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【1月18日】旭記念日創作発表スレッド【お祭りワッショイ】
55:★惟新 2004/01/20(火) 21:08 ☆★ 朱儁 ★☆ 「どんな〜坂〜、こんな〜坂〜」 楽しそうに歌いながら、朱儁は緩い坂をどんどん上る。 早朝。川沿いの町、下[丕β]。 ここに、それはそれはたいそう美味しい温室メロンがあるそうな。 「品定め…ってことは、味見くらいできるよねー?」 思い浮かべては、うっとりと目を輝かせるのであった。 そのとき、朱儁の触覚がぴくんと反応した。 「うみゅ?」 辺りを見渡す…と、そこには年配のご婦人。 駅への階段を、杖を突きながらゆっくりゆっくり昇っている。 その階段が、また長い。 「うわ。ここってまた不親切な駅だわ」 お年寄りは大切に、というキャッチコピーとともに、 くれぐれも寄り道しないでね、という盧植の声が聞こえる。 2秒ほど朱儁の触角が揺れ。ピーン! 「ま、ちょっとくらい遅れてもいいよね」 言いながら小走りに駆け寄り、老婦人に声をかけたのであった。 ――すぐに、朱儁はそれを後悔することになる。 なぜなら、この駅を訪れるお年寄りは、しばらく尽きることが無かったからである。 「……や、やぁ…みんな……」 思いっきり息を切らせ、ヘロヘロになりながら朱儁は手を挙げる。 彼女は駅の階段を何往復もしたのち、上り坂をひたすら走ってきたのだった。 「お、お疲れ様です……」 朱儁の凄惨な姿に、待っていた中等部の女生徒たちが一様に引きつる。 「さ…行こうか……」 「あ、あの、大丈夫ですか? 少し休まれては……」 気遣う女生徒。 しかし。 「いいの」 「…はい?」 朱儁の目がくわっと見開く。 「いいの!! 私が行きたいの!!!」 「は、ハイィッ!?」 迫る。壮絶な勢いで迫る。 「ひ、ひぐっ……わ、わかりましたぁ〜…」 哀れ、情けをかけた女生徒は今や半泣き状態である。 だが、それでも朱儁は。 (まだ、まだなのよ…私は成し遂げていないのよ… そう…メロンを食べるまでは!!!) 結局、今度は朱儁のほうが助けられるカタチで歩き、 やっとこさ、ガラス張りの温室の所へ辿り着く。 (着いた……これで、やっと……) 「おお、やっといらしたか。程普、案内ご苦労!」 「は、はい…」 程普はまだ半泣きだった。 彼女に代わり、声をかけてきた女生徒が朱儁を支える。 「何があったかは存じませんが、大変でいらしたようですね」 (メロン…メロン…) 「私、依頼を受けておりました、孫堅と申します」 (メロン…メロン…) 「あまりに遅かったものですから、先にこちらで品定めをし、梱包まで済ませておきましたよ」 (メロ…ん?) ギギィ…と、朱儁が孫堅を見上げる。 「今、なんと…?」 「? ですから、後はもう運ぶだけだと」 「なっ……!!」 ズギャーン! 朱儁の全身を雷撃が貫く。 (なっ、なんですってぇえええええ!!!) 心で叫ぶとともに、朱儁はその場に崩れ折れた。 「どうなさいました? 朱儁先輩? 先輩?」 どこか遠くで、孫堅の声が聞こえる。 薄れゆく意識の中で、しかし、朱儁は永遠の誓いを立てたのである。 (孫堅め…いつの日か思いっきりこき使ってやるぅう! この恨み…晴らさでおく…べき…か……) 「先輩? 先輩ー!?」 そんなこととは露知らず。孫堅は呼びかけ続けたのであった。 数ヵ月後。黄巾事件が勃発すると朱儁は孫堅を帷幄に招き宿願を果たすが、 それはまた別のお話である。
56:★惟新 2004/01/20(火) 21:09 ☆★ 皇甫嵩 ★☆ 風が、少し砂っぽい。 漢陽に降り立って、最初に感じたのはそれだった。 ふいに圧迫感を覚え、思わず立ち止まる。 そこへ、何かが投げ込まれた。 「何者!?」 反射的に掴むと、それは竹刀。 「これは一体…」 突如現れる“気”。 すぐに構え、摺り足で周囲をぐるりと見渡す。 「……上か!」 朝日を背に跳躍する肢体。その顔には覆面。 地に落ちたかと思うと、それは驚異的な速さで迫って来た。 気合を一閃。 「チェストオオ!!」 ざっ。 あと一歩踏み入れば打ち込む、というすんでのところで、覆面は後方へ跳んだ。 しばしの睨み合い。そして。 「……恐れ入りました。さすがは、音に聞こえた剣の達人です」 覆面は無防備だが、皇甫嵩は残心したまま。 「何ゆえの狼藉か」 「二の太刀要らずの剣」 自らの覆面に手を掛け。 「その二の太刀とやらを、見てみたかったのです」 「……ほう」 現れた姿は、まさに美丈夫だった。 皇甫嵩自身もかなりの長身であり、密かに“ミスター蒼天”などと呼ばれていたりするが、 しかし、相手のそれは上回る感すらあった。 その相手が、長躯を曲げて膝を折った。 「ご無礼の段、何卒お許しください。私は中等部3年、傅燮と申します」 そこではじめて、皇甫嵩は竹刀を納めた。 「そうか、君が傅燮か。噂には聞いていたが、ずいぶんと無茶をする」 仕事振りには定評があるが、なかなかの問題児。 盧植からはそのように聞かされていた。 「それで、気は済んだのか?」 「はい。これで、心置きなくあなたの指揮に従うことが出来ます」 そう言って、再び傅燮は長躯を折った。 皇甫嵩は溜息をつき、 「小癪な物言いをする」 竹刀を手渡し、苦く笑った。 注文のイチゴを受け取っていたときだった。 「おや。あなたは、もしや皇甫嵩様では?」 振り向くと、高等部の制服。 しかし生憎と、皇甫嵩にはその顔に見覚えが無かった。 「失礼。どこかで、お目にかかりましたか」 「いえいえ、私が勝手に存じ上げているだけでございます」 恭しく頭を下げる。 「私、韓遂、と申します。端役とは申せ、蒼天会でお役目を頂戴しております」 「ああ、そうでしたか。これは失礼申し上げた」 皇甫嵩もまた恭しく頭を下げる。 「ときに…」 韓遂。 「皇甫嵩様は、いかなるご用向きでこちらまで?」 「用向き、ですか」 お使いでイチゴを買いに、なんて言いにくいことだが。 「イチゴを運んでおります」 現場を見られてしまっては言い逃れも出来ない。 「そうですか、イチゴを」 「そうです、イチゴを」 言って、不適に笑いあう二人。 ふいに、韓遂の目が妖しく光った。 「皇甫嵩様ほどの大人物にイチゴを運ばせるとは、蒼天会も大したもので」 ジリ… 知らず、体が下がる。 直感が叫んでいた。この女は危険だ、近寄ってはならない、と。 皇甫嵩の異変に気付いたか、韓遂は和やかに笑って見せた。 「それでは、お気をつけて、イチゴをお運びください」 「ありがとう。私は気をつけて、イチゴを運ぶことにします」 笑顔を交わし。韓遂は踵を返した。 その背中、ウェーブのかかった長い黒髪を眺めつつ。 皇甫嵩は、恐るべき時代の到来を、予感せずにはいられなかった。 皇甫嵩、傅燮、韓遂。三人の運命は複雑に絡み合い、時代を創っていく。しかし、 それはまた別のお話である。
57:★惟新 2004/01/20(火) 21:09 ☆★ Party's Party! ★☆ 昼過ぎには、四人ともその役目を終わらせていた。 搬送を手伝ってくれた人たちにはそれぞれが丁重に礼を述べ、送り出したが、 呂布だけは、丁原が離さなかった。どうやら、今夜は泊めてやるつもりらしい。 皇甫嵩、朱儁、丁原、呂布の四人は、何となしに集まって、しばらく休んでいた。 「ああ、ちょうど良かった!」 そこへタタタ…と、盧植が駆け寄って来て、 「皆様、鄭玄先輩がお呼びになってますわ」 そう言って、ニッコリと微笑むのだった。 「ほう……」 皇甫嵩が感嘆の声を上げる。 その横で、鄭玄が誇らしげに胸を張った。 ウェディングケーキと見紛うような、巨大ケーキ。 まだ完成途上であったが、その大きさは並外れたものだった。 新年パーティ。 それも劉家の主催で、袁家をはじめとした超名門のお嬢様だけが参加を許されるという代物。 その目玉として鄭玄が依頼されたケーキが、これだった。 盧植は、いうなれば鄭玄の弟子。それで鄭玄に頼まれたのが、今回のことだった。 「これは、凄い…」 まだ溜息をつく皇甫嵩を、朱儁がつっついた。 「わかるのぉ? 芸術科目総崩れの、義・真・さ…ぐむ!?」 「…うるさい」 皇甫嵩に触角を掴まれ、朱儁はジタバタもがく。 それを横目に苦笑しつつ、盧植が鄭玄に話しかけた。 「最終的、球状のケーキになるんですよね?」 「そう! 我が渾身の『渾天儀ケーキ』は、そこではじめて完成するの!」 さらに一層、鄭玄は胸を張る…が。 「でもね、ちょっと困ったことになってて…」 調理場。 「なっ…」 「ふぇ…」 皇甫嵩、朱儁の両名が同時に声を上げた。 調理場には死屍累々。エプロン姿の女の子たちが、ぐったりとしている。 「あ、あの、これは一体…?」 目を丸める盧植に、鄭玄は。 「まったく最近の子は根性が無いのよ! あのね、言っときますけれど、私だって鬼じゃありません。 寸法の狂いも0,5ミリ、0,3度までは許したのよ!」 「…………」 一同絶句。 「そ・こ・で」 鄭玄はにっこりと笑った。 カチャカチャカチャ… 「何で私がこんなことを…」 三角巾にエプロンを着込んだ皇甫嵩が、泡立て器を握り締めてプルプル震える。 「ええー? 結構楽しいヨー?」 「いいよなお前はいっつも楽しくて!」 皇甫嵩が朱儁にマジつっこみをかます。 ピシッ! 痛そうな音に首をすくませれば。 「ほら、そこ集中して!」 彼女らの後ろでは、現場監督の鄭玄が手の内で鞭を弄んでいた。 一方、会場では盧植の指揮の下、5、6名ほどがケーキを組み立てていた。 「もうちょい右、右!」 「こ、こうか…?」 呂布に肩車をしてもらって、丁原が高いところの飾り付けをしている。 盧植はそれを盗み見ては、嬉しそうに笑うのだった。 「し、死ぬー」 「…………」 はじめの元気はどこへやら、朱儁はバッタリと倒れた。 その横で、皇甫嵩も膝をつく。 3時間に及ぶ苦闘の果てにやっと解放され、二人は休憩室へと入った。 そこでしばらく休息していると。 バタン! 物凄い勢いでドアが開く。 「!?」 二人は跳ね起き、入り口に向かって構える。 …入ってきたのは、盧植。 盧植は困ったような笑顔で、小さく手を振った。 「……ん?」 朱儁は目を瞬くが、よく見ると…盧植、浮いてる? 視線を上に戻すと、盧植は襟首を掴まれていて…その後ろには… 「い、威明姉さん……?」 それは間違いなく皇甫嵩の姉、皇甫規であった。 室内に入ってくるなり、盧植を降ろす。 「は、はは…」 そのまま床にへたり込む盧植。 皇甫嵩は息を呑み、 「姉さん、なぜここに…」 「義真」 「は、はい…」 一呼吸。 「あんたよくもこのあたしから逃げ回ってくれたわね!?」 「あああああいやいや、落ち着いて姉さん!!」 「何が落ち着いてですって!? あんたね、うちにもこのパーティにお誘いがあったのよ!? あたしはもう引退したから代わりにあんたに出てもらうつもりでいたのに… それなのにあんたときたらあたしの顔を見るなり!!」 「そ、それはその…ほら、姉さんも受験で」 「おだまりっ!!」 皇甫嵩、打つ手なし。 朱儁は身を縮め、こっそり部屋から抜け出そうとしたものの… 「どこに行くのかしら? 公偉ちゃん?」 お姉さまに触覚を捕まえられてしまい、観念したのか黙ってひたすら涙を流す。 「さあ義真、あんたも観念なさい… いまならフリフリのドレス一日の刑で済ませてあげるわよ…!」 「!?」 皇甫嵩は色を失い、歯噛みする。 (本当に、本当に何も打つ手は無いのか!?) ……皇甫嵩は、覚悟を決めた。 「たとえ、及ばずとも」 ゆらり、立ち上がる。 「戦って倒れるは、剣士の誉れっ!」 叫び、得物を取り出す。 (今の私には、これしかない。 だが、私たちはあれだけ苦しい修羅場を戦い抜き、生き残ったのだ!) その得物――泡立て器が、鈍い光を放つ。 「ふふん。面白い!」 ゴゴゴ… 皇甫規の全身からオーラが立ち上り、それが竜を形作る。 対峙する皇甫嵩からもまた虎が生まれ、竜虎もまた相対する。 廊下の外。 そこには、何か面白そう? と、丁原が来ていた。 「すごーい! 修羅場だよ呂布ー!」 と、呂布の背中で、のんきにはしゃぐ。 (何という…力だ…) 巨大な二つの気に、呂布も思わず全身の血が滾る。 (戦いたい! 私も、戦いたい!) その体から壮絶な気が発せられ、やがてそれは鬼神を… 「何お前まで燃えとんじゃ!」 耳元で大声を出され、呂布はハッと我に返った。 ――結局。 皇甫嵩は三日間、フリフリドレスの生活を余儀なくされたのであった。 ━━━━━━━━━━━━━おしまい。━━━━━━━━━━━━━━━
58:★惟新 2004/01/20(火) 21:22 すみませんすみません…_| ̄|○ 一度やりたかったんす、この四人の話… 気がつくといやに長い話になってしまいました(^_^;) このカルテットってもうすでにキャラが立ってましたから、 そのおかげですごく動かしやすかったですし、楽しゅうございました。 …とはいえ、他人が読んで楽しい作品になれたとは限りませんが… さて、告知です。 祭りは明日、つまり21日で一旦終わらせようかと思います。 もちろん、>>2にもあります通り、もしお作りになられてましたら たとえ22日以降でもこちらに投稿されてかまいません。 運悪く祭りに間に合われなくとも、もし、お作りになられたのでしたら、ぜひ、発表を!
59:★惟新 2004/01/20(火) 21:51 >雪月華 な、何ですと!? なんというご不幸… いやいや、祭りを盛り下げるなどとお気になさらず! 雪月華様のお気持ちは察するに余りあります…が、 充電&冷却期間、ですか… どうしても、と言われるのでしたら仕方ありませんが… 私たちはいつでもお帰りをお待ちしております。 桜の花の散る頃、もしくは桜の葉の散る頃。 どうかその頃には、こちらにお帰りくださりませ。 さらにパワーアップした雪月華様を、心の楽しみにお待ち申し上げております。
60:★惟新 2004/01/20(火) 22:01 >おーぷんえっぐ様 本気でワラタ!! お腹痛いですってば〜!! そもそも着想が素晴らしい! 私だったら絶対思いつかないですよ! いやいや、気が付くとお祭りの趣旨自体が いわゆる「萌え」とは違うところに行ってますんで、ご心配なく(^_^;) そもそも私個人は「萌え」を一般的な色気とか、可愛らしさに限定するつもりはなく… たとえば”偉大なる呪い!”のキャラたちも、物語も、私には十分「萌え」に感じるわけで… もちろんこれは新しい言葉ですし、概念ですから、色々と難しいんですけど(^_^;) >ヤッサバ隊長様 グッジョブ!! お代官様な張飛ってばもう何てことを… 妙にしおらしくやられる泥酔魏延に(;´Д`)ハァハァ まさかその挙句楊儀に…なんて、魏延にしてみれば一生の恥辱! これはさぞや恐ろしい復讐劇が始まることでしょう…(^_^;)
61:那御 2004/01/20(火) 23:52 >雪月華様 ぬぅ・・・PCの昇天は、避けられないこととはいえ、 突然のご不幸・・・お心お察しします。 我々はいつでも、お待ちしておりますので、じっくり充電&冷却なさって下さい。 >おーぷんえっぐ様 呪いだ!これは絶対に呪いだ(何)! いや、爆笑ですよw。1ページの横○の顔の時点で呼吸不可となりましたw 「萌え」の要素に関しても、我々がイィ!と思えば、 それが「萌え」になるのではないでしょうか?
62:那御 2004/01/21(水) 00:07 >ヤッサバ隊長 魏延がぁ!Σ( ̄□ ̄; 泥酔魏延、脅威の人材揃いの帰宅部連合に屈す!w そして楊儀が・・・怖い・・・なにより、後が怖い。 簡雍も、回収される前に一部を回していたり・・・ >惟新様 グッジョブ! 各章に、後漢ズ4人のエピソードに関わる小ネタがあり、 どういうパーティなのか?と思っていたところ、姉さん登場w! 嗚呼、哀れ義真、公偉、子幹は威明姉さんに捕縛・・・ 皇甫嵩のフリフリドレス・・・(;´Д`)ハァハァ
63:★ヤッサバ隊長 2004/01/21(水) 17:52 >惟新殿 後漢カルテットマンセー(w 後に歴史を動かすことになる大人物達の、雄飛前夜のエピソードを見事に描いておりますな。 それにしても姉さん恐ろしすぎ…この人が引退する前に黄巾事件が勃発していたらどうなっていたやら(^^; また、公偉タンの触覚がとても上手い具合に使用されており、その辺も萌えポイントか。 >おーぷんえっぐサン もう、全編うち回りながら笑いつづけてました(^^; そう言えば、ゴ●タ版の皇甫嵩ってば、やけに小物っぽいキャラとして描かれてましたけど…(^^; 無双3での皇甫嵩が総大将のクセに情けないのは、その影響アリ?(^^;
64:★ぐっこ@管理人 2004/01/21(水) 23:52 旭記念特別短編集 サタデイ・ナイト ■悪魔襲来 「それ」は、突然に襲ってきた。 午前3時過ぎ――。 不寝番の高等部生以外、全員が寝静まっている深夜。 「それ」は、何の前触れもなしに、呉匡へ襲い掛かってきた。 最初は、激痛。物凄く重く、鈍い激痛だった。 (え――?) 呉匡の意識はその瞬間に覚醒していた。 しかし、夢の世界から現実へ意識がスイッチする間にも、激痛は醒めない悪夢のように 酷さを増していた。 (な、何、これ――っ!?) 思うよりも先に、第二波。剥き出しの筋肉を鉤爪で引きちぎられる、信じられない程の 痛み。いや、痛みなんてものではなかった。 「ア……ア……! ア…ッ!」 もう訳がわからず、ただ激痛から逃れようと、呉匡は自分でも気がつかないうちに、絶 叫していた。 正確には、呉匡はこのときの自分の声で、はっきりと目覚めたといえる。 「何!?」 「どうしたの!?呉匡さん!?」 呉匡の二人のルームメイトが、同時にはね起きた。 すぐに真っ暗な部屋が、急に明るくなった。 二段ベッドの上段で、呉匡は身をよじらせて激痛から逃れようとしていた。 大声を出したら、痛みが治まるどころか、意識がハッキリしたせいで、余計に非現実的 な激痛が呉匡を襲ったのだった。 「どうしたの!? どこか痛いの!?」 梯子から身を乗り出すようにして、呉匡へ声をかける袁紹さん。 しかし呉匡は、うなずくことも出来ず、陸揚げされた海老のように、体を丸めて身悶え するだけだった。 「お腹?お腹なの!? 大変、救急車を呼ばないとっ――!」 いささか取り乱した様子で言う袁紹さんに、ようやく呉匡は、小さな声で伝えることが できた。 「あ…し…が」 「――え?」 「あし、つった…すごく…!」 「足…?」 「あ――.こむら返りだな、呉匡たん」 と、許攸さんが一段目のベッドに乗っかって、呉匡の寝るベッドの手すりごしに、呉匡 が抑えている部位を見て言った。 そう。 呉匡は、ふくらはぎの筋肉を押さえて、七転八倒していたのである。 「――驚かさないでよ、全く、大げさなんだから」 袁紹さんがはーっとため息をついている。 でも、そんなことを言われても。 本当に痛いんですってば。さっきよりは、幾分か楽になったけど、ふくらはぎの筋肉を 引きちぎる様な痛みは、まだ続いているのだ。 「ありゃあ、大げさじゃないよ。袁紹はなったことないの?」 「幸いにね」 袁紹さんは、許攸さんからひったくった家庭医学辞典でこむら返りの項を探してくれて いた。許攸さんは脱線して別の病気を読み耽っていたようだ。 「――ふうん、足の指を引っ張ってふくらはぎを伸ばす…か。やってみる? 呉匡さん」 「絶対無理!」 涙声で訴える。呉匡のふくらはぎの筋肉は、もうガチガチに収縮してめいいっぱい上に 引き上げられている。引っ張るとか伸ばすとか、想像するだけで気を失いそうだ。 「うーん、こりゃ元に戻るの、二日はかかるなあ。今日は大人しくしとかなきゃ」 許攸さんが、ふたたび二段ベッドの呉匡の様子を見て、重々しく言った。 「え…じゃあ、今日のパーティは?李膺さまとのダンスは?」 「少なくともダンスは無理」 「そんなあ…痛あっ!?」 慌てて立ち上がりかけた呉匡は、再び炸裂した激痛にもんどりうって転げまわった。 時計は、午前4時を指そうとしている。 ――この日は、学園の創立記念式典のある「旭日記念」の最終日であった。
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