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【1月18日】旭記念日創作発表スレッド【お祭りワッショイ】
69:★ぐっこ@管理人 2004/01/22(木) 00:03 ■夢の夜 お茶が入って、すこし頭がほぐれてくると、色々と今日のことがお話しできるようにな った。 「――そういえば母が、ホールで破廉恥な行為を」 あれに代わって、私がこうして謝りますから、と頭を下げると、李膺さまはため息をつ いた。 「確かに驚いたけど。あれは何だったの」 「親愛のハグです。もしくは求愛のハグ」 一瞬、視線を泳がせる李膺さま。 そういえば母や妹の悪癖について、李膺さまには一度も言っていなかったっけ。 「今朝わたしもされましたけど…味見されたと思ってあきらめてください」 「味見!?」 「はい」 で。 「結局、李膺さま」 「何?」 「どうして、李膺さまは、よりによって母とペアを組まれたのですか? それに、パート の入れ替えとか…」 「……。」 黙り込む李膺さま。 なんと、仄かに赤面している。 まさか… 「変なコトされたとか」 「されてないっ!」 失礼しました。 ――でも、ならどうしてなんだろうなー? じいいっと、李膺さまを見つめる。まるで小動物が、怯えと好奇心に満ちた目を人間に 向けるように。 「……。」 「(じいー)」 「………………。」 「(じいぃぃー)」 「……………………。」 「(じいぃぃー)」 李膺さまが、おれた。 「ちょっと、教わったの。交換条件として」 「教わったって…?」 「呉匡のこと」 「――私のこと?」 赤面しながら、李膺さまがうなずいた。 何? 何? お母さん、いったい私の大切な李膺さまに、何を吹き込んだの!? 「ええと――。子供の頃のこととか、ですか?」 「それもあるけど…。最近のこととか」 「最近?」 「うん。…たとえば、写真のこととか、人形のこととか」 ――――――――っ! ぼっ! と赤面したのは、呉匡の方だった。 百枚くらい集まった李膺さま写真は勿論、私が李膺さま人形をつくったことは、誰も知 らないはずなのに! いつのまにバレてた!? ていうか、なぜ寮の中のことを知ってるの――!? まずい! まずい! 李膺さまの耳にだけは、絶対に入れてはならない事なのに! 「いや、あのあのあの、あのですね、その、私将来写真部とか新聞部とかに入ろうかなと か思ってまして、ついその、身近な被写体といいますか、ついつい勝手にオートフォーカ ス…」 言いかけて、やめた。 ティーカップを置いて、李膺さまが仄かに微笑んでくれたから。 「私ね――」 李膺さまは、胸元のタツノオトシゴを指先で弄りながら、つぶやいた。 「クラウド・タワーに飾られている、あの呉漢さまに憧れて、生徒会に入ったの」 「え――?」 今日、初めて聞くことだった。 「他の二七人と違って、呉漢さまだけは、人から好かれようとしなかった。主である劉秀 さま以外は、全員が敵だった。いつも殿堂の碑を見て思ったわ。――なんて強いんだろう。 なんて気高いんだろうって」 「……。」 「だから、結構、私のやってきたことって、呉漢さまに似てるんだ」 人を嫌い、信ぜず。正しい制裁が、正しい正義をつくる。親愛よりも畏怖。 李膺さまが、これまで李膺さまとして振る舞ってきた道のりは、確かに、そういう孤高 の道だったはずだ。 「でも――あなたの逸話を教わった後に、諭されたわ。少しはまぬけじゃないと、友達で きないわよ、って。それは寂しいことだわよ、って」 李膺さまは、タツノオトシゴをつまんで見せた。 「これ、今日つけて踊ったの。知ってた?」 「――はい」 それだけは、私の目だけが気づいていた。 李膺さまと言えば登竜門。だから、タツノオトシゴ。 他に何も思いつかなくて、なけなしのお小遣いを叩いて買った、李膺さまへのプレゼン トだった。 「呉漢さまも、知ってらしたのでしょうね。可愛い後輩のために、もっといい先輩になり たいでしょう、って、この子をつつきながら仰ったんだ」 「お母さんが…」 普段は、迫力あるけどドジで大ぼけで、子供の目から見ても子供を溺愛していて。難し いことは何も考えないで。 でも、李膺さまの心が、お母さんにはわかるんだ。 いつもつまらなそうにしている李膺さまが、本当はどんな気持ちで、外を眺めているの か。 お母さんは卒業するまで変われなかったみたいだけど、李膺さまは、あと二月、学園に いることができる。取り戻すには足りないけど、変わるには十分な期間。 「それでまあ――多少なりと、人生観が代わった気がする。これが今日の感想」 李膺さまは、普段のツンとした顔に戻りかけて、また微笑んだ。 「それに、うれしかった」 「え?」 「私のことを本当に慕ってくれている可愛い後輩がいること。自分の耳で確認できた」 うぁ――。 またしても、私が赤面する番だった。 「部屋まで送っていくわ、呉匡」 今日の執務を終えた李膺さまが立ち上がったのは、夜も11時をまわった頃だった。 書類のナンバリングをしていた呉匡は、呼ばれた犬のように立ち上がった。 「とんでもありません! もう大丈夫なんですから!」 「だめよ。今日も少し無理をしていたでしょう。肩を貸してあげる」 「――ありがとうございます」 李膺さまは、どうやら早速試してみたくなっているらしい。おとなしく、そして喜んで ご好意に預かろう。 それならば―― 「李膺さま――。その、私たちの部屋、ベッドが一つ余ってるんです。明日、日曜でお休 みだし、一度お泊まりになりませんか?」 「私が!? あなた達の部屋に?」 そう。以前の司隷校区総代だった李膺さまに同じ事を言ったら、校則違反教唆罪で現行 犯逮捕されていたところだ。 でも、今の李膺さまは、お母さんに一皮むかれている。 「――面白そうね。シャワー、お借りできる?」 「シャワーも喜びます!」 ほら、早速、踏み出している。李膺さまは、即断即決即実行の方なのだ。 「ルームメイト、なんと言ったかしら。確か袁成さんの妹か何か…」 「袁紹さんですよ! いい加減、覚えてあげてください!」 「そうね。呉匡のルームメイトなら、私も覚えないとね…」 うふふふ、袁紹さんも驚くだろうなあ。 それに許攸さんにも、これは不意打ちになるはずだ。今日のささやかな仕返しになる。 「呉匡、そちらの電源は落とした?」 「はい! もう大丈夫でーす!」 「じゃあ、電気消すわよ」 かちっ、とスイッチの音と同時に、部屋が真っ暗になる。 「じゃあ、行きましょうか」 「はい、李膺さま!」 ちょっと大げさにびっこを引きながら、李膺さまの肩を借りて歩き出す。 こむら返りの襲撃に始まった一日の終わりは、まるで夢のような夜の始まりだった。 <完>
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