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☆熱帯夜を吹っ飛ばせ! 納涼中華市祭!☆
52:海月 亮 2005/08/17(水) 00:13 「者ども、準備はいいかぁ!?」 「おー!」 「よーし、総員突撃ぃー! あたしに続けー!」 先頭、跳ね髪の少女がビニール製のイルカともシャチとも取れぬモノを小脇に抱えて湖面へ駆け出すと、そのあとに少女たちがときの声をあげて追随していく。皆、或いは浮き輪を装備し、また或いはビニール製のビーチボールを抱え、次々に沖へ向かって泳いでいった。 先頭切った少女は水色の地に白抜き水玉模様のワンピース、それの真後ろにいた三つ編みの少女は「PARQUIT☆CIRCLE」という白抜き文字が胸元に入っている橙のハイネックワンピースだったが、あとの少女は揃いも揃ってスクール水着だった。 「あんたたちー、あんまり沖のほうまでいっちゃダメだからねー!」 浜にひとり取り残された格好になった陸遜が呼びかけるが、聞いているのかいないのか。 そこへ荷を置いてきたらしい敢沢も合流する。苦学生の彼女ではあったが、着ているのはそれなりに値の張りそうなデニム地のセパレート。彼女はどうやら水着にもそれなりにお金を使うらしい。 「しかしまぁ…あれだけスク水だらけだと学校の授業で来てるみたいだな」 と溜息交じりに言う。 「私も正直な話、徳潤さんがそんな水着持ってるなんて意外でしたけど」 「折角の一張羅だからな、着れる時に着ておいてやらにゃあ。あんたもモノはいいんだから、たまにはお洒落に気を使ってもいいんじゃないか?」 陸遜の皮肉を鮮やかに皮肉で返す敢沢。 「あはは…でも私、どうも着慣れた服じゃないと落ち着かなくて」 「気持ちは解るがね。まぁ、着れる内に着ておくと言うなら、それなんかその典型かもしれないしな」 なんとも女子高生らしからぬ物言いではあるが、敢沢のそれはバイト環境で培われたものであることは想像に難くない。あくまで軽口に過ぎず、どこぞの諸葛亮のような趣味人的な発想ではないし、敢沢自身もそのような考え方は持ち合わせていない。 「それに考えてみれば、うちの制服ってどの学校のと比べても割高なんだよなぁ…そう考えると、多寡がスク水でも着ないのは何か勿体無い気がするなぁ…」 難しい顔をして考え込む敢沢。やはり、最終的にはどこかで苦学生の顔が出てきてしまうらしい。 「まぁ、そんなこと考えてもしょうがないですよ。 それより、バイトの時間は大丈夫なの?」 「夜からだから四時くらいまで余裕だな」 「え…今日の夜に?」 その答えに小首を傾げる陸遜。やっぱり、苦学生の彼女には祭を楽しむ余裕もないだろうか…ということに思い至ったようだ。 「…じゃ、折角だから今のうちに遊んどきましょう、ね?」 手をとって子供のようにはしゃぐ緑髪の少女の笑顔に、敢沢はふと、今年の年明けに起こった出来事を思い出していた。 長湖部と帰宅部連合の全面戦争。 甘寧や韓当を始めとした百戦錬磨の大将ですら成す術ないその危難の矢面に、自分がこの少女を引きずり出したことを、敢沢は未だにそれが正しかったかどうなのか考える時があった。 結果的にその行為は長湖部を救うことになったのだが…そのために嘆き悲しんだ少女がいたことを知っていたから。 だが、彼女は思う。 今こうして、この少女が笑顔で居れるのだから、それならそれでいいじゃないか…と。 「ああ、いくか」 敢沢は陸遜の手に惹かれるまま、水際で遊ぶ少女たちの一団に駆け込んでいった。
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