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【1月18日】旭記念日創作発表スレッド【お祭りワッショイ】
120:★玉川雄一 2005/01/19(水) 02:22 うぃー、でけた。 http://gaksan1.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/upboard/updir/gosan01.jpg 例の四人組。向かって右から陸遜、顧邵、吾粲、朱拠。 高等部に進級して、正式に長湖部に入部した直後のシーンと思いねェ。 っつか断言できる。このメンツでギャル絵描いたの俺が史上初。 それじゃ、みんな続け!
121:海月 亮 2005/01/19(水) 19:59 何時も通り仕事逝こうとしたならば…今日お休みだったの忘れてました。 でもって昼まで二度寝して、SSの仕上げで一日潰してみました(゚∀゚) では新参の身で僭越ながら…この場合、二番手なのか?それとも三番手? ええぃ、とにかくこれより死地に入るであります!(゚∀゚)>
122:海月 亮 2005/01/19(水) 20:02 -長湖、新春の攻防戦 そのいち- 揚州学区・呉郡学生寮、その陸遜の部屋。その扉が乱暴に開け放たれると、必死の形相をした二人の少女が転がり込んだ。そしてまた、乱暴に扉が閉じた。 一人は、緑なす黒髪をショートボブに切り揃えた少女−長湖部実働部隊の総括責任者・陸遜。 もう一人は、その頭の両サイドに、何かの耳のように跳ねたクセ毛があるロングヘアの少女。今年卒業を控え、推薦での進学も決定したものの、来年も特別顧問として残留が確定している諸葛瑾だ。 二人は暗がりの中でお互いの顔を見合わせると、強張った顔のままで呟いた。その衣服は、大分乱れており、彼女達がどんな目に遭ったかをよく物語っている。 「こ、ここまで来れば一安心ですね、子瑜先輩…」 「え、ええ…ようやく、逃げ切ったわね」 ここのところ平穏そのものだった長湖部。 正月の松の内も大分過ぎた1月18日に存在する学園休校日。この日に行われた体験入部イベントもそこそこの成功を見せた。でもって次の日も特別休校ということで、その夜に新年会を兼ねた打ち上げを行うことになったのだ。 昨年は帰宅部連合との悶着でそれどころではなく、さらに孫権が公孫淵の裏切り行為に相当なストレスを溜めている事を考慮し、少々羽目を外すくらいは…というのが、発案者・陸遜の弁だった。しかし特別に招いた、卒業を控えた魯粛や甘寧らのリタイア組参加希望者のリクエストに応え、酒の類を持ち込むことを容認したのが間違いの始まりだった。 案の定、先ず孫権が暴走した。公孫淵の一件から来た鬱憤に加え、いつも宴席を支配していたシャンパンが、よりアルコール度数の高いチューハイや日本酒に替わっていたことで、テンションの上がりようが半端でなくなっていた。 いつもなら止める筈の張昭が不在で、ストッパーの谷利が一緒になって呑んでいたのも災いした。甘寧の暴走を止められる呂蒙が、センター試験の為に学園を離れていたのも不運だった。 しかも悪いことに、一滴もアルコールを口にしたことがない凌統が、特待生として大学進学が決まったことに気をよくして大杯を干し…正確には、甘寧と魯粛が面白がって凌統の口に一升瓶を突っ込んだのだが…とにかくこれで酒乱の本性を顕した凌統が大暴れを始めたのが狂乱に拍車をかけたのだ。 陸遜を筆頭として大人しくやっていた連中が、孫権を筆頭とした酒乱共の襲撃を受け、程なくして会場は阿鼻叫喚のサバトと化した。その狼藉っぷりに恐怖した何人かが会場を次々に飛び出していくと、夜の帳の落ちた建業棟周辺で、酔いどれ天使と哀れな小羊達による鬼ごっこが展開されたのだ。 普段大人しい孫登や孫和すら、酔った勢いで陸遜にへばりついてくる有様だった。操を奪われそうになった(w)すんでのところで二人は何とか脱出し、会場からそう遠くない呉郡寮へ逃げ延びた、と言うわけだ。 「とにかく…」 「…ええ」 「「助かったぁ…」」 二人は同時に、その場にへたり込んでしまった。 所変わって、会場のすぐ傍の物陰に、二人の少女が隠れている。 一人は艶やかな黒髪を三つ編みに結った、気の強そうな少女。縁無しの眼鏡が、妙にはまっている。 もう一人は、亜麻色髪をセミロングにした小柄の少女。白のリボンをヘアバンドのように結っており、それが暗がりでは妙に目立って見える。 「…どうしよう〜…はぐれちゃったよぅ…」 「しっ! 情けない声出さないの。つーか敬文、そのリボン目立つから、外しときなさい」 「うぐぅ…うん…」 敬文こと、長湖部次期部長後見補佐を務める薛綜は、震える手で結ったリボンを外し、ポケットに仕舞いこんだ。もう一人、眼鏡の少女は長湖部風紀委員長の厳S、字を曼才。 こういう宴会事だからこそ、会場に居なければならない彼女達が、何故会場から遁走し隠れているのか…理由は陸遜達と何ら変わることはなかった。 「仲翔さんが居なかったらどうなってたか解らないわね…まぁ、あのヒトもどうなったことやら」 しみじみと呟く厳S。 この年度頭の宴会で、虞翻は孫権の逆鱗に触れて交州学区に左遷されていたのだが、今日は卒業間際という事で特別に交州から呼び戻されていた。そう言う引け目もあってか、この日の虞翻は陸遜や厳S達に混じっていた。直截な物言いも影を潜め、これまで彼女を快く思っていなかった者達とも、この日はかなり打ち解けていた。 孫権その他が暴走を始め、混乱を極めた時に逃げる連中の殿軍を買って出たのも虞翻だった。かつて、課外活動で孫策を窮地から救った杖術の腕を活かし、群がる酔いどれ天使達を捌く虞翻の姿を思い返し、薛綜の目に涙が溢れる。 「うぅ…仲翔さぁん…」 「泣かないの敬文! 仲翔さんの犠牲を無駄にしないため、絶対に呉郡寮まで逃げましょう、ね?」 「…ぐすっ…今日一緒に居ても…」 「あたしもこんな日に正直、一人は御免よ。合図したらここを出て全力で走るわよ…いい?」 「うん…」 そうして、そーっと暗がりから顔を出し、辺りを確認した厳S。 「よし…いちにのさんで飛び出すわよ…いち、にの…」 息を飲む二人。 「さんッ!」 合図と共に飛び出した…のは、二人だけではなかった。 「残念―――ッ!」 「!!」 視認出来ない両サイドの死角、そこから三つの影が実にいいタイミングで飛び出し、二人に折り重なるように飛びついたのだ。 「ふっふっふー! この朱桓様から逃れようなんざ百年早ぇんじゃい!」 「さっすが〜、あたい、あんたのこと見直したよ休穆ぅ〜」 「姿隠して声隠さず〜甘いぜぇお二人さんよぅ」 飛び出してきたのは朱桓と朱然、そして全Nだった。いつか対蒼天会の学園無双で、戦略上の行き違いがあって大喧嘩した朱桓と全Nだったが、何時の間にか仲直りしていたらしい。 「ちっくしょー! やっとここまで逃げてきたってのに〜!」 「うぐぅぅ〜!」 悔しそうにうめく厳Sと、その下で苦しそうにもがく薛綜の上で、 「…んで、分け前どうするぅ?」 「あたいはどっちでもいいよ〜? 休穆は?」 「う〜ん…じゃあうち等は敬文もらいっ! いいよな義封?」 「おーけーおーけー。じゃあ子黄は曼才持ってってね♪」 「有難き幸せ〜」 分け前相談をする三人であった。 (続く)
123:海月 亮 2005/01/19(水) 20:04 寮の外からがやがやと声が聞こえていた。 追っ手がかかったことを知った陸遜は部屋の電気をつけず、ベランダの窓にバリケードまで築いた上で懐中電灯とヘッドスタンドを持ち出していた。 扉は鍵をかけた上つっかえ棒もしてあるという厳戒態勢だ。 「これでひとまずは安心だな…」 「ええ。でも、懐中電灯の光も結構目立ちますからねぇ…」 「でも、本当にいいの? お邪魔させてもらって」 「はい。むしろ朝までいてください…今日ばっかりは、一人は嫌です…」 自分が貸したシャツの袖を引っ張って、泣きそうな顔で見つめてくる陸遜。 しかたないなぁ、と呟きながらも、諸葛瑾もそれに関しては同意見だった。 そのとき、ドアをノックする音がした。二人はぎょっとして顔を見合わせると…ドアの隙間からうめくような声。 「は、伯言…いたら助けてぇ〜!」 「御願いぃ〜」 慌ててドアを開けると、二人の少女がなだれ込んだ。赤みがかったショートカットの少女は吾粲、飴色の髪をポニーテールに結っているのは朱拠だ。 「孔休、子範!……よく無事だったわね」 「し、死ぬかと思ったわよ」 そう言ってへたり込んだ吾粲、上下のジャージを着ていた筈なのに、ズボンを失っている。 朱拠に至っては、スカートも靴も履いておらず、厚手のストッキングもボロボロだ。 恥も外聞も捨て、まさに命からがら逃げてきた、という感じである。ドアのバリケードを直しながら、陸遜はしみじみと言った。 「…どうしたの、とは訊かないわよ…解ってるから」 「しゃ、洒落にならんぞアレは…何で女の子同士の宴席で操を狙われにゃならないんだか…」 「あ〜ん…怖かったよぅ〜」 いつのも気丈さは何処へやら、泣きついてきた朱拠を宥めつつ、陸遜は当然の疑問を投げかける。 「しかし、よく逃げ切れたわね」 「仲翔さんが血路を開いてくれたからぎりぎり逃げて来れたんだけど…敬文とか曼才とか、どうなったのかな…徳潤さんも相当呑んでたみたいだし…」 実は虞翻もそうなのだが、(カン)沢は一旦アルコールが入ると豹変するクチだ。捕まれば無事では済まないだろう。 「その仲翔さんも、結局部長と谷利にとっ捕まったみたいだしなぁ…そういや子山は?」 「うぅ…多分いち早く逃げたと思う…何時の間にか元歎と一緒にいなくなってたじゃん」 「見てないのね…公績先輩が興覇先輩に羽交い絞めにされてたくらいの頃に、二人して裏口からこっそり出て行くの」 陸遜は、こそこそと逃げる歩隲と顧雍の姿を目の端で捉えていた。その時には自分も孫登達の襲撃を受けていたのでそれどころではなかったわけだが。 「嘘ッ、そんな早く逃げてたのぉ? ずるいよぅ!」 朱拠が非難の声をあげる。だが、いち早く逃げた二人の気持ちも解らなくはない。この場合は要領の悪かった自分達を責めるべきだろう。 「で、悪いんだが…」 「ぐすっ…会稽寮まで戻れそうにないから…朝までいい?」 「大歓迎よ。情けない話だけど、私も怖くて…」 二人の顔が、ようやく安堵の表情に変わった。 一方その頃。 「くそぉぉ、捕まってたまるモンですかぁ!」 柔かそうな黒髪をショートカットにした、ややキツめの顔に黒縁眼鏡をかけた少女が部屋の小窓から脱出しようと釣り下がっている。その形相は、必死そのもの。 少女の名は潘濬、字を承明。かつては荊州学区で関羽の信任を得、後方の守備を任されていたのだが、張湖部の荊州攻略の際、力及ばず軍門に屈した少女だ。彼女は帰宅部連合に対する信義を貫こうとし、部屋に閉じこもっていたが、孫権自らが彼女を諭し、以来幹部として厚遇されていた。 同じ直言の士であっても、張昭のようにやり込めてくるタイプではなく、親友がそうするように真摯な姿勢で諭してくれるスタンスが気に入られ、孫権の信任は非常に厚い。だが、あくまでそれは孫権が素面であった時の話に過ぎない。 酔った孫権にしてみれば、潘濬とてお気に入りの玩具のひとつでしかないのだ。 「う〜、逃がさないのらぁ〜承明ぃ〜」 「わぁぁ! そんなところに手をかけないで下さい部長〜!」 「お〜、いいよいいよぅ、もっとやれ〜♪」 「おねぇちゃんがんばれ〜」 「もう少し〜」 潘濬は、そのスカートの根元を孫権に捕まれ悲鳴をあげた。それを見て、座の中央で(カン)沢と孫登・孫和姉妹が無責任に声援を送る。援軍の期待できない状況に、潘濬は泣きたくなった。 逃げた連中を追っかけて、甘寧や凌統、徐盛に周泰といった猛者たちは方々へ散らばり、数人しか残っていないのですっかり静かになった宴会場は、それでもまだプチハチャメチャ状態を継続していた。 部屋の隅のほうでは、座った目をした朱桓と朱然が、制服の半袖にブルマというマニアックな格好をさせられ、泣きべそをかいている薛綜に酌をさせ、時折抱きついては慰み者にしている。 孫権が最初に座っていた辺りでは、散々弄ばれた後なのだろう、下着姿で突っ伏している厳Sと、弄んだ張本人の全Nが、酔いつぶれて倒れている。その近くには、普段孫権の後ろにくっついている谷利が、手酌で何かぶつぶつ言いながら痛飲している。 部屋の中央には、頭から酒を浴びせられ、衣服を乱され酔いつぶされた虞翻の姿がある。 どれも一瞬後の自分をみているような気がして、潘濬の顔が蒼白になった。 彼女は最初の大脱走(w)の際、機転を利かせて外に飛び出すと見せかけ、階上のトイレに隠れていたのだ。しかし、騒ぎがひと段落した頃を見計らいトイレから出たところで、徘徊していた孫権とばったり出くわしたのが運の尽き。陸遜という玩具を失ってヒマを持て余していた孫登・孫和姉妹を交えた壮絶な鬼ごっこの末、彼女は宴会場に戻ってくる羽目になった。 「むぅぅ〜しぶといなぁ〜…えいっ!」 「え?」 次の瞬間、孫権は潘濬のスカートの根元を掴んだまま、勢いをつけてぶら下がた。 スカートに限らず、この学園の制服は課外活動に伴う戦闘行為のために相当丈夫な生地を使っているはずだが、偶然ホックの辺りに手をかけていたからたまらない。勢いでホックが外れ、スカートがずり下ろされ… 「―――――――っ!」 その惨劇に、潘濬は声にならない悲鳴をあげた。その顔が、恥ずかしさのあまり瞬間沸騰する。 間の悪いことに、彼女は下着の上にはスカート以外に何も身に付けていなかった。普段堅物振りを発揮して、お洒落にも気を使わないと思われた彼女らしく、シンプルなストライプの下着が姿をあらわす。 「むぅ…白地に青の縞パンか…やるな承明」 なにが「やるな」なのか知らないが、しみじみと呟く(カン)沢。その目の前で露になった下着を隠そうと手を放してしまった潘濬と、未だにそのスカートから手を放そうとしない孫権は一緒に崩れ落ちた。 頭から落っこちた潘濬は、痛む頭をさすって起きあがろうとするが…何故かその上にはマウント・ポジションをキープした孫権がいた。 口元はこれ以上ないくらい妖しく歪み、手の動きが否応なく恐怖をかきたてる。潘濬は涙目で、必死になって逃げようとするが、竦んだ身体に上手く力が入らない。 「あ…あ…」 「つ〜かまえたぁ…たぁっぷりかあいがったげるから覚悟しろ承明ぃ〜」 そして建業棟に、潘濬の悲鳴が木霊した。 (続く)
124:海月 亮 2005/01/19(水) 20:05 「開けろおらぁ! 居るのはわぁってんらお〜!」 「逃亡者はお持ち帰りらぁ〜出て来いやぁ〜!」 鉄製の扉を執拗に蹴り続ける激しい音と、酔った魯粛と甘寧の声がする。蹴っているのは恐らく甘寧であろう。慌てた陸遜達は、下駄箱やテーブルでバリケードを固めて抵抗した。 「な、何、なんで? 何で居るのがバレたのよっ!?」 「そんなの知らないよっ!」 小声でやり取りする朱拠と吾粲。 「まさか…」 築かれたバリケードの上から、可愛らしいカエル柄の散りばめられたパジャマに着替えた陸遜が小窓から外の様子を伺った。そこには、制服のスカートとジャージのズボンをそれぞれの手に握り締めながら、物凄い形相で蹴りを入れてくる甘寧の姿が見えた。 「やっぱり…二人の匂いを嗅ぎつけたんだ…」 「んな馬鹿な! 犬じゃあるまいしそんなこと」 当然の物言いをする吾粲。しかし、陸遜は真顔で、 「承淵から聞いたことがあるの。興覇先輩って、匂いだけでどんな料理を作っているのかは愚か、材料まで完璧に言い当てるって…私も最初は信じられなかったけど…そんな嗅覚なら、人の匂いを嗅ぎ分けるくらい出来るかも」 「うそ…でしょ?」 その言葉に顔面蒼白になる朱拠。陸遜が授業で使っている竹刀を持ち出してきた諸葛瑾も姿をみせる。 「開けたら一巻の終わりよ…私、窓のほう見てくる。ここ三階だから多分大丈夫かもしれないけど…」 「いえ、酔ってるあの人たちに、常識なんて通用しません! 私も行きます! 孔休、子範、此処は任せた!」 「承知!」 必死の形相で、かつ強い語調の小声で、陸遜が指示を飛ばす。 二人がベランダのほうへ行くと、なにやら声がする。ギョッとして駆け寄れば、その声の主が潘璋と凌統であることに気がついた。鍵をかけているベランダの戸がガタガタと乱雑な音を立てる。 「公績ぃ、石かなんか持ってない〜? こりゃ割るっきゃないっしょ〜?」 「そだね〜てかアンタの部屋から何かもってくりゃいいじゃん?じゃん?」 「や〜よ、ヒトのならともかく、あたしのモノでガラスなんて割りたくないも〜ん」 そんな物騒な会話に、二人は息を飲んで顔を見合わせる。 「…忘れてた…確かこの隣りって、文珪の部屋だった…ベランダ伝いで来れたかも」 「というかあの二人まで来てるなんて予想外だったわ…まさかあたし達狙いだったなんて」 二人は入ってくる様子はない。何か言っては二人でげたげたと笑っているが、それは中に立てこもる少女達の背筋を凍らせるには十分すぎる内容だった。 しばらく考え込んでいたが、陸遜が意を決したように立ち上がった。 「…こうなったら先制攻撃あるのみ!」 「え、ちょっと伯言!?」 諸葛瑾から竹刀を奪い取り、陸遜はベランダの鍵を開けて外に踊り出る。 「お♪ 伯言みっけ…」 「先輩、御免なさいっ…たぁっ!」 それに気を取られた潘璋と凌統の一瞬の隙をつき、ベランダの手摺を使って宙に舞った彼女は正確に二人の脳天を打ち据えた。パジャマの上着の裾を鮮やかに翻して着地すると、凌統と潘璋は折り重なるようにして倒れた。 この年度に入って、部下として宛がわれた丁奉に感化され、陸遜も剣術道場に通うようになったのだが、その成果がきっちり現れたらしい。一瞬の出来事にぽかんとする諸葛瑾が、感心したように呟く。 「……お見事」 「感心してないで下さい…とにかく、のびてるうちに動きを封じましょう」 「え…ええ、そうね」 運び込むと、タオルを持ち出してきて、なれた手つきで手かせ足かせにしていく。その上で毛布をかけてやると、気を失っていた二人は何時の間にか寝息をたて始めた。その様子をみると、陸遜と諸葛瑾もほっと一息ついた。 その決着がつく頃には、玄関のほうも静かになっていた。朱拠が恐る恐る小窓を除くと、どうも酔い潰れたらしく、外の二人は抱き合うようにして大いびきをかいていた。 酔っ払いという名の狂嵐が去って、その翌日のこと。 「昨日はすいませんでした先輩…この通りです」 「いや、それはむしろあたしたちの台詞だ…本当にごめん伯言」 「ごめんなさいぃ〜平にご容赦をぉぉ〜」 陸遜の部屋では、一晩寝て正気を取り戻した凌統と潘璋、そしてその二人をのばした陸遜がお互いに土下座している珍光景が展開されている。 そこには明け方、それぞれ衣服を取り返し、それに着替えた朱拠と吾粲、そして明け方自分の部屋に戻って私服に着替えてきた諸葛瑾の姿もある。皆、陸遜が用意した朝食代わりのインスタントスープを啜っている。 甘寧と魯粛はというと、潘璋の部屋に放り込まれ、未だ高いびきをかいていた。 一通り平謝りしあうと、沈んだ表情で頭を抱える陸遜。 「今回の件…学園管理部にどうやって説明しよう…」 「ってか…バレたらむしろヤバいのあたしら卒業生とリタイア組だから…握りつぶしてもらえると助かるかな」 「…それは善処しますよ」 潘璋のひとことに陸遜も苦笑する。 「てか、あたしらがこの有様だったんじゃ…部長はどうなったろうな」 「他の子達も心配だし…早めに見に行ったほうがいいかも」 「そうだな。興覇と子敬はどうする?」 「あのまま寝せとけばいいよ。子敬はともかく、子明抜きで興覇を無理やり起こせる自信、ある?」 潘璋の言葉にお互いの顔を見合わせ、頷いた一同、衣装を調えると会場へと駆け出していった。
125:海月 亮 2005/01/19(水) 20:07 その頃、会場のど真ん中で目を覚ました孫権は大きく伸びをした。 「ふぁ…あれ、ボクどうしてこんなトコで? …ええええ!? 何これぇ!?」 見渡せば、周りは目も当てられぬ惨状の光景が広がっている。 そこいらじゅうに転がった一升瓶とチューハイの缶、そして散乱した紙コップ。 少し離れたところで、大の字で寝ている(カン)沢と、その腕を枕代わりに、抱き寄って寝ている孫登と孫和。 その隣りに、ずぶ濡れになって死んだように寝ている、服を乱されたままの虞翻。 己の傍らには、あられもない姿の厳Sと潘濬が、憔悴しきった顔で寝ている。 主賓席には、未だ目を覚まさずぶっ倒れたままの全N。誰がやったのか、これもあられもない姿だ。 窓際に、日差しを浴びながら突っ伏して寝ている谷利。手には、一升瓶が握られている。 部屋の隅では、泣き疲れて眠っている薛綜を抱き寄せながら、幸せそうな顔で眠っている朱桓と朱然。 整然と並べられていたテーブルも、あるいは倒され、あるいは酔った誰かがやったのか、積み上げられたり無意味に並べられたりしている。 何人かが居ないのは、恐らく途中で逃げたか、あるいは会場の外で大暴れしたことは、窓の外、路上で大の字になっている周泰と、花壇に頭から突っ込んでいる徐盛を見れば予想がつくことだった。最初から一緒に飲んでいた筈の賀斉、呂岱、周魴、太史享らの姿がないのも、会場外に飛び出していったからだろう。 あまりの惨状に呆然とする孫権。よくみれば、自分も上着を肌蹴させていると言う、みっともない格好をしていた。慌ててそれを直すと、スカートの下には何も身に付けていないことに気がついた。慌てて辺りを見渡すが、その下に身につけていたと思しきものは、何処にも落ちていなかった。 「…何が…いったい何が…」 「うぃーっす、起きてるぶちょ…うっ!」 呆然と立ちつくした孫権の姿を見た吾粲、その光景に思わず絶句した。 そう、その孫権の頭には…その姿に、駆け込んできた陸遜達も噴出しそうになる。 「な、なに? みんなどうしたの?」 「ぶ…部長、頭、あなたの頭の上…っ」 「へ…?」 必死に笑いをこらえる陸遜が指差し、孫権が恐る恐る頭に触れると…そこには、彼女が探していた例のものが被せられている。その正体に気付いた瞬間、顔面蒼白になり、次の瞬間… 「やあぁぁぁ―――――! みんな見ちゃ駄目ぇぇーッ!」 恥ずかしさのあまり顔を真っ赤に染め上げ、孫権が部屋から飛び出していった。 一拍置いて、少女達の笑い声が会場跡に弾けた。 このあと孫権はしばらく、気まず過ぎて居合わせた陸遜達とはしばらく口も利けず、潘濬達も、それぞれの畏怖の対象となった人物たちをそれとなく避け、近づかなかったらしい。 そして真冬の路上で高いびきをかいていた周泰たちも、大方の予想通り風邪を引いて寝込んだとのことだった。酒をかぶってびしょ濡れのままだった虞翻も、その例に漏れることはなかった。 当然ながら、孫権の頭に彼女の下着を被せた犯人も不明である。 この事件は学園史に載る事こそなかったが(当たり前か)、それでも当時の長湖部員の間では長く語り草になったという。当事者・孫権にとってはかなりのトラウマになったようだが、それでもこうした酒盛りが止む事はなかったらしい。 (終わり)
126:海月 亮 2005/01/19(水) 20:31 …ああ、やっちまった_| ̄| ...○ 私的には孫権が潘濬を襲っているくだりに全力かけてみました。 何気にそのいちとか書いてありますけど…ミスですのでお気になさらず。多分続き無いので…。 時期的には二宮の変の前年、夷陵回廊戦の翌年の正月になるかと。登場人物の年齢設定などはかなり勝手に決めちまってますが… 因みに張昭不在の理由も、バリケード事件の真っ最中であると勝手に思い込んでます。 >玉川様 流石は本家…祭の先陣を切るにふさわしい逸品でありますな(´ー`)b 実は夕方頃に一度来たのですが、それを拝見いたし吾粲と朱拠の描写を早速拝領させて頂き…というか、いきなりとんでもない扱いをして面目次第も_| ̄| (((○
127:7th 2005/01/19(水) 22:31 時の流れは万人に平等である。 それは多忙を極める蒼天学園の生徒にも例外ではない。好む好まざるとに関わらず、年は暮れ、そして年は明ける。 そう正月。流石に大晦日及び三が日程度は休みでも良いのではないだろうか、と云うか休ませろ、とのことで、その期間は一死の活動が停止され、生徒達は思い思いの休暇を楽しんでいる。 ことに幹部級の人間にとっては本気で得難い休日。それこそ遊び倒すか、惰眠を貪るかの二者択一である。 寮を出て実家へ帰省する者も多い。市外から来ている者のみならず、市内に実家を持つ者もだ。 例えば趙雲は実家の常山神社の手伝いをしに帰っているし、張遼もヘイホー牧場で馬と戯れ三昧の正月を送っていることだろう。孫権などは二人の姉に連行されて、元日から海に繰り出している。 そしてここにも、正月をまったりと過ごしている人達が居た。 〜〜或る姉妹(達)の正月風景〜〜 「はー、実家はやっぱり安心しますねー。まるで第二の故郷です」 「第一の、の間違いでしょうが」 「あ、そうでしたねー。うっかりうっかり」 炬燵に入りながらのほほんとボケる妹に、姉がツッコミを入れる。割と良くある光景ではあるのだが、姉の方の表情は、呆れたを通り越して少々うんざり気味だ。 「全くこの子は大ボケなんだから……いや、良く考えるとマシな方か。何しろウチは問題児揃いだし」 長女の苦しみである。エキセントリックな性格の妹たちの世話をするのは、昔から彼女だった。その苦労、推して知るべし。 彼女の名は諸葛瑾。長湖部の中堅幹部にして、諸葛姉妹の筆頭である。人望篤い事で知られる彼女の思慮深さと温厚さが、妹達の世話によって培われた事を知る人間は少ない。 「あのー、瑾姉さん。一応訊いておきますけど、問題児ってのはアタシの事じゃありませんよね?」 「クリティカルヒットで私達です。それすら気付きませんか愚鈍な姉」 「…アンタは自覚があって何よりだよ、喬」 「姉さんは自覚が無くて何よりです…バカの」 「何だとー!!」 姉妹間の会話ながら、余りにも容赦ない言葉に、顔を赤くして怒っているのが諸葛恪。彼女は頭が滅法切れるものの、性格は直情径行で調子に乗りやすいのが玉に瑕。将来が思いやられると云う点で、家族内では割と問題児である。 そしてナチュラルに口が悪い諸葛喬。一卵性の双子のためにこの二人の顔立ちはほぼ同じだが、ショートカットで活発に見える恪に対し、喬はロングヘアに眼鏡の理知的風味。加えて、生来よりの病弱のため、見た目は薄幸の美少女と云うかなり得したルックスをしている。ただし、中身は猛毒を吐く危険生物じみた、諸葛家で一二を争う問題児である。 「あ、駄目ですよ喬ちゃん。家族にそんなこといっちゃめっ、ですよー」 「均姉さんは頭が小春日和で何よりです」 「んー、私も春は好きですよー。あ、でも夏も良いですね。スイカ割りとか」 「訂正。均姉さんは脳がお目出度くて何よりです。色々と尊敬しますよ」 「えへへ、誉められちゃいました」 天然はあらゆる悪意を超越する。喬が家族中で最も苦手とするのがこの天然ボケボケ娘、諸葛均である。ほんわかふわふわオーラ全開の彼女には、いくら罵言をあびせても、暖簾に腕押し糠に釘。柳が風を受け流すが如く、ことごとくが効かないのだ。だがその天然ぶりとは裏腹に、家事などは姉妹中で一番出来るのだから世界は侮れない。瑾の言にあるように、姉妹中ではまだマトモな方である。 「……そう云えば、瞻はどうしたの?亮と尚は何か怪しいことしてるみたいだけど、あの子も朝から見ないわね」 「あー、あの子まだ寝てるわ」 時刻は既に11時を回っている。大晦日の昨日も瞻は早々と寝てしまっていたため、かれこれ12時間以上寝ている計算になる。いくら正月でやる事が無いにしても、流石に寝過ぎの感は否めない所だ。 「起こしてらっしゃい」 「へいへい」 瑾にそう言われ、炬燵から名残惜しそうに出ていく恪。そのまま瞻へ行くかと思いきや、おもむろに台所へ。そこでフライパンとお玉を装備して、ようやく瞻の部屋へ出撃した。 しばらくして鳴り響く、雷音と聞き紛う程の音。時折、「起きろー!!」とか「二度寝すんなー!!」とか云った叫びが聞こえたりもする。 この家の中で道路工事をしているかの如き騒音の中、誰一人として動じてないのは驚異的である。慣れって怖い。 そして30分後、寝起きのためにふらふらした足取りの諸葛瞻と、疲労のためふらふらした足取りの恪が居間へとやってきた。 「せ〜ん〜、アンタもう少し早く起きようって気は無いの!?起こす側の身にもなってみなさいよ」 ぜはぜはと息を荒げ、抗議の声をあげる恪。寝ボケ眼でそれを聞いた瞻が一言、 「ん、努力はしてみる」 とは云うものの、その努力はついぞ報われた事は無い。そもそも努力していないのだから当たり前なのだが。 『春眠、暁を覚えず』とよく言うが、彼女の場合は一年を通して暁を覚えていない。いや、寝るのに時と場所を全く選ばないので、そもそも夜と云う概念を認識しているかどうかさえ怪しい。諸葛瞻、生粋の眠り姫である。 「皆さん、明けましておはよーございます」 「何か間違ってない?それにもう昼よ」 「ではおやすみなさい」 「って寝ないでー!」 「ねむねむ」 炬燵に入るや、早々に眠ってしまった瞻。半日寝たくせにまだ寝足りないのか。 すやすやと寝息を立てる瞻を見て嘆息する瑾。恪や喬もおそらく同じ思いだ。 「寝る子は育つって云うけれど、あれは本当ね。邪魔ったらありゃしない」 「瞻ちゃん背がおっきいですもんね。格好良いです」 この寝ボケ娘の何処が、と反射的にツッコミたくなった瑾だが、良く良く考えてみると、格好良いと云うのもあながち嘘ではない。顔立ちは何時も寝ボケ眼であるのを除けばまずまず整った顔立ちをしているし、性格も眠たげでやる気無いのを無視すれば飄々とした感じで悪くない。何より、180p近い長身が絶大なアドバンテージである。総じて、寝ボケてさえいなければ、かなり格好良い女なのではなかろうか。 「成程、確かに背が高くて格好良いのは認めよう。だがどうよ!この胸は!」 やたらエキサイトした恪が指し示す先は瞻の胸である。一言で言うと、おっきい。 「くうぅ〜、寝る子が育つのは解るけど、何で!胸まで!育ってるのよー!!」 ちなみに恪、貧乳。彼女の悲憤は果てしなく深い。 「持たざる者の悲哀、と云うやつですね。……哀れな」 「心底哀れっぽく言うなー!!大体喬もアタシと大して変わんないでしょうがっ!」 「亮姉さんが言うには、私はこの位が萌えのストライクゾーンど真ん中だそうです。何も問題有りません。問題なのは姉さんだけ」 「何よそれ!えこひいきじゃないの、あンのバカ姉め」 彼女たちの姉である諸葛亮だが、どうも喬にえらく萌えているらしく、姉妹中で最も喬に甘い。尤も、喬自身は余り亮のことを好意的には思っておらず、せいぜいが嫌いではない程度の感情しか持っていない。哀れ、一方通行の愛。 「ちくしょー、何時か、何時の日か、胸がおっきくなってみんな見返してやるー!!」 「そんな都市伝説を未だに信じているんですか、姉さんは」 「未来の事なのに既に伝説呼ばわりですか!?しかも都市伝説って一体何事ー!?」 「それはもう怪奇現象の域と云う事でしょう………。おや姉さん、頭を抱えてどうしました?頭痛なら早めに薬を飲んだ方が宜しいと思いますが」 「はいはい喬、そこまでにしときなさい。少しやり過ぎよ」 ネタがネタなだけに流石にこれ以上恪の心の傷をえぐり倒すのは拙いと判断して、瑾が止めにはいる。隣では、あうあうと頭を抱え込みながらうめいている恪を、均は懸命になだめている。ふわふわオーラに影響されて、復帰自体は早そうだ。だからといって問題が解決する訳ではないが。 ふぅ、と一息ついて瑾は考える。一体どうして姉妹間でこんなにも胸の大きさに差があるのか?と。彼女の主観は入るものの、大体の比率では、 均≧瞻>瑾>亮>恪=喬>尚 と云った所である。うち尚は将来性と云う点で除くとしても、この比率には何か法則性があるのではないか、と邪推してみたくもなると云うもの。 上位二人の共通点………………心の余裕? 「つまり心が大きいと胸も大きくなる、と云う事かしら?」 確かに均は天然入ってはいるが、それ故に心の余裕は大きいし、瞻はこの通り一日の大半は寝ているので、精神的な煩わしさなど皆無であろう。 対するに恪は何でも人並み以上にこなす秀才ではあるが、どうにも器が小さい。喬は幼い頃から病弱というハンデを負っている。あの毒舌も、そういった無意識のストレスの発散とも取る事が出来る。そう云う訳で、二人とも心の余裕は少ない。 「まさか…ね?私も何考えてるんだか」 はは、と軽い笑いで己の思考を誤魔化しつつ、迂闊にこの話題には触れるまいと誓った諸葛瑾であった。……時として怪奇は、怪奇のままであった方が良いのだから。
128:7th 2005/01/19(水) 22:31 さて、時刻は正午を回ろうとする頃。正月でごろごろしているとは云え、間食などしていなければ、健康な人間なら小腹も空く頃合いだ。 「……お腹空いた」 起きてまた寝て一時間余り。今まで沈黙を守っていた(単に寝ていた、とも云う)瞻が、のそりと炬燵から身を起こす。 「そりゃ空くでしょうよ。何たって半日以上食べてないんだからねアンタ…。ま、アタシもお腹空いてるから丁度良いか。均姉、何か食べるものあるー?」 「えーと、おせちとお雑煮の残りとお餅がありますね。後は私の秘蔵のサラミとか缶詰とか」 「何処の酒飲みだアンタ。ともあれ、朝も食べたものばっかりって事ね…」 瞻に向けていた半目を今度は均に向け直し、恪は溜息を吐いた。まだまだこの姉の生態については未知の部分も多い。姉妹のくせに謎、と云うのも或る意味問題だが。 それはさておき、昔より正月には餅を焼く・雑煮を温める・お茶を沸かす以外の事に火を使わないと云われる。近年ではその風習は失われつつあるが、諸葛家はどうやら昔からの風習を守るようにしているらしい。 「仕方無いわね。均の所蔵物はともかく、適当にぜんざいでも作りますか」 「えー、サラミは美味しいですよぅ」 均の反論をさらりと流し、皆が瑾の提案に肯く。どうやらこの家、辛党は少ないようだ。 「じゃあそう云う事で。…恪、亮と尚も呼んで来なさい。どうせロクでもない事しかしてないんだから、ドアぶち抜いて引っ張って来て良いわよ」 「あー、それについてなんだけど、亮姉ってばこの間ドアを改造したらしくってさ、アタシの力じゃアレ抜けないわ。多分耐爆シェルター並よ」 「…一体何から部屋を守ってるんだか。しかし困ったわね、どうしたものかしら」 ふむ、と顎に手を当てる瑾。しかしその次の瞬間、 「その必要はありませんぞ!!」 響いた声と同時、背後の襖が快音を立てて開く。そして流れ出る、白煙と高笑い。 ぶしゅー、と吹き出す煙を背負い、諸葛亮が腕を組んだポーズで仁王立ちしていた。その後ろ、諸葛尚がドライアイスの入ったバケツを、パタパタと団扇であおいでいる。 ひとしきりバカ笑いを上げたあと、亮は尚に向き直り、 「ふっふっふ。我が助手尚よ、どうかねこの装置。昨日から徹夜して制作した甲斐もあると云うもの」 「凄いですハカセ!まるでデパート屋上のステージみたいです!」 「うむ、これなら何処へ出しても恥ずかしくあるまい。完成だぞ我が助手よ」 「ハカセー!!」 「………あんたら一体何のコントよそれは」 感極まって抱き合う二人に、呆れと諦めを半々にカクテルした声で瑾が問う。本音を言えばツッコミさえ放棄したい気分なのだが、一応訊いておかないと延々とこの二人のコントを聞かされる羽目になるかも知れない。 「コントとは失礼な。これはただの実地試験です。幸い動作は確認しましたので、早々に片付けますが」 「そう、だったら早く片付けなさい。…一応訊いておくけど、それ何?」 「見ての通りですが、暇ですから説明位はしておきましょう」 そう言って、背負っていた装置を降ろす亮。その装置、原型となった物はは小型のリュックサックらしいのだが、所々に謎のボンベやら何かのアタッチメントと思しき物体が装着され、さらには何本もの細い管が突き出ていると云った、怪しさ全開のデザインだ。少なくとも街中でこんなモン背負っていたなら、まず間違いなく警察へしょっ引かれるだろう。見ての通りとか言っているが、どう見てもこれが何なのかは解らない。 「これは孫乾殿に頼まれて制作したもので、小型のドライアイス噴霧機です。何でも旭記念日の部活動説明会でヒーローショーをやるとか」 「ヒーローショー?帰宅部連合の出し物でやるの?」 「いえ、無届けですのでゲリラショーかと。とまぁその折に使用する訳です」 本来ならそれを取り締まる立場にある彼女が、こんな物を作ってまで協力していて良いのだろうか。答えは絶対に良くない、だ。 「つまり年をまたいでまで作っていた物がそれ、と云う事ですね。……馬鹿ですか貴女は」 「うわ相変わらず容赦ないな我が妹よ。お姉さん悲しくて微妙に嬉しいぞ」 何やら矛盾した発言を繰り出す亮。もしかすると精神的Mなのかも知れない。 「酸素が勿体ないので黙れ馬鹿姉。尚、貴女もこんな馬鹿と付き合う必要はありません。馬鹿が伝染りますよ」 「えー、楽しいのに」 「楽しくても駄目です。私的に馬鹿は法定伝染病と同レベルですからね、感染したら完治するまで学校に行けません。最悪の場合、生物災害(バイオハザード)指定で隔離されますよ。嫌でしょう、それは」 「う、うん。馬鹿って怖いね。ゾンビで拳銃でハーブで回復なんだねっ」 字面的にはそう間違ってもいないのだが、微妙に間違った認識をしている尚。この姉たちに囲まれて、末っ子がマトモに育っているのは奇跡に近い。尤も、この辺の認識に見られるように、少しずつ歪み初めているようだ。将来が不安な所である。 「亮姉さん、貴女も尚に変な事吹き込まない様に。貴女の馬鹿は特に凄いんですから。私的にはエボラ出血熱級です」 「致死率90%とはこれまた凄い。或る意味誇らしいな」 「ええ存分に誇って下さい。近い内に病名『馬鹿』で生物災害に認定されるでしょうから。人類初ですよ?良かったですね」 「うむ、脳が悪いのに良かったとはこれいかに、と云った感じだな。はっはっは」 本人達の認識では、せいぜい「軽口のたたき合い」と云った所なのだが、空気は物凄く刺々しい。周りの人間にはたまったものではない。 「思うんだけどさ、あの二人って同類なんじゃない?類友が亮姉で、同族嫌悪が喬」 「言い得て妙よねぇ…。二人ともイカレてるのは間違いないし」 「イカレてるって云うのはあんまりですよ。確かに二人とも何処かおかしいですけど」 「均姉さん、そう云うのは『他人と行動様式が一線を画している』って言うと良いよ。馬鹿が知的に聞こえるから」 「な、なんか文字数が多くて偉そうです。馬鹿って偉い?」 流石に大声で言うのも憚られるので、小声でひそひそミニ姉妹会議。包み隠さぬ本音なので、みんな結構酷い事を言っている。 そんな外野の心の内を余所に、舌戦はますますヒートアップ。 「時に喬よ、内政戦隊は只今5人目募集中だそうだがどうかね?今なら好きな色の全身タイツに、先程のバックパックが漏れなく付いてくるが。きっと似合うぞ。私の趣味的に」 「ふふ、だんだんと変態性がオープンになって来ましたね亮姉さん。心から辞退させて頂きますよ。それよりも貴女が入るべきでしょう。白い全身タイツにレインボー染め抜いて、リーダーでもないのに真ん中でポーズ付けてる……何てお似合いなポジション」 「○ャッカー電○隊とはこれまたマニアックな。だが私は現状で満足しているのだよ。考えてもみたまえ。『正義の味方としての博士』、この役割の方が遙かに私に相応しい」 「成程、確かに博士は良い感じの役どころですね。その変態マッディーな性格を存分に活かせますから」 「そうとも、マッドサイエンティストは世界を救うのだよ。ビバ科学の力。ラララ科学の子」 「ええ、ついでに言うと、世界を滅ぼすのも大抵マッドサイエンティストですが」 既に状況は加熱から混沌に移り、もはや常人の理解の及ばぬ域へと達しつつある。この二人、やはり似たもの同士か。 「えぇい、我が妹達ながら何て子達よ。何時育て方間違えたのかしら」 「ん、多分母さんの影響だと思う。母さんってほら、結構バイオレンスな人だし」 ちなみに彼女たちの母親の名は諸葛豊。蒼天学園OBで、現役時には清廉かつ正義の人として知られた硬骨の人である。年を経て家庭に入った後も、瞻の言にあるように性格の強さは健在のようだ。 「それにしてもこの馬鹿さ加減は変よ。均と恪と瞻は……まぁ多少問題有るけどあの二人程じゃないし」 「瑾姉、比べる相手が悪い上に、そもそもアタシは問題児じゃないっての!」 「後半無視するとして、流石に相手が悪いのは事実よねぇ…。尚、あの二人には近づかない事ね。馬鹿を通り越して大馬鹿になるから」 「え、えと…つまり、馬鹿ってバカなの!?」 「ああっ、尚ちゃんがついに正しい認識をっ!ううっ、良かったですねー」 ミニ姉妹会議も微妙な盛り上がりを見せている。やってる事は現実逃避以外の何者でもないのだが。 誰でも良いから何とかしてくれ、と云うのが一貫した外野陣の本音である。自分たちは手を出さない。ただ願うだけ。誰だって、進んで火の中に手を突っ込みたいなどとは思うまい。 その願いが祈りとなって天に通じたのか、ぴんぽーん、と家のチャイムが鳴る。 彼女らにとってそれはまさしく福音。もはや一も二もなく、我先にと争って駆け出す。向かう先は玄関のドアだ。 バタバタと転がるように走り込んできた5人。一番早かった瑾が代表でドアを開け――― 「どちら様ですかありがとうございます!!」 「なな、何や一体!?ウチ何か悪い事……や無くて何か善い事でもしたか!?」 その先には帰宅部連合総部長・劉備が、突然の事に目を丸くしていた。 「……と、これは劉備先輩、お見苦しい所をお見せしました。改めまして、明けましておめでとう御座います」 慌てて居住まいを正し、劉備に礼をする瑾。呆けていた劉備も、それに応じるように軽く一礼する。 「ん…ああ、新年おめでとさん。…しっかしさっきのは何や?えらい泡食っとった様やけど」 「いえ身内の事情ですのでお気になさらずに。しかし我が家に何の御用でしょうか?しかも御三方お揃いで」 先刻はパニックになって気付かなかったが、良く見れば劉備の後ろ、関羽・張飛が並んで立っている。家の中にいる諸葛亮を含めれば、帰宅部連合首脳陣の揃い踏みである。 「いや正月やしな、孔明誘って初詣にでも行こ思たんやけどな。丁度子竜も神社でバイトしとるし、巫女服見がてらな。…折角やから瑾のねーちゃん、アンタらも一緒に来るか?家族みんなで行った方が良いやろ?」 「はぁ…。しかし今両親は年始回りで家に居りませんし、妹達の事で先輩方に御迷惑をお掛けする訳には…」 躊躇する瑾。だがそれを叱り飛ばす様に、思わぬ所から声が出た。 「おいおい諸葛の姉さんよ、ウチの姉貴とこのアタシが、まさかその程度気にする程ケチな人間だと思ってんのか?」 張飛だ。口調こそ荒っぽいが、その表情は笑顔。人懐っこい感じの、良い笑顔だ。 「左様。学園内のしがらみも、今日ばかりは関係有りませぬ。今日は元日、年の初めの目出度き日ですよ」 続けて関羽。目元にたたえた微笑が、何時になく柔らかい。 「ちう訳や。昼メシがまだなら外で食べればええやん、屋台もいっぱい出とるで。ほれ、そこのちっこいの、おねーさんが何かオゴったるでえ〜」 「本当!?ワタアメとかでもいいのっ!?」 「ちょっ、尚!駄目だってば。先輩も妹を餌付けしないで下さい!」 「ええやんええやん、ワタアメの一本位、大した事あらへんて。ほな尚ちゃん、おねーさんに付いて来るかー?」 「うん!」 劉備に頭を撫でられながら、満面の笑顔で返事する尚。 「ほい決まり。どうよ瑾のねーちゃん、まさかこの子だけウチらに付いて行かせる気か?」 にんまりと勝ち誇る劉備の顔を見て、瑾は両手を上げた。流石は劉備、役者が違う。 「解りました。御迷惑を掛けさせて頂きます。そう云う訳だからみんな準備―――って」 振り返った先には誰も居ない。どうやら行くことが決まった時点で、皆早々に中に引っ込んで外出の準備を始めたらしい。 独り取り残された瑾の傍ら、劉備がさも可笑しそうに肩を震わせて笑いを噛み殺している。 「いやー、おもろい家族やな。退屈せんやろ、アンタ」 「ええ、本当に。毎日がエキセントリックの嵐で泣けますよ」 はぁ、と肩を落とす瑾。その背中を一発叩き、劉備が言う。 「泣くな、笑え。泣きながらでも笑え。笑う門には福来たる、って言うやろ。笑っとった方が人生たのしいで」 かか、と笑う劉備。瑾もつられて微笑し、 「そうですね、年の初めから泣き言はよしましょうか。何はともあれ」 背をのばし、威儀を正して劉備達に向き直る。 「本年も姉妹共々、宜しくお願いいたします」 かくて始まる新たな年。 それはきっと、楽しい年になる。そんな気がした――――
129:7th 2005/01/19(水) 23:10 何とか一日遅れで間に合った〜! 今年は諸葛姉妹のお話です。 ホントは後二人くらい(諸葛融と諸葛京)が居るはずですが、話がややこしくなるので泣く泣く割愛。 何時か補完できると良いなぁ、と思っていたり。 あー、でもこの文中にもネタが一杯有るなぁ…。内政戦隊ゲリラショーとか諸葛姉妹が常山神社で巫女服とか。 何やらアサハル様の方の参加が遅れるらしいので、もう一本書いてみようかなぁ…。 何はともあれ、玉川様、海月様、GJでした。 そしてこれからの方たちも頑張って下さい! 以上、7thでした。
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【1月18日】旭記念日創作発表スレッド【お祭りワッショイ】 http://gukko.net/i0ch/test/read.cgi/gaksan2/1074230785/l50