下
【1月18日】旭記念日創作発表スレッド【お祭りワッショイ】
177:北畠蒼陽2006/01/20(金) 21:06 [nworo@hotmail.com]
「だめよ。認められないわ」
「なんでだよッ!」
2人の少女が睨みあう。
「わかるでしょう? 私たちには圧倒的に無双の経験がない……あんな歴戦のバケモノたちに太刀打ちできるなんてカケラも思えないわ」
「私があいつらに勝てるか、といったら確かにそうでしょうね! でもあんたは『あの』曹操閣下に認められて棟長になったほどの人間なんだ!」
物静かに……しかし強い意思を秘めて言葉を投げかける少女に、犬歯をむき出しにして噛み付くように吼える大柄な少女。
劉度と刑道栄は対峙していた。
この世における正のバランス
誰もが予想し得なかった赤壁での曹操の大敗……そして撤退。
それにより荊州校区の南部に曹操が指名した棟長たちは孤立していた。
長沙棟長、韓玄。
武陵棟長、金旋。
桂陽棟長、趙範。
そしてこの零陵の棟長である劉度。
すでに長沙、武陵、桂陽は荊州校区南部に地盤を固めようとする劉備によって攻略され、この零陵だけが孤立している状態であった。
「刑道栄……あなたは私を買いかぶりすぎてる。私は卓上の仕事でいっぱいいっぱい……この校舎が襲われるなんて今すぐにでも逃げ出したいくらい」
「でも逃げてない!」
刑道栄の一喝に劉度は顔をしかめて目をそらした。
「今日はここまでにしましょう」
「劉度!」
なにも結論を出さずに会議を終わらせようとする劉度を刑道栄は止める。
「劉備は明日明後日にここにくるわけじゃない。今はいったん冷静にならないと結論は出ないわ……あなたも、私も」
そう呟くようにいって部屋を出る劉度。
刑道栄はその後姿に投げかける言葉を見失い……机に拳を落とした。
刑道栄は劉度の昔からの親友だった。
劉度は文に、刑道栄は武に。
それぞれの専門とする分野は違っていたがお互いを高めあういい関係だと思っていた。
親友が曹操に抜擢され、この零陵の棟長になるとわかったときはどれほど嬉しかったことか。
でも……
刑道栄はそんなやるせない思いをぶつぶつと不機嫌に呟きながら寮の自室のドアを開けた。
「おかえり」
「……ただいま」
寮の部屋で刑道栄を出迎えたのは同室の親友……劉度だった。
部屋に気まずい沈黙が落ちる。
あれだけ棟長室で言い争ったのだ。どう声をかけていいかもわからない。
やがて……口を開いたのは劉度だった。
「刑道栄、私、劉備と戦うことにするわ」
親友の沈うつな口調に、それとはまったく別の刑道栄が待ち望んでいた言葉。
刑道栄はそのギャップに眉をひそめながら親友を見る。
「でもあなたには劉賢をつれてこの校舎から逃げてもらう」
「お断りだ」
劉度の妹、劉賢の護衛。
護衛といえば聞こえはいいがただの厄介払いではないか。
刑道栄は親友に疎まれていることにぐったりする。
「なぁ、劉度。私はなにかお前に嫌われることをやってしまったのか? 私はずっとお前と一緒にいたいと思っていたのに……」
「嫌いなんて思うわけないじゃない、このばかぁッ!」
刑道栄の言葉は劉度の涙声にさえぎられた。
「でも、そうでもしなきゃあんたは前線に出たがるじゃない! あの歴戦のバケモノにあんたが勝てるわけないじゃない! だから……だからトばされてほしくないのに……!」
劉度の思いが刑道栄の心にしみこむ。
劉度は刑道栄の前でしゃがみこんで泣いていた。
「確かに私じゃあの歴戦のバケモノ連中に勝てないかもね」
体を震わせて泣き続ける劉度の頭を刑道栄はそっとなでる。
もうなんのわだかまりもない。
「でも、弱虫には弱虫の戦い方だってあるんだ……劉備がイヤになるくらい引っ掻き回してやろう」
そっと劉度の髪をなで続ける刑道栄。
「大丈夫だ。絶対に負けない」
刑道栄は決意をこめて宣言した。親友のために。
上前次1-新書写板AA設索