【1月18日】旭記念日創作発表スレッド【お祭りワッショイ】
57:★惟新2004/01/20(火) 21:09AAS
☆★ Party's Party! ★☆


 昼過ぎには、四人ともその役目を終わらせていた。
 搬送を手伝ってくれた人たちにはそれぞれが丁重に礼を述べ、送り出したが、
呂布だけは、丁原が離さなかった。どうやら、今夜は泊めてやるつもりらしい。
 皇甫嵩、朱儁、丁原、呂布の四人は、何となしに集まって、しばらく休んでいた。
「ああ、ちょうど良かった!」
 そこへタタタ…と、盧植が駆け寄って来て、
「皆様、鄭玄先輩がお呼びになってますわ」
 そう言って、ニッコリと微笑むのだった。

「ほう……」
 皇甫嵩が感嘆の声を上げる。
 その横で、鄭玄が誇らしげに胸を張った。
 ウェディングケーキと見紛うような、巨大ケーキ。
 まだ完成途上であったが、その大きさは並外れたものだった。
 新年パーティ。
 それも劉家の主催で、袁家をはじめとした超名門のお嬢様だけが参加を許されるという代物。
 その目玉として鄭玄が依頼されたケーキが、これだった。
 盧植は、いうなれば鄭玄の弟子。それで鄭玄に頼まれたのが、今回のことだった。
「これは、凄い…」
 まだ溜息をつく皇甫嵩を、朱儁がつっついた。
「わかるのぉ? 芸術科目総崩れの、義・真・さ…ぐむ!?」
「…うるさい」
 皇甫嵩に触角を掴まれ、朱儁はジタバタもがく。
 それを横目に苦笑しつつ、盧植が鄭玄に話しかけた。
「最終的、球状のケーキになるんですよね?」
「そう! 我が渾身の『渾天儀ケーキ』は、そこではじめて完成するの!」
 さらに一層、鄭玄は胸を張る…が。
「でもね、ちょっと困ったことになってて…」

 調理場。
「なっ…」
「ふぇ…」
 皇甫嵩、朱儁の両名が同時に声を上げた。
 調理場には死屍累々。エプロン姿の女の子たちが、ぐったりとしている。
「あ、あの、これは一体…?」
 目を丸める盧植に、鄭玄は。
「まったく最近の子は根性が無いのよ!
 あのね、言っときますけれど、私だって鬼じゃありません。
 寸法の狂いも0,5ミリ、0,3度までは許したのよ!」
「…………」
 一同絶句。
「そ・こ・で」
 鄭玄はにっこりと笑った。

 カチャカチャカチャ…
「何で私がこんなことを…」
 三角巾にエプロンを着込んだ皇甫嵩が、泡立て器を握り締めてプルプル震える。
「ええー? 結構楽しいヨー?」
「いいよなお前はいっつも楽しくて!」
 皇甫嵩が朱儁にマジつっこみをかます。
 ピシッ! 痛そうな音に首をすくませれば。
「ほら、そこ集中して!」
 彼女らの後ろでは、現場監督の鄭玄が手の内で鞭を弄んでいた。

 一方、会場では盧植の指揮の下、5、6名ほどがケーキを組み立てていた。
「もうちょい右、右!」
「こ、こうか…?」
 呂布に肩車をしてもらって、丁原が高いところの飾り付けをしている。
 盧植はそれを盗み見ては、嬉しそうに笑うのだった。

「し、死ぬー」
「…………」
 はじめの元気はどこへやら、朱儁はバッタリと倒れた。
 その横で、皇甫嵩も膝をつく。
 3時間に及ぶ苦闘の果てにやっと解放され、二人は休憩室へと入った。
 そこでしばらく休息していると。
 バタン! 物凄い勢いでドアが開く。
「!?」
 二人は跳ね起き、入り口に向かって構える。
 …入ってきたのは、盧植。
 盧植は困ったような笑顔で、小さく手を振った。
「……ん?」
 朱儁は目を瞬くが、よく見ると…盧植、浮いてる?
 視線を上に戻すと、盧植は襟首を掴まれていて…その後ろには…
「い、威明姉さん……?」
 それは間違いなく皇甫嵩の姉、皇甫規であった。
 室内に入ってくるなり、盧植を降ろす。
「は、はは…」
 そのまま床にへたり込む盧植。
 皇甫嵩は息を呑み、
「姉さん、なぜここに…」
「義真」
「は、はい…」
 一呼吸。
「あんたよくもこのあたしから逃げ回ってくれたわね!?」
「あああああいやいや、落ち着いて姉さん!!」
「何が落ち着いてですって!? あんたね、うちにもこのパーティにお誘いがあったのよ!?
 あたしはもう引退したから代わりにあんたに出てもらうつもりでいたのに…
 それなのにあんたときたらあたしの顔を見るなり!!」
「そ、それはその…ほら、姉さんも受験で」
「おだまりっ!!」
 皇甫嵩、打つ手なし。
 朱儁は身を縮め、こっそり部屋から抜け出そうとしたものの…
「どこに行くのかしら? 公偉ちゃん?」
 お姉さまに触覚を捕まえられてしまい、観念したのか黙ってひたすら涙を流す。
「さあ義真、あんたも観念なさい…
 いまならフリフリのドレス一日の刑で済ませてあげるわよ…!」
「!?」
 皇甫嵩は色を失い、歯噛みする。
(本当に、本当に何も打つ手は無いのか!?)
 ……皇甫嵩は、覚悟を決めた。
「たとえ、及ばずとも」
 ゆらり、立ち上がる。
「戦って倒れるは、剣士の誉れっ!」
 叫び、得物を取り出す。
(今の私には、これしかない。
 だが、私たちはあれだけ苦しい修羅場を戦い抜き、生き残ったのだ!)
 その得物――泡立て器が、鈍い光を放つ。
「ふふん。面白い!」
 ゴゴゴ…
 皇甫規の全身からオーラが立ち上り、それが竜を形作る。
 対峙する皇甫嵩からもまた虎が生まれ、竜虎もまた相対する。
 廊下の外。
 そこには、何か面白そう? と、丁原が来ていた。
「すごーい! 修羅場だよ呂布ー!」
 と、呂布の背中で、のんきにはしゃぐ。
(何という…力だ…)
 巨大な二つの気に、呂布も思わず全身の血が滾る。
(戦いたい! 私も、戦いたい!)
 その体から壮絶な気が発せられ、やがてそれは鬼神を…
「何お前まで燃えとんじゃ!」
 耳元で大声を出され、呂布はハッと我に返った。


――結局。
 皇甫嵩は三日間、フリフリドレスの生活を余儀なくされたのであった。


━━━━━━━━━━━━━おしまい。━━━━━━━━━━━━━━━
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