【1月18日】旭記念日創作発表スレッド【お祭りワッショイ】
66:★ぐっこ@管理人2004/01/22(木) 00:00AAS
■家族の肖像

(誰だろう?) 
 あれこれ考えながら、呉匡は道を急いだ。急ごうにも、びっこを引きながらだから、た
いしたスピードは出ないけれど。
 廊下ですれ違った何人かの見知らぬ先輩がたが、肩を貸してあげようか、と声を掛けて
くださった。お気持ちはうれしいけど、李膺さまや可顒さまのお申し出を断ったのに、他の
方の力を借りるなんて、呉匡の気持ちが許さない。丁重にお断りした。
 もっとも、蒼天会内務局があるのはクラウド・タワーの7階なわけで、ロビーまでエレベ
ーターで降りればいいだけの話だけど


 豪華なロビーを抜けて、外へ出る。
 雪こそ降っていないが、外は底冷えするような寒さだ。でも今日は風もなく、穏やかな
冬の陽光が空に満ちている。
 振り返ると、クラウド・タワー。
 司隷特別校区に転校してきて、このビルを仰ぎ見てから、もう半年以上経っていた。
 あの時は、たしか、後ろからふいに袁紹さんが声を掛けてきて――

「お姉ちゃんゲットぉぉおお!」

 すぐ後ろで、だしぬけに元気のよい女の子の声。石畳を蹴りつけるローファーの音。
 この気配は――!
 考えるよりも早く、呉匡の体は正確に反応していた。
 振り向きざま後ろから殺到する気配に向かって、無事な左足一本で跳躍!
 人影はふたり。呉匡はためらうことなく、最初の一人目の頭を踏みつけて、さらにジャ
ンプした。
「わたしを踏み台にした!?」
 下で叫んでいるようだが無視して、もう一人目の眼前に着陸すると、すばやくでこピン
を食らわせた。
「痛あっ」
 倒れるふたり。
(やったか――!?)
 気を抜いた一瞬――
「甘ぁ――いっ!」
 横合いから裂帛の気合。
「しまった!」
 悔やんだ瞬間には、呉匡の小さな体は、脇から抱き上げられていた。
「まだまだ甘いわねー、匡ちゃん」
 聞き覚えのある、甘ったるいハスキーボイス。
「お母さん!」
背中向きの「高い高い」状態から、身をよじって下を見おろすと、そこには中学生の娘を
軽々と持ち上げている、わが母の姿があった。


「何? アンタ脚挫いたの?」
「ええと、コブラがえり」
「こむら返り。どうせ前の日までダンスの練習してたんでしょ? で、整理体操しないまま
シャワー浴びて、夜も興奮してあまり眠らなかった――てとこかしら?」
「……。」
 うう…全部あたってる。何者なんだこの人…ってお母さんだけど。
「――く――っ! 可愛い――っ!」
 なんだか勝手に感極まったらしく、お母さんは思いっきり胸で抱きしめてきた。息が出
来ずにもがく呉匡。
 道行く生徒たちが、この風変わりな母子をしげしげ眺めていた。


「で、なんでお母さんがいるの」
「何で…って、おばか」 
 お母さんのこの日のいでたちは。ラメラメ光る黒いロングブーツに、黒いロングコート。
下はたぶん黒いドレス。腰まで届く長い髪も、これまた見事な漆黒。
 身長180センチ。この迫力ある黒ずくめのマザーは、あきれたように言った。
「創立祭のゲストよ。毎年来てるでしょ」
「あ。そうか」
 お母さんの名前は呉漢。この学園都市のOGだ。
 それも、第二次蒼天会、つまり現在の蒼天会の設立のときに活躍した、伝説的に有名人
なのだった。別に隠していた訳じゃないけど、お母さんの名前が知られたとき、あの袁紹
さんでさえパニック状態になって、サイン色紙を渡されたものだった。
 そりゃあかっこいいことを認めるのはやぶさかでないけど、そこまできゃあきゃあ騒が
れるほどの母じゃないと思う…。親ばかだし。
 そんなこんなで、タワー前広場のベンチに腰掛けて、しばらく話をしていると、妹の呉
班と従妹の呉懿が、缶コーヒーを両手に持って駆け寄ってきた。
 ふたりとも、遠州学園校区の中等部にあがったばかりの可愛い盛り。ちなみに最初に踏
み台にされたのが呉班で、でこピンされたのが呉懿だ。
「サンキュ」
「どいたしましてー」
 異口同音に答える二人。実際、双子姉妹同然に育ってきたから、性格は正反対でも、シ
ンクロ率は高いらしい。
 ちょっと羨ましいかな、とも思う。

「今日、ちゃんとパーティー出なさいよ」
 不意に、お母さんが言った。
 また、見透かされてる…
「変に遠慮したら、せっかく席を用意してくれた人たちに失礼だからね。」
「…うん」
「それにお母さんも踊るし」
「踊るの!?」
 やっぱり出たくなくなりました。
「んっふっふ。あなたにママンの新しい魅力を見せてあげるわ。いや、むしろ魅せてあげ
ると」
「絶対遠慮します」
「ちょっとだけでいいから。遠くから見るだけで」
「いやです」
  
 結局、熱いハグに捕まって音を上げ、とにかく出席すると約束させられた呉匡は、ひょ
こひょこと片足をかばいながら、来た道を戻っていった。
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