【1月18日】旭記念日創作発表スレッド【お祭りワッショイ】
37:★教授2004/01/19(月) 00:01
■■ 休日の過ごし方 ■■


「休みってのは貴重なワケで…日々勉学や課外活動に追われて疲弊しきったからだと心を癒してくれるかけがえのない時間なのよね」
「そうですね」
 切々と熱弁する簡雍、にこにこと聞いてるビ竺。
 時間は昼前、場所は寮の廊下。簡雍とビ竺の他にも一般の女子生徒達の姿も見うけられる。
 冒頭で簡雍が言ってる通り、今日は休日。他の女子生徒達と同様に二人も私服で、いかにもこれから出かけますと言わんばかりである。最も勝負用の服であるはずもないが。
「休日を有効にかつ体と心に負担をかけない為には必要なものがあるの…そう必須と言ってもいいね」
「はぁ」
 端から見ると簡雍の独り言のようにも見える変な会話。ビ竺が最低限の相槌しか返さないからなのだが。少し眠たそうな目で話を聞いてるのかどうかも怪しい。
「だけど、私にはその必要なものが今…欠けてるの」
 ぐっと握り拳を作って悔しそうな顔をする簡雍。次の言葉を発そうとした時、ビ竺が口を開く。
「お金なら貸しませんよ」
「うぇ?」
 簡雍が出鼻を挫かれて言葉を詰まらせる。大方そんな事だろうと予想できていたとは思うのだが、これも御愛嬌。
「そんな殺生な事言うなよー…新しいデジカメ買ったから懐寂しいのよー…」
「そんな事言われても貸せません。第一、休日があるのは分かってたはずですし…計画性の無さが招いた自業自得ですよ?」
「そ、そこまで言う事ないじゃん…」
 ビ竺の正論に打ちのめされる簡雍。ノープランな自分を自覚してるだけに言い返す言葉もないようだ。
「それに…外に出なくても遊んでくれる友達がいるのでは?」
「そんな奴いな…いるわ。サンキュ!」
 否定しようとしたが、脳内に該当する人間を見つけたようだ。嬉々とした顔で廊下を疾走していく。
 一人残されたビ竺は眠そうに目を擦るとふらりと踵を返して壁にぶつかっていた――


「へへー…法正いるー?」
 部屋の前に立ちノックをする簡雍。しかし、返事は返って来ない。
「ありゃ? 留守かな…鍵掛かってるし」
 がちゃがちゃとドアノブを回す、しかし押せども引けども微動だにしないドア。少し考えるような素振りを見せると、簡雍は懐からある道具を取り出した。
「緊急だからねー」
 周囲に人気が無い事を確認するとおもむろに鍵穴に何かを差し込んで二度三度と動かす。まるで手応えを探るように鍵穴をいじるその手は職人級の動きだった。
 程無くして、差し込んだ何かを抜くとドアノブをゆっくりと回す――軽い軋みが聞こえ、ドアが開いた。簡雍が何をしたかは説明できないが、良い子は決して真似をしてはいけない事は確かだ。
「ほーせー…?」
 そろりそろりと泥棒ステップで部屋に侵入する準犯罪者。ドアをゆっくりと閉めると鍵を掛ける。音を立てないように最小限の動きを展開しながら部屋を探索し始めた。
「まず手始めに…寝てないかなー?」
 静かに移動する簡雍、目的地である寝室をちらりと覗く。二段ベッドのシーツは上段下段共に綺麗に整えられていた。誰もいない事は目に見えて明らかだ。
「何処かに潜伏してるって事は…」
 大して広い訳ではないが隠れられそうな場所を徹底的に調べ始めた。クローゼット、浴室、トイレ…冷蔵庫の中も調べて自分にツッコミを入れる。ノリツッコミも好きらしい。一通り調べ終わると安心したように急に態度がでかくなる簡雍。
「なーんだ、本当に留守なんじゃーん。遠慮して損した」
 普通は遠慮云々以前に勝手に鍵を開けて部屋に侵入しないものなのだが、彼女にはそんな定説など通用しない。
 くるりと部屋を見ると、いきなり箪笥の引き出しに手を伸ばした。
「ふーん…寄せてあげるってヤツかな、これ。うわっ、これなんてやらしー…」
 どうも下着を漁っているようだ。一層危険度が増す簡雍、休日だからテンションが高くなっているのだろうか?
 下着を元通りに直すと今度は洗濯機の中を調べる。簡雍は本日最も危ない女になってしまったのかもしれない。ちなみに残念ながら法正は几帳面と言うかごく普通に洗濯物を溜め込まずにちゃんと洗って干しているようで洗濯機の中には靴下一足すら入ってなかった。
 それから十分余り部屋を物色し尽くした簡雍は、この部屋の最大の目玉とも言える代物を遂に発見していた。
「これは…日記だな! よーし…この憲和様が直々に拝見してやる!」
 法正のプライベートなど最早この女には関係ないようだ。
 記念すべき1ページ目を閲覧しようとした時だった、簡雍の耳に鍵を開けるような音が飛びこんだのは。
「やべっ…帰ってきた!」
 逃げ場のない簡雍。日記帳を元あった場所に戻すと素早く二段ベッドの下に潜り込んだ。この部屋で隠れられる場所もしっかり把握――退路の確保とまではいかないがしっかりしている。
 丁度タッチの差で法正が部屋に入ってきた。右手にはネギが突き出た買い物袋、左手にはティッシュの箱を持っている。きっと特売か何かだったのだろう、生活感溢れる姿だ。
「ふー…」
 荷物を下ろして大きく一息。首を左右に振ってこきこき鳴らすとテキパキとした動きで食料品を冷蔵庫に片付けた、実に手際が良い。
 再び簡雍の潜伏している部屋に戻ってくると、椅子に腰掛ける。そして、普通に口を開いた。
「憲和。どーやって入ったのか知らないけど、出てきなさいよ」
「…何でバレたの?」
 いないフリを通すでもなく、簡雍がのそのそとベッドの下から這い出てきた。
「あのねぇ…玄関に見知らぬ靴があったわよ。こんな事すんの憲和しかいないじゃない」
 怒るのもバカらしいのか苦笑いすら浮かべている法正。
「流石は法正だね…伊達に寄せてあげるブラを愛用してないわ」
「し、下着は関係ない! …ってか、見たの!?」
「ぐぇっ」
 簡雍の嫌味の聞いたジョークは法正の首絞め攻撃を招く事になってしまった――


 日も沈み、月と星が広がる時間。法正の部屋――

「あのさー…何でまだいるわけ?」
「んー…? 戻るのもだるいから今日はここに泊まるー…」
「泊まるの? もー…金取るよ?」
 キッチンから法正の声、二段ベッドの下段からは簡雍の声。昼過ぎからずっと居座っているようだ。法正が卵焼きを返し、サラダを盛りつけてテーブルに運ぶ。二人分から察するに夕食は食べていけという意志表示なのだろう。
「金ないから体で払うよー。たっぷりサービスするから」
「帰れ」
「冗談だってば」
 漫才をやってるつもりはないようだが、漫才のようなやり取りになる。絶妙な間は見事なものだ。法正は諦めたのか簡雍のお泊りを許可してキッチンに戻る。簡雍も法正に次いでキッチンに入ると冷蔵庫を開いて缶ビールを取り出した。
「いつの間に…」
「ここに侵入した時に入れておいたの」
「…最初から泊まるつもりだったのね」
「まーね。法正の分もあるから出しとくね」
 簡雍は缶ビールを二つ手に取って椅子に座る。法正も物申す事も無いようで苦笑いすら浮かべていた。
 程なくしてテーブルの上に味噌汁と卵焼きと塩鯖が並ぶ。サラダを除けば古き良き日本の料理。法正、意外と和食好きなのかもしれない。ごはんを盛って椅子に腰掛け、食事が始まる。ここからは少し二人の会話に集中してみたい。

簡「おー…この味噌汁美味いね」
法「そう? 味濃くない?」
簡「これくらいがいーんだって。私のトコに嫁いでこない?」
法「やだよ。私、それなりに普通の人生歩みたいもん」
簡「話変わるけど…今日って何で休日だったわけ?」
法「えーと…確かこの学園の設計が完成した日らしいよ」
簡「へぇ…こんな複雑な学園を作った人ねぇ」
法「名前は確か…あさ…」
簡「待った、それ以上は言うな。放送コードに引っ掛かる可能性が非常に高い」
法「私ったら何を言おうと…危ないトコだったわ…」
簡「誰にでもある事さ。…ごはんと味噌汁、おかわりー」
法「はいはい」

 法正手作りの夕食を食べながら二人の会話。笑ったり怒ったりと一定に定まらない表情、とても楽しそうだ。
 やがて夕食も終わり、法正が食器を洗い始める。その間に簡雍が汗を流しに浴室に入っていた。ちなみに簡雍から『一緒に入る』とやや危険な香りのする発言があったがやんわりと法正が断わるという場面もあった。鼻歌混じりに食器を洗う法正、エプロンが似合う。丁度食器を洗い終えた頃に簡雍が髪を拭きながら浴室から戻ってきた。その姿を見た途端、法正が慌てふためく。
「ち、ちょっと! パジャマ用意したのに何でバスタオル一枚巻いてるだけなのよ!」
「えー…いつも風呂上がりはこーなんだけど…」
「ダメー! ちゃんと服着なさいよ!」
「ちぇー…」
 ぐいぐいと法正に押されて渋々浴室に逆戻りする簡雍。何とも無頓着で無防備な事である。衣擦れの音が浴室の方から聞こえてくる、その音を聞いて法正もちゃんと着ようとしてるんだなと思っていたが…
「法正ー…胸きついー…」
「………我慢!」
「そんな事言ってもー…あ、ボタン飛んだ…」
「〜〜〜……!」

 ――その後、泣きそうになるのを必死に堪えながらパジャマのボタンを繕う法正の姿が部屋の隅にあった。
「シャツも胸きついんだけど…」
「文句言うなー…」
 簡雍が文句を言うのは控えた方がいいと思うが、文句も言いたくなる。自分のサイズに合わせて肌着、寝巻きを購入するのが普通。法正と簡雍も体格的にはそう差はないのだが、残念な事に胸のサイズだけは違っていたのだ。可愛そうな程に伸びた猫のプリント、最早猫として見る事は難しい。
「動きにくい…」
「ぶつぶつ文句言わないでよ! ほら、もう寝る!」
 これ以上心にダメージは負いたくない法正が部屋の明かりを強制的に落として二段ベッドの上段に上った。仕方なく簡雍もベッドの下段に横になる。目を閉じ寝る態勢に入ると徐々に眠気が起こり、やがて小さな寝息が聞こえ始める。

簡「朝になったら起こしてねー…」
法「目覚まし付けてるわよ…」
簡「おやすみー…」
法「おやすみ…」

「……………………………………………………」

簡「…胸きつい」
法「…………」
簡「いてっ…輪ゴム撃つなよ…」
法「ふん………」
簡「……貧乳」
法「…………」
簡「痛いって…飛び道具は卑怯だよ…」


 眠気を呼んだり殺したりと楽しそうな二人。でも、十分もしない内に静かになった。

 休日はのんびり羽を伸ばす事も――
 休日は友達と一緒に楽しむも――
 それは人それぞれだけど、この二人には後者が一番いいのかも――
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