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★しょーとれんじすと〜り〜スレッド 二学期!★
16:彩鳳 2007/02/25(日) 23:24 『王者の征途』 第一章 『高まるうねり』 その日、曹操を中心とする「嵐を起こす者」たちは鄴棟―冀州学院校区の中枢―の連合生徒会総本部にいた。 鄴棟は冀州学院最大の校舎で、かつては袁紹が、現在は曹操が本拠地として活用している巨大校舎だ。黄巾革命の大乱で一度激しく荒廃したが、革命から二年が経った今では以前の賑わいを取り戻し、蒼天学園でも有数の大校舎となっている。 その巨大校舎の廊下に響く、間の抜けた歌。 「しぃ〜っぷう(疾風)万里〜♪ れぇ〜んごう(連合)会〜♪ め〜ぇざす〜ぅ(目指す)は湖南♪ さぁ〜いそ〜ぉ(柴桑)棟〜♪」 「・・・・・・何歌ってんのさ」 聞いたら誰もが沈黙すること請け合いの『ハ○イ大海戦』の替え歌に、生徒会執行部長・夏候惇は顔をしかめた。曹操の傍という位置関係上、脱力しつつも仕方なくツッこんだのだが、 (こんなのにウケる奴がいたら、相当変な奴だ。絶対に) と心の中で思っている。廊下に二人だけしかいないのは、不幸中の幸いだ。だが、当の曹操は彼女の胸中を知ってか知らずか、 「え? 南征軍の賛歌。さっき思いついたの」 と言う始末。 「とりあえず、アンタの発想力に敬意を表することにするよ・・・」 事ここに至っては、もはや多くを語る必要はあるまい。一体何を言えというのか。「馬鹿と天才は紙一重」と先人たちは言うが、その通りだとつくづく痛感させられる。どちらも結局は「変人」だ。 古くからの付き合いではあるが、こういう“変人モード”の時の曹操は、剣道一直線の夏候惇にはどうにも扱いにくい相手である。その天真爛漫さが、彼女の幼げな容姿に似合っているのが救いといえば救いか。 (まったく、昔から複雑な奴なのは分かってるんだけど。どうもやりづらい・・・) 夏候惇の思考を遮るように、曹操が口を開く。 「も〜さっきから黙っちゃって。どうせ見た目と実年齢が、とか思ってんでしょ?」 曹操が鋭いのは昔からだが、こういうところで得意技を発揮するのは勘弁して欲しいものだ。まあ、古い付き合いだけに仕方ないが。諦めたように夏候惇は口を開く。 「まあね。私や幹部連中の前ならまだいいけど、下級生たちの前ではやめときな。あんたのファンが泣く」 「も〜元譲は心配しすぎだよ! そんなことするワケないのに〜」 そうやって無駄にムクれる姿は可愛らしいのだが、それはさて置き確かに曹操がそんなバカをやらかす心配は無いだろう。・・・・・・酒が回ったりしない限りは。まあ、年末年始はまだまだ先だ。もっとも、これから始まる大攻勢が成功裏に終われば、祝勝会で暴走する危険性は―――。 考えるのはやめにしよう。夏候惇は自分の思考を打ち消した。これから始まる戦の後のことなど、戦の前から想像するべきではない。何が起こるかわからないのが戦だ。自分たちが官渡で証明したではないか。 「まあ、ここまで来たんだから、今は作戦に集中しないとね」 「・・・・・・そうだね」 先ほどのムクれた姿から、打って変わった曹操の一言。 切り替えの早さもさることながら、こっちの考えを見透かしたかのように「作戦に集中しないと」ときた。 (これが孟徳の覇者たる所以、ってことなの・・・・・・かな?) 曹操の奇才(鬼才)ぶりは重々承知している夏候惇だが、事あるごとにこの古馴染みに振り回されてしまう。 (困った奴だけど、なんだかんだで敵わないんだよなぁ。やれやれ) そう思いつつも、不思議と不快感は感じずにいる夏候惇だった。結局のところ、彼女はこの騒々しい古馴染みを気に入っているのだ。 曹操と夏候惇が入室した大会議室には、既に荊州侵攻作戦の最終打ち合わせのため、多くの連合会幹部たちが集合していた。 「それでは、全員揃いましたので、南方作戦の最終確認を始めたいと思います」 口を開いたのはドレードマークのストールが印象的な議長役の荀掾B彼女は曹操の参謀長的存在だ。 同時に、情報参謀役の賈詡がノートPC直結の大型スクリーンを操作し、スクリーンに大型の地図が映し出された。続いて荀揩ェ皆に作戦内容の確認を促すべく、作戦の概要を話し始める。 10月初旬に発動される「ホッホヴァッサー」(Hoch Wasser=高潮作戦)。これが曹操と彼女を支える強力参謀陣が創り上げた南方侵攻作戦の名称である。 作戦は3つの段階に分かれているが、大まかな流れは簡単だ。 荊州校区と司隷校区及び豫州校区の境界部から一挙に大兵力をもって南下し、荊州校区の中枢である襄陽棟・江陵棟を制圧するまでが第一段階。 そして、旧劉表(現劉N)陣営の取り込みを行い、同時に占領地域の安定化を図るのが第二段階。 然るべき足場固めを行った後、長湖に面した江陵棟を拠点にして水陸両面から東進し、孫権率いる長湖部を屈服させるのが第三段階である。 この作戦が成功すれば、連合生徒会に敵対する主な勢力は一掃され、残る勢力は馬騰率いる涼州校区の陸上連合会と、劉璋が生徒会長を務める益州校区の二つとなる。 どちらの勢力も、追い詰められれば激しく抵抗する事が予測される。しかし、荊州・揚州校区を併合した連合会の大兵力を相手にすれば勝てないと参謀たちは考えている。第二次大戦時の東部戦線が良い例だ。 東部戦線の戦いは、独ソ両軍合わせて600万以上(クルスク戦時は1000万以上)の将兵が激突した大規模なものであった。ドイツ軍は1941年の独ソ開戦までにポーランド・フランス・バルカン半島での戦闘を経験しており、将兵たちの戦闘能力はソ連赤軍を遥かに超えていた。事実、開戦直後のドイツ軍は圧倒的な勢いで進撃している。しかし、数で勝る赤軍に激しい抵抗と消耗を強いられ、1943年夏のツィタデル作戦(城塞作戦=クルスク大会戦)以降は完全に戦争の主導権を失うことになる。劣勢に立たされたドイツ軍はなおも自軍を上回る損害を赤軍に与え続けたが、雲霞のごとき赤軍の前に補充が追いつかずに戦力差は広がり、戦線は後退する一方であった。そして1945年5月の終戦により、彼らの祖国は東西分割の憂き目に遭ったのである。 ドイツ軍の末路が良い教訓である。ゆえに参謀たちの考えは一つの点で一致していた。物量で勝る以上、多少てこずっても物量に限界のある相手に負けることは無い。最終的には勝者の座を獲得できる、と。もちろん、西方へ進出するのは荊州・揚州の両校区を押さえてからの話だが、蒼天学園を制覇するまでの道のりを考えるのが戦略に携わる参謀たちの仕事である。この辺りは目の前の仕事(戦闘)に集中する夏候惇のような軍人肌の人間たちと決定的に異なる部分だと言えよう。
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