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【1月18日】旭記念日創作発表スレッド【お祭りワッショイ】
66:★ぐっこ@管理人 2004/01/22(木) 00:00 ■家族の肖像 (誰だろう?) あれこれ考えながら、呉匡は道を急いだ。急ごうにも、びっこを引きながらだから、た いしたスピードは出ないけれど。 廊下ですれ違った何人かの見知らぬ先輩がたが、肩を貸してあげようか、と声を掛けて くださった。お気持ちはうれしいけど、李膺さまや可顒さまのお申し出を断ったのに、他の 方の力を借りるなんて、呉匡の気持ちが許さない。丁重にお断りした。 もっとも、蒼天会内務局があるのはクラウド・タワーの7階なわけで、ロビーまでエレベ ーターで降りればいいだけの話だけど 豪華なロビーを抜けて、外へ出る。 雪こそ降っていないが、外は底冷えするような寒さだ。でも今日は風もなく、穏やかな 冬の陽光が空に満ちている。 振り返ると、クラウド・タワー。 司隷特別校区に転校してきて、このビルを仰ぎ見てから、もう半年以上経っていた。 あの時は、たしか、後ろからふいに袁紹さんが声を掛けてきて―― 「お姉ちゃんゲットぉぉおお!」 すぐ後ろで、だしぬけに元気のよい女の子の声。石畳を蹴りつけるローファーの音。 この気配は――! 考えるよりも早く、呉匡の体は正確に反応していた。 振り向きざま後ろから殺到する気配に向かって、無事な左足一本で跳躍! 人影はふたり。呉匡はためらうことなく、最初の一人目の頭を踏みつけて、さらにジャ ンプした。 「わたしを踏み台にした!?」 下で叫んでいるようだが無視して、もう一人目の眼前に着陸すると、すばやくでこピン を食らわせた。 「痛あっ」 倒れるふたり。 (やったか――!?) 気を抜いた一瞬―― 「甘ぁ――いっ!」 横合いから裂帛の気合。 「しまった!」 悔やんだ瞬間には、呉匡の小さな体は、脇から抱き上げられていた。 「まだまだ甘いわねー、匡ちゃん」 聞き覚えのある、甘ったるいハスキーボイス。 「お母さん!」 背中向きの「高い高い」状態から、身をよじって下を見おろすと、そこには中学生の娘を 軽々と持ち上げている、わが母の姿があった。 「何? アンタ脚挫いたの?」 「ええと、コブラがえり」 「こむら返り。どうせ前の日までダンスの練習してたんでしょ? で、整理体操しないまま シャワー浴びて、夜も興奮してあまり眠らなかった――てとこかしら?」 「……。」 うう…全部あたってる。何者なんだこの人…ってお母さんだけど。 「――く――っ! 可愛い――っ!」 なんだか勝手に感極まったらしく、お母さんは思いっきり胸で抱きしめてきた。息が出 来ずにもがく呉匡。 道行く生徒たちが、この風変わりな母子をしげしげ眺めていた。 「で、なんでお母さんがいるの」 「何で…って、おばか」 お母さんのこの日のいでたちは。ラメラメ光る黒いロングブーツに、黒いロングコート。 下はたぶん黒いドレス。腰まで届く長い髪も、これまた見事な漆黒。 身長180センチ。この迫力ある黒ずくめのマザーは、あきれたように言った。 「創立祭のゲストよ。毎年来てるでしょ」 「あ。そうか」 お母さんの名前は呉漢。この学園都市のOGだ。 それも、第二次蒼天会、つまり現在の蒼天会の設立のときに活躍した、伝説的に有名人 なのだった。別に隠していた訳じゃないけど、お母さんの名前が知られたとき、あの袁紹 さんでさえパニック状態になって、サイン色紙を渡されたものだった。 そりゃあかっこいいことを認めるのはやぶさかでないけど、そこまできゃあきゃあ騒が れるほどの母じゃないと思う…。親ばかだし。 そんなこんなで、タワー前広場のベンチに腰掛けて、しばらく話をしていると、妹の呉 班と従妹の呉懿が、缶コーヒーを両手に持って駆け寄ってきた。 ふたりとも、遠州学園校区の中等部にあがったばかりの可愛い盛り。ちなみに最初に踏 み台にされたのが呉班で、でこピンされたのが呉懿だ。 「サンキュ」 「どいたしましてー」 異口同音に答える二人。実際、双子姉妹同然に育ってきたから、性格は正反対でも、シ ンクロ率は高いらしい。 ちょっと羨ましいかな、とも思う。 「今日、ちゃんとパーティー出なさいよ」 不意に、お母さんが言った。 また、見透かされてる… 「変に遠慮したら、せっかく席を用意してくれた人たちに失礼だからね。」 「…うん」 「それにお母さんも踊るし」 「踊るの!?」 やっぱり出たくなくなりました。 「んっふっふ。あなたにママンの新しい魅力を見せてあげるわ。いや、むしろ魅せてあげ ると」 「絶対遠慮します」 「ちょっとだけでいいから。遠くから見るだけで」 「いやです」 結局、熱いハグに捕まって音を上げ、とにかく出席すると約束させられた呉匡は、ひょ こひょこと片足をかばいながら、来た道を戻っていった。
67:★ぐっこ@管理人 2004/01/22(木) 00:01 ■百合さま 創立祭がはじまった。 一般の生徒たちにとっては、学校の創立記念日なんて、タナボタ休暇に過ぎないかもし れないけど、生徒会行事の運営に携わる人間にとっては、外部からもお客様を招く大切な 日だ。 司隷特別校区の高等部役員の多くが何週間も前から準備に駆り出され、当日も会場の警 護や案内のために百人単位が動員されている。 式典とパーティーに参加できるのは、招待されたお客様(ほとんどがOG)、教職員の 大人たち。 生徒からは、蒼天会・会長以下、連合生徒会の最高幹部、各校区の生徒会長、そしてわ ずかなゲストだけだった。 パーティ会場は、クラウド・タワー最上階にある、式典用大ホール。 なんだかホテルの「真珠の間」のような、学校施設とは思えない豪華なホールに、これ また豪華なシャンデリアが眩いばかりに輝き、全校区選りすぐりの奏者で構成された管弦 楽団が、絢爛豪華な祝宴の空間を演出していた。 ――これが、生徒会行事! 会場の設営から手配、招待状の発送、必要なら外部業者の手配・発注、連絡・運用、当 日の司会進行そのほか全ての業務が、生徒たちの手によるものだ。言うまでもなく、文化 祭や学芸会のレベルではない。 そして招待客の方々も、それを当たり前のこととして平然と談笑ている。 OGの方々は、ご自分達の時代も同じようにやってこられたのだし、他の父兄や招待客 の方々も、この学園都市がもつこの種の育成機能を知悉しているからなんだろう。 全校生徒を代表して、新たに蒼天会長に立てられた「霊さま」こと劉宏さまが開会を宣 言されると、いっせいに拍手がおこった。 その後、現学園理事長・劉秀さまの挨拶につづいて、新連合生徒会長・竇武さまの音頭 で、一同起立。壁に掛けられた特大の蒼天旗へ乾杯して、祝賀会がはじまった。 「すごい…」 雰囲気に呑まれた呉匡が、心細くつぶやいた。 実際、すごく心細かった。 中等部でこのパーティに参加しているのは、数えるほどしかいないのだ。 与えられたテーブルが、目立たない隅っこであるのが、唯一の救いだった。頼りの張邈さ んは、ダンスの準備で可顒さまと控え室へ行ってしまっているし、顔見知りの高等部の先輩 方は、遠くはなれた席で談笑している。 立食パーティじゃないので、勝手に立ち歩くのは気が引けた。 ただ、並べられる豪華なディナーを食べるだけ。 ちょっと離れた位置には、司州中等部生徒会長の袁術さんがいるけど、こんなときにだ け挨拶へいくというのも、お互いにいやな話だろうと思う。 ちょっと体を乗り出して、連合生徒会の席の方に李膺さまの姿を探してみたけど、見つ からない。そういえば連合生徒会長・竇武さまも、蒼天会長顧問役の陳蕃さまも、姿が見 えない。どうしたのだろう? と――、ふいにテーブルの向かいの席に、ふわりと誰かが腰掛けた。 「――あ」 「ごきげんよう。退屈そうね、呉匡さん」 「ご、ごきげんよう、姫百合さま」 姫百合さまは、ニッコリと微笑んだ。…一回お会いしただけなのに、覚えていらっしゃ ったとは! 学園都市を統べる劉一族のなかでも、“百合さま(リリウム)”の称号を冠することが 許されているのは、時期蒼天会長候補となる資格を持つ者だけ。 彼女たちは、一種の「皇族」として、階級章や蒼天会派序列とは違う次元で、他の生徒 とは一線を画している存在だった。 目の前にいる“リリウム・コンコロム”劉表さまは、呉匡とおなじ中等部三年生だけど、 百合さまであると同時に、張?さまと同じ清流会派序列の上位者でもある、凄い方なのだ。 改めて見回してみると、なるほど、“三君”のおひとりで、かつ現「乙女百合」の劉淑 さまと、次期乙女百合さまの劉虞さまが談笑してるし、「黒百合」劉焉さまや、劉繇さま、 その姉の劉岱さまなど、他の百合さま方も、かなりの数が招かれているようだった。 「なんというか…豪華ですね」 回りを見回しながら、呉匡は率直に感想を述べた。 「そうね」 劉表様は頷く。 「百合の展示会みたいね。ここらのブロックは」 呉匡が、さすがに口に出せなかった台詞を、あっさりとつぶやいた。 「まあ、こういう時くらいしか、一堂に会することもないから。呉匡さんも、観客として 楽しんだ方がいいわよ。」 「…そのつもりなんですけど」 「李膺さま」 「え?」 劉表様は、呉匡の反応を見てにっこりとほほえんだ。 「李膺さまが、これからダンスに参加されるのはご存じ?」 何ですって!? (私と踊れないなら、出ない――って仰ったのに!) わなわなと、震える呉匡。 誰が相手なのだろう。竇武さまと陳蕃さまはペアのはずだし…。“三君”の劉淑さまは、 そこで劉虞さまとお話しされてるし…。李膺さまと釣り合いのとれる方が、他にいるとは 思えない! いったい誰が! 煩悶する呉匡の様子を、面白そうに眺めていた劉表さまは、「ほら、じきに始まるわよ 」と会場を指さした。 会場はいつのまにか騒然としたざわめきに包まれ、ホール中央にまたがっていたコード 類が手早くどけられていた。ダンスのできる空間を空けようというのだろう。 参加希望者を募るアナウンスが流れ、幾人かが挙手しながら、案内状の方へ向かってい る。 「楽しみね、李膺さまのお相手」 「……。」 呉匡は黙ったままだった。悪気がないのはわかるけど、この劉表さまは、あきらかに呉匡 の反応を面白がっている。 こういういたずらを吹き込むとしたら――袁紹さん経由で、許攸さんあたりに違いない。 憮然とする呉匡をよそに、会場が急に薄暗くなり、管弦楽団の演奏が、どこかで聞いた ことのあるような、緩やかなワルツに代わった。
68:★ぐっこ@管理人 2004/01/22(木) 00:01 ■夜の夢 ――舞う。 みんなが、思い思いに、楽しそうに、幸せそうに、舞っている。 スポットライトが、ホール中央にさっと集中し、ひと組ひと組を代わる代わる照らし出 す。そのたびに、大きな拍手が会場内にひろがる。 さすがは、この日の席に呼ばれるだけあって、皆途方もなく上手だった。 男性パートのリードにあわせて、女性パートの方が、それこそ胡蝶のように軽やかに舞 う。めまぐるしく位置を変えながら、他のペアとぶつからないように、お互いに足を踏ま ないように、細心の注意を払い、かつ舞う。男性パートの方は、ゆとりを持って微笑みを 絶やさず、女性パートの方は視線を四囲に配り、笑顔を振りまいている。 …なんて、上手なんだろう。 呉匡の知らない先輩方だったけど、それでもこれだけの踊りができるのだ。 (…出なくてよかったかも) さすがに赤面する思いだった。 スポットライトが別のペアを照らし出す。 ――あ、可顒さまと張邈さんだ。 マニッシュタイプの式典服に身を包んだ可顒さまは、正直怖いくらいに似合っていた。 ペアである張邈さんも、いつにも増してお姫様ぶりを上げ、周囲を圧倒するように舞ってい た。 すごい。 お二人のダンスは、どちらも武闘派なだけあって、なんというか、ほとんど剣舞だった。 先ほどのペアに比べて、たとえば技術的な洗練は少々劣るかもしれないけど、代わりに 恋人同士が白刃で戯れ合っているような――なんというか、研ぎ澄まされた気を感じるほ どだ。 周りの人も、みんな感じるのだろう。ほう、という感嘆のつぶやきが聞こえた。 その後も、知ってる顔、知らない顔が入れ替わり立ち替わり、ライトを浴びた。 どうやら最初のペアと、次の何?さまたちが特別だったようで、続きのペアは、いわば普 通の踊り手であるらしかった(それでも呉匡なんかよりずっと上手だけど)。 連合生徒会会長の竇武さまと、蒼天会顧問の陳蕃さまのダンスは、陳蕃さまらしい几帳 面さで、きっちりと基礎のステップをはずさない。それでいて、ややストリート風に踊る 竇武さまを、流れるようにエスコートし、なんだか新しいダンスを見ているような気がし たものだ。 さらに何組かが過ぎたとき――。 呉匡はごく自然と、ライトに照らし出された李膺さまの姿を認めた。 李膺さまは… 「ドレス!?」 呉匡は素っ頓狂な声を上げた。 李膺さまはたいていの方より長身だから、まず間違いなく男性パートであると思ってい た。そもそも呉匡と踊るのだって、その予定だったはずだ。 しかし、いま李膺さまが身にまとっているのは、体にぴったりとフィットした、黒に近 い深赤のドレスだった。 その李膺さまの手を引いて、白い光の中に登場したのは―― 「お母さん!?」 呉匡はさっきよりもさらに大きな声を出した。 さすがに集中する視線に気づきもせず、わなわなと震える。 (なんで――なんで――!?) お母さんこと、後期蒼天会の初代格技部連総帥・学園公安弾圧委員長・通称“死神”“ ミス・ブラック”“皆殺しの黒”呉漢さまは。 真っ黒なタキシードを隙無く着こなし、その長身を翻しつつ、ホールの中央へ李膺さま をエスコートしていた。 長い髪を一つにくくり、紳士の余裕で微笑むさまは、なんというか、あの何?さまよりも 遙かにダンディだった。 そして。 あっという間もなく、いきなり李膺さまを抱きすくめた。 きゃああああ! と会場からいっせいに悲鳴とも歓声ともとれる声があがる。呉匡は、 ただただ震えているだけだ。 一瞬の間が、のろのろと通り過ぎ――。 荘重な曲が始まったとたん、二人は、舞いだした――。 李膺さまの執務室。 今夜は、本当に観客でしかなかった呉匡は、お疲れの李膺さまのために、せめて美味し いお茶を淹れているところだ。 さっきから、二人はなんとなく無言。 そもそも李膺さまの様子が、おかしい。 妙によそよそしい。そして、ちょっと不機嫌そうだった。 …そもそも、この日の始まりは、呉匡のこむら返りからだった。 もしアレがなければ、今頃呉匡は、李膺さまと今日一緒に踊ったダンスについて、パー ティーについて、楽しくまくし立てていたに違いないのに。 願わくば、今日一日が夜の夢でありますように… 呉匡は、またも暗澹たる気持ちにともすれば転落しかける心を励まして、何とか話題を 探そうとしていた。 と。 「――今日はお疲れさま」 李膺さまが、ぽつりと、不意に言った。 「あ、とんでもないです! 李膺さまこそ、お疲れさまでした!」 あわてて呉匡は返答した。――お茶をお出ししながら、笑顔で言おうと思ってたのに。 「ううん、私は踊っただけだったけど。呉匡はいろいろあったみたいだから」 「はあ…」 色々あったといえばそうだけど、そうすごいことがあった訳ではない。だいいち、一番 すごかったのは、李膺さまのダンスだったわけだし。 「――ええと、李膺さま」 「何?」 「その――母と、踊られてたところ拝見して――びっくりしました」 「ああ…」 李膺さまは、いつもの冷たい声で相槌をうった。 「てっきり男性パートを踊られると思っていたものですから」 「あれは――呉漢さまに、持ちかけられたの」 「…だと思います。でも、どうして受けられたのですか?」 「うん…ちょっと」 李膺さまは、珍しく口調を濁すと、視線を逸らした。 ――激しく気になる。 でも、気になると言えば、今日の李膺さまの見事なダンスだ。 授業で習うとはいえ、これまで李膺さまが女性パートを踊る回数は、ずっと少なかった はずだ。 でも、今日の李膺さまのダンスは、他の誰よりも美しくかった。贔屓目なしに、そう断 言できるほど。 「密かに特訓を?」 「してない。それどころか、あのステップは、授業で一度習ったきりだった」 「え…!?」 「呉漢さまのエスコートね。気が付いたら、勝手にああいう風に身体が動いているの」 へええ…。お母さん、そんな特技があったのか… 「凄いわよね」 李膺さまは、ようやく微笑んでくれた。
69:★ぐっこ@管理人 2004/01/22(木) 00:03 ■夢の夜 お茶が入って、すこし頭がほぐれてくると、色々と今日のことがお話しできるようにな った。 「――そういえば母が、ホールで破廉恥な行為を」 あれに代わって、私がこうして謝りますから、と頭を下げると、李膺さまはため息をつ いた。 「確かに驚いたけど。あれは何だったの」 「親愛のハグです。もしくは求愛のハグ」 一瞬、視線を泳がせる李膺さま。 そういえば母や妹の悪癖について、李膺さまには一度も言っていなかったっけ。 「今朝わたしもされましたけど…味見されたと思ってあきらめてください」 「味見!?」 「はい」 で。 「結局、李膺さま」 「何?」 「どうして、李膺さまは、よりによって母とペアを組まれたのですか? それに、パート の入れ替えとか…」 「……。」 黙り込む李膺さま。 なんと、仄かに赤面している。 まさか… 「変なコトされたとか」 「されてないっ!」 失礼しました。 ――でも、ならどうしてなんだろうなー? じいいっと、李膺さまを見つめる。まるで小動物が、怯えと好奇心に満ちた目を人間に 向けるように。 「……。」 「(じいー)」 「………………。」 「(じいぃぃー)」 「……………………。」 「(じいぃぃー)」 李膺さまが、おれた。 「ちょっと、教わったの。交換条件として」 「教わったって…?」 「呉匡のこと」 「――私のこと?」 赤面しながら、李膺さまがうなずいた。 何? 何? お母さん、いったい私の大切な李膺さまに、何を吹き込んだの!? 「ええと――。子供の頃のこととか、ですか?」 「それもあるけど…。最近のこととか」 「最近?」 「うん。…たとえば、写真のこととか、人形のこととか」 ――――――――っ! ぼっ! と赤面したのは、呉匡の方だった。 百枚くらい集まった李膺さま写真は勿論、私が李膺さま人形をつくったことは、誰も知 らないはずなのに! いつのまにバレてた!? ていうか、なぜ寮の中のことを知ってるの――!? まずい! まずい! 李膺さまの耳にだけは、絶対に入れてはならない事なのに! 「いや、あのあのあの、あのですね、その、私将来写真部とか新聞部とかに入ろうかなと か思ってまして、ついその、身近な被写体といいますか、ついつい勝手にオートフォーカ ス…」 言いかけて、やめた。 ティーカップを置いて、李膺さまが仄かに微笑んでくれたから。 「私ね――」 李膺さまは、胸元のタツノオトシゴを指先で弄りながら、つぶやいた。 「クラウド・タワーに飾られている、あの呉漢さまに憧れて、生徒会に入ったの」 「え――?」 今日、初めて聞くことだった。 「他の二七人と違って、呉漢さまだけは、人から好かれようとしなかった。主である劉秀 さま以外は、全員が敵だった。いつも殿堂の碑を見て思ったわ。――なんて強いんだろう。 なんて気高いんだろうって」 「……。」 「だから、結構、私のやってきたことって、呉漢さまに似てるんだ」 人を嫌い、信ぜず。正しい制裁が、正しい正義をつくる。親愛よりも畏怖。 李膺さまが、これまで李膺さまとして振る舞ってきた道のりは、確かに、そういう孤高 の道だったはずだ。 「でも――あなたの逸話を教わった後に、諭されたわ。少しはまぬけじゃないと、友達で きないわよ、って。それは寂しいことだわよ、って」 李膺さまは、タツノオトシゴをつまんで見せた。 「これ、今日つけて踊ったの。知ってた?」 「――はい」 それだけは、私の目だけが気づいていた。 李膺さまと言えば登竜門。だから、タツノオトシゴ。 他に何も思いつかなくて、なけなしのお小遣いを叩いて買った、李膺さまへのプレゼン トだった。 「呉漢さまも、知ってらしたのでしょうね。可愛い後輩のために、もっといい先輩になり たいでしょう、って、この子をつつきながら仰ったんだ」 「お母さんが…」 普段は、迫力あるけどドジで大ぼけで、子供の目から見ても子供を溺愛していて。難し いことは何も考えないで。 でも、李膺さまの心が、お母さんにはわかるんだ。 いつもつまらなそうにしている李膺さまが、本当はどんな気持ちで、外を眺めているの か。 お母さんは卒業するまで変われなかったみたいだけど、李膺さまは、あと二月、学園に いることができる。取り戻すには足りないけど、変わるには十分な期間。 「それでまあ――多少なりと、人生観が代わった気がする。これが今日の感想」 李膺さまは、普段のツンとした顔に戻りかけて、また微笑んだ。 「それに、うれしかった」 「え?」 「私のことを本当に慕ってくれている可愛い後輩がいること。自分の耳で確認できた」 うぁ――。 またしても、私が赤面する番だった。 「部屋まで送っていくわ、呉匡」 今日の執務を終えた李膺さまが立ち上がったのは、夜も11時をまわった頃だった。 書類のナンバリングをしていた呉匡は、呼ばれた犬のように立ち上がった。 「とんでもありません! もう大丈夫なんですから!」 「だめよ。今日も少し無理をしていたでしょう。肩を貸してあげる」 「――ありがとうございます」 李膺さまは、どうやら早速試してみたくなっているらしい。おとなしく、そして喜んで ご好意に預かろう。 それならば―― 「李膺さま――。その、私たちの部屋、ベッドが一つ余ってるんです。明日、日曜でお休 みだし、一度お泊まりになりませんか?」 「私が!? あなた達の部屋に?」 そう。以前の司隷校区総代だった李膺さまに同じ事を言ったら、校則違反教唆罪で現行 犯逮捕されていたところだ。 でも、今の李膺さまは、お母さんに一皮むかれている。 「――面白そうね。シャワー、お借りできる?」 「シャワーも喜びます!」 ほら、早速、踏み出している。李膺さまは、即断即決即実行の方なのだ。 「ルームメイト、なんと言ったかしら。確か袁成さんの妹か何か…」 「袁紹さんですよ! いい加減、覚えてあげてください!」 「そうね。呉匡のルームメイトなら、私も覚えないとね…」 うふふふ、袁紹さんも驚くだろうなあ。 それに許攸さんにも、これは不意打ちになるはずだ。今日のささやかな仕返しになる。 「呉匡、そちらの電源は落とした?」 「はい! もう大丈夫でーす!」 「じゃあ、電気消すわよ」 かちっ、とスイッチの音と同時に、部屋が真っ暗になる。 「じゃあ、行きましょうか」 「はい、李膺さま!」 ちょっと大げさにびっこを引きながら、李膺さまの肩を借りて歩き出す。 こむら返りの襲撃に始まった一日の終わりは、まるで夢のような夜の始まりだった。 <完>
70:★ぐっこ@管理人 2004/01/22(木) 00:22 ( ゚Д゚)ご静聴ありがとうございました! あー。まあ、第一話が間に合ったからイイか…
71:那御 2004/01/22(木) 00:27 フィナーレキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!! そして、李膺さまデタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!! 威厳に溢れた李膺さま有り、素の李膺さま有り、もうフィナーレに相応しい! ぐっこ様グッジョブです! しかし・・・呉漢さまはなにやら派手な伝説を作り上げていますね・・・ なんか読んでいて時代を感じてしまう作品です。 古き善き時代を・・・(別に三国が嫌いって言うわけじゃないですがw)
72:★惟新 2004/01/22(木) 01:03 ┃ ┏━┃ ┃┃ ━┏┛ ┏━┃ ━━(゚∀゚)━━┛ ┃┃ ━┏┛ ┛ ┃ ┛┛ ┛ ┛ ┛┛ はぁはぁ、思わず床の上をローリングローリングしてしもうた…(;´Д`) お忙しい中、これほどの質・量を備えた作品を創られるとはさすが! 想像以上の盛り上がりを見せた旭記念祭、私も感無量でありましたが、 そのトリを飾るに相応しい逸品でございます! まず、タイトルロゴで撃沈(^_^;) そして、キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!に、(;´Д`)ハァハァ…の連続! 飽きることのない、先を読ませない話運びに、しっかりと通った物語の筋。 この楽しさは、本当に羨ましい… マリみての世界を踏襲しつつ、しかしそれを自分のモノとされていて、ただただお見事! 表面的なものに惑わされない、しっかりとした世界が形成されています。 ああ、李膺さまったらもう…(;´Д`) それにしても、「呉漢ママ」とは(^_^;) しかも壮絶な伝説付き。おまけにパーティでは美味しいところを… これほどのものを拝見してしまっては 「リヨみて」本編の続きを楽しみにするしかあるまいて!(;´Д`)ハァハァ…
73:★ぐっこ@管理人 2004/01/22(木) 01:15 >>47 おーぷんえっぐ様 コラネタキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!! Σ(;´Д`)!!ワロタ ううむ、ここまでメディア展開が進んでいる作品世界だと、えてしてこいう ことが起こるんですねえ(^_^;) つうか学三とかの方が異様なのか。 …欣太皇甫嵩(((( ;゜Д゜)))ガクガクブルブル… >>48 雪月華様 。・゚・(ノД`)・゚・ むう、今はゆっくり休らうべし。 復帰をば、心待ちにしております! それにしても逝っちゃったのは HDなのですか…? 痛〜っ! とにかく、桜の舞う季節を待ちまする。 >>49 ヤッサバ隊長 乙! なるほど、あの漢ハァハァ魏延たんの裸シャツショットの詳細 でありますか! …なるほど、楊儀たん、いい仕事だ… うーん、しかし魏延たんは酒でああなるのか。攻略しやすそうだな(←何の? >>52-58 惟新様も大作投入乙っ!( ゚Д゚) むう、ボリュームだけなら私が一番気合い入ってると思ったのに、意表をつかれたわ! カルテットがそれぞれに後継者ないし因縁の連中とエンカウントする、燃え萌えな アンソロ展開! そしてオオトリというか無敵キャラ登場(;´Д`)ハァハァ… うーん、皇甫嵩をじろっと見るだけで黙らせて、朱儁以下を子供扱いできる姐さん… 無敵だなー。 >>64-70 長ェよ あと、ユニコード化けてるところあるし。 >>71 那御さま うい…。時間的に間にあわなそうだったので、真ん中(昼間のイベント)が ごっそり抜けてしまってます(^_^;) ホントはジャケ写帰りの皇甫嵩たちと 出会ったり、曹節や王甫の陰謀の伏線があったり…(第二次党錮は、この3日後) まあ、本編に組み込んだりリメイクしたりするです… 呉漢お母さん、伝読むたびにカコイイなあと。惟新様ならストライクでしょうけど、 イメージはフルーツバスケットの今日子お母さんです。
74:おーぷんえっぐ 2004/01/22(木) 04:22 一応の締め切り、真にお疲れ様でした^^; しかし、力作が一通り揃いまして”凄い”という他ありません! ヤッサバ隊長さん>魏延の色っぽいお話に少々赤面w この作品が基で自分の 制御リミッターが外れたかもしれませんw 惟新さん>シカトされた丁原が呂布につかまるシーンに笑いましたw 呂布に肩車をしてもらってのイメージは自分的に映画”マッドマックス3”の ”マスター&ブラスター”でしたよw ぐっこさん>蒼天の先輩方のお話に”宝塚”的要素が含まれて華やかな印象を受けました あまり、この時代の詳細を知らない自分でも楽しく読ませていただきました〜^^ ここ> http://www32.tok2.com/home/mm2/3k/inupdate.html 行って少々勉強してきます(大汗w)
75:★ヤッサバ隊長 2004/01/22(木) 18:08 旭祭り終了おめ〜&皆様お疲れ様でした。 >おーぷんえっぐサン 何をおっしゃいますか! 貴方様が「学三おえび」にて掲載されたあの「プライベート三姉妹」こそ、我が萌えるハートに火をつけたのでありますよ!(゚∀゚) アレが無かったら、魏延にあんな格好させませんって(w ちう訳で、俺的最萌賞はおーぷんえっぐさんに進呈。…ぱちぱちぱち。 >グコ兄ィ マジで萌え狂いまくりますた(;´Д`) いやはや、まんまあっち方面の展開ながら、学三らしい内容に上手くコラボレートされてるって感じですな。 ちうか、呉漢母様ステキすぎ。 こりゃ本編が楽しみだわぁ…。
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