【1月18日】旭記念日創作発表スレッド【お祭りワッショイ】
133:★教授2005/01/23(日) 12:46AAS

 ――更に1時間後

「お待たせー」
「また随分と時間が掛かったわね…」
 お盆に御粥と付け合せの漬物を乗せた簡雍を見てぽつりと呟く。確かに御粥だけなら1時間も掛かるまい。
「いやー。何を付け合せようかと酒飲みながら考えてたら、何時の間にか酒に没頭しちゃっててさ」
 赤い顔で笑い飛ばす簡雍。酒気を帯びているのは一目瞭然だった。
「もう…病人をほったらかしにして飲酒なんてとてもメイドのする事じゃないわよ」
 上体だけ起こして溜息を吐く法正。
「ま、このだだっ広い世の中にこんな不良メイドが一人くらいいてもいいんじゃない?」
「自分で言うかなー、そういう事」
 盆を受け取りながら苦笑いする。私がふーふーして食べさせてあげよっかとか発言した簡雍を無視して一口掬って口に入れる。よく噛んで嚥下する…ちょっと驚いたような意外そうな表情をする法正。
「あら…美味しい…」
「当たり前じゃん。憲和ちゃんの手作りなんだからね」
「…やるわね…うっ」
 胸を張る簡雍、そんな胸元を見て呻く法正。コンプレックスは健在のようだ。
 その後は歓談を交えながら食を進めていく。気が付いたら全て平らげてしまっていた。若干調子が良くなっているのかもしれない。
「ごちそうさまでした」
「はい、お粗末さまでした…と。何か随分良くなってない?」
 そっと手を伸ばして法正の額に触れる。法正も害意がなさそうなのは分かっていたので目を閉じてされるがままだ。
「熱は…下がってるなぁ。他は何ともない?」
「うーん。ちょっと気だるい感じがするくらいかな…これなら明日は大丈夫かも」
 目を閉じたまま自覚している症状を報告。と、次の瞬間…自分の唇に何か柔らかくて暖かい物が触れた。
「な、何…え、何かした?」
 驚いて目を開ける法正。別段その場から動いている訳ではない簡雍に問いかける。
「別に何もしてないけど…どうかした?」
「え…い、いや何でもない…」
「ふーん。それならいいんだけど…洗い物してくるね」
「あ…お、お願い…」
 盆を持って再びキッチンへと足を運ぶ簡雍。そんな後姿を見ながら自分の唇に指先を宛がう法正。
(今の感触…ま、まさか唇…? い、いや…憲和は動いてなかったし…え、じ、じゃあ何よ…あれは…)
 髪を掻き毟りながら塞ぎ込む。禁断の想像(妄想?)を思い浮かべては赤くなったり小さく暴れたりと忙しい。そんな法正の姿をちらちらと見てる簡雍がキッチンにいた。
(指先を唇に触れさせただけであそこまで悩むなんてね…愛いわ…ホント)
 簡雍は蛇口を捻り水を止めると、手を拭きながらしたり顔だった。

 その日、簡雍は法正の部屋に泊まりこんだ。どうやらお泊りセットも用意してきていた様で法正も呆れ返って物が言えなくなってしまい、唯々首を縦に振るだけだった。
 そして簡雍は本当にお見舞いと家政婦をやりにきただけで被害自体ほとんど被らなかった法正は就寝前に心の中で疑ってごめんと謝っていた。
 翌日――

「げほ……法正…だるいよぅ…」
「ホント、憲和もお約束な事するわね…何で伝染るかな…」
 昨日、法正がいた場所に簡雍が寝込んでいる。熱も高めで全く身動き取れなくなってしまっていた。そして、法正はと言うと完全に復調して朝から元気だった。
「授業始まるから…行ってらっしゃい…」
 しっしっと手をひらひらさせながら布団に潜り込んで丸くなる簡雍。ドアを開ける音が聞こえたので行ったんだなーと思い目を閉じる。
 しかし、暫くするとまたドアが開き足音が聞こえてきた。そっと布団から顔を出して確認する…その光景に目が点になってしまう。
「な、何してんのさ…法正」
「何って…昨日のお礼。借りを作ったまんまじゃ寝覚め悪いもん」
「い、いや…それは置いといて…。その格好なんですけど…」
「これ、結構暖かいし。…似合う?」
 くるりと一回転してスカートを靡かせる。昨日、簡雍が着ていた作業服を今日は法正が着ていたのだ。スカートの両裾を指で摘みあげると恭しく頭を垂れる。
「不束なメイドですけど、よろしくお願いします………なーんてね」
 くすっと悪戯っぽく笑う法正に苦笑い一辺倒の簡雍。
「あ、頭痛くなってきた…好きにやってよ…もう」
 布団をかぶりなおして溜息を吐く。しかし、満更でもない表情だった…。
 机のカウンターがカタカタと音を立てて回っている。
 味気ないBGMを背景に今日も少し変わった一日が始まる―――

 
 物語を終える前に、もう一つの場面に切り替えよう――

「はぁ…今、何時かな…」
「うん、1時ね。…深夜の」
 李恢と伊籍は廃人寸前の表情で鬱オーラを放ちながら書類と格闘していた。ほったらかしにして帰ればいいのに――
 と、会議室のドアが突然開く。濛々と白煙を立ち込めて登場したのは…
「手伝いに来たぞ、諸君。私が援軍として来たからには何も心配する事はない!」
 その人の高圧的かつ高慢ちきな言動に顔を見合わせて溜息を吐く李恢と伊籍。
「今日は…帰れないね」
「明日はお休みね…これじゃ」
「何か言ったかな、御二方?」
「「いーえ、何にも言ってません…」」
 李恢&伊籍は諸葛亮に落胆しながら声を揃えた――

                      糸冬
1-AA