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【1月18日】旭記念日創作発表スレッド【お祭りワッショイ】
19:★玉川雄一 2004/01/17(土) 22:53 吾粲の眼(3) 「さて、そろそろ着くわね。 …ここが、今日の会場よ」 そう言われて気が付くと、何やら飾り立てられた門の前に来ていた。 どうやら長湖部の先輩たちが今日のイベントのために準備してくれているらしい。 辺りには高等部も中等部もとりまぜて多数の生徒の姿が見えていたが、中等部生はやはり数人連れのグループが多い。 この年頃の少女というものは何事につけグループで行動したがるものであるし、 “先輩”の領域に踏み込むにはやはり一人では心許ないのだろう。 吾粲にしてみればその気になりさえすれば別に一人でも平気だったかもしれないが、 今では顧邵が隣にいてくれることをやはり嬉しく思い始めていた。 「あら、孝則ちゃんいらっしゃい。友達と一緒?」 そこへ、例のジャージを羽織った女生徒が声をかけてきた。口振りからして顧邵と知り合いのようだ。 「おはようございます、伯海先輩。この方は先程お知り合いになったばかりですけど、お誘いしちゃいました」 そう言うと、そっと下がって吾粲を前に立たせた。どうやら早速、先輩に紹介してくれるらしい。 「え、えっと… 初めまして。吾粲、字を孔休といいます。本籍はこの呉棟です。よろしく、お願いします」 いきなりのことで通り一遍の挨拶しか言えなかったが、なんとか無様な姿は見せずに済んだようだ。 「はじめまして。私は孫河、字は伯海よ。今は私がここの棟長をやってるから、進級したらまたよろしくね」 そう言うと優しく手を握ってくれた。 温和そうな表情をしているが、その手触りは紛れもなく歴戦の風格を宿していることに吾粲の胸は密かに躍った。 「ユカちゃーん、妹さんたちがみえたわよー!」 「あら、もう着いたのね。…それじゃ吾粲ちゃん、悪いけどこれで失礼するわね。また、会いましょう」 ざわめきの中で上がった声を聞きつけ、孫河先輩はもう一度吾粲の手をギュッと握ると、手を振って門の方へ駆けてゆく。 「はいはい、ここよー…って、あれ、叔武は?」 「従姉さん、叔武ならもう、奥の方に」 「ああもう、いつもあの娘ってば! 公礼、探すからついてきてくれる?」 「はい。それじゃ、あちらへ」 慌ただしいやりとりを残して孫河先輩とその妹らしき少女は人混みの中に消えていった。 「……あれ、孫河先輩、今『ユカ』って呼ばれて返事してなかった?」 「ええ。なんでも、もとは兪家の出身だからとか、孫家から兪家に養子に入ったからとか聞いているわ。 ちなみに、一緒にいたのが従妹の孫韶さんで、探しに行った相手は実妹の孫桓さんね。二人とも私達と同学年」 なるほどね、と頷く吾粲。やはり彼女と一緒にいると何かと心強い。 「さて、それじゃ私達も中に入りましょう。いい場所、とらないとね」 顧邵はそう言うと吾粲の手を引いて歩き出す。波に揉まれる思いの吾粲だが、出会いの波はまだほんの序の口だった。 −なお、孫河との再会は実現した。数ヶ月後、進級した吾粲が呉棟の執行部から呼び出しを受けたとき、 何事かと出頭した彼女を待っていたのはニコニコと微笑む孫河の姿だったのだ。 このときから、吾粲の執行部員として、また長湖部員としてのささやかな第一歩が記されることになる… 「あ、姉さんだ。姉さーーーん!」 人混みをくぐり抜けながら、特設会場である巨大温水プール −学園内でも比較的温暖な地域にあるとはいえ、今は真冬である− へと向かう途中で、顧邵が突然声を張り上げた。 その方を見ると、一人の女生徒と視線が合った、ように見えた。実際は隣の顧邵に向いていたのだが。 相変わらず、顧邵は吾粲の手を引いたまま歩いて行く。どうやら今度は彼女の「姉さん」に引き合わせるつもりらしい。 「ふぅ、ふぅ…… やっぱり人が多いわね。姉さん、大変でしょう?」 「……平気」 ようやく辿りついた顧邵が挨拶も抜きに切り出すと、半テンポ送れて細い声が返ってきた。 見れば、確かによく似た女生徒だった。濃紺の黒髪はやはり肩口あたりまで伸び、先の方で緩く波打っている。 華奢に見える体格も瓜二つではあったが、決定的に異なるのが声もさることながらその表情。 闊達な“妹”に比べ、姉の方はいかにもおっとりとしている。 動作も落ち着きがある、というのを通り越して緩慢ですらあり、巡り巡って運動向きでなさそうな所はまた似通っていた。 (そういえば、お姉さんの方もマネージャーをやってる、って言ってたな) そう思いつつ、吾粲はまたしてもしげしげと眺めてしまっていたらしい。 「………お友達?」 「そうよ。吾粲さん、っていうの。素敵な人とお近づきになれて、私もう嬉しくって」 顧邵はすっかり舞い上がってしまっている。さすがに買いかぶりすぎだろう、とは思いつつ吾粲は一礼する。 「初めまして。中等部三年生の吾粲、孔休といいます。孝則さんにはとてもお世話になっています」 彼女とはつい小一時間前に出会ったばかりではあったが、そうでもなければここにはいなかっただろうから、 吾粲はできる限りの感謝の念を込めて相手を見つめた。 「…顧雍。……元歎。 …妹と、仲良くしてあげてね」 「はい! こちらこそ、よろしくお願いします」 微妙に肩透かしを食らわせるような会話のテンポが印象的だったが、吾粲は素直に返事をすることができた。 自分の中で、何かが変わろうとしている。長湖部は、今まで知らなかった自分を引き出してくれるのではないか? 我知らず沸き上がる興奮を感じ取る吾粲をじっと見つめて、顧雍は微かに微笑んでいた。 続く
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