★しょーとれんじすと〜り〜スレッド 二学期!★
22:第二章Part22007/03/01(木) 01:40
「ホントさ〜。テストで点数稼ぐのは得意かもしれませんけどぉ〜。だからって調子付いてこっち(荊州校区のことだよ。決まってんじゃん)まで来るなっていうんですよね〜。ホントに、私たちの週末を返せ!(ため息)」
「袁紹先輩には勝ちましたけど、アレは許攸先輩が裏切ったからで、アンタの手柄じゃないでしょって思いません? 絶対違いますよね〜」
「あんなのは周りに強い人が大勢いるから(夏候惇とか曹仁とか張遼とか徐晃とかetc)凄い人に見えるだけ。お付きの夏候惇がいなけりゃ、た・だ・の・小娘に過ぎないのよ。ただのね(冷笑)」
「でもでもぉっ、その手の掛かる小娘を世話する夏候惇先輩が格好良いんですよね〜。はぁぁ♪(赤面)」

 始まった途端、某校区某地域に展開する某警戒班の会話は文句の掃き溜めと化していた。誰に対しての文句かは言うまでもない。(一部例外がいるようだが)
 特に“週末を返せ!”の部分は全員の共感を呼び込み、同調した者たちが勢いのまま暴走の気配を見せ始めている。
 その勢いに辟易しつつも結局は話を合わせる班長。もう相手が来る可能性など考えておらず、相手が来ない以上は本来の任務に気を払うこともない。そうこうしている間も、時計の針は二時の位置へ近づいている。
「ホント、週末が台無しだわ。連中が来なかったらどうしようかしら。」
 班長はそう言って、週末の予定など何も考えていなかったことに気付いた。そして、気付いたことを後悔した。それもこれも境界の向こうにいるあの連中、正確には連中の一番上に立つ赤毛の小娘のせいである。せっかく赤い髪を持っているのだから、カ○ダの島にでも引っ越せばいいのに。
 班長の逆恨み的思考が世界的に愛読されている童話へと脱線している間も、時計の針は動きを止めず二時ジャストを目前にしていた。
「本当、来るなら来るで早くして欲しいんだけど―――」
 そして、時計の針が二時を指し―――
「―――全然予定が立たないじゃない。」
 ―――戦闘開始を告げる大声が、昼下がりの静寂を打ち破ったのだった。


「戦闘団A(アントン)敵拠点を制圧。損害軽微との報告です!」
「戦闘団C(ツェーザル)敵部隊を圧倒中。抵抗微弱との連絡です!」

 曹操らが陣取る南征軍の本営に、前線からの報告が次々と飛び込んでいる。今のところ味方が苦戦しているとの報告は入っていない。予定通りだ。
(どうやら、三度目の嵐が吹き荒れそうだね)
 特に躓いた様子の伺えない戦況報告を聞いて、曹操は嵐の訪れを確信した。
 曹操が過去に巻き起こした嵐は二回。一度目は反董卓連合の結成の折、二度目は官渡決戦の逆転勝利の折。どちらも蒼天学園を震撼させる衝撃を、全校に放ったものだった。
 そして今日、曹操は荊州校区の即日降伏という形で三度目の嵐を巻き起こし、全校を揺さぶるつもりでいる。だからこそこの作戦に「高潮」という名前を与えたのだ。
 激しい嵐はうねりを作り出し、うねりは高まりながら長湖の南岸へと拡がってゆく。そして学園全体へと拡がってゆく。全てのものを揺さぶりながら―――。そのような光景を、曹操は何度もイメージしていた。
 そうしている間も、彼女の目の前では幕僚たちが前線からの報告に応対している。味方優勢の状況にあっても、彼女らの態度には何の変化も無かった。報告を伝える伝令たちに「分かった」と軽く返事をする程度である。当然だ。彼女らはこれまで無数の修羅場を経験してきたのだから。
(この程度の小競り合いを制したくらいで、誰が浮かれるものか)
 そう言いたげな雰囲気が、沈黙に包まれた本営を満たしている。
「前線の警備隊はあらかた片付いたらしい。もう文謙や儁艾は動きだすだろうな」
 本営内の全員を代表するかのように、曹操の傍らの夏候惇が口を開いた。
「全力で突っ込めば一時間も掛からない。日が沈むまでには決着が付くね。でも―――」

 全ては曹操らの期待した通りに進展している。
 特に時間の余裕が厳しくなるのを承知の上で、敢えて攻撃時刻をズラしたのはした。何のひねりも無い正面攻撃だが、警戒のピークを午前中に持って来ていた敵にとっては奇襲同然の攻撃となったのである。
 いま、本営の正面で戦っているのは于禁率いる「鷲部隊」だ。
 歩兵中心の「鷲部隊」が第一波となり突破口を確保。後ろに控える第二波の「雷部隊」、第三波の「剣部隊」が間髪入れずに荊州校区へ雪崩込む。突入した二個強襲部隊は襄陽目指して突っ走り、同棟を制圧。劉N以下、荊州校区の要人たちを確保する。
 これが「高潮作戦」第一段階の概要だ。

「―――でも、大事なのは劉Nたちを逃がさないこと。失敗したら、元も子もない」
 全員に確認を促すかのように曹操が口を開く。もちろん、全員が百も承知だ。
「あははぁ〜〜〜♪ ご心配には及びません〜〜〜♪ もちろん〜万が一が無いとは言い切れませんが〜〜〜♪ 劉Nらは〜会長のような迅速さを持ち合わせておりませんのでぇ〜〜〜♪ まず襄陽からぁ〜逃げ出せはしないでしょうねぇ〜〜〜♪」
 参謀の荀攸が口を開く。彼女の口振りからして、本当に彼女は確信しているのだろうと曹操は思った。本気なったときの彼女は、内に秘めた鋭さを前面に出してくる。その彼女が普段と変わらぬ様子でいるのであれば、まだ緊急の措置などを下す必要はないということだ。
「うん。あの連中が動かない、っていうのは同感だけどね。」
「同感だけど、他に何か気になるコトがあると?」
 曹操の言葉に隣の夏候惇が口を挟んでくる。この場でこんな突っ込みを入れられるのは、古株の彼女くらいだろう。そんな彼女の疑問に曹操が答える。
「・・・劉備たちのコト」
「あの連中か・・・確かに厄介なのは何人かいるが、大した戦力は持ってないぞ? 普通に勝てるだろ。汝南の時のように」
 しばらく前の勝ち戦を引き合いに出して、夏候惇は曹操の懸念を否定した。特に大きな兵力を持っていない劉備に、さほどの抵抗が出来るとは彼女には思えなかった。
「分かってる。戦えば普通に勝つだろうけど、何だかんだでアイツは要注意だし荊州校区の連中に結構気に入られてるみたい。その辺はどう思う、賈詡?」
 突然話を振られた賈詡だったが「そうですね・・・」という具合に、何ら動揺せず話を進め始める。
「そうですね・・・確かに劉備に同調する者も多いようですが、襄陽近辺の部隊は反劉備の蔡瑁一派が掌握しています。実働戦力を持たない以上、表立った行動は取れません。例えば、劉備を荊州校区会長に迎えるといったような。劉備がその気になれば話は別ですが、彼女の性格からして可能性は低いでしょうね」
 どこから仕入れたのかは知らないが、荊州校区内の動静を参考にした判断だ。情報参謀の面目躍如ではあるが、話を振られるのを待っていたのでは?と曹操が(そして周囲も)思うほど、彼女の言葉には澱みが無かった。
 待たれていた(待たれてたね。間違いなく! 話を振ったのは私だけど、澄ました顔して!)ことへの不快感と、賈詡への賛辞を同時に喉の奥へと押し込めて、曹操は話を続けた。
「同感。劉備は荊州を奪ったりしない。アイツはそういう奴だから」
 そう、劉備は散々世話になった荊州を奪うような真似はしないだろう。徐州の時も消極的だった彼女だ。それに―――
「―――それに、アイツに荊州を奪う余裕を与えるなんて、そんなつもりは全然無いんだよねぇ」
 それまでの口調から一変した、トーンの下がった別人のような声。幕僚たちの視線が集中するのを感じて、笑い出しそうになるのを曹操は何とか抑え込んだ。らしくもない。場数を踏んでる筈のみんなが、この程度の事で動揺するなんて。
(ねえ劉備、私から逃げられると思ってる?)
 楽しげにギラついた眼を細めながら、曹操は心の中で問いかけた。
1-AA