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【1月18日】旭記念日創作発表スレッド【お祭りワッショイ】
127:7th2005/01/19(水) 22:31AAS
時の流れは万人に平等である。
それは多忙を極める蒼天学園の生徒にも例外ではない。好む好まざるとに関わらず、年は暮れ、そして年は明ける。
そう正月。流石に大晦日及び三が日程度は休みでも良いのではないだろうか、と云うか休ませろ、とのことで、その期間は一死の活動が停止され、生徒達は思い思いの休暇を楽しんでいる。
ことに幹部級の人間にとっては本気で得難い休日。それこそ遊び倒すか、惰眠を貪るかの二者択一である。
寮を出て実家へ帰省する者も多い。市外から来ている者のみならず、市内に実家を持つ者もだ。
例えば趙雲は実家の常山神社の手伝いをしに帰っているし、張遼もヘイホー牧場で馬と戯れ三昧の正月を送っていることだろう。孫権などは二人の姉に連行されて、元日から海に繰り出している。
そしてここにも、正月をまったりと過ごしている人達が居た。
〜〜或る姉妹(達)の正月風景〜〜
「はー、実家はやっぱり安心しますねー。まるで第二の故郷です」
「第一の、の間違いでしょうが」
「あ、そうでしたねー。うっかりうっかり」
炬燵に入りながらのほほんとボケる妹に、姉がツッコミを入れる。割と良くある光景ではあるのだが、姉の方の表情は、呆れたを通り越して少々うんざり気味だ。
「全くこの子は大ボケなんだから……いや、良く考えるとマシな方か。何しろウチは問題児揃いだし」
長女の苦しみである。エキセントリックな性格の妹たちの世話をするのは、昔から彼女だった。その苦労、推して知るべし。
彼女の名は諸葛瑾。長湖部の中堅幹部にして、諸葛姉妹の筆頭である。人望篤い事で知られる彼女の思慮深さと温厚さが、妹達の世話によって培われた事を知る人間は少ない。
「あのー、瑾姉さん。一応訊いておきますけど、問題児ってのはアタシの事じゃありませんよね?」
「クリティカルヒットで私達です。それすら気付きませんか愚鈍な姉」
「…アンタは自覚があって何よりだよ、喬」
「姉さんは自覚が無くて何よりです…バカの」
「何だとー!!」
姉妹間の会話ながら、余りにも容赦ない言葉に、顔を赤くして怒っているのが諸葛恪。彼女は頭が滅法切れるものの、性格は直情径行で調子に乗りやすいのが玉に瑕。将来が思いやられると云う点で、家族内では割と問題児である。
そしてナチュラルに口が悪い諸葛喬。一卵性の双子のためにこの二人の顔立ちはほぼ同じだが、ショートカットで活発に見える恪に対し、喬はロングヘアに眼鏡の理知的風味。加えて、生来よりの病弱のため、見た目は薄幸の美少女と云うかなり得したルックスをしている。ただし、中身は猛毒を吐く危険生物じみた、諸葛家で一二を争う問題児である。
「あ、駄目ですよ喬ちゃん。家族にそんなこといっちゃめっ、ですよー」
「均姉さんは頭が小春日和で何よりです」
「んー、私も春は好きですよー。あ、でも夏も良いですね。スイカ割りとか」
「訂正。均姉さんは脳がお目出度くて何よりです。色々と尊敬しますよ」
「えへへ、誉められちゃいました」
天然はあらゆる悪意を超越する。喬が家族中で最も苦手とするのがこの天然ボケボケ娘、諸葛均である。ほんわかふわふわオーラ全開の彼女には、いくら罵言をあびせても、暖簾に腕押し糠に釘。柳が風を受け流すが如く、ことごとくが効かないのだ。だがその天然ぶりとは裏腹に、家事などは姉妹中で一番出来るのだから世界は侮れない。瑾の言にあるように、姉妹中ではまだマトモな方である。
「……そう云えば、瞻はどうしたの?亮と尚は何か怪しいことしてるみたいだけど、あの子も朝から見ないわね」
「あー、あの子まだ寝てるわ」
時刻は既に11時を回っている。大晦日の昨日も瞻は早々と寝てしまっていたため、かれこれ12時間以上寝ている計算になる。いくら正月でやる事が無いにしても、流石に寝過ぎの感は否めない所だ。
「起こしてらっしゃい」
「へいへい」
瑾にそう言われ、炬燵から名残惜しそうに出ていく恪。そのまま瞻へ行くかと思いきや、おもむろに台所へ。そこでフライパンとお玉を装備して、ようやく瞻の部屋へ出撃した。
しばらくして鳴り響く、雷音と聞き紛う程の音。時折、「起きろー!!」とか「二度寝すんなー!!」とか云った叫びが聞こえたりもする。
この家の中で道路工事をしているかの如き騒音の中、誰一人として動じてないのは驚異的である。慣れって怖い。
そして30分後、寝起きのためにふらふらした足取りの諸葛瞻と、疲労のためふらふらした足取りの恪が居間へとやってきた。
「せ〜ん〜、アンタもう少し早く起きようって気は無いの!?起こす側の身にもなってみなさいよ」
ぜはぜはと息を荒げ、抗議の声をあげる恪。寝ボケ眼でそれを聞いた瞻が一言、
「ん、努力はしてみる」
とは云うものの、その努力はついぞ報われた事は無い。そもそも努力していないのだから当たり前なのだが。
『春眠、暁を覚えず』とよく言うが、彼女の場合は一年を通して暁を覚えていない。いや、寝るのに時と場所を全く選ばないので、そもそも夜と云う概念を認識しているかどうかさえ怪しい。諸葛瞻、生粋の眠り姫である。
「皆さん、明けましておはよーございます」
「何か間違ってない?それにもう昼よ」
「ではおやすみなさい」
「って寝ないでー!」
「ねむねむ」
炬燵に入るや、早々に眠ってしまった瞻。半日寝たくせにまだ寝足りないのか。
すやすやと寝息を立てる瞻を見て嘆息する瑾。恪や喬もおそらく同じ思いだ。
「寝る子は育つって云うけれど、あれは本当ね。邪魔ったらありゃしない」
「瞻ちゃん背がおっきいですもんね。格好良いです」
この寝ボケ娘の何処が、と反射的にツッコミたくなった瑾だが、良く良く考えてみると、格好良いと云うのもあながち嘘ではない。顔立ちは何時も寝ボケ眼であるのを除けばまずまず整った顔立ちをしているし、性格も眠たげでやる気無いのを無視すれば飄々とした感じで悪くない。何より、180p近い長身が絶大なアドバンテージである。総じて、寝ボケてさえいなければ、かなり格好良い女なのではなかろうか。
「成程、確かに背が高くて格好良いのは認めよう。だがどうよ!この胸は!」
やたらエキサイトした恪が指し示す先は瞻の胸である。一言で言うと、おっきい。
「くうぅ〜、寝る子が育つのは解るけど、何で!胸まで!育ってるのよー!!」
ちなみに恪、貧乳。彼女の悲憤は果てしなく深い。
「持たざる者の悲哀、と云うやつですね。……哀れな」
「心底哀れっぽく言うなー!!大体喬もアタシと大して変わんないでしょうがっ!」
「亮姉さんが言うには、私はこの位が萌えのストライクゾーンど真ん中だそうです。何も問題有りません。問題なのは姉さんだけ」
「何よそれ!えこひいきじゃないの、あンのバカ姉め」
彼女たちの姉である諸葛亮だが、どうも喬にえらく萌えているらしく、姉妹中で最も喬に甘い。尤も、喬自身は余り亮のことを好意的には思っておらず、せいぜいが嫌いではない程度の感情しか持っていない。哀れ、一方通行の愛。
「ちくしょー、何時か、何時の日か、胸がおっきくなってみんな見返してやるー!!」
「そんな都市伝説を未だに信じているんですか、姉さんは」
「未来の事なのに既に伝説呼ばわりですか!?しかも都市伝説って一体何事ー!?」
「それはもう怪奇現象の域と云う事でしょう………。おや姉さん、頭を抱えてどうしました?頭痛なら早めに薬を飲んだ方が宜しいと思いますが」
「はいはい喬、そこまでにしときなさい。少しやり過ぎよ」
ネタがネタなだけに流石にこれ以上恪の心の傷をえぐり倒すのは拙いと判断して、瑾が止めにはいる。隣では、あうあうと頭を抱え込みながらうめいている恪を、均は懸命になだめている。ふわふわオーラに影響されて、復帰自体は早そうだ。だからといって問題が解決する訳ではないが。
ふぅ、と一息ついて瑾は考える。一体どうして姉妹間でこんなにも胸の大きさに差があるのか?と。彼女の主観は入るものの、大体の比率では、
均≧瞻>瑾>亮>恪=喬>尚
と云った所である。うち尚は将来性と云う点で除くとしても、この比率には何か法則性があるのではないか、と邪推してみたくもなると云うもの。
上位二人の共通点………………心の余裕?
「つまり心が大きいと胸も大きくなる、と云う事かしら?」
確かに均は天然入ってはいるが、それ故に心の余裕は大きいし、瞻はこの通り一日の大半は寝ているので、精神的な煩わしさなど皆無であろう。
対するに恪は何でも人並み以上にこなす秀才ではあるが、どうにも器が小さい。喬は幼い頃から病弱というハンデを負っている。あの毒舌も、そういった無意識のストレスの発散とも取る事が出来る。そう云う訳で、二人とも心の余裕は少ない。
「まさか…ね?私も何考えてるんだか」
はは、と軽い笑いで己の思考を誤魔化しつつ、迂闊にこの話題には触れるまいと誓った諸葛瑾であった。……時として怪奇は、怪奇のままであった方が良いのだから。
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