★しょーとれんじすと〜り〜スレッド 二学期!★
46:韓芳2007/04/04(水) 00:39
風凛華惨  其ノ参

夏候惇はようやく我に返った。
実際はほんの数秒だったのだが、その何十倍も長く感じられた。
「私としたことが… 驚いている場合ではないな。」
そうつぶやくと、夏候惇は軽く深呼吸をした。
大半のものも我に返り、怪我人の手助けを行っているが、まだ呆然と立ちすくんでいるものも居る。
「おい! しっかりしろ!」
「…えっ? …あっ、はい!」
「あんたは後方で怪我人を助けて。 あと、まだ突っ立ってるやつもね。 それから、元気な者の半分はすぐここへ来るよう伝えて。」
「はい!」
こうしている間に、敵の歩兵は目の前まで迫っている。
「夏候惇様! ご命令の通り、元気な者15名集合しました!」
元の1割にも満たない人数だった。しかし、過ぎたことを言ってもしょうがない。
「よし、作戦を伝える。 まず、10名ここで―――」
「…あ、危ない!」
「くっ…!」
「くらえぇぇ!」
夏候惇は振り向きながら回避行動をとった。
だが、振り向きながら避けようとしたため、敵の1撃を左目に受けてしまった。

「ぐぁっ… おのれ…」
「夏候惇様ぁ! …夏候惇様を守れ!」
15人が夏候惇を取り囲むように戦っている。 しかし、人数と士気の差が大きく徐々に押されていく。
「夏候…惇様… ご、ご無事ですか…?」
隣に倒れた兵の声はか細く、意識は朦朧としているようだ。
「ああ、何とか大丈夫だ。 しっかりしろ!」
「よか…た… 本当に…」
「おい… おい!」
「――覚悟は決まりましたか?」
どこかで聞いたことのある声。 …そうだ、1撃食らわされたやつだ。
「…フン。 覚悟なんてとっくの昔に出来てるさ。」
「なら…階級章、いただけますか?」
「残念ね。 私があいつと出会ってなければ考えたかもしれないが、今は無理な相談だな。 あいつより先にくたばるわけにはいかない。」
「なら、しかたありません。 …力ずくでも、階級章頂きます。」
「力ずくでも? …ちょうどいい。 私やこいつらの痛み、返させてもらうよ。」

周りに味方は20人、敵の兵は夏候惇を入れ3人。 もらった!
「曹性様、どうしましょう?」
「決まってる。 …行けぇ!」
わっと一斉に襲い掛かった。 だが、急に下腹部に痛みが走った。 別に病気など持っていない。 もちろん、走って息が切れたせいでもない。 ということは――
「どうした? もう終わりか?」
「なっ、こいつ… 強い…」
正面に木刀を握った夏候惇が立っている。 その周りに、味方の兵たちがうめき声を上げながらころがっていた。
「くっ… まだ…高順様が来ていない… このままで…終われるかぁ!」
「そうだ。 それでいい。 次はこちらから行くぞ!」
「くっそぉぉぉぁぁぁ!!」
夏候惇の頭を狙った一撃。 しかし、それはフェイクで実際は下からの切り上げ。 読めた!
「夏候惇! これでもくらえぇ!!」
下からの切り上げをガードし、がら空きの体への蹴り。 決まった!
「決まったとでも思ったか?」
「なにっ?」

そんなばかな。 確かに、ほんの0,数秒前にそこに居たはずの姿はすでに無く、あるのは曹性の背後から横腹へ1撃をくらわせた姿だった。
「なんという…速さ…」
「お前と私じゃ、格が違うのさ。」
「ぐぁ… 高…順さ…ま…」
薄れていく意識。 ああ、私はもうだめだ。 遠くからバイクの音が… バイク?
「曹性!」
猛スピードで現れた高順は崩れ落ちる曹性を抱え、そのまま走り去っていった。
あまりの速さに夏候惇は手が出なかった。
「高順… いつかはお前も―――」
そう言うと、夏候惇はその場に倒れこんだ。 首の後ろに、殴られたような跡がついていた。

「もう…しわけ… ございません…」
「仕方ないわ。 やり損ねたのは私なんだから。」
バイク上で抱きかかえられながら曹性は思った。
この人は、なぜこの軍団に居るのだろう。 なぜ、危険な役目を受けても嫌な顔ひとつしないのだろう。 ほかの軍団ならもっと活躍の場が――
「どうしたの? さっきからじっと私のほうを見て。」
「あっ… いえ、何でもありません。」
「? ならいいけど。」
でも、この人が同じ軍団にいてよかったと思う。 このような人にはなかなか出会えないだろうし、その人の下でいっしょに過ごせるか分からないし。 例えどんなにつらいことが起きても、この人が居るなら乗り越えられる… そんな気がした。
「私… 階級章とられてしまいました… 高順様、いままで…ありがとうございました。」
「…こちらこそ、ありがとう…。」
まるで映画のように、バイクで走り抜ける姿が夕日に照らされている。
「はは、呂布様に何言われるだろ。」
「そう…ね。 いざとなったら、ちゃんと止めてあげる。」
「いえ、でもそれでは――」
「私はあなたの上官よ。 それはいつだって変わらないわ。」
「…ありがとうございます。」
「…今のうちに、泣くなら泣いときなさい。」
「…はい。 すいま…せん…!」
高順様のぬくもりを、私は今でも忘れない。
1-AA