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【1月18日】旭記念日創作発表スレッド【お祭りワッショイ】
179:7th 2006/01/21(土) 15:42 ※※※このお話は、拙作『簡雍改造計画』の後日談っぽいものとなっております。 未読の方には、しょーとれんじすと〜り〜スレッド413-415を先に読まれることを推奨いたします。※※※ 未曾有の大捕物『簡雍改造計画』より、はや数週間が経とうとしていた。 あの後、法正が簡雍に三日間口をきいてもらえなかった、張飛と魏延が簡雍にやたらとつっかかっていた、劉備がこそこそとなにやら怪しい動きをしていた、関羽がブロマイドの焼き増しを頼んでいた等、もう一騒ぎあったのだが、今ではそれも沈静化し、帰宅部は以前と変わりない日々を取り戻しつつあった。 しかし変わった所が無かった訳ではない。特に顕著なのが、簡雍に対する皆の認識である。 端的に云うと、ファンが急激に増えた。 『簡雍改造計画』終了直後など、テンションMAXになった群集に、危うくお持ち帰りされてしまうところだった程だ。 その後も、あわよくば着せ替えをさせようとして虎視眈々と狙われたり、コスプレ同好会からしつこく勧誘されたり等色々あったのだが、現在は表面上沈静化し、小康状態を保っている。 そう云った訳で、最近の簡雍は実に用心深い。元々勘は鋭い方だったのに加え、いつ何時襲われるか分からない緊張感が彼女にはある。今日も彼女は、スパイ並の用心をしつつ、学園生活を送るのだった。 夏の暑さは、残暑に変わりつつあった。 そんな中でも、今日も今日とて新聞部は編集作業。それに写真を提供している簡雍もまた、作業に追われていた。 部室の中には劉備をはじめ、関羽、張飛、法正、そして簡雍。それぞれが黙々と(若干一名、騒がしいのが居るが)己の作業に没頭している。 ……十数分後、漸く作業が一段落したのか、簡雍が大きく伸びをしつつ、溜息を吐いた。それに遅れること数秒、法正もまた首の辺りをさすりつつ、椅子の背もたれに力いっぱい体を預けた。 「うっし、終わったよ玄徳」 「おう、ご苦労さん」 仕上がった原稿を劉備のところまで持ってきて差し出す簡雍。それを受け取ると、劉備は一枚一枚、問題が無いか目を通す。ぱらぱらぱらと原稿がめくられ、最後の一枚。 「……うん、特に問題は無いようやな。お疲れお疲れ」 「それは良かった。けど玄徳、アタシの頭の上に有る、あの金ダライが何なのか説明してもらえるかな?」 「何や、気付いとったか」 「気付かいでか。それと法正、その手に持ってるスタンガンはそこに置け。危ないから」 いつの間にか簡雍の背後に忍び寄っていた法正が、チッと舌打ち一つしてスタンガンを床に放った。 「…全く、最近大人しいと思ってた矢先にこれか。しかも手段が段々過激になっているような気がするんだけど」 「憲和が大人しく着せ替えさせてくれへんからやろ。初回であんだけ見事に逃げられとるしなぁ。並みの手段で何とか出来ん事を自分で証明しとる」 苦笑する劉備。それを見て簡雍は、やれやれと頭を振った。 「何でこうみんな、着せ替えが好きかね。アタシはお人形さんか?」 「だってみんなオンナノコやもんなぁ。憲和も昔やったやろ? お人形さん遊び」 「生憎とアタシは物心ついた時からコレばっかでね、そーゆーのはあんまり興味なかったの」 そう言って愛用のカメラを示す簡雍。彼女らしいといえば彼女らしい。 「まぁそう云うのは珍しいからな。普通の女の子は着せ替えが好きなモンよ。…ちゅー訳でゴスロリ着てくれんか?」 「何その不吉な単語! 全力で断らせてもらうわっ!」 言うや否や、脱兎の勢いで逃げ出そうとする簡雍。しかし、 「関さん! 出番やで!!」 「心得た!」 劉備の声を受け、簡雍の前に立ちはだかるは『武神』関羽。『戦姫』呂布が去った今、ここ蒼天学園における最大個人戦力の持ち主である。 「雲長、アンタもかっ!」 法正の脇をすり抜け、張飛の飛び蹴りを寸での所でかわした簡雍は、此処に来て最強の壁にぶち当たった。 何しろ隙が見当たらない。純粋にタイマンでの強さは張飛に一歩譲る関羽だが、張飛が気分により闘い方にムラがあるのに対し、関羽にはそれが無い。獅子は兎を狩るにも全力を尽くすのだ。 戦力で云うなら兎と獅子以上に比べ物にならない。なにしろ張飛を迎え撃ったあの時程度の装備が有るならまだしも、今武器と呼べるものは右手に構えたカメラのみ。とてもではないが、敵うものではない。 だが此処を突破できねば未来は無い。意を決して、簡雍は関羽の懐裡に飛び込んだ。狙うは関羽の左、利き手の逆方向。 「む……!」 大きめに迂回して逃走を図るだろう、と予測していた関羽が、肉薄してくる簡雍に一瞬虚を突かれた。 対峙した数秒の中で最大の隙。この機を逃さず、簡雍は姿勢を低く、最大速度を以て関羽の左側をすり抜け……その、左手を掴まれた。 強引に腕を引っ張られ、引き戻される簡雍。捕った! と誰もが確信したその瞬間、関羽の眼全に突きつけられた簡雍の右腕。その手の中には、スタンバイ状態になったカメラが。 必殺簡雍フラッシュ。全ての布石は、この一手のためだけに。 光が、奔る。 「今の一撃は見事だった、簡雍」 関羽は、不動だった。 カメラが眼前にある、と認識し、簡雍がシャッターを切るまでの刹那に、関羽は固く目を閉じていたのだ。 「…反則だろ、その反射速度は。人間業じゃ無いって」 関羽は答えない。代わりに返って来たのは、首筋に振り下ろされる鋭い手刀。 あっさりと、いっそ清々しいほど綺麗に、簡雍の意識は闇に落ちた。 「簡雍の捕縛に成功しました」 「言われんでも目の前で起こっとる出来事やって」 劉備のデスクの前に立った法正が律儀に報告する。どうやら今回の主犯もこの二人らしい。 「流石は関羽さん。あの簡雍をこうも簡単に取り押さえるとは」 「関さんは鬼札(ジョーカー)やからな。こう云う時でもないと使わんわ」 「ほぅ、今回は何か面白い趣向でも?」 「とびっきりのやつがな。…ところで法正、上、見てみぃ」 言われるままに頭上を見上げる法正。そこには、例の金ダライトラップが。まさか。 落下する金ダライ。遠のく意識。暗転する認識の片隅に、法正は劉備の意地の悪い笑みを見た……。 張飛が法正を取り押さえ、関羽が簡雍を肩に担ぎ上げるのを見届け、劉備はおもむろにマイクを取り出した。益州棟全てのスピーカーに直通するそれを構え、彼女はおもむろに、そして朗々と宣言した。 『只今より、第二回簡雍改造計画、及び法正改造計画を開始する!!!』 その声は、秋の気配を見せつつある青空に、高らかに響いた。 〜〜簡雍+法正改造計画〜〜 ゴスロリ。 正式に言うならゴシックアンドロリータ。主に黒を基調とした、レースやフリルで多く装飾された服の総称である。 少女趣味かつクラシカルな印象を持つそれらは、一部の人達から熱狂的な支持を受けている。 先ず受けた印象は人形か。それも、アンティークのビスクドール。 漆黒の生地に、純白のレースで施された装飾。首元には十字架をあしらった、銀のチョーカー。止めとばかりに頭の上にはヘッドドレス。 コケティッシュかつ小悪魔的な魅力を見せるのは簡雍。前回で証明されたことだが、素は結構良いので、基本的に何を着せてもそれなりに似合う。 一方、法正は対照的な純白のドレス。所謂白ゴスと呼ばれるスタイルである。簡雍のものよりゆったり目に仕立て上げられたそれは、フリルで出来たシフォンケーキを思わせる。 ゴシック分よりロリータ分を強調した、清楚な形。全体の印象として、法正にはこちらのほうが似合っているのかも知れない。 「うん、ええ感じや。二人とも似合っとるで」 にやにやとした笑いを顔に貼り付けている劉備。当然このファッションは、彼女のプロデュースによるものだ。 「…屈辱だ」 「うぅ、恥ずかしい…」 される側になってはじめて解るこの羞恥。法正、ちょっとだけ反省。 カメラのフラッシュを浴びて居心地悪そうに縮こまる二人。それを見咎めて、劉備が言う。 「二人とも、もっとにこやかにせぇ。今回は写真集にするんやからな」 「ちょっと待て」 「何ですかそれは」 不穏当な単語にすかさず反応する二人。 「学園祭で売って部費の足しにするんや。まぁ頑張って二人とも部に貢献して頂戴な」 悪びれもせずに答える劉備。この二人といえど、今回ばかりは彼女の掌の上か。 ひとしきり撮影も終わり、そそくさと下がっていく撮影陣を、憔悴した顔でぼんやりと見送る簡雍と法正。 まぁこれでこの羞恥プレイも終わると思えば、そんなに悪くは無い。解放される喜びで、表情も緩むというもの。 しかし、二人のその安心をぶち壊しにする発言が、劉備の口から飛び出した。 「よーし、テイク2準備! 今度は巫女服いくでー!!」 まさに爆弾発言。緩んだ表情が一気に凍りつく。 固まった二人を前に、劉備は悪魔的に微笑む。 「折角の写真集がゴスロリだけやと寂しいからな。もう何パターンか収録しとかんと、買ってくれる人に申し訳ないやろ。ちう訳でてきぱきと次いくで、着せ替え班よろしくなー」 劉備が指を鳴らすと同時、圧倒的人海に呑まれ、仮設更衣室へと連れ去られる簡雍と法正。途中、「覚えてろー!」とか「跡で報復ー!」とか聞こえてきたが、無視。所詮は負け犬の遠吠えである。 二人の受難は、まだ続くのであった。
180:7th 2006/01/21(土) 15:50 ただ、二人で着せ替えをしたかった。 ごめんなさい。続きます。 一応コレだけでもある程度読めますが、所詮はジオング。未完成品です。脚は飾りではありません。要ります。 只、折角続きを書くので、皆様から着せ替えさせてみたい服を募集します。 私ごときの駄文でよろしければ、可能な限り(私の文章で表現可能な限り)実現させたいと思いますので、リクエスト頂ければ幸いです。
181:海月 亮 2006/01/21(土) 18:31 >>荊南のひととか うわーいひそかに「荊南ボンクラーズ」とか考えてたのにー( ̄□ ̄;) しかしこれはこれで萌えだから良し!GJであります! そういえば刑道栄が演義にしかいない人だって最近知った私は_| ̄|○ >>改造計画op.2 7th様(o≧∇≦)oGJ! 普段狙う側が狙われる側に回っても強い、という簡雍も、「武神」関羽の前においては形無しですな^^ そして仕掛けた側と思っていた法正もハメられてたという罠っぷり。お見事でつ。 服装… 私のページとか見てる人なら、私がナニを言い出すかはお解りやも知れませんが…あえてw (*゜∀゜)o彡°スク水!スク水!!!
182:北畠蒼陽 2006/01/21(土) 21:47 [nworo@hotmail.com] >7th様 う、うぶぶぅ…… ナースで! 超ナース! ピンクナース! ……はふん(照
183:海月 亮 2006/01/22(日) 00:06 最初の頃は、どうにも気に食わない小娘だと思った。 ちょっと小利口なところを"あの方"に認められたからって、そのあとも身の程を弁えずに"あの方"の周りをうろちょろする目障りな犬っころ…そうとまで思ったこともあった。 きっとあの一件がなければ、あたしはあの娘を、一生受け入れることなどできなかったであろう。 -フローズン・ハートは笑顔に融けて- あたしの主人…本初(袁紹)お嬢様が冀州学区に腰を落ち着けた頃のことだった。 幼い頃から本初お嬢様の側近くに仕え、いろいろ目をかけていただいたという恩義の分を差し引いても…お嬢様は聡明で寛大さ持ち併せ、何よりも魅力的な方だった。 名族・袁氏の血筋云々ではなく、生まれ持った気品、気高さのようなものがあった。 そして何より、お優しい方だと思う。 妹のように可愛がられていたあの曹操などは、言うに事欠いて「優柔不断で鷹揚なだけのお嬢様」などと陰口を叩いているらしいが…そんなことすら、ただ微笑んで気に留めずにもいた。 何時も「あの娘はただ、私にかまって欲しくて、わざと憎まれ口を叩いているのよ」と、言って。 そういうお嬢様だからこそ、私はこうして、側近くに仕えることができることを誇りにすら思っていた。 だからこそ…怖かったのだ。 あたし以上に優れた娘が、今あたしのいる場所を、いつか奪い去ってしまうのではないかと。 今思えばその娘は、かつてのあたしにとってそういう存在だったのかもしれない…。 「…元図さん?」 どのくらい時間がたっていたのだろう。 彼女…逢紀は、はっとして目の前の少女のほうへ視線を戻した。 「あ…す、すみません、あたし…」 袁氏生徒会の本拠地・冀州学区はギョウ棟の執務室内で、逢紀はその主・袁紹とただふたりきりで、向かい合ってソファに腰掛けている。 数日前、易京の地において宿敵・公孫サンの勢力を打ち払い、そのことにより華北四校区の覇者となった袁紹。逢紀は中学三年生ながら、その功績と才覚を認められ、華北四校区における会計事務の総括を任されるまでになった。 ある、少女と共に。 「あなたでも、周りを忘れてしまうくらい考え込んでしまうこともあるのね」 「う…」 咎めるでもなく、にっこりと微笑む袁紹の言葉に、申し訳ないやら恥ずかしいやらで俯いてしまう。 この日、彼女がこうして呼ばれたのには、ある重大な理由があった。 彼女と共に華北四校区の会計を総括するもう一人の少女についての、あるウワサ。 いわく、その少女が華北四校区の会計総括を任されたのをいいことに、その予算をこっそり横領し、なおかつ一般生徒に対して横柄に振る舞っているというものだ…。 「…私はどうしても、あの娘がそんなことをするような娘には見えないわ。けれど、こうして話題に上ってしまうということは、何らかの原因があると思うの…」 そう話す袁紹の表情は、とても悲しそうに見えた。 それはそうだろう。その話題に上った少女は、袁紹が直々にその才能を認め、取り立てたほどの逸材だったのだから。 事実、彼女はその鈍臭そうな見た目に反して、非常に頭の回転が速く、しかも武の面でも"ソードマスター"顔良が認めたほどの才能を秘めている。 そして、彼女はお嬢様の為に全力で尽くすことを…お嬢様の側に居れる事を、何よりも望んでいることを、逢紀は知っていた。 「あの娘には確かに素晴らしい能力があるし、何よりも一生懸命な娘だと思ってた。でも、こんな事態になっては、このまま彼女に大役を任せるのは厳しいような、そんな気がするの…」 俯く袁紹。 逢紀は、その言葉を噛み締めながら、何時か自分がその少女に対して行ってしまったある事件のことを思い出していた。 半月ほど前、逢紀とその少女が華北四校区の会計総括を任されて、間もなくのころの話だ…。
184:海月 亮 2006/01/22(日) 00:07 「何か、御用ですか?」 人気のない、ギョウ棟体育館の裏手。 数人の少女に取り囲まれながらも、その少女は気丈にも、その首魁と思しきロングヘアの少女…逢紀をを見据え返している。 双方の背丈の差もあるが…明らかに逢紀は、その少女に対して見下すような格好である。 「…あなた…はっきり言って目障りなの」 その冷たい言葉にも、目の前の少女は怯む様子をまったく見せていない。 むしろその言葉に、更に強い視線できっと見据え返してくるほどだった。 「何故ですか!? はっきり言いますが、私はあなたに恨まれる様なことをした覚えはありませんよっ!」 その態度に、逢紀は自分の神経を逆撫でされたような不快感…いや、憎悪すら覚えた。 「新参者の分際で、お嬢様にべたべたとまとわり付くその態度が、目障りだって言ってんのよッ!」 感情に任せるまま、彼女は振り上げた平手を思いっきり少女めがけて振り下ろす。 しかし、その"制裁の一撃"は、何処かあどけなさを残したその少女の顔に届くことはなかった。 「…ッ!?」 振り下ろした左手は少女が振り上げた右手に弾き返されてしまい、それどころか逢紀の身体もその衝撃の余波で後ずさりする格好になった。 取り囲んでいた少女達も、その様子に驚愕の色を隠せない。 「…そうやってあなた達は、今までもやってきたんですか…?」 少女の眼差しに、凄まじいまでの怒りの色がほどばしる。 「あなた達がこんなつまらないことをすれば、かえって本初様を悲しませることになるってこと、どうして解らないんですかっ!」 「何ですって…」 「私達が本初様のことが大好きなように、本初様だって私たちのことを大好きでいて下さってるんです! それがこんな醜い争いをして、傷つけあっているのを知ったら…きっとものすごく悲しまれます!」 少女の凛とした態度、声…いや、それ以上に、まるで解った様に主のことまで語るその少女の言葉に、逢紀どころか周囲の少女も顔を憤怒で紅潮させていた。 「っ…言わせておけばッ!」 憤怒が頂点に達した逢紀が少女の顔に向けて拳を振り上げる。 少女が跳ね除けようとするよりも早く、少女の両隣にいた少女が、素早くその両手を掴み、その動きを封じた。 一瞬の出来事に驚愕した少女は、その痛みを覚悟するように目を閉じた。 だが、その拳が少女の顔を捉えることはなかった。 「やめておけ」 振り上げた拳を後ろから掴まれ、逢紀は憤怒を露に後ろを振り返る。 「っの、邪魔を…っ!?」 その人物の姿を見た瞬間、彼女の顔から一気に血の気が引いた。 同学年の少女達よりも背の高い逢紀よりも、更に長身の、亜麻色の髪をポニーテールにした少女。 そして、その後ろにいたライトブラウンの髪をショートカットにした少女が、 「やれやれ…女の園の嫉妬による私刑とは…まったくもって美しくないですねぇ…」 大仰な仕草で、そう吐き捨てた。 「顔良先輩…儁乂さん」 再び目を開けた少女が、呆然とつぶやいた。 顔良は逢紀の手を掴んだまま、やれやれと言わんばかりに頭を振った。 「まったく…本初様からお前達の様子がおかしいから見て来いと仰せつかったから、嫌な予感はしていたんだがな…」 そして、少女の手を掴んでいる少女達に一瞥くれると、反射的にその両手を開放した。 「元図、正南の言うとおりだ。お前らがお互いにつまらん言いがかりをつけ合っていること、どれ程本初様を悲しませているか、少しは考えろ。本初様の側に仕えて長いお前であれば、そのくらいのこと解らぬわけではあるまい?」 「くっ…」 開放され、所在のなくなった拳を振り下ろし、その場から立ち去る逢紀。 急激に冷めていくその心の中には、何故か敗北感だけが残った。 思えば、この時からだっただろう。 あたしの中で彼女…審配に対するイメージが、それまでとはまったく違うベクトルに傾き始めたのは。 彼女はあの時、「私達」と言った。 つまり彼女は、本初お嬢様だけではなく、あたし達のことまで考えていたということに。 あたしは"新入り"のあの娘がお嬢様と親しくしていたことに、不快感と敵意をむき出しにしていたというのに。 彼女は、それ以降もあたしと馴れ合うようなことはなかった。 だがそれでも、彼女は与えられた責務を全うし、あたしが帳簿記入の上でやらかしたミスも、あたしのいないうちにこっそり直してくれたり、他にもさりげなく、あたしがやりやすいように取り計らってくれたことを、あたしは知ることとなった。 彼女は、本初お嬢様そのものは当然として…お嬢様を取り巻くすべてを、好きでいてくれるということに気づいたとき…あたしはその時から、彼女のことをもっと良く知りたいと思うようになっていた…。
185:海月 亮 2006/01/22(日) 00:07 逢紀は穏やかに微笑んで、袁紹のほうへ視線を戻した。 「愚問ですよ、お嬢様」 「え?」 「そんなの、どうせ彼女の立場をやっかんだ郭図か辛評あたりが流したデマでしょう」 逢紀の答えに、袁紹は驚いたのか目を丸くした。 逢紀は更に続けて、 「あの娘があなたを慕う気持ちは本物ですし、大体あれほど一生懸命で正義感の強いあの娘がそんなことをするはずなんてありません!」 そう言い切った。 袁紹は想いもよらぬ逢紀の言葉に、戸惑ってさえいる風でもあった。 「…あなたは、あの娘のこと…その、嫌いだったんじゃ、なかったの…?」 「確かにあの娘が嫌いだったこと、否定はしませんよ…でも、私事は私事、公の事は公の事。流石に華北四校区の会計総括ともなれば、いくらあたしでも一人では荷が勝ちすぎます。今あの娘が…正南がその役目を外されたら、あたしが困りますから」 逢紀は悪戯っぽい笑顔で微笑む。 幼い頃から袁紹の側に仕え、令嬢専属のメイドとして厳しいくらいの教育を受けていた逢紀が、こういう笑顔を見せるのは袁紹の前だけであった。 袁紹も彼女の真意を汲み、微笑む。 「そう…あなたがそう言ってくれるなら、私も心配はないわ。この話については、聞かなかったことにしましょう」 「ええ、それが上策です」 そして逢紀は徐に立ち上がると、つかつかと執務室のドアに向かい、それを思いっきり開け放った。 「入りづらい雰囲気だったのは酌量の余地はあるけど…立ち聞きはいい傾向じゃないと思うわよ?」 「あ…」 扉の前にいたのは、飴色の光沢がある髪を、二本の赤いリボンでスタンダートなツインテールに纏めている、年相応の幼い顔立ちをした小柄な少女。 鳶色の瞳をわずかに潤ませ、ばつが悪そうに俯いてしまったその少女こそ、その話題に上っていた審配、字を正南そのひとであった。 袁紹に促されるまま、審配は袁紹、逢紀と向かい合う形でソファに座らされていた。 その手には、一通の手紙がある。 こうして彼女がやってきたということから、その内容は袁紹にも逢紀にもなんとなく予想がついた。 「え…えっと、その…私っ」 ふたりの視線を感じながら、彼女は親から仕置きを受ける子供のように、不安で震えていた。 「私…この生徒会の一員として日が浅くて…それにたいした能力もないのに、突然重要な役目を与えられた所為で、結局本初様の御期待を仇で返す結果になってしまいました…だから、私…」 「…悪いけど、それじゃ大いに困るのよ」 「え…?」 思いも寄らぬ方向から声が飛んできて、審配は驚いてその人物…逢紀のほうを向いた。 「生真面目なのもいいけどさ、そうやって思いつめて周りを振り回すのがあなたの悪い癖よ」 「あ…」 そうして、呆気にとられる審配の手から、その手紙を難なく取り上げる逢紀。 その中身を一瞥すると、果たして彼女の考えたとおりの内容であった。 この不始末を償うための、職務辞退の請願書。その末尾には、自分を認めてくれた袁紹への感謝の言葉と、同僚である逢紀に対する謝罪の言葉で締めくくられていた。 そのことに逢紀は何故か、嬉しくすら感じていた。 「なんだか…無碍に破り捨てるのも気が引けますから、とりあえずあたしが預かっておく、という形で宜しいですか?」 「ええ、あなたの良い様に計らって、元図さん」 逢紀の言葉からその内容を悟ったらしい袁紹は、鷹揚に頷く。 「ということだから…まぁ気にしないこと。また明日から、ちゃんとふたりで協力し合って、頑張って頂戴ね」 呆然としたままの審配。 何時の間にかその隣に腰掛けていた逢紀が、その背中を軽く叩く。 「は…はいっ!」 飛び上がるかのように立ち上がり、勢いよく深々と頭を下げる審配の姿に、逢紀は苦笑しながら、袁紹は穏やかに微笑みながらその顔を見合わせ、頷いた。 「と言うわけで、このお話はこれで終わり。もう大分良い時間になってしまったし…どうかしら、折角だから今日の夕食、正南さんも一緒に…どうかしら?」 「え…?」 驚き、戸惑う審配を他所に、袁紹は傍らの逢紀に目をやる。 「手配なら、今からでも間に合うと思いますが…」 「どう? 何かご予定があるなら、また別の日にでもいいけど」 その言葉を受け、審配は一瞬、逢紀のほうへ目をやった。 「景気づけ。お嬢様直々に、生徒会随一の働き者のあんたへのご褒美だってさ。受け取って吉だと思うけど?」 その笑顔に、自分がようやく受け入れてもらったことを感じ取り、審配の表情に笑顔が戻る。 「は、はいっ、是非とも!」 そして再び勢いよく頭を下げるその少女の姿に、今度は袁紹すらも苦笑するしかなかったという。 この日を境に、それまで不仲と専らの噂であった審配と逢紀は行動を共にするようになり、やがて無二の親友として、共に袁紹の為に身命を賭す事を約束しあったという。 しかし、それから間もなく行われた、春休みを跨いで行われた官渡公園決戦において袁氏生徒会は曹操率いる蒼天生徒会より総敗北を喫し、ふたりは凋落する袁氏生徒会のために奮戦するも、滅びの道を辿ることとなる…。 (終わり)
186:海月 亮 2006/01/22(日) 00:17 なんだか今年はえらく予想外のキャラで萌えまくったので、勢いで逢紀視点中心で話を書いてみた。反省はしていない。 えーまぁつまりはなんだ、結局こういうお話は海月さんってば大好きなんですよ。 そして何気に目立ってんだか目立ってないんだか張コウとかもこっそり出てるとかな。 で、袁紹や顔良、張コウはともかく、審配と逢紀は海月のオリデザしかない(ハズ)ので、とりあえずこれを見てイメージ補完しといてくださいな。 http://www5f.biglobe.ne.jp/~flowkurage/data/create003_a.jpg(審配) http://www5f.biglobe.ne.jp/~flowkurage/data/create003_b.jpg(逢紀) ご覧になられた方も居られるかも知れんが、参考程度に。
187:7th 2006/01/23(月) 23:00 巫女服。 白の小袖に緋色の袴。正月の神社でよく見るアレである。 女性にも割合好まれる服装であり、そのためか正月の巫女の求人は狭き門となっている。ある意味、女性の憧れと言っても良い服装である。 正月にはまだ早いが、別に正月でなければ着てはいけないと云う決まりも無い。むしろ可能ならば一年中愛でていたい衣装、それが巫女服。 長い髪を赤いリボンで束ね、手にはお払い棒を持った法正。 髪はそのままに、右手に玉串、左手に神楽鈴を持った簡雍。 両人とも、即席巫女とは思えぬほど様になっている。 「うんうん、インパクトにはちぃとばかし欠けるけど、巫女服は王道やしな。やっぱし外す訳にはいかんやろ」 「ほんとですね。私も腕を揮った甲斐がありました」 満足げに頷く劉備。その傍ら、衣装提供者兼プロデューサーの趙雲もまた、会心の笑みを浮かべている。現役の巫女に太鼓判を押される程なのだから、やはり大したものなのだろう。 「…やけに本格的な仕立てだと思ったらコレ本物!?」 「なんつー無駄なことを…」 趙雲提供と云う事は、当然この服は彼女の実家、常山神社のものである。この時のために、わざわざサイズが合うのを持ってきたらしい。 しかし、こんな目的に神聖なはずの巫女服を使用していいのだろうか。 「いえいえ、お二人ともよくお似合いですよ。お正月には是非、うちの神社でバイトしてみませんか?」 どうやらアルバイトの勧誘と面接も兼ねているようだった。 スク水。 正式名称スクール水着。小学校から高校までの体育における水泳用に採用されている水泳着を指す。 その限りないフェティシズムは、制服・ブルマー・スクール水着の三つをもって『お菓子系』と称され、支持を集めている。 濃紺のナイロン生地に、白い名札布が映える。前の内側腹部から外側下半身にかけて穴が開いて、前からだとスカートのように見えるそのデザイン。 紛う方無き旧スク水である。 あまりの恥ずかしさに、法正は頬を真っ赤に染めている。 それもその筈。一般にスク水に使用されるナイロン生地は、分厚い上伸縮性に乏しい。少々サイズが小さいだけで、簡単にぱっつんぱっつん少女の出来上がり……つまりはそう云う事である。 最早、作為的どころの騒ぎでは無い。どう見たって恣意的だ。誰が考えた? 簡雍の方はもっとそれが顕著だ。 デザインは法正と同じ、旧スク水。しかし圧倒的に異なる、その色。 真っ白なそれは、禁断の白スク。 スク水は、何も伊達や酔狂で濃い色をしている訳ではない。水着という性質上、それは必ず水に濡れる。そうなった時、水着を通して身体が見えぬよう考慮された上でのあの色なのだ。 故に、スク水に白が採用される事は基本的に有り得ない。だからこそのアンビバレンツ。これこそ、禁断と呼ばれる所以である。 「…こんなの撮って良いの? 倫理的に問題があるような気がするんだけど」 「全くだ。一体どんな層をターゲットにしてんだよ、コレ」 どう考えてもそっちの人対象である。最悪だ。 「まぁええやん。売れて儲かればいいって事で。あまりヤバイのは編集でカットするから」 そう言いつつ、手に持ったビデオカメラを二人に向ける劉備。動画も売る気なのか。 「……早く終わってくれないかしら。正直、この格好って結構肌寒いのよね」 真夏や屋内ならともかく、秋の気配を仄かに見せ始める今の時期でこの格好は、少々無理がある。 寒そうに胸の前で腕をかき抱く法正。それを見て立ち上がったのは諸葛亮だ。…何だろう、このそこはかとないヤな予感は。 「ふむ、寒いと仰られるなら法正殿、この上着をどうぞ」 そう言って渡された服を、言われるままに着る法正。そして気付く。コレは……! 「半袖体操服……っ! 見事や、孔明!」 「はっはっは、お褒めに預かり恐縮です」 これこそ奥義『スク水の上から体操服』。前述の『お菓子系』三要素のうち、二つを同時に盛り込んだ究極のスタイル。 スク水のオプションと言うにはあまりにも破壊力の強いこの組み合わせ方は、まさしく奥義の名を冠するに相応しい。 「ぃよし! コレだけで売り上げ15%アップは間違いなしや!」 「「そんなのどうでも良いから早く終われー!!」 涙目になりつつ叫ぶ簡雍と法正。でもね、まだ終わんないんっすよ。 ナース服。 『クリミアの天使』ナイチンゲールに由来するこの制服は、彼女以来、看護婦の象徴となっている。 看護婦と云う名称が看護師になったのは記憶に新しい。が、そんなのは関係ない。重要なのは、そこにナースがいる。ただそれだけだ。 ナースのことを『白衣の天使』と呼んだのも昔の話。最近のナースは一味違う。 具体的には白くない。淡い色が基本ではあるが、グリーン、ブルー、イエロー等、実にカラフルだ。 勿論、ピンク色のナース服なんてのも当然のように存在する。暖色系の色は見る人に安心感を与えるらしく、病院でも意外と違和感が無い。 そして、今まさに簡雍が着ているのがソレ。ピンクのナース服にナースキャップ、追加装備にカルテを持たせてある。 確かに看護師なのだが…… 「うーん、何ちゅうかなぁ…。看護師だけどナースっぽくない気がするなぁ…」 「待て、ソレは一体何処がどう違うんだ」 「憲和の場合、ナース界の二大幻想、『ツンデレナース』と『ドジっ娘ナース』のどっちにも当てはまらんしなぁ…。言ってみれば『おたんこナース』?」 「意味がわかんねぇ…」 ナースと云うのは、外野の壮大なる共同幻想である。実際の看護師はとんでもない重労働で、肉体労働の上に休みも少ない。かなり過酷な仕事なのだ。 仕事に疲れ果て、微妙にやさぐれた看護師…今の簡雍はそんな風に見える。この上なくリアルだが、それ故にかえって減点だ。 一方、法正はピンクナースに非ず。白いワイシャツに膝上のタイトスカート、眼鏡をかけて白衣を着こなすその様は、どう見ても女医。 法正のソリッドな印象に、服装がばっちりマッチしていて、こちらもリアルである。只、簡雍ナースとの大きな違いは、リアリティが加点になっている事だろう。如何にも大人の女性然とした法正。何と云うか、色気がある。一歩間違えればイメクラと変わらない辺りが特に。 「完っ全に女医さんにしか見えんなぁ。将来はその道へでも行くんか?」 「生憎と私は文系でして、そっち方面はさっぱりです。孔明辺りにでも行かせてください」 「いえいえ、別段医者でなくとも白衣は着れます。文系でもカウンセラーとかありますしね。斯く云う私も、白衣は普段着として愛用してますが」 そう言われれば、確かに孔明は白衣を常日頃から着ている。もっとも彼女の場合は、あまりにも自然過ぎて本当に普段着にしか見えないが。 「ま、取り敢えず悪くはないからこんなもんで言いやろ。ナース服については次回までの課題と云う事で」 「三回目もやる気かよ!!」 簡雍の悲鳴が、空に響いた。
188:7th 2006/01/23(月) 23:08 簡雍+法正改造計画、続きをお送りします。 先ずはネタを提供してくださった海月 亮・北畠蒼陽両氏に深く感謝を。 お二方の想像されたものの万分の一でも表現できていたら幸いです。 この話はもう少しだけ続きます。 25日で旭記念日からちょうど一週間。その日を目安に完結させられるよう、努力したいと思います。
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【1月18日】旭記念日創作発表スレッド【お祭りワッショイ】 http://gukko.net/i0ch/test/read.cgi/gaksan2/1074230785/l50