【1月18日】旭記念日創作発表スレッド【お祭りワッショイ】
67:★ぐっこ@管理人2004/01/22(木) 00:01
■百合さま

 創立祭がはじまった。
 一般の生徒たちにとっては、学校の創立記念日なんて、タナボタ休暇に過ぎないかもし
れないけど、生徒会行事の運営に携わる人間にとっては、外部からもお客様を招く大切な
日だ。
 司隷特別校区の高等部役員の多くが何週間も前から準備に駆り出され、当日も会場の警
護や案内のために百人単位が動員されている。
 式典とパーティーに参加できるのは、招待されたお客様(ほとんどがOG)、教職員の
大人たち。
 生徒からは、蒼天会・会長以下、連合生徒会の最高幹部、各校区の生徒会長、そしてわ
ずかなゲストだけだった。
 パーティ会場は、クラウド・タワー最上階にある、式典用大ホール。
 なんだかホテルの「真珠の間」のような、学校施設とは思えない豪華なホールに、これ
また豪華なシャンデリアが眩いばかりに輝き、全校区選りすぐりの奏者で構成された管弦
楽団が、絢爛豪華な祝宴の空間を演出していた。
 ――これが、生徒会行事!
 会場の設営から手配、招待状の発送、必要なら外部業者の手配・発注、連絡・運用、当
日の司会進行そのほか全ての業務が、生徒たちの手によるものだ。言うまでもなく、文化
祭や学芸会のレベルではない。
 そして招待客の方々も、それを当たり前のこととして平然と談笑ている。
 OGの方々は、ご自分達の時代も同じようにやってこられたのだし、他の父兄や招待客
の方々も、この学園都市がもつこの種の育成機能を知悉しているからなんだろう。


 全校生徒を代表して、新たに蒼天会長に立てられた「霊さま」こと劉宏さまが開会を宣
言されると、いっせいに拍手がおこった。
 その後、現学園理事長・劉秀さまの挨拶につづいて、新連合生徒会長・竇武さまの音頭
で、一同起立。壁に掛けられた特大の蒼天旗へ乾杯して、祝賀会がはじまった。

「すごい…」
 雰囲気に呑まれた呉匡が、心細くつぶやいた。
 実際、すごく心細かった。
 中等部でこのパーティに参加しているのは、数えるほどしかいないのだ。
 与えられたテーブルが、目立たない隅っこであるのが、唯一の救いだった。頼りの張邈さ
んは、ダンスの準備で可顒さまと控え室へ行ってしまっているし、顔見知りの高等部の先輩
方は、遠くはなれた席で談笑している。
 立食パーティじゃないので、勝手に立ち歩くのは気が引けた。
 ただ、並べられる豪華なディナーを食べるだけ。
 ちょっと離れた位置には、司州中等部生徒会長の袁術さんがいるけど、こんなときにだ
け挨拶へいくというのも、お互いにいやな話だろうと思う。
 ちょっと体を乗り出して、連合生徒会の席の方に李膺さまの姿を探してみたけど、見つ
からない。そういえば連合生徒会長・竇武さまも、蒼天会長顧問役の陳蕃さまも、姿が見
えない。どうしたのだろう?
 と――、ふいにテーブルの向かいの席に、ふわりと誰かが腰掛けた。
「――あ」
「ごきげんよう。退屈そうね、呉匡さん」
「ご、ごきげんよう、姫百合さま」
 姫百合さまは、ニッコリと微笑んだ。…一回お会いしただけなのに、覚えていらっしゃ
ったとは!
 学園都市を統べる劉一族のなかでも、“百合さま(リリウム)”の称号を冠することが
許されているのは、時期蒼天会長候補となる資格を持つ者だけ。
 彼女たちは、一種の「皇族」として、階級章や蒼天会派序列とは違う次元で、他の生徒
とは一線を画している存在だった。

 目の前にいる“リリウム・コンコロム”劉表さまは、呉匡とおなじ中等部三年生だけど、
百合さまであると同時に、張?さまと同じ清流会派序列の上位者でもある、凄い方なのだ。

 改めて見回してみると、なるほど、“三君”のおひとりで、かつ現「乙女百合」の劉淑
さまと、次期乙女百合さまの劉虞さまが談笑してるし、「黒百合」劉焉さまや、劉繇さま、
その姉の劉岱さまなど、他の百合さま方も、かなりの数が招かれているようだった。
「なんというか…豪華ですね」 
 回りを見回しながら、呉匡は率直に感想を述べた。
「そうね」
 劉表様は頷く。
「百合の展示会みたいね。ここらのブロックは」
 呉匡が、さすがに口に出せなかった台詞を、あっさりとつぶやいた。
「まあ、こういう時くらいしか、一堂に会することもないから。呉匡さんも、観客として
楽しんだ方がいいわよ。」
「…そのつもりなんですけど」
「李膺さま」
「え?」
 劉表様は、呉匡の反応を見てにっこりとほほえんだ。
「李膺さまが、これからダンスに参加されるのはご存じ?」
 何ですって!?
(私と踊れないなら、出ない――って仰ったのに!) 
 わなわなと、震える呉匡。
 誰が相手なのだろう。竇武さまと陳蕃さまはペアのはずだし…。“三君”の劉淑さまは、
そこで劉虞さまとお話しされてるし…。李膺さまと釣り合いのとれる方が、他にいるとは
思えない! いったい誰が!
 煩悶する呉匡の様子を、面白そうに眺めていた劉表さまは、「ほら、じきに始まるわよ
」と会場を指さした。
 会場はいつのまにか騒然としたざわめきに包まれ、ホール中央にまたがっていたコード
類が手早くどけられていた。ダンスのできる空間を空けようというのだろう。
 参加希望者を募るアナウンスが流れ、幾人かが挙手しながら、案内状の方へ向かってい
る。
「楽しみね、李膺さまのお相手」
「……。」
呉匡は黙ったままだった。悪気がないのはわかるけど、この劉表さまは、あきらかに呉匡
の反応を面白がっている。
 こういういたずらを吹き込むとしたら――袁紹さん経由で、許攸さんあたりに違いない。
 憮然とする呉匡をよそに、会場が急に薄暗くなり、管弦楽団の演奏が、どこかで聞いた
ことのあるような、緩やかなワルツに代わった。
1-AA