【1月18日】旭記念日創作発表スレッド【お祭りワッショイ】
179:7th2006/01/21(土) 15:42AAS
※※※このお話は、拙作『簡雍改造計画』の後日談っぽいものとなっております。
   未読の方には、しょーとれんじすと〜り〜スレッド413-415を先に読まれることを推奨いたします。※※※




未曾有の大捕物『簡雍改造計画』より、はや数週間が経とうとしていた。
あの後、法正が簡雍に三日間口をきいてもらえなかった、張飛と魏延が簡雍にやたらとつっかかっていた、劉備がこそこそとなにやら怪しい動きをしていた、関羽がブロマイドの焼き増しを頼んでいた等、もう一騒ぎあったのだが、今ではそれも沈静化し、帰宅部は以前と変わりない日々を取り戻しつつあった。
しかし変わった所が無かった訳ではない。特に顕著なのが、簡雍に対する皆の認識である。
端的に云うと、ファンが急激に増えた。
『簡雍改造計画』終了直後など、テンションMAXになった群集に、危うくお持ち帰りされてしまうところだった程だ。
その後も、あわよくば着せ替えをさせようとして虎視眈々と狙われたり、コスプレ同好会からしつこく勧誘されたり等色々あったのだが、現在は表面上沈静化し、小康状態を保っている。
そう云った訳で、最近の簡雍は実に用心深い。元々勘は鋭い方だったのに加え、いつ何時襲われるか分からない緊張感が彼女にはある。今日も彼女は、スパイ並の用心をしつつ、学園生活を送るのだった。



夏の暑さは、残暑に変わりつつあった。
そんな中でも、今日も今日とて新聞部は編集作業。それに写真を提供している簡雍もまた、作業に追われていた。
部室の中には劉備をはじめ、関羽、張飛、法正、そして簡雍。それぞれが黙々と(若干一名、騒がしいのが居るが)己の作業に没頭している。
……十数分後、漸く作業が一段落したのか、簡雍が大きく伸びをしつつ、溜息を吐いた。それに遅れること数秒、法正もまた首の辺りをさすりつつ、椅子の背もたれに力いっぱい体を預けた。
「うっし、終わったよ玄徳」
「おう、ご苦労さん」
仕上がった原稿を劉備のところまで持ってきて差し出す簡雍。それを受け取ると、劉備は一枚一枚、問題が無いか目を通す。ぱらぱらぱらと原稿がめくられ、最後の一枚。
「……うん、特に問題は無いようやな。お疲れお疲れ」
「それは良かった。けど玄徳、アタシの頭の上に有る、あの金ダライが何なのか説明してもらえるかな?」
「何や、気付いとったか」
「気付かいでか。それと法正、その手に持ってるスタンガンはそこに置け。危ないから」
いつの間にか簡雍の背後に忍び寄っていた法正が、チッと舌打ち一つしてスタンガンを床に放った。
「…全く、最近大人しいと思ってた矢先にこれか。しかも手段が段々過激になっているような気がするんだけど」
「憲和が大人しく着せ替えさせてくれへんからやろ。初回であんだけ見事に逃げられとるしなぁ。並みの手段で何とか出来ん事を自分で証明しとる」
苦笑する劉備。それを見て簡雍は、やれやれと頭を振った。
「何でこうみんな、着せ替えが好きかね。アタシはお人形さんか?」
「だってみんなオンナノコやもんなぁ。憲和も昔やったやろ? お人形さん遊び」
「生憎とアタシは物心ついた時からコレばっかでね、そーゆーのはあんまり興味なかったの」
そう言って愛用のカメラを示す簡雍。彼女らしいといえば彼女らしい。
「まぁそう云うのは珍しいからな。普通の女の子は着せ替えが好きなモンよ。…ちゅー訳でゴスロリ着てくれんか?」
「何その不吉な単語! 全力で断らせてもらうわっ!」
言うや否や、脱兎の勢いで逃げ出そうとする簡雍。しかし、
「関さん! 出番やで!!」
「心得た!」
劉備の声を受け、簡雍の前に立ちはだかるは『武神』関羽。『戦姫』呂布が去った今、ここ蒼天学園における最大個人戦力の持ち主である。
「雲長、アンタもかっ!」
法正の脇をすり抜け、張飛の飛び蹴りを寸での所でかわした簡雍は、此処に来て最強の壁にぶち当たった。
何しろ隙が見当たらない。純粋にタイマンでの強さは張飛に一歩譲る関羽だが、張飛が気分により闘い方にムラがあるのに対し、関羽にはそれが無い。獅子は兎を狩るにも全力を尽くすのだ。
戦力で云うなら兎と獅子以上に比べ物にならない。なにしろ張飛を迎え撃ったあの時程度の装備が有るならまだしも、今武器と呼べるものは右手に構えたカメラのみ。とてもではないが、敵うものではない。
だが此処を突破できねば未来は無い。意を決して、簡雍は関羽の懐裡に飛び込んだ。狙うは関羽の左、利き手の逆方向。
「む……!」
大きめに迂回して逃走を図るだろう、と予測していた関羽が、肉薄してくる簡雍に一瞬虚を突かれた。
対峙した数秒の中で最大の隙。この機を逃さず、簡雍は姿勢を低く、最大速度を以て関羽の左側をすり抜け……その、左手を掴まれた。
強引に腕を引っ張られ、引き戻される簡雍。捕った! と誰もが確信したその瞬間、関羽の眼全に突きつけられた簡雍の右腕。その手の中には、スタンバイ状態になったカメラが。
必殺簡雍フラッシュ。全ての布石は、この一手のためだけに。
光が、奔る。

「今の一撃は見事だった、簡雍」
関羽は、不動だった。
カメラが眼前にある、と認識し、簡雍がシャッターを切るまでの刹那に、関羽は固く目を閉じていたのだ。
「…反則だろ、その反射速度は。人間業じゃ無いって」
関羽は答えない。代わりに返って来たのは、首筋に振り下ろされる鋭い手刀。
あっさりと、いっそ清々しいほど綺麗に、簡雍の意識は闇に落ちた。

「簡雍の捕縛に成功しました」
「言われんでも目の前で起こっとる出来事やって」
劉備のデスクの前に立った法正が律儀に報告する。どうやら今回の主犯もこの二人らしい。
「流石は関羽さん。あの簡雍をこうも簡単に取り押さえるとは」
「関さんは鬼札(ジョーカー)やからな。こう云う時でもないと使わんわ」
「ほぅ、今回は何か面白い趣向でも?」
「とびっきりのやつがな。…ところで法正、上、見てみぃ」
言われるままに頭上を見上げる法正。そこには、例の金ダライトラップが。まさか。
落下する金ダライ。遠のく意識。暗転する認識の片隅に、法正は劉備の意地の悪い笑みを見た……。



張飛が法正を取り押さえ、関羽が簡雍を肩に担ぎ上げるのを見届け、劉備はおもむろにマイクを取り出した。益州棟全てのスピーカーに直通するそれを構え、彼女はおもむろに、そして朗々と宣言した。

『只今より、第二回簡雍改造計画、及び法正改造計画を開始する!!!』

その声は、秋の気配を見せつつある青空に、高らかに響いた。



〜〜簡雍+法正改造計画〜〜



ゴスロリ。
正式に言うならゴシックアンドロリータ。主に黒を基調とした、レースやフリルで多く装飾された服の総称である。
少女趣味かつクラシカルな印象を持つそれらは、一部の人達から熱狂的な支持を受けている。

先ず受けた印象は人形か。それも、アンティークのビスクドール。
漆黒の生地に、純白のレースで施された装飾。首元には十字架をあしらった、銀のチョーカー。止めとばかりに頭の上にはヘッドドレス。
コケティッシュかつ小悪魔的な魅力を見せるのは簡雍。前回で証明されたことだが、素は結構良いので、基本的に何を着せてもそれなりに似合う。
一方、法正は対照的な純白のドレス。所謂白ゴスと呼ばれるスタイルである。簡雍のものよりゆったり目に仕立て上げられたそれは、フリルで出来たシフォンケーキを思わせる。
ゴシック分よりロリータ分を強調した、清楚な形。全体の印象として、法正にはこちらのほうが似合っているのかも知れない。
「うん、ええ感じや。二人とも似合っとるで」
にやにやとした笑いを顔に貼り付けている劉備。当然このファッションは、彼女のプロデュースによるものだ。
「…屈辱だ」
「うぅ、恥ずかしい…」
される側になってはじめて解るこの羞恥。法正、ちょっとだけ反省。
カメラのフラッシュを浴びて居心地悪そうに縮こまる二人。それを見咎めて、劉備が言う。
「二人とも、もっとにこやかにせぇ。今回は写真集にするんやからな」
「ちょっと待て」
「何ですかそれは」
不穏当な単語にすかさず反応する二人。
「学園祭で売って部費の足しにするんや。まぁ頑張って二人とも部に貢献して頂戴な」
悪びれもせずに答える劉備。この二人といえど、今回ばかりは彼女の掌の上か。
ひとしきり撮影も終わり、そそくさと下がっていく撮影陣を、憔悴した顔でぼんやりと見送る簡雍と法正。
まぁこれでこの羞恥プレイも終わると思えば、そんなに悪くは無い。解放される喜びで、表情も緩むというもの。
しかし、二人のその安心をぶち壊しにする発言が、劉備の口から飛び出した。
「よーし、テイク2準備! 今度は巫女服いくでー!!」
まさに爆弾発言。緩んだ表情が一気に凍りつく。
固まった二人を前に、劉備は悪魔的に微笑む。
「折角の写真集がゴスロリだけやと寂しいからな。もう何パターンか収録しとかんと、買ってくれる人に申し訳ないやろ。ちう訳でてきぱきと次いくで、着せ替え班よろしくなー」
劉備が指を鳴らすと同時、圧倒的人海に呑まれ、仮設更衣室へと連れ去られる簡雍と法正。途中、「覚えてろー!」とか「跡で報復ー!」とか聞こえてきたが、無視。所詮は負け犬の遠吠えである。
二人の受難は、まだ続くのであった。
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