下
【1月18日】旭記念日創作発表スレッド【お祭りワッショイ】
157:海月 亮 2006/01/19(木) 00:42 境内に所狭しと並ぶ屋台。そして行きかう人並みの中、ふたりはしばらく言葉もなく、本殿の参拝の列に混ざっていた。 「うちの妹の話…あなたはもう知ってるわよね?」 先に沈黙を破ったのは、諸葛瑾だった。 虞翻は無言で頷く。 諸葛亮の件については呂岱からの又聞きだが、大体の事情は解る。 そしてもうひとつ、彼女の妹たちといえば… 「このまま卒業したら…いったい恪や融がどうなるのか、やっぱり心配で仕方ないの」 虞翻には返す言葉が見当たらなかった。 諸葛恪と諸葛融。虞翻も虞レからその人となりを伝え聞き、また実際に逢った事もあるので知っている。 「こんなことを聞くのもどうかと思うけど…あなたはあの子達のこと、どう思う?」 確かに諸葛恪は頭の回転も速いし、言葉も巧みだ。しかし虞翻は…それが諸葛瑾の妹であることを考慮したとしても…どうしても良く評価できない点が見受けられる。 自信家で鼻に付く態度と、あまりにも些事に無頓着な大雑把さ。この二点により、恐らく諸葛恪は一身を完うできない…己が才知に身を誤るのではないか、と。我侭で騒がしいだけの諸葛融に至っては論外と言わざるを得ない。 しかし、自分が交州へ移ったあの日…自分の為に泣いてくれたこの少女の心を抉るようなその評価を、彼女はどうしても言い出せなかった。 「…他人のモノは良く見える、と言うけど…私はあなたが心底羨ましいわ」 「え…」 「あなたは私よりずっと優れた才能もある…そしてあなたの意思をついでくれるだろう子達にも恵まれている…知ってる?あなたって割と下級生に人気があるのよ。あなたの妹…世洪ちゃんだけじゃなく、幹部候補生となった子達の中には、あなたにその才能を見出された娘が、それだけいっぱいいたってことなのね」 寂しそうな表情のまま、諸葛瑾は軽く頭を降った。 「結局、私は何も長湖部に…楽しい思い出をいっぱいくれた場所に、何も残さずに去っていくような気がして…」 「そんな…そんなことないっ!」 自分でもびっくりするくらい、大きな声で叫んでしまったらしい。周囲の目がこちらに向いたことに驚き、虞翻は真っ赤になって慌てて口を押さえてしまった。 その様子が可笑しかったのか、諸葛瑾も少し笑った。彼女も釣られて、少し笑った。 少し時間を置いて、周囲の注目から開放されるのを見てから、虞翻は気持ちを落ち着かせ、 「それは違うよ…個人の意思だけを受け継いできただけなら、きっと長湖部はとっくの昔に無くなっていた…長湖部は、その活動に関わったみんなが担い手になって、次の世代にその人たち全員の思いを受け継いで、今の長湖部があるんだと思ってる」 一言ずつ、大切な宝物を扱うように、彼女はその想いを言葉にしていた。 「私たちの想いは、これからの長湖部を担っていく娘達みんなが受け継いでくれる…私は、そう思いたい…」 「…仲翔」 「だから…何も残せないなんて、そんな寂しいこと言わないでよ」 「うん…ありがとう」 その笑顔に吹っ切れたものを見出せたので、虞翻も精一杯の笑顔で応えた。 そうこうしているうちに、ふたりの参拝の番が回ってきた。 揃って袖の中から財布を取り出し、示し合わせたように五円玉を取り出し、賽銭箱へ投げ入れるふたり。 二回手を打ち、手をあわせて、彼女は願っていた。 (私達の思いを受け継いでくれる娘たちが、充実した学園生活を送れますように…) (…私を受け入れてくれた仲間と、何時までも仲良く居られますように) と。 本殿から離れ、見上げた空から粉雪が舞い降りてきた。 「…やっぱり降ってきたわね」 「予報では、今週いっぱいは雪なんか降らないって言ってたけど…?」 怪訝そうに諸葛瑾が言った。 「ちょっと占ってみたの。私も半信半疑だったけど」 ああ、と諸葛瑾が相の手を打つ。虞翻が占いの名手であると言うことは、部内でもそれなりに知られていた。 「あー! やっぱり来てたんですか先輩方」 本殿のほうからふたり走ってくるのが見える。髪形を普段とは違って、うなじの辺りで一本に括って、赤い袴の巫女装束に身を包んだそのふたりは敢沢・歩隲の長湖部苦学生コンビだった。 「何よあなた達、こんなところでバイトしてたの?」 「えーそうですよ。なにしろ看板娘は受験のため不在ってことで、今年は此処の枠が広かったんですよ」 虞翻の問いに、その上着の裾を引っ張って、その姿を主張するように応える歩隲。 「でも珍しいですね。仲翔さんと子瑜さんって組み合わせ」 「やっぱりそう思う?」 何気ない敢沢の一言に、悪戯っぽい笑顔の諸葛瑾。 不意に肩を抱き寄せられ、虞翻は思わず諸葛瑾の顔を見やる。 「でも、いいじゃない? 私たちは"同期の桜"なんですから」 満面の笑顔の諸葛瑾。 敢沢や歩隲のみでなく、虞翻までも呆気にとられてしまったが…。 「確かに、今の長湖部幹部では古株になっちゃったわね、お互いに」 「そうね」 お互いにそういって笑いあった。 舞い降りる雪が、会場に並ぶ松明の灯に照らされ、まるで冬の夜空に舞う桜のように、ふたりには思えた。 「…なんか悪いものでも喰ったのかな?」 「まぁいいじゃねぇか。なんにせよ、仲良きことは美しき…だろ?」 歩隲の物言いに苦笑する敢沢。 「え〜っと、ひたってるトコなんですけど…先輩方、良かったら本殿のほう来ません? 一応暖かいものとかありますよ」 敢沢の呼びかけにわれに返った虞翻。 「え? …大丈夫なの?」 「ええ。先輩達の話したら、神主さんが連れてきたらどうだって」 「だから抜け出てこれたんですけどね」 その言葉に、虞翻と諸葛瑾は顔を見合わせる。 「…行ってみる?」 「そうね、折角だからお邪魔しましょうか」 頷き、後輩ふたりに伴われ…やがて、その姿は本殿の中に消えていった。
158:海月 亮 2006/01/19(木) 00:53 一番槍は逃したか(;;゚Д゚)…まあいい、行くぞ! …ってなワケで海月です。 言いだしっぺが開催日に間に合わなくてごめんなさい_| ̄|○ そして祭開催の音頭もとらないで、空気読めないひとでごめんなさい…_| ̄| ...○ というわけで平成十八年度、旭日祭を執り行います(゚∀゚) そして雑号将軍様、一番槍乙です^^ そしてのっけから萌えさせてもらったぜコンチクショウw 皇甫嵩、朱儁、廬植、丁原の四人衆に、張角との出会い編ですな。 つかのっけから鮮烈なデビューを飾ったもんですな。 いやぁ本当皇甫嵩カコイイ…(;´Д`) そして密かに登場しているお米党のヒトとか…(;´Д`) 毎度のコトながら、このあたりのツボをしっかり押していただけて、読むほうは大満足ですわい(´ー`)GJ! それでは、あっしももうひとつ何かを…去年は二発目まで逝けなかったから今年こそは…(;;゚Д゚)ノシ
159:海月 亮 2006/01/19(木) 00:58 あ…いきなり自分ので誤植発見しちまった… 一箇所だけ「を」が余計に入っているところがあります。 抜かして読めばちゃんと意味通じますのであしからず…_| ̄|○
160:北畠蒼陽 2006/01/19(木) 20:57 [nworo@hotmail.com] 「くくっ……」 少女は1人、笑っていた。 少女の胸から階級章はすでに失われ、それでも少女は恨みの視線にさらされていた。 その狂おしいほど透き通った空 「お前らぁ、なにか言いたいことでもあるんか……?」 董卓。 学園史に魔王として長く君臨するその少女は、昔のようにゴスロリファッションに身を包むこともなく、またそれにふさわしい言葉遣いもかなぐり捨て、狂犬のように周囲を恫喝した。 周囲の人間ははっと目を伏せ、そくささと歩みを速める。董卓はふん、と鼻を鳴らした。 かつて董卓ほど天の時、地の利、人の和に加え最悪なほど『運』に恵まれた少女はいなかった。 いつからその歯車は狂ったのだろう、董卓が呂布にトばされたのは誰が書いたシナリオだったのだろう。 魔王は栄華を極め、そして一瞬で凋落した。 董卓は惨めな思いを怒気にかえ、憤怒の表情で校舎内を歩き回る。 そして、その足がやがて、止まる。 豫州校区。 なぜこんなところまで歩いてきてしまったのだろう…… 自問自答し、そしてすぐに答えが見つかったことに董卓は驚いた。 董卓には姉がいる。 決して出来がいいとはいえない姉だが、本当に優しいひとだった。 自分に対し、コネを作ってくれるというたったそれだけのためにこの豫州校区まできて一生懸命働いていた。 自分が栄華を極めることができたのは姉の努力、という面もあったことは間違いない。 そう…… 姉の思いを…… 私は裏切ってしまった…… いっそう惨めな気分になり、董卓はきびすを返そうとする。 だがその声が董卓の足を止めさせた。 「あぁ、本当に文若ちゃんが言ったとおり仲穎ちゃんがここにくるなんて、ね」 聞き覚えのある声。 一番聞きたかった声。 一番今の惨めな自分を見て欲しくなかった声。 董卓は恐る恐る振り返る。 やせっぽちで、でも董家の血筋なのだろう背だけはやたらと高い……姉、董君雅。 「あ、お、お姉ちゃ……」 口をぱくぱくさせてここにいないはずの姉を凝視する董卓。 「友達、がね。仲穎ちゃんだったらきっとここにくるだろう、って教えてくれてね」 にっこりと笑う姉。 董卓はその笑顔に涙腺が決壊するのを感じた。 「うあああああああああああ! ごめんなさいお姉ちゃん! 私は董家を汚しちゃった! もう! もう私は……!」 泣き崩れる董卓に董君雅はゆっくりと歩み、そして上からふわりと抱きしめた。 「よくがんばったね、仲穎ちゃん……あなたはうちの誇りよ。世界中があなたの敵になってもお姉ちゃんだけはあなたの味方でいてあげる」 姉の優しさが董卓に染み渡る。 董卓の中から憑き物が抜け落ちるような感覚があった。 魔王は魔王ではなくなった。
161:北畠蒼陽 2006/01/19(木) 21:05 [nworo@hotmail.com] わざわざ! わざわざこの記念日に萌えではないモノを投稿して悦にいってる北畠です! いや、董卓萌え? うん、微妙に萌え。 というわけで何気にワタクシも初旭記念日デス。 いつもの2人、というかいつもの蒼天会を離れたものを書いてみたわけですがもうね? ごめんなさいね? >雑号将軍様 多分近いうちに私もその世代の話を書くと思います。でもその4人は脇役だよ! 人が書かないキャラクターを使うのダ! というか人と同じキャラつかってたら勝てないからね! >海月 亮様 諸葛瑾タン萌え。 正統派の萌え話書けない体質なので羨ましい限りなのですよ。 長湖部は前に1回だけ書いた記憶があるなぁ…… でもアレは萌えない。断じて萌えない。
162:冷霊 2006/01/19(木) 22:54 ■雪降る戦場にて・1 ラク城棟裏庭。 ここで今まさに、戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。 話は1時間前に遡る。 東州の部室に劉璋から一つの荷物が届いた。 中身は蜜柑、しかも温州産の上物である。 たくさんもらったのでどうやらお裾分けということだったのだが……問題が一つ生じた。 六人で分ければ一人数個しか食べられない。 そこで楊懐が提案したのが雪合戦である。 東州では問題が発生したとき、何らかの形で決闘により解決する。 今回の場合は雪が降っていることもあり、雪合戦となったようである。 今回の場合、勝者は蜜柑を独り占め、他の者はお零れを期待するのみ。 一見つまらない勝負のように思えるが、炬燵に蜜柑が付くかどうかは大きな問題である。 それは即ちケーキにイチゴが乗っているか否か……いや、苺大福の苺の有無を問うことにも匹敵するだろう。 失敬。 さてさて、話は戻る。 「で、バンダナを奪われたり、雪を当てられたりしたらアウトだっけ?」 高沛が腕に的であるバンダナを巻く。 何でも発信機を埋め込んでおり、雪の衝突を感知してくれるらしい。 しかも水分を含むと赤く染まる為、当たったかどうかは見た目でもわかるそうだ。 「そうだ。当たった後は権利も無くなるから大人しくすること。いいか?」 「やられる前にやれってことか……」 不敵な笑みを浮かべる冷苞。 「残念だったな、冷苞。最後まで参加出来そうになくてよ」 トウ賢がクスリと笑う。 「そりゃ、どういう意味だよ?」 「別にー。そのまんまの意味だけどー?」 両者の間で早くも火花が散る。 「それよりこのバンダナ、いくらかけたの?」 扶禁はじろりと楊懐を見遣る。 だが、楊懐はさらりとその視線を流し、携帯を手に取る。 どうやら誰かに連絡するつもりらしい。 「もしもし、杜微?」 「あ、楊懐?この前の請求書のことだけど……」 「杜微ー、いつものチェックよろしくねー」 「は?ちょっと待って。まだ書る……」 プツ。 途中で高沛が問答無用で切った気がするのは気のせいだろうか。 杜微も良い迷惑であろう。 今頃、頭を抱えるなり、胃薬を飲むなりしているのだろうか。 「そろそろベルが鳴るわね。じゃ、あたしは一足先にっと。」 扶禁が裏庭の方へと歩いて行く。 「あ、扶禁ちゃん待って〜」 向存が慌てて扶禁を追いかける。 「向存、ちゃんとルール理解してんの?」 「さあ?」 高沛と楊懐は二人を見送る。 「せんぱーい、覚悟しといて下さいよー?」 トウ賢がバンダナを額に結び、ニヤリと笑う。 「トウ賢、てめぇこそ覚悟しとけよ?」 冷苞はバンダナを二の腕に巻き終え、トウ賢を睨み付ける。 「へいへい、お前が来んのを楽しみにしといてやるよー」 トウ賢は手をひらひらと振りながら校舎の方へと歩いて行く。 「では、私もそろそろ準備をするか。」 楊懐は何故か校舎の中へと入っていく。 何やら用意するつもりらしい。 「楊懐ー、楽しみにしてるからねー」 高沛は何をするつもりか大体の予想が付いているらしい。 「じゃ先輩、オレも失礼します。」 冷苞も軽く頭を下げ、走っていく。 「行ってらっしゃーい」 後姿に手を振る。 高沛はひょいと雪を掴み、ぎゅっぎゅっと固めていく。 「さーて、一丁やるとしますか!」 高沛が駆け出す。 それと同時に開始のベルが鳴った。
163:冷霊 2006/01/19(木) 22:55 ■雪降る戦場にて・2 「何で付いてきてんのよっ!」 「だって〜、一人じゃ心細いしぃ〜……」 「それじゃゲームになんないでしょ?っつーか離れなさいっ!」 ラク城棟裏庭。茂みに隠れている扶禁と、その後ろにぴったりとくっついている向存がいた。 「あーもうっ!邪魔だって言ってんでしょっ!」 「ねえ、二人で協力しようよ〜?扶禁ちゃんと一緒なら心強いし〜」 「ええいっ!さっさと離れなさいっ!」 扶禁は向存を振り切ろうとするが、上着を掴んでいる向存は扶禁にぐるぐると付いて回っている。 中々出来る芸当ではない。 「それなら……」 扶禁が向存の髪に手を伸ばす。 向存がバンダナを髪留め代わりにつけていたのは覚えている。 それを奪いさえすれば……グッと手を伸ばす。 「見つけたっ!」 高めの声と共に雪玉が飛んでくる。 「危ないっ!」 扶禁が咄嗟に向存を自分の方へ引っ張った。 耳を掠め、雪玉がボスッと地面にぶつかる。 「外しちゃったかー……ちぇ」 高沛が残念そうに言った。 「向存、早く退きなさいっ!邪魔っ!」 「あう〜、ちょっと待ってよ〜」 もたもたと立ち上がる向存。雪玉が飛来し、容赦無く足元を掠める。 扶禁もその下から這い出し、咄嗟に木陰に隠れた。 「扶禁に向存でしょ?いるのはわかってるわよー?」 ふっふっふと怪しげな笑い声が響く。 「は〜……むぐっ!」 (馬鹿ッ!馬鹿正直に返事する馬鹿が何処にいんのよっ!) 扶禁が急いで向存の口を塞ぐ。 が、遅かった。 「そこねっ!」 高沛が校舎を背に左から回り込む。手には二つの雪玉。 「向存ッ、左から来たわよっ!」 「は〜……あうっ」 立ち上がろうとした瞬間、不意に向存がバランスを崩した。 扶禁もろとも、もつれ合う様にして倒れ込む。 「向存?もしかして足……」 「えへへ……ごめんね〜……」 どうやら足首を捻ったらしい。 既に高沛の姿は見えている。 向こうも当然、こちらの位置を把握している。 もはや逃げるのは無理だろう。 正面から戦っても、間違いなく向存がやられる。 道は無い。 そう思った扶禁が取った行動は自分でも意外だった。 「向存覚悟っ!」 高沛が向存の無防備な背中目掛け、雪玉を投げる。 顔は笑っているが、玉を見る限り手心は加えていない。 ギリと奥歯を噛み締める。 次の瞬間、扶禁は向存を自分の方へと思いっ切り引っ張った。 そして、自分の身体を向存のいた位置へと差し入れる。 身体にズンと重い衝撃。呼吸が一瞬止まる感覚。 「扶禁ちゃん、大丈夫?」 向存が顔を覗き込んだ。 「いいから起きなさいっ!」 向存の背中を押し、立ち上がらせる。 立ち上がった向存が扶禁に手を伸ばした。 だが、扶禁は乱雑に手を振り払った。 「あたしに構うんじゃないっ!走れっ!」 ギリッと睨み付ける。 向存は少しだけ躊躇い、そして片足を引き摺り駆け出した。 「向存を逃がす余裕はあるみたいね」 「あの馬鹿のせいで逃げ遅れただけです」 高沛と扶禁が対峙する。 それぞれの手に握られているのはたった一つの雪玉。 「一撃で決めるわよー……おーけい?」 高沛がニッと笑う。 「そう簡単に行くと思わないほうがいいですよ?」 扶禁が口の端を僅かに緩める。 雪はまだ降り続けていた。
164:冷霊 2006/01/19(木) 22:55 ■雪降る戦場にて・3 南側校舎 ガッシャーンッ! 景気良く硝子の破片が降り注ぐ。 「おいおい、よーく狙えっつーの」 トウ賢がひょいと壊れた窓から顔を出した。 「野郎っ……ちょこまかとっ!」 冷苞が次々と雪玉を叩き込む。 強く押し固められ、猛スピードで飛んでくる雪玉は立派な凶器である。 頭にでも直撃すれば下手すれば病院送りであろう。 トウ賢は目立つように額にバンダナを巻いている。 それは挑発から来るものか、それとも覚悟の上か。 だが、雪玉はトウ賢に当たることなく、校舎の中へと消えていく。 何かが割れる音や砕ける音がするが今は聞こえないことにしておく。 「ホラホラ、そんなんじゃ当たんねーぞ?」 「ちっ……クソッ!」 状況は硬直状態であった。 冷苞の方が優勢に見えるものの、トウ賢はあまり力を入れて攻めて来ていない。 何か策があるのかもしれない。 「どっちにしろ、今の調子だとこっちがバテちまう……」 木陰で雪玉を作りつつ呟く。 「何かあるはずだ……何か……」 冷苞が辺りを見回す。 壊れた窓、崩れたかまくら、誰かの作った雪だるま。 どれもピンと来ない。 ふと視線を上へとやる。 「……やるだけやってみっか……」 冷苞がそろりそろりと移動し始める。 「……妙だな」 トウ賢が窓からそろりと冷苞の様子を伺う。 先程まで積極的に攻撃していたのに、あたりに姿はない。 「もうちょっと頑張ってもらわねーと困るんだよなー……」 軽く頭を掻く。 予定ではあと十分くらいは頑張ってもらわないと困る。 高沛は扶禁や向存を狙うからいいとして、問題なのは楊懐である。 どんな方法で攻めてくるか予想がし難い。 「冷苞ー、もしかして先輩たちにやられたかー?」 外へ声をかける。だが、返事はない。 「……向こうも待ちか?こうなるとメンドクセーんだよなー……」 呟きながらも耳を凝らす。 僅かな音も聞き逃すことの無い様、意識を集中させる。 カツン。 靴音である。 それは廊下の奥から聞こえてきた。 (裏をかかれた?) 頭にそんな疑問が浮かぶ。 だが、そんな疑問を気にする必要はなかった。 むに、何かを踏んだ感触。 「ん?」 思わず足元を見る。 そこにはロープが張ってあった。 ロープは頭上へと続いており、そこには木がある。 ミシリと枝が悲鳴を上げる。 枝は積もった雪の重量に耐え切れず、折れた。 「うわわっ!」 トウ賢は咄嗟に飛び退く。 そのとき、一つの雪玉がトウ賢へ飛んできた。 (まだ間に合う!) ギリギリの所で拳で叩き落した。 「な……二つ目!?」 だが、飛んできたのは一球だけではない。同じ軌道で二球、投げていたのだ。 避けようと身体を後ろに反らす。だが、完全には避けられない。 鈍い衝撃の後、じんわりと額のバンダナが赤く染まっていく。 「へっ、オレの勝ちみてぇだな?」 「くーっ、こんな単純な手にやられるなんてよー……」 トウ賢が悔しそうに叩き落した雪玉を握り潰す。 「じゃ、これでオレの28勝目っと。一歩リードだぜ? ニヤリと笑う冷苞。 「フン、いつものように追いついてやっから安心すんなよ?」 トウ賢が雪を払い立ち上がる。 「こうなったら先輩たちにも勝てよ。じゃねーと許さねーからな?」 「任せろって。お前には出来ねぇコト、見せてやんよ」 冷苞がニッと笑う。 そのときだった。 ひゅ〜……ぽす。 「……」 「……」 僅かな衝撃。 冷苞が二の腕に巻いていたバンダナが赤く染まっていく。 「……は?」 「アウト……?」 二人にも何が何やらわからなかった。 ただ確かなのは、これで冷苞もアウトだということである。 「誰か近くにいんのか?」 「大体の予想は付くけどなー……」 納得いかない様子でアウトとなった二人は部室へと戻って行く。 戻って行く二人の後ろで、雪だるまだけがニコニコと笑っていた。
165:冷霊 2006/01/19(木) 22:56 ■雪降る戦場にて・4 「あれ?扶禁先輩もアウトですかー?」 部室に入ってくるなり、トウ賢が扶禁の姿を見つけた。 扶禁は炬燵に入り、劉循と一緒にレーダーの様子を眺めている。 「冷苞とトウ賢揃ってアウト?もしかして相討ちだったの?」 「いや、オレが勝つには勝ったんですけど……ってか、循も来たのか?」 「うん、お姉ちゃんが来れないから代わりに見てきてって」 「タマさん、相変わらずこういうことだけは見逃さねーよなー」 トウ賢が煎餅を手に取り、パリッと一齧りする。 「ってコトは張任さんも来てんの?」 「ううん、張任お姉様はバイトがあるから無理だって……」 しゅんと俯いてしまう劉循。 「だったら後で手伝いに行かねぇか?どうせ暇なんだしさ」 「え、ホント?」 ぱぁっと表情が明るくする劉循。姉に劣らず、非常にわかり易い性格である。 「お、冷苞にしちゃあいいこと言うじゃねーか」 トウ賢が茶化すようにクスリと笑う。 「『冷苞にしては』は余計だ。で、誰が残ってる?」 冷苞がレーダーを覗き込む。 「楊懐さんに高沛さん、それに向存の三人ね」 「へぇ、向存さんが?何か意外だな」 冷苞が煎餅を取り、齧った。 「あれ?そういや杜微先輩はどーしたんです?」 周囲を見回したトウ賢がふと尋ねる。 確か杜微は審判もといチェック役として頼んでいたはずだが…… 「ああ、杜微さんならあたしが来るなり、後宜しくって帰ったわよ」 「あれ?杜微さんって体調、あんまり芳しくねぇんじゃ……?」 冷苞が首を傾げる。 「書類整理くらいならってことで手伝ってるみたいよ。後、ついでにこれも宜しくだって」 どさっと炬燵の上に置かれる紙の束。 もう既に見慣れたものである。 「あー……もしかして始末書ですか?」 トウ賢がさり気無く目をそらす。 扶禁が是の意を込めて頷く。 「冷苞にトウ賢……また壊したの?」 劉循が溜息混じりに首を傾げる。 「あー……オレ、劉循との約束が……」 そろりそろりと冷苞が出口へと向かう。 だが、その後ろからぎゅっと扶禁が捕まえる。 「逃がさないからね?あたしも手伝ったげるから、今日中に片付けるわよ?」 冷苞の左腕を掴み、炬燵へずるずると引き摺っていく。 「良ければ私も手伝うから早く行こう、ね?」 いつの間にか劉循が右腕を掴んでいる。 もはや逃げることは出来ない。 トウ賢も既に脱出は諦めているようだ。 「い、嫌だーっ!!」 冷苞の叫びが校舎に木霊した。
166:冷霊 2006/01/19(木) 22:58 ■雪降る戦場にて・5 ぎゅ、ぎゅ、ぎゅ。 校舎の南側へと足音が近付いてくる。 「うっわー。こりゃまた盛大に壊したねぇ……」 やってきたのは高沛。 「多分トウ賢と冷苞の仕業ね。ってことは、まだ近くにいるのかな?」 周囲を警戒しつつ、じりじりと進んでいく。 誰かが見ている気がする。 だが、はっきりとはわからない。 「んー、校舎の中にもいないみたいだね」 ひょいと覗き込み、廊下を見渡す。 見た所、中へと続く足跡はない。 そのとき、背後に何かの気配を感じた。 「はっ!」 振り向き様、その気配を一蹴する。 高沛に迫っていた雪玉はあっさりと砕けた。 「やっぱ誰かいるなー……隠れてるってことはトウ賢の方が勝ったかなー……?」 雪玉の飛んできた方を確認する。 そこには大きな木。 そして、木の下に放置されている雪だるま。 高沛はふと、その雪だるまに目が留まった。 「……楊懐?」 ピク。 雪だるまが動いたような気がする。 そう言えば刺さっている腕代わりの木の枝には何処かで見たバンダナも…… 足元の雪を掴み、おもむろに雪玉を作る。 「せーの……」 ピッチャー高沛、振りかぶりまして第一球……そんなナレーションの入りそうな雰囲気。 その刹那、雪だるまから足が生えた。 「でやぁっ!」 高沛の腕が振り下ろされる。 その手から雪玉が放たれた。 「はぁっ!」 雪だるまが避けようと横っ飛びに逃げる。 だが、玉は僅かに弧を描き、雪だるまもとい楊懐を捕らえる。 雪玉は容易に雪だるまの腕を砕き、木に激突した。 ……しぃぃん……どさっ! 「うわっ!」 「うっ……」 木に積もっていた雪が一斉に落ちてくる。 綺麗に雪の中に埋もれる高沛とと楊懐(雪だるま)。 「やはり高沛には見抜かれたか……」 少しばかり悔しそうな顔を見せる楊懐。 「へへへ、まだまだ演技力が足りないよ?」 高沛は見抜けたことが嬉しいのか、非常に御機嫌だ。 「おめでとう、高沛。君の勝利だ」 楊懐が雪だるまの右腕を差し出す。 「楊懐こそ御苦労様。三人もアウトにするなんて流石ね」 高沛もがっちりと握手し返す。 「三人?」 楊懐が首を傾げた。 「あれ?三人倒したんじゃないの?」 高沛が首を傾げたそのとき。 ぼすっ。 ……手首に巻いていたバンダナに雪玉が命中した。 「やった〜!ちゃんと当たりました〜!」 声は屋上からであった。 ぴょんぴょんと跳ね、そして足の痛みでこける向存。 そう、範囲はあくまでラク城棟周辺、当然ながら棟内も良いのだ。 「これは一本取られましたね」 「あはははは……忘れてたや」 苦笑いを浮かべる楊懐。 そして、笑うしかない高沛。 まだ、雪は降り止む様子はなかった。 後日談 件の蜜柑は杜微や劉循を加え、八人で分けることとなった。 が、蜜柑を食べ終わるなり冷苞とトウ賢は劉循をつれて逃走。 高沛と楊懐の追跡を振り切り、成都方面へと逃走。 結局、始末書は扶禁が徹夜で仕上げる羽目になったらしい。 合掌。 了
上
前
次
1-
新
書
写
板
AA
設
索
【1月18日】旭記念日創作発表スレッド【お祭りワッショイ】 http://gukko.net/i0ch/test/read.cgi/gaksan2/1074230785/l50