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【1月18日】旭記念日創作発表スレッド【お祭りワッショイ】
156:海月 亮 2006/01/19(木) 00:41 その後たっぷり一時間かけて妹たちの誤解を解き、外出の許可を貰って自分の部屋に戻ってきた頃には、バスの時間まで30分くらいとなっていた。 初めは普段どおりの服を着て行こうかと思っていたが、ふと着物架けの方を見やる。 そこには一着の振袖があった。薄い緋の地に、赤、黄、白と色とりどりの花模様をあしらった着物と、濃い海老茶の帯。初詣用の晴着として、去年まで来ていたそれを妹に譲り、新調した物だ。 「…折角だから、今日着ちゃおうかな?」 毎年というか、夏だって着物を着ることがある彼女にとって、着物の着付けくらいはひとりで問題なくできる。時間的にも支障はないし、こういう機会でないとなかなか着ない服でもある。 「よーしっ」 彼女は着ていた猫の手柄のパジャマを躊躇なく脱ぎ捨て、着付けにかかった。 「…なんかそこまでめかし込んでいくとなると、またあの子達騒ぎ出すわよ? やっぱり〜とかいって」 着付けの途中で乱入してきた虞レ。こちらはクリーム色無地のタートルネックセーターにジーンズ、その上からダークブラウンのダッフルコートにクリーム色のマフラーという文句つけようもない冬の普段着だ。 「う…でも、こういう機会でないと、なかなか振袖も着づらいし、せっかく新調したから」 「確かに、結構奮発したようだしね。飾っておいて虫に食わせるには勿体無いか」 そういいあって微笑む姉妹。 軽口を交わしながらも、彼女は見事な手つきで最後の仕上げを済ませ、姿見の前でポーズを取った。 「うん、我ながら上出来」 「いつもながら見事ね…あたしも見習わなきゃね」 感心したような、その一方でうらやむような眼差しの妹に、 「明日は解らないけど、祭の最終日には姉妹水入らずで行こう? その時でよければ、教えてあげるわよ」 その頭に軽く手を置く虞翻。 そんな歳じゃないとは思いながら、無碍にその好意と、実は大好きな姉の手を払いのけられず、 「…うん」 少し紅潮した頬を隠すように俯く妹の姿に、彼女からも笑みがこぼれた。 何のハプニングにも出会わず、時間通りにバスに揺られること10分。人出のピークが和らいだのか幾分か席に余裕のあるバスが琅邪に到着すると、見覚えのある少女が居た。 気づいて手を振ると、向こうもこちらに気付いて手を振り返す。 "ロバ耳"と称される癖毛はそのままに、結い上げた髪をべっ甲作りの簪で留め、濃い赤の地に桜や菊の文様をあしらった振袖を、柑子色の帯で締めた晴着姿で居るのは、紛れもなく諸葛子瑜その人である。 バスが止まると、数人の客と共に彼女も乗り込んできた。 「やぁ」 「こんばんわ。ごめんね、急に呼び出しちゃって」 「…丁度行きたかったところに、あなたが呼んでくれただけよ」 そして隣の席に彼女も座る。 虞翻はまじまじとその顔を見つめる。 未だに、彼女は諸葛瑾が突然こんな行動に出た理由を図りかねていた。見た目には普段どおりのようだが…というか、もともと素地がいいだけあって、やっぱりちゃんと着飾ると、彼女は美人なのかもしれない…などと、何時の間にかそんなことを考えてしまう虞翻。 「どうしたの? 私の顔、何か付いてた?」 「あ…い、いやそうじゃないけど」 不思議そうな諸葛瑾に、つい数時間前の妹たちとのやり取りを思い出して、赤面して慌てる虞翻。 変なの、と微笑む諸葛瑾。やっぱり、そうした反応を見ても普段の彼女とは別に変わったところはないようだ。こういうときは、やはり当人にきちんと聞いてみるべきではないのか…? しかし、虞翻は口を開こうとして思いとどまった。 諸葛子瑜という少女は、その温和な性格と、一門の人間はおろかそもそも姉妹同士で別々の勢力に身を置いている。彼女と四番目の妹の諸葛恪は長湖部に、二番目の妹諸葛亮と、三番目の妹諸葛均、それぞれ五番目と六番目にあたる諸葛喬、諸葛譫が帰宅部連合に居るという塩梅だ。 まして今年、帰宅部連合…というか諸葛亮の進退あたりにかなり不安なものがあると、何気に懇意にしている交州学区総代・呂岱に聞かされていた虞翻は、諸葛瑾も表には出さないものの大分心労を溜め込んでいるのだろうと思っていた。 彼女がこういう行動をとったのも、その気晴らしのためなのだろうが…そうは思った虞翻だが、ならば何故自分を誘ったのか、それが気になっていた。 彼女なら、わざわざ虞翻を誘わずとも、他に誘うべき人間は居るはずだろう。確かに孫権やら陸遜やらという連中は不在で、恐らくは敢沢、歩隲などは相変わらずバイトに勤しんでいるはず。それでも厳Sや潘濬、吾粲とかが居るはずではないか、と。 (…もしかしたら、後の子達は現地集合かもしれないか…) そんなことを考えているうちに、バスは見物客の車でごった返している終点・常山神社の敷地内へと入っていった。 「ねぇ…」 バスから降り、門前の階段を何事もなく昇り、鳥居をくぐろうという時点で、虞翻はたまりかねて言った。 「他のみんなは? 誰か待ち合わせとかしてないの?」 「え?」 振り向いた諸葛瑾は、「なんで?」といわんばかりの表情をしている。 「なぁに? 私とふたりきりなのは嫌?」 「ううん…そんなんじゃないよ…でも」 その不躾な物言いにも、穏やかに微笑んで咎めようともしない諸葛瑾に、虞翻は一瞬、次の言葉を吐き出すのを躊躇ってしまった。 だが、このままこのような気持ちの澱みを抱えながら、彼女の行動に付き合うのも心苦しいように思えた。 「…あなただけを呼び出したのが、そんなに気になった?」 その一言に、無言で頷き、そのまま俯いてしまう。 きっと彼女のことだから、特に理由はなくとも自分を誘ってくれただろう。それなのに自分は変な勘ぐりをして、なおかつそれを態度に表してしまった。もしかして、愛想をつかされたかもしれない。 肩に手を置かれて、ふと見上げると、そこには苦笑した諸葛瑾の顔があった。 「相変わらずね…でも確かに、今日の私の行動はちょっと唐突に過ぎたかもね」 寂しそうに笑う諸葛瑾。 「何でなのか解らないけど…なんだか急に、あなたに会いたくなった。それが本音なの」 「私…?」 自分を必要としてくれていたことは、嬉しいと思った。 しかし、あまりに唐突なその一言に、虞翻はただ戸惑うばかりだった。
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