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【1月18日】旭記念日創作発表スレッド【お祭りワッショイ】
24:★玉川雄一 2004/01/17(土) 23:01 吾粲の眼(8) 陸遜も含めて三人でまたいくつかのチームに顔を出してみたが、互いにその力量には感じ入るところがあったようだ。 普段は温厚そうな表情をしていながら、朱拠はここ一番で人が変わったような集中力を発揮する。 吾粲は日頃のトレーニングによって培われた基礎体力に加えて、飲み込みの早さが称賛を受けた。 陸遜はといえば既にユースでの活躍が知れ渡っており、三人は今や呉棟の期待の星として話題をさらっていたのだった。 「まったく、今からこれじゃいくら何でも気が重いよ」 一通り見学を終えて休息をとりつつ吾粲がこぼすと、朱拠がクスリと笑った。 「まあ、いざ本活動が始まったらちやほやするどころじゃなくなるだろう。今の内はありがたく受け取っておこうよ」 「そうね、本番は実力第一だから、名前だけじゃとてもじゃないけどやっていけないわよ。特に最近は、そういう風潮が高まっているみたい」 一足先に荒波に揉まれているであろう陸遜がしみじみと付け加えた。 なんでも、七光りやコネだけで実力不相応な地位にある者が、次々とその座を逐われているという。 長湖部自体が、そういった階層を打倒することで今の勢力を築いたのだそうだ。 「そういや、甘寧先輩もああ見えてその辺はよく分かってたから、あんな事を言ったんだろうなあ」 デモンストレーションの際の一件で、姉の敵討ちに逸る凌統に啖呵を切った光景は今でも鮮明に記憶に焼き付いている。 思わず頷いた吾粲だが、陸遜は実に微妙な表情で苦笑した。 「まあ、あの言葉に関しては正しいわ。でも気を付けてね、甘寧先輩は相当付き合いづらい方だから」 色々とワケアリでね、と声を潜めて付け加えた。 「…ああ、何となく分かる気がしたよ。しかし部長もよくコントロールしているな」 朱拠が視線をやった先には、長湖に繋がる水路を出てゆく船団の姿が映っている。 大漁旗もかくや、と見まがうばかりの豪奢なセイルを翻し、ドラを乱打しながら疾走してゆくのはまさしくかのチーム“錦帆”だった。 「彼女の場合は、むしろ呂蒙先輩が一番の押さえ役でね。ほら、あの時もいたでしょう?」 陸遜が言っているのは、あのサイドポニーの先輩のことだろう。外見からは想像も付かない度胸の良さが印象的だった。 あの人も色々あったみたいだから、と陸遜。人は見かけに寄らないということらしい、 「でも、みんな個性的で楽しい所よ。早くあなたたちとも一緒に活動したいわね」 吾粲と朱拠は視線をかわして頷きあう。心強い仲間を得て、期待に胸は膨らむばかりである。 −と、そこへ今日のイベントの終了を告げるアナウンスが鳴り響いた。 『本日は皆さんのご参加ありがとうございました。新年度にまたお会いしましょう!』 その言葉で締めくくられると、誰からともなく拍手がわき起こった。 少々のハプニングは起こったが、全体的には大成功と評して差し支えないだろう。 招いた側、訪れた側のどちらにおいても、その多くが確かな手応えを感じていた。 そしてここにもまた一人。たった半日で数え切れないほどの出会いを重ねた吾粲は、今では参加したことに心の底から満足していた。 願わくは顧邵にあってもう一度お礼を述べたかったが、帰路についた生徒の大移動が始まっており、今から探し出すのは相当困難に思われる。 (そういえば、同じ棟なんだからまた会える、って言っていたよな) そう考えると、陸遜や朱拠ともまた然り。ユース参加者の招集がかかった陸遜と、 従姉の朱桓のもとに顔を出してゆくという朱拠とはそれぞれ再会を約して別れたが、 これからの日々を考えると俄然やる気が満ちてくるのだった。 ……私にも、こんな学園生活が送れるんだ。 今までの自分に不満があったわけではない。でも、今にして思えば刺激のない平板な日々の繰り返し。 望んでそれを求めるほど性格が変わったとも思わないが、谷もあれば山もあるという密度の濃い一日も 過ぎ去ってしまえば良い思い出になりそうだ。これからの三年間、新しい仲間とならばきっとやってゆける… 今は夕陽に照らされたあの堤防を駆けながら、吾粲の眼は活き活きとした輝きを放つのだった。 出会いの場所を、いま一人の少女が歩いてゆく。傍らには最愛の姉。 「でね姉さん、今朝ここで、孔休さんと出会ったのよ」 「……そう」 「やっぱり、何かに真剣に打ち込む眼って素敵よね。私、すぐに分かったわ。彼女はきっと大きくなれる、って」 「…孝則なら、きっとそう言うと思った。あの娘、いい眼をしていたもの…」 「あはっ、姉さんのお墨付き!? ふふっ、早速明日教えてあげなくっちゃ!」 自身に残されたそう長くはない時間を駆け抜けるように、顧邵は彼女らしいステップを踏んでゆく。 その姿を見守っていた姉は夕陽に染まった長湖に視線を転じると、 随分先まで行ってしまった妹が呼ぶまでの間、寄せては返す波を無言で見つめていた。 続く
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