輩って、匂いだけでどんな料理を作っているのかは愚か、材料まで完璧に言い当てるって…私も最初は信じられなかったけど…そんな嗅覚なら、人の匂いを嗅ぎ分けるくらい出来るかも」 「うそ…でしょ?」 その言葉に顔面蒼白になる朱拠。陸遜が授業で使っている竹刀を持ち出してきた諸葛瑾も姿をみせる。 「開けたら一巻の終わりよ…私、窓のほう見てくる。ここ三階だから多分大丈夫かもしれないけど…」 「いえ、酔ってるあの人たちに、常識なんて通用しません! 私も行きます! 孔休、子範、此処は任せた!」 「承知!」 必死の形相で、かつ強い語調の小声で、陸遜が指示を飛ばす。 二人がベランダのほうへ行くと、なにやら声がする。ギョッとして駆け寄れば、その声の主が潘璋と凌統であることに気がついた。鍵をかけているベランダの戸がガタガタと乱雑な音を立てる。 「公績ぃ、石かなんか持ってない〜? こりゃ割るっきゃないっしょ〜?」 「そだね〜てかアンタの部屋から何かもってくりゃいいじゃん?じゃん?」 「や〜よ、ヒトのならともかく、あたしのモノでガラスなんて割りたくないも〜ん」 そんな物騒な会話に、二人は息を飲んで顔を見合わせる。 「…忘れてた…確かこの隣りって、文珪の部屋だった…ベランダ伝いで来れたかも」 「というかあの二人まで来てるなんて予想外だったわ…まさかあたし達狙いだったなんて」 二人は入ってくる様子はない。何か言っては二人でげたげたと笑っているが、それは中に立てこもる少女達の背筋を凍らせるには十分すぎる内容だった。 しばらく考え込んでいたが、陸遜が意を決したように立ち上がった。 「…こうなったら先制攻撃あるのみ!」 「え、ちょっと伯言!?」 諸葛瑾から竹刀を奪い取り、陸遜はベランダの鍵を開けて外に踊り出る。 「お♪ 伯言みっけ…」 「先輩、御免なさいっ…たぁっ!」 それに気を取られた潘璋と凌統の一瞬の隙をつき、ベランダの手摺を使って宙に舞った彼女は正確に二人の脳天を打ち据えた。パジャマの上着の裾を鮮やかに翻して着地すると、凌統と潘璋は折り重なるようにして倒れた。 この年度に入って、部下として宛がわれた丁奉に感化され、陸遜も剣術道場に通うようになったのだが、その成果がきっちり現れたらしい。一瞬の出来事にぽかんとする諸葛瑾が、感心したように呟く。 「……お見事」 「感心してないで下さい…とにかく、のびてるうちに動きを封じましょう」 「え…ええ、そうね」 運び込むと、タオルを持ち出してきて、なれた手つきで手かせ足かせにしていく。その上で毛布をかけてやると、気を失っていた二人は何時の間にか寝息をたて始めた。その様子をみると、陸遜と諸葛瑾もほっと一息ついた。 その決着がつく頃には、玄関のほうも静かになっていた。朱拠が恐る恐る小窓を除くと、どうも酔い潰れたらしく、外の二人は抱き合うようにして大いびきをかいていた。 酔っ払いという名の狂嵐が去って、その翌日のこと。 「昨日はすいませんでした先輩…この通りです」 「いや、それはむしろあたしたちの台詞だ…本当にごめん伯言」 「ごめんなさいぃ〜平にご容赦をぉぉ〜」 陸遜の部屋では、一晩寝て正気を取り戻した凌統と潘璋、そしてその二人をのばした陸遜がお互いに土下座している珍光景が展開されている。 そこには明け方、それぞれ衣服を取り返し、それに着替えた朱拠と吾粲、そして明け方自分の部屋に戻って私服に着替えてきた諸葛瑾の姿もある。皆、陸遜が用意した朝食代わりのインスタントスープを啜っている。 甘寧と魯粛はというと、潘璋の部屋に放り込まれ、未だ高いびきをかいていた。 一通り平謝りしあうと、沈んだ表情で頭を抱える陸遜。 「今回の件…学園管理部にどうやって説明しよう…」 「ってか…バレたらむしろヤバいのあたしら卒業生とリタイア組だから…握りつぶしてもらえると助かるかな」 「…それは善処しますよ」 潘璋のひとことに陸遜も苦笑する。 「てか、あたしらがこの有様だったんじゃ…部長はどうなったろうな」 「他の子達も心配だし…早めに見に行ったほうがいいかも」 「そうだな。興覇と子敬はどうする?」 「あのまま寝せとけばいいよ。子敬はともかく、子明抜きで興覇を無理やり起こせる自信、ある?」 潘璋の言葉にお互いの顔を見合わせ、頷いた一同、衣装を調えると会場へと駆け出していった。
125:海月 亮 2005/01/19(水) 20:07 その頃、会場のど真ん中で目を覚ました孫権は大きく伸びをした。 「ふぁ…あれ、ボクどうしてこんなトコで? …ええええ!? 何これぇ!?」 見渡せば、周りは目も当てられぬ惨状の光景が広がっている。 そこいらじゅうに転がった一升瓶とチューハイの缶、そして散乱した紙コップ。 少し離れたところで、大の字で寝ている(カン)沢と、その腕を枕代わりに、抱き寄って寝ている孫登と孫和。 その隣りに、ずぶ濡れになって死んだように寝ている、服を乱されたままの虞翻。 己の傍らには、あられもない姿の厳Sと潘濬が、憔悴しきった顔で寝ている。 主賓席には、未だ目を覚まさずぶっ倒れたままの全N。誰がやったのか、これもあられもない姿だ。 窓際に、日差しを浴びながら突っ伏して寝ている谷利。手には、一升瓶が握られている。 部屋の隅では、泣き疲れて眠っている薛綜を抱き寄せながら、幸せそうな顔で眠っている朱桓と朱然。 整然と並べられていたテーブルも、あるいは倒され、あるいは酔った誰かがやったのか、積み上げられたり無意味に並べられたりしている。 何人かが居ないのは、恐らく途中で逃げたか、あるいは会場の外で大暴れしたことは、窓の外、路上で大の字になっている周泰と、花壇に頭から突っ込んでいる徐盛を見れば予想がつくことだった。最初から一緒に飲んでいた筈の賀斉、呂岱、周魴、太史享らの姿がないのも、会場外に飛び出していったからだろう。 あまりの惨状に呆然とする孫権。よくみれば、自分も上着を肌蹴させていると言う、みっともない格好をしていた。慌ててそれを直すと、スカートの下には何も身に付けていないことに気がついた。慌てて辺りを見渡すが、その下に身につけていたと思しきものは、何処にも落ちていなかった。 「…何が…いったい何が…」 「うぃーっす、起きてるぶちょ…うっ!」 呆然と立ちつくした孫権の姿を見た吾粲、その光景に思わず絶句した。 そう、その孫権の頭には…その姿に、駆け込んできた陸遜達も噴出しそうになる。 「な、なに? みんなどうしたの?」 「ぶ…部長、頭、あなたの頭の上…っ」 「へ…?」 必死に笑いをこらえる陸遜が指差し、孫権が恐る恐る頭に触れると…そこには、彼女が探していた例のものが被せられている。その正体に気付いた瞬間、顔面蒼白になり、次の瞬間… 「やあぁぁぁ―――――! みんな見ちゃ駄目ぇぇーッ!」 恥ずかしさのあまり顔を真っ赤に染め上げ、孫権が部屋から飛び出していった。 一拍置いて、少女達の笑い声が会場跡に弾けた。 このあと孫権はしばらく、気まず過ぎて居合わせた陸遜達とはしばらく口も利けず、潘濬達も、それぞれの畏怖の対象となった人物たちをそれとなく避け、近づかなかったらしい。 そして真冬の路上で高いびきをかいていた周泰たちも、大方の予想通り風邪を引いて寝込んだとのことだった。酒をかぶってびしょ濡れのままだった虞翻も、その例に漏れることはなかった。 当然ながら、孫権の頭に彼女の下着を被せた犯人も不明である。 この事件は学園史に載る事こそなかったが(当たり前か)、それでも当時の長湖部員の間では長く語り草になったという。当事者・孫権にとってはかなりのトラウマになったようだが、それでもこうした酒盛りが止む事はなかったらしい。 (終わり)
126:海月 亮 2005/01/19(水) 20:31 …ああ、やっちまった_| ̄| ...○ 私的には孫権が潘濬を襲っているくだりに全力かけてみました。 何気にそのいちとか書いてありますけど…ミスですのでお気になさらず。多分続き無いので…。 時期的には二宮の変の前年、夷陵回廊戦の翌年の正月になるかと。登場人物の年齢設定などはかなり勝手に決めちまってますが… 因みに張昭不在の理由も、バリケード事件の真っ最中であると勝手に思い込んでます。 >玉川様 流石は本家…祭の先陣を切るにふさわしい逸品でありますな(´ー`)b 実は夕方頃に一度来たのですが、それを拝見いたし吾粲と朱拠の描写を早速拝領させて頂き…というか、いきなりとんでもない扱いをして面目次第も_| ̄| (((○
127:7th 2005/01/19(水) 22:31 時の流れは万人に平等である。 それは多忙を極める蒼天学園の生徒にも例外ではない。好む好まざるとに関わらず、年は暮れ、そして年は明ける。 そう正月。流石に大晦日及び三が日程度は休みでも良いのではないだろうか、と云うか休ませろ、とのことで、その期間は一死の活動が停止され、生徒達は思い思いの休暇を楽しんでいる。 ことに幹部級の人間にとっては本気で得難い休日。それこそ遊び倒すか、惰眠を貪るかの二者択一である。 寮を出て実家へ帰省する者も多い。市外から来ている者のみならず、市内に実家を持つ者もだ。 例えば趙雲は実家の常山神社の手伝いをしに帰っているし、張遼もヘイホー牧場で馬と戯れ三昧の正月を送っていることだろう。孫権などは二人の姉に連行されて、元日から海に繰り出している。 そしてここにも、正月をまったりと過ごしている人達が居た。 〜〜或る姉妹(達)の正月風景〜〜 「はー、実家はやっぱり安心しますねー。まるで第二の故郷です」 「第一の、の間違いでしょうが」 「あ、そうでしたねー。うっかりうっかり」 炬燵に入りながらのほほんとボケる妹に、姉がツッコミを入れる。割と良くある光景ではあるのだが、姉の方の表情は、呆れたを通り越して少々うんざり気味だ。 「全くこの子は大ボケなんだから……いや、良く考えるとマシな方か。何しろウチは問題児揃いだし」 長女の苦しみである。エキセントリックな性格の妹たちの世話をするのは、昔から彼女だった。その苦労、推して知るべし。 彼女の名は諸葛瑾。長湖部の中堅幹部にして、諸葛姉妹の筆頭である。人望篤い事で知られる彼女の思慮深さと温厚さが、妹達の世話によって培われた事を知る人間は少ない。 「あのー、瑾姉さん。一応訊いておきますけど、問題児ってのはアタシの事じゃありませんよね?」 「クリティカルヒットで私達です。それすら気付きませんか愚鈍な姉」 「…アンタは自覚があって何よりだよ、喬」 「姉さんは自覚が無くて何よりです…バカの」 「何だとー!!」 姉妹間の会話ながら、余りにも容赦ない言葉に、顔を赤くして怒っているのが諸葛恪。彼女は頭が滅法切れるものの、性格は直情径行で調子に乗りやすいのが玉に瑕。将来が思いやられると云う点で、家族内では割と問題児である。 そしてナチュラルに口が悪い諸葛喬。一卵性の双子のためにこの二人の顔立ちはほぼ同じだが、ショートカットで活発に見える恪に対し、喬はロングヘアに眼鏡の理知的風味。加えて、生来よりの病弱のため、見た目は薄幸の美少女と云うかなり得したルックスをしている。ただし、中身は猛毒を吐く危険生物じみた、諸葛家で一二を争う問題児である。 「あ、駄目ですよ喬ちゃん。家族にそんなこといっちゃめっ、ですよー」 「均姉さんは頭が小春日和で何よりです」 「んー、私も春は好きですよー。あ、でも夏も良いですね。スイカ割りとか」 「訂正。均姉さんは脳がお目出度くて何よりです。色々と尊敬しますよ」 「えへへ、誉められちゃいました」 天然はあらゆる悪意を超越する。喬が家族中で最も苦手とするのがこの天然ボケボケ娘、諸葛均である。ほんわかふわふわオーラ全開の彼女には、いくら罵言をあびせても、暖簾に腕押し糠に釘。柳が風を受け流すが如く、ことごとくが効かないのだ。だがその天然ぶりとは裏腹に、家事などは姉妹中で一番出来るのだから世界は侮れない。瑾の言にあるように、姉妹中ではまだマトモな方である。 「……そう云えば、瞻はどうしたの?亮と尚は何か怪しいことしてるみたいだけど、あの子も朝から見ないわね」 「あー、あの子まだ寝てるわ」 時刻は既に11時を回っている。大晦日の昨日も瞻は早々と寝てしまっていたため、かれこれ12時間以上寝ている計算になる。いくら正月でやる事が無いにしても、流石に寝過ぎの感は否めない所だ。 「起こしてらっしゃい」 「へいへい」 瑾にそう言われ、炬燵から名残惜しそうに出ていく恪。そのまま瞻へ行くかと思いきや、おもむろに台所へ。そこでフライパンとお玉を装備して、ようやく瞻の部屋へ出撃した。 しばらくして鳴り響く、雷音と聞き紛う程の音。時折、「起きろー!!」とか「二度寝すんなー!!」とか云った叫びが聞こえたりもする。 この家の中で道路工事をしているかの如き騒音の中、誰一人として動じてないのは驚異的である。慣れって怖い。 そして30分後、寝起きのためにふらふらした足取りの諸葛瞻と、疲労のためふらふらした足取りの恪が居間へとやってきた。 「せ〜ん〜、アンタもう少し早く起きようって気は無いの!?起こす側の身にもなってみなさいよ」 ぜはぜはと息を荒げ、抗議の声をあげる恪。寝ボケ眼でそれを聞いた瞻が一言、 「ん、努力はしてみる」 とは云うものの、その努力はついぞ報われた事は無い。そもそも努力していないのだから当たり前なのだが。 『春眠、暁を覚えず』とよく言うが、彼女の場合は一年を通して暁を覚えていない。いや、寝るのに時と場所を全く選ばないので、そもそも夜と云う概念を認識しているかどうかさえ怪しい。諸葛瞻、生粋の眠り姫である。 「皆さん、明けましておはよーございます」 「何か間違ってない?それにもう昼よ」 「ではおやすみなさい」 「って寝ないでー!」 「ねむねむ」 炬燵に入るや、早々に眠ってしまった瞻。半日寝たくせにまだ寝足りないのか。 すやすやと寝息を立てる瞻を見て嘆息する瑾。恪や喬もおそらく同じ思いだ。 「寝る子は育つって云うけれど、あれは本当ね。邪魔ったらありゃしない」 「瞻ちゃん背がおっきいですもんね。格好良いです」 この寝ボケ娘の何処が、と反射的にツッコミたくなった瑾だが、良く良く考えてみると、格好良いと云うのもあながち嘘ではない。顔立ちは何時も寝ボケ眼であるのを除けばまずまず整った顔立ちをしているし、性格も眠たげでやる気無いのを無視すれば飄々とした感じで悪くない。何より、180p近い長身が絶大なアドバンテージである。総じて、寝ボケてさえいなければ、かなり格好良い女なのではなかろうか。 「成程、確かに背が高くて格好良いのは認めよう。だがどうよ!この胸は!」 やたらエキサイトした恪が指し示す先は瞻の胸である。一言で言うと、おっきい。 「くうぅ〜、寝る子が育つのは解るけど、何で!胸まで!育ってるのよー!!」 ちなみに恪、貧乳。彼女の悲憤は果てしなく深い。 「持たざる者の悲哀、と云うやつですね。……哀れな」 「心底哀れっぽく言うなー!!大体喬もアタシと大して変わんないでしょうがっ!」 「亮姉さんが言うには、私はこの位が萌えのストライクゾーンど真ん中だそうです。何も問題有りません。問題なのは姉さんだけ」 「何よそれ!えこひいきじゃないの、あンのバカ姉め」 彼女たちの姉である諸葛亮だが、どうも喬にえらく萌えているらしく、姉妹中で最も喬に甘い。尤も、喬自身は余り亮のことを好意的には思っておらず、せいぜいが嫌いではない程度の感情しか持っていない。哀れ、一方通行の愛。 「ちくしょー、何時か、何時の日か、胸がおっきくなってみんな見返してやるー!!」 「そんな都市伝説を未だに信じているんですか、姉さんは」 「未来の事なのに既に伝説呼ばわりですか!?しかも都市伝説って一体何事ー!?」 「それはもう怪奇現象の域と云う事でしょう………。おや姉さん、頭を抱えてどうしました?頭痛なら早めに薬を飲んだ方が宜しいと思いますが」 「はいはい喬、そこまでにしときなさい。少しやり過ぎよ」 ネタがネタなだけに流石にこれ以上恪の心の傷をえぐり倒すのは拙いと判断して、瑾が止めにはいる。隣では、あうあうと頭を抱え込みながらうめいている恪を、均は懸命になだめている。ふわふわオーラに影響されて、復帰自体は早そうだ。だからといって問題が解決する訳ではないが。 ふぅ、と一息ついて瑾は考える。一体どうして姉妹間でこんなにも胸の大きさに差があるのか?と。彼女の主観は入るものの、大体の比率では、 均≧瞻>瑾>亮>恪=喬>尚 と云った所である。うち尚は将来性と云う点で除くとしても、この比率には何か法則性があるのではないか、と邪推してみたくもなると云うもの。 上位二人の共通点………………心の余裕? 「つまり心が大きいと胸も大きくなる、と云う事かしら?」 確かに均は天然入ってはいるが、それ故に心の余裕は大きいし、瞻はこの通り一日の大半は寝ているので、精神的な煩わしさなど皆無であろう。 対するに恪は何でも人並み以上にこなす秀才ではあるが、どうにも器が小さい。喬は幼い頃から病弱というハンデを負っている。あの毒舌も、そういった無意識のストレスの発散とも取る事が出来る。そう云う訳で、二人とも心の余裕は少ない。 「まさか…ね?私も何考えてるんだか」 はは、と軽い笑いで己の思考を誤魔化しつつ、迂闊にこの話題には触れるまいと誓った諸葛瑾であった。……時として怪奇は、怪奇のままであった方が良いのだから。
128:7th 2005/01/19(水) 22:31 さて、時刻は正午を回ろうとする頃。正月でごろごろしているとは云え、間食などしていなければ、健康な人間なら小腹も空く頃合いだ。 「……お腹空いた」 起きてまた寝て一時間余り。今まで沈黙を守っていた(単に寝ていた、とも云う)瞻が、のそりと炬燵から身を起こす。 「そりゃ空くでしょうよ。何たって半日以上食べてないんだからねアンタ…。ま、アタシもお腹空いてるから丁度良いか。均姉、何か食べるものあるー?」 「えーと、おせちとお雑煮の残りとお餅がありますね。後は私の秘蔵のサラミとか缶詰とか」 「何処の酒飲みだアンタ。ともあれ、朝も食べたものばっかりって事ね…」 瞻に向けていた半目を今度は均に向け直し、恪は溜息を吐いた。まだまだこの姉の生態については未知の部分も多い。姉妹のくせに謎、と云うのも或る意味問題だが。 それはさておき、昔より正月には餅を焼く・雑煮を温める・お茶を沸かす以外の事に火を使わないと云われる。近年ではその風習は失われつつあるが、諸葛家はどうやら昔からの風習を守るようにしているらしい。 「仕方無いわね。均の所蔵物はともかく、適当にぜんざいでも作りますか」 「えー、サラミは美味しいですよぅ」 均の反論をさらりと流し、皆が瑾の提案に肯く。どうやらこの家、辛党は少ないようだ。 「じゃあそう云う事で。…恪、亮と尚も呼んで来なさい。どうせロクでもない事しかしてないんだから、ドアぶち抜いて引っ張って来て良いわよ」 「あー、それについてなんだけど、亮姉ってばこの間ドアを改造したらしくってさ、アタシの力じゃアレ抜けないわ。多分耐爆シェルター並よ」 「…一体何から部屋を守ってるんだか。しかし困ったわね、どうしたものかしら」 ふむ、と顎に手を当てる瑾。しかしその次の瞬間、 「その必要はありませんぞ!!」 響いた声と同時、背後の襖が快音を立てて開く。そして流れ出る、白煙と高笑い。 ぶしゅー、と吹き出す煙を背負い、諸葛亮が腕を組んだポーズで仁王立ちしていた。その後ろ、諸葛尚がドライアイスの入ったバケツを、パタパタと団扇であおいでいる。 ひとしきりバカ笑いを上げたあと、亮は尚に向き直り、 「ふっふっふ。我が助手尚よ、どうかねこの装置。昨日から徹夜して制作した甲斐もあると云うもの」 「凄いですハカセ!まるでデパート屋上のステージみたいです!」 「うむ、これなら何処へ出しても恥ずかしくあるまい。完成だぞ我が助手よ」 「ハカセー!!」 「………あんたら一体何のコントよそれは」 感極まって抱き合う二人に、呆れと諦めを半々にカクテルした声で瑾が問う。本音を言えばツッコミさえ放棄したい気分なのだが、一応訊いておかないと延々とこの二人のコントを聞かされる羽目になるかも知れない。 「コントとは失礼な。これはただの実地試験です。幸い動作は確認しましたので、早々に片付けますが」 「そう、だったら早く片付けなさい。…一応訊いておくけど、それ何?」 「見ての通りですが、暇ですから説明位はしておきましょう」 そう言って、背負っていた装置を降ろす亮。その装置、原型となった物はは小型のリュックサックらしいのだが、所々に謎のボンベやら何かのアタッチメントと思しき物体が装着され、さらには何本もの細い管が突き出ていると云った、怪しさ全開のデザインだ。少なくとも街中でこんなモン背負っていたなら、まず間違いなく警察へしょっ引かれるだろう。見ての通りとか言っているが、どう見てもこれが何なのかは解らない。 「これは孫乾殿に頼まれて制作したもので、小型のドライアイス噴霧機です。何でも旭記念日の部活動説明会でヒーローショーをやるとか」 「ヒーローショー?帰宅部連合の出し物でやるの?」 「いえ、無届けですのでゲリラショーかと。とまぁその折に使用する訳です」 本来ならそれを取り締まる立場にある彼女が、こんな物を作ってまで協力していて良いのだろうか。答えは絶対に良くない、だ。 「つまり年をまたいでまで作っていた物がそれ、と云う事ですね。……馬鹿ですか貴女は」 「うわ相変わらず容赦ないな我が妹よ。お姉さん悲しくて微妙に嬉しいぞ」 何やら矛盾した発言を繰り出す亮。もしかすると精神的Mなのかも知れない。 「酸素が勿体ないので黙れ馬鹿姉。尚、貴女もこんな馬鹿と付き合う必要はありません。馬鹿が伝染りますよ」 「えー、楽しいのに」 「楽しくても駄目です。私的に馬鹿は法定伝染病と同レベルですからね、感染したら完治するまで学校に行けません。最悪の場合、生物災害(バイオハザード)指定で隔離されますよ。嫌でしょう、それは」 「う、うん。馬鹿って怖いね。ゾンビで拳銃でハーブで回復なんだねっ」 字面的にはそう間違ってもいないのだが、微妙に間違った認識をしている尚。この姉たちに囲まれて、末っ子がマトモに育っているのは奇跡に近い。尤も、この辺の認識に見られるように、少しずつ歪み初めているようだ。将来が不安な所である。 「亮姉さん、貴女も尚に変な事吹き込まない様に。貴女の馬鹿は特に凄いんですから。私的にはエボラ出血熱級です」 「致死率90%とはこれまた凄い。或る意味誇らしいな」 「ええ存分に誇って下さい。近い内に病名『馬鹿』で生物災害に認定されるでしょうから。人類初ですよ?良かったですね」 「うむ、脳が悪いのに良かったとはこれいかに、と云った感じだな。はっはっは」 本人達の認識では、せいぜい「軽口のたたき合い」と云った所なのだが、空気は物凄く刺々しい。周りの人間にはたまったものではない。 「思うんだけどさ、あの二人って同類なんじゃない?類友が亮姉で、同族嫌悪が喬」 「言い得て妙よねぇ…。二人ともイカレてるのは間違いないし」 「イカレてるって云うのはあんまりですよ。確かに二人とも何処かおかしいですけど」 「均姉さん、そう云うのは『他人と行動様式が一線を画している』って言うと良いよ。馬鹿が知的に聞こえるから」 「な、なんか文字数が多くて偉そうです。馬鹿って偉い?」 流石に大声で言うのも憚られるので、小声でひそひそミニ姉妹会議。包み隠さぬ本音なので、みんな結構酷い事を言っている。 そんな外野の心の内を余所に、舌戦はますますヒートアップ。 「時に喬よ、内政戦隊は只今5人目募集中だそうだがどうかね?今なら好きな色の全身タイツに、先程のバックパックが漏れなく付いてくるが。きっと似合うぞ。私の趣味的に」 「ふふ、だんだんと変態性がオープンになって来ましたね亮姉さん。心から辞退させて頂きますよ。それよりも貴女が入るべきでしょう。白い全身タイツにレインボー染め抜いて、リーダーでもないのに真ん中でポーズ付けてる……何てお似合いなポジション」 「○ャッカー電○隊とはこれまたマニアックな。だが私は現状で満足しているのだよ。考えてもみたまえ。『正義の味方としての博士』、この役割の方が遙かに私に相応しい」 「成程、確かに博士は良い感じの役どころですね。その変態マッディーな性格を存分に活かせますから」 「そうとも、マッドサイエンティストは世界を救うのだよ。ビバ科学の力。ラララ科学の子」 「ええ、ついでに言うと、世界を滅ぼすのも大抵マッドサイエンティストですが」 既に状況は加熱から混沌に移り、もはや常人の理解の及ばぬ域へと達しつつある。この二人、やはり似たもの同士か。 「えぇい、我が妹達ながら何て子達よ。何時育て方間違えたのかしら」 「ん、多分母さんの影響だと思う。母さんってほら、結構バイオレンスな人だし」 ちなみに彼女たちの母親の名は諸葛豊。蒼天学園OBで、現役時には清廉かつ正義の人として知られた硬骨の人である。年を経て家庭に入った後も、瞻の言にあるように性格の強さは健在のようだ。 「それにしてもこの馬鹿さ加減は変よ。均と恪と瞻は……まぁ多少問題有るけどあの二人程じゃないし」 「瑾姉、比べる相手が悪い上に、そもそもアタシは問題児じゃないっての!」 「後半無視するとして、流石に相手が悪いのは事実よねぇ…。尚、あの二人には近づかない事ね。馬鹿を通り越して大馬鹿になるから」 「え、えと…つまり、馬鹿ってバカなの!?」 「ああっ、尚ちゃんがついに正しい認識をっ!ううっ、良かったですねー」 ミニ姉妹会議も微妙な盛り上がりを見せている。やってる事は現実逃避以外の何者でもないのだが。 誰でも良いから何とかしてくれ、と云うのが一貫した外野陣の本音である。自分たちは手を出さない。ただ願うだけ。誰だって、進んで火の中に手を突っ込みたいなどとは思うまい。 その願いが祈りとなって天に通じたのか、ぴんぽーん、と家のチャイムが鳴る。 彼女らにとってそれはまさしく福音。もはや一も二もなく、我先にと争って駆け出す。向かう先は玄関のドアだ。 バタバタと転がるように走り込んできた5人。一番早かった瑾が代表でドアを開け――― 「どちら様ですかありがとうございます!!」 「なな、何や一体!?ウチ何か悪い事……や無くて何か善い事でもしたか!?」 その先には帰宅部連合総部長・劉備が、突然の事に目を丸くしていた。 「……と、これは劉備先輩、お見苦しい所をお見せしました。改めまして、明けましておめでとう御座います」 慌てて居住まいを正し、劉備に礼をする瑾。呆けていた劉備も、それに応じるように軽く一礼する。 「ん…ああ、新年おめでとさん。…しっかしさっきのは何や?えらい泡食っとった様やけど」 「いえ身内の事情ですのでお気になさらずに。しかし我が家に何の御用でしょうか?しかも御三方お揃いで」 先刻はパニックになって気付かなかったが、良く見れば劉備の後ろ、関羽・張飛が並んで立っている。家の中にいる諸葛亮を含めれば、帰宅部連合首脳陣の揃い踏みである。 「いや正月やしな、孔明誘って初詣にでも行こ思たんやけどな。丁度子竜も神社でバイトしとるし、巫女服見がてらな。…折角やから瑾のねーちゃん、アンタらも一緒に来るか?家族みんなで行った方が良いやろ?」 「はぁ…。しかし今両親は年始回りで家に居りませんし、妹達の事で先輩方に御迷惑をお掛けする訳には…」 躊躇する瑾。だがそれを叱り飛ばす様に、思わぬ所から声が出た。 「おいおい諸葛の姉さんよ、ウチの姉貴とこのアタシが、まさかその程度気にする程ケチな人間だと思ってんのか?」 張飛だ。口調こそ荒っぽいが、その表情は笑顔。人懐っこい感じの、良い笑顔だ。 「左様。学園内のしがらみも、今日ばかりは関係有りませぬ。今日は元日、年の初めの目出度き日ですよ」 続けて関羽。目元にたたえた微笑が、何時になく柔らかい。 「ちう訳や。昼メシがまだなら外で食べればええやん、屋台もいっぱい出とるで。ほれ、そこのちっこいの、おねーさんが何かオゴったるでえ〜」 「本当!?ワタアメとかでもいいのっ!?」 「ちょっ、尚!駄目だってば。先輩も妹を餌付けしないで下さい!」 「ええやんええやん、ワタアメの一本位、大した事あらへんて。ほな尚ちゃん、おねーさんに付いて来るかー?」 「うん!」 劉備に頭を撫でられながら、満面の笑顔で返事する尚。 「ほい決まり。どうよ瑾のねーちゃん、まさかこの子だけウチらに付いて行かせる気か?」 にんまりと勝ち誇る劉備の顔を見て、瑾は両手を上げた。流石は劉備、役者が違う。 「解りました。御迷惑を掛けさせて頂きます。そう云う訳だからみんな準備―――って」 振り返った先には誰も居ない。どうやら行くことが決まった時点で、皆早々に中に引っ込んで外出の準備を始めたらしい。 独り取り残された瑾の傍ら、劉備がさも可笑しそうに肩を震わせて笑いを噛み殺している。 「いやー、おもろい家族やな。退屈せんやろ、アンタ」 「ええ、本当に。毎日がエキセントリックの嵐で泣けますよ」 はぁ、と肩を落とす瑾。その背中を一発叩き、劉備が言う。 「泣くな、笑え。泣きながらでも笑え。笑う門には福来たる、って言うやろ。笑っとった方が人生たのしいで」 かか、と笑う劉備。瑾もつられて微笑し、 「そうですね、年の初めから泣き言はよしましょうか。何はともあれ」 背をのばし、威儀を正して劉備達に向き直る。 「本年も姉妹共々、宜しくお願いいたします」 かくて始まる新たな年。 それはきっと、楽しい年になる。そんな気がした――――
129:7th 2005/01/19(水) 23:10 何とか一日遅れで間に合った〜! 今年は諸葛姉妹のお話です。 ホントは後二人くらい(諸葛融と諸葛京)が居るはずですが、話がややこしくなるので泣く泣く割愛。 何時か補完できると良いなぁ、と思っていたり。 あー、でもこの文中にもネタが一杯有るなぁ…。内政戦隊ゲリラショーとか諸葛姉妹が常山神社で巫女服とか。 何やらアサハル様の方の参加が遅れるらしいので、もう一本書いてみようかなぁ…。 何はともあれ、玉川様、海月様、GJでした。 そしてこれからの方たちも頑張って下さい! 以上、7thでした。
130:法全 2005/01/22(土) 00:32 それでは続かせて頂きます.三分帰一・番外篇. http://www.geocities.jp/hosenkosou/gk3/index.html より,左フレーム下「番外」の01〜08です.学三では羊示古と陸抗 が幼馴染という設定とのことなので,そこを狙おうと. ただ,旭記念日に対する認識はこんな感じでいいのか,そこが少々 怪しいですが
131:takahisa@倍率7倍♪ 2005/01/23(日) 02:47 本日の朝刊によると、行くつもりの私学志望校の倍率が7倍で、府下第5位ぐらいの倍率になっててたまげているtakahisaです。 もっとも、模試でその学校の希望者の1位を取ったとこがあるので、受かる気自信は結構あるんですが。 …並み居るライバルを蹴散らして、合格を掴み取ってやるぜ!です。 …さて、学三ゲームが少しバージョンアップしたのでお知らせします。 http://takahisa.net/game/gaku3/download/gaku3game_ver0.00.lzh …前回とバージョンは変わってませんが、内容と画像が少し変わってます。 とりあえず、見てのお楽しみ!ということで。 あ、ぐっこさん、時間があれば、私のサイトの学三ページのアドレスを、 http://takahisa.net(ウチのトップ) に変更していただけますでしょうか。gakusan.takahisa〜というアドレス、諸事情により消したので…。 よろしくおねがいします。
132:★教授 2005/01/23(日) 12:45 ■■ 旭記念日企画 〜十色の側面〜 ■■ 「え、法正休みなの? 何でまた…」 意気揚々とデジカメを手に会議室に姿を現した簡雍。法正休みの報を聞き驚きの色を隠せない様子だ。 珍獣を見るような目をしながら、その報告をした伊籍は続けて休みの理由を話す。 「えーと。何でも風邪引いたらしくて…熱が39度程あるようです。身動き取れないし伝染しそうなので今日は大人しく寝てると電話がありました」 「たかだか39度で寝込むなよなぁ。鍛え方がなってねーっての」 休みの理由に張飛が茶々を入れる。普通の人間は39度も熱を出せば寝込むのだが…彼女は違うらしい。 「まあ、休みの人間はこの際置いておいて…報告書のまとめを始めましょう。成都棟の花壇を踏み荒らした咎人の探索もしなければなりませんし……あら?」 とんとんと報告書及び被害届をまとめながら李恢が会議室中を見渡す。しかし、ここにいるはずの面子が一人足りなくなっている事と窓が一つだけ開いてカーテンが風に靡いて寒い事に気づく。 李恢は訝しがるのと好奇心も手伝ってか窓際を確認に行く。窓から顔を出して周囲の様子を見て、下を見下ろした。そこで目にした光景は――― 「張飛さん…ここ3階なのに…」 規格外の衝撃に苦笑いしか浮かばない李恢。どうやら窓が開いていたのは張飛がそこから飛び降りて脱出を試みた形跡のようだ。しかも飛び降りて無事着地を果たした上に駆けて行く姿を見てしまったのでは苦笑いしか浮かばないのだろう。 その時、今までだんまりだった簡雍が口を開いた。それと同時にドアを開けて出て行く。 「悪い、急用があったんだー。後、ヨロシク!」 「あ、ちょっと待ちなさい! 手伝わなきゃ終わらないよ!」 伊籍の制止の声が届く前にドアは閉じる。たらりと冷や汗が流れた―― 場所は変わって法正の部屋―― 「うー…私が風邪なんかでダウンするなんて…私のバカ…」 ベッドに横になったまま法正は自分に悪態を吐いている。脇の棚にはミネラルウォーターのペットボトルと風邪薬が置かれている。更にその横に子供用の液体シロップと謎のアナログカウンター(現在11,800Pt)が鎮座していた。 「はぁ…もうやだなぁ…」 うつ伏せになって溜息を吐く。ちょっとした病でも人はこんなにも弱くなる…身を持ってそれを実感している法正。いつもの強気姿勢は欠片も見当たらない。 そんな弱弱しい姿に反応したのかカウンターがまた動いた。勿論、法正自身気づいてないし意識してやってる訳ではない。やはり謎のカウンターは謎のままだった。 「法正〜。生きてるかー」 悲観に暮れる法正の部屋にノックもせずに簡雍が突然闖入してきた。勿論、法正は心臓が停止せんばかりに驚いたのだが。 「わわっ! 憲和! 何しにきたのよ!」 「何って、見舞いに決まってるでしょーが」 見舞いときっぱり言い切った簡雍に対して真っ青を通り越して透き通りそうな色になる法正。 (憲和がお見舞い? え、見舞いだけで済むの? もしかしたら悪化の一途を辿るだけなんじゃ…) 普段が普段の簡雍に疑問と警戒をしてしまうのは当然なのだが、今の法正には簡雍に対する抵抗力は皆無に等しい状態。進退此処に窮まれり、神様私を見捨てないで―――法正は神に祈るしかなかった。 渦中の人――簡雍が法正に近づく。身動きが取り難い法正には最早逃げ道は残されていない。法正はそっと伸ばされる簡雍の手に思わず目を閉じてしまう、そして少々冷えた感覚が自分の額に感じられた。 「………え?」 「うーん…まだ熱高めかな」 顔を顰めながら自分の額にも手を当てて熱の確認をする簡雍。思いもよらぬ行動に法正は別の意味で驚いている。 「えーと…ホントにお見舞い?」 恐る恐る確認を取る法正。簡雍がその問いに一瞬呆けた顔をしたが、それも本当に一瞬だった。 「お見舞い以外の何だってのさ。まさか病人にいかがわしい事するとでも言うの? もしかして、そっちの方が良かったとか」 「それは絶対ないから」 悪そうな笑みを顔ににじり寄る簡雍に真顔できっぱりと断りの返事を返す法正、あっそと踵を返した簡雍を見てほっと安堵の息を漏らす。だが、危機感知を担うべき人一倍優れた勘までは働かなかった。刹那の瞬間、簡雍の姿は既に法正が横になってる…その上にあった。マウントポジションを取られてしまったのだ。 「ち、ちょ…何もしないって…」 「服が透けてるよ…汗かいてるでしょ? 着替えるの…手伝ったげる」 確かに風邪の副産物、高熱と暖を取るための布団の影響で多量の汗をかいている。しかし、今はそれに冷や汗と脂汗まで加わってしまった。 「い、いいわよ! 自分で…」 語気を強めた言い方が誤解を生んだ、簡雍の顔が輝く。 「いい? いいんだね!」 「うわ、ちょっ…そんな事言ってな…。ひゃあ! そんなトコ…や、ん…やめ……やめてーっ!」 無駄な抵抗をしながら簡雍の為すがままになってしまう法正、着せ替え人形の如く扱われてしまう。薄れ行く意識と理性の中、『コトバって難しいんだなぁ…』と思ったとか思わなかったとか――― ――で、1時間後。 シャツとスパッツだった法正は簡雍の手によって猫柄パジャマ(背中に旭印)に着せ替えられていた。当の法正は赤い顔で横になっている。もっとも顔が赤いのは熱のせいだけではないのだが。1時間前まで着ていた着衣は簡雍が洗濯機に放り込んでいた。そして、その簡雍はと言うと――― 「〜〜♪」 最近、流行している歌を口ずさみながら掃除機(竜巻式)を掛けている。物を動かして隅々まで掃除をしている辺りに真面目さが窺える。行ってはいけない世界にチェックメイトしている法正に自分も着替えると言い残して浴室に消えた簡雍が変身した姿、それはメイドだった。この格好には法正も思わず飲んでいた水を噴出して倒れこんでしまったのだが。 そんな法正も今はぼんやりしながら掃除中の簡雍を目で追っている。 (うーん……結構几帳面なんだね…。歌上手いし…あの服も似合って………じゃなくて、真面目にやってくれるのはありがたいかも…) 思考の中で道を踏み外しかけたが、一応感心はしているようだ。引き続き、ぼんやりと動きを追い始めた。ふと、机の上に目が留まる。自分用の薬…意味不明なカウンター(現在14,000Pt)…ここまでは分かる、だが、その隣に新たにビール缶が二本鎮座していた。 「け、憲和さん…そのアルコール成分がふんだんに盛り込まれた飲料は…」 聞かずにはいられない、まさか飲まされる訳じゃないだろうか…そんな心配が過ぎる。が、それも杞憂に終わると共に不安も広がった。 「それは自分用。合間に飲んでるだけだから、気にしないで」 事も無げに言う簡雍。口説いようだが、彼女は高校生である。法正の不安は高校生は飲んじゃダメではなくむしろ、自分用という言葉にあった。自分用という事は法正用も用意してある可能性が浮上したからだ。今、飲まされたら確実に二日は寝込む…ある種の危機を感じていた。法正が危機対策を痛む頭で捻り出してると、簡雍が覗き込んで来る。法正思考停止。 「掃除終わったけど、何か食べる?」 意外や意外。まともな事言うもんだ…と感嘆の息をこぼす。 「そーね………任せるわ。…憲和って料理出来たっけ…」 「大した料理は作れないけど、御粥くらいで手を打ってよ…病人の必須だし」 「必須かしら…でも、それが一番かも……台所は適当に使っちゃっていいよ」 「おっけー」 そそくさとキッチンに移動する簡雍。法正がふぅと軽く息を吐く。 「人って分からないものね…憲和にもあれだけの顔があるんだから…」 その表情に小さな苦笑いを篭めて彼女の後姿を見ていた――
133:★教授 2005/01/23(日) 12:46 ――更に1時間後 「お待たせー」 「また随分と時間が掛かったわね…」 お盆に御粥と付け合せの漬物を乗せた簡雍を見てぽつりと呟く。確かに御粥だけなら1時間も掛かるまい。 「いやー。何を付け合せようかと酒飲みながら考えてたら、何時の間にか酒に没頭しちゃっててさ」 赤い顔で笑い飛ばす簡雍。酒気を帯びているのは一目瞭然だった。 「もう…病人をほったらかしにして飲酒なんてとてもメイドのする事じゃないわよ」 上体だけ起こして溜息を吐く法正。 「ま、このだだっ広い世の中にこんな不良メイドが一人くらいいてもいいんじゃない?」 「自分で言うかなー、そういう事」 盆を受け取りながら苦笑いする。私がふーふーして食べさせてあげよっかとか発言した簡雍を無視して一口掬って口に入れる。よく噛んで嚥下する…ちょっと驚いたような意外そうな表情をする法正。 「あら…美味しい…」 「当たり前じゃん。憲和ちゃんの手作りなんだからね」 「…やるわね…うっ」 胸を張る簡雍、そんな胸元を見て呻く法正。コンプレックスは健在のようだ。 その後は歓談を交えながら食を進めていく。気が付いたら全て平らげてしまっていた。若干調子が良くなっているのかもしれない。 「ごちそうさまでした」 「はい、お粗末さまでした…と。何か随分良くなってない?」 そっと手を伸ばして法正の額に触れる。法正も害意がなさそうなのは分かっていたので目を閉じてされるがままだ。 「熱は…下がってるなぁ。他は何ともない?」 「うーん。ちょっと気だるい感じがするくらいかな…これなら明日は大丈夫かも」 目を閉じたまま自覚している症状を報告。と、次の瞬間…自分の唇に何か柔らかくて暖かい物が触れた。 「な、何…え、何かした?」 驚いて目を開ける法正。別段その場から動いている訳ではない簡雍に問いかける。 「別に何もしてないけど…どうかした?」 「え…い、いや何でもない…」 「ふーん。それならいいんだけど…洗い物してくるね」 「あ…お、お願い…」 盆を持って再びキッチンへと足を運ぶ簡雍。そんな後姿を見ながら自分の唇に指先を宛がう法正。 (今の感触…ま、まさか唇…? い、いや…憲和は動いてなかったし…え、じ、じゃあ何よ…あれは…) 髪を掻き毟りながら塞ぎ込む。禁断の想像(妄想?)を思い浮かべては赤くなったり小さく暴れたりと忙しい。そんな法正の姿をちらちらと見てる簡雍がキッチンにいた。 (指先を唇に触れさせただけであそこまで悩むなんてね…愛いわ…ホント) 簡雍は蛇口を捻り水を止めると、手を拭きながらしたり顔だった。 その日、簡雍は法正の部屋に泊まりこんだ。どうやらお泊りセットも用意してきていた様で法正も呆れ返って物が言えなくなってしまい、唯々首を縦に振るだけだった。 そして簡雍は本当にお見舞いと家政婦をやりにきただけで被害自体ほとんど被らなかった法正は就寝前に心の中で疑ってごめんと謝っていた。 翌日―― 「げほ……法正…だるいよぅ…」 「ホント、憲和もお約束な事するわね…何で伝染るかな…」 昨日、法正がいた場所に簡雍が寝込んでいる。熱も高めで全く身動き取れなくなってしまっていた。そして、法正はと言うと完全に復調して朝から元気だった。 「授業始まるから…行ってらっしゃい…」 しっしっと手をひらひらさせながら布団に潜り込んで丸くなる簡雍。ドアを開ける音が聞こえたので行ったんだなーと思い目を閉じる。 しかし、暫くするとまたドアが開き足音が聞こえてきた。そっと布団から顔を出して確認する…その光景に目が点になってしまう。 「な、何してんのさ…法正」 「何って…昨日のお礼。借りを作ったまんまじゃ寝覚め悪いもん」 「い、いや…それは置いといて…。その格好なんですけど…」 「これ、結構暖かいし。…似合う?」 くるりと一回転してスカートを靡かせる。昨日、簡雍が着ていた作業服を今日は法正が着ていたのだ。スカートの両裾を指で摘みあげると恭しく頭を垂れる。 「不束なメイドですけど、よろしくお願いします………なーんてね」 くすっと悪戯っぽく笑う法正に苦笑い一辺倒の簡雍。 「あ、頭痛くなってきた…好きにやってよ…もう」 布団をかぶりなおして溜息を吐く。しかし、満更でもない表情だった…。 机のカウンターがカタカタと音を立てて回っている。 味気ないBGMを背景に今日も少し変わった一日が始まる――― 物語を終える前に、もう一つの場面に切り替えよう―― 「はぁ…今、何時かな…」 「うん、1時ね。…深夜の」 李恢と伊籍は廃人寸前の表情で鬱オーラを放ちながら書類と格闘していた。ほったらかしにして帰ればいいのに―― と、会議室のドアが突然開く。濛々と白煙を立ち込めて登場したのは… 「手伝いに来たぞ、諸君。私が援軍として来たからには何も心配する事はない!」 その人の高圧的かつ高慢ちきな言動に顔を見合わせて溜息を吐く李恢と伊籍。 「今日は…帰れないね」 「明日はお休みね…これじゃ」 「何か言ったかな、御二方?」 「「いーえ、何にも言ってません…」」 李恢&伊籍は諸葛亮に落胆しながら声を揃えた―― 糸冬
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【1月18日】旭記念日創作発表スレッド【お祭りワッショイ】 http://gukko.net/i0ch/test/read.cgi/gaksan2/1074230785/l50