★しょーとれんじすと〜り〜スレッド 二学期!★
17:第一章Part22007/02/25(日) 23:25AAS
自軍の戦略方針を一通り話し終えたところで、荀揩ヘ戦術面へ話を向ける。
「私たちが当面集中すべき作戦第一段階ですが、特に重要なのは生徒会長の劉N以下、荊州校区の生徒会幹部たちを確保することにあります。次の第二段階での無用な時間を取られないためにも、彼女らの口から降伏を宣言させなければなりません。もっとも、既に荊州校区内に浸透している者たちの報告では、降伏論が大勢を占めているようですが」
「ですが〜〜〜♪ 襄陽から逃げられると〜〜〜♪ 後始末に手が掛かりますから〜〜〜♪」
「作戦発動と同時に荊州校区に強行突入、快速部隊を投入して襄陽を電撃制圧する。逃走する猶予など与えない。反撃する猶予も与えない。与えるのは降伏か、引退かの選択権のみと言うわけだ」
 荀揩フ言葉を荀攸、程Gの二人が補足する。二人は荀揩粫ノ詡と共に曹操を支える“カルテット”のメンバーである。つい先日までは郭嘉を加えた“クインテット”として機能していたのだが、その郭嘉は北伐直後の発病により入院生活を余儀なくされている。
 郭嘉の発病リタイアは非常に痛い。彼女を知る全員が残念がっているが、それほど悲観しているわけではなかった。郭嘉抜きの状態でも、参謀陣の実力は他勢力のそれを大きく上回っていると誰もが思っていたうえ、北伐に伴い旧袁家ファミリーの人材や司馬懿・蒋済といった期待の下級生が加わり、郭嘉の抜けた穴は埋められようとしている状態だったのだ。
 もっとも、総合力を高めて郭嘉の穴を埋めることは出来ても、郭嘉本人になることは誰にも出来ないのだが。
 戦術方針の確認が終わると、会議の議題は戦術レベルの話へ移る。作戦参加部隊の編成表を見ながら、曹操が口を開いた。
「それじゃあ、次は誰に先陣を任せるかについてだけど―――」
 言うや否や、会議室内にいる武官たちの視線が曹操に集中する。個々の実力差はあれど(極めて高いレベルでの差ではあるが)腕に自身のある彼女らはみな、軍の先鋒を務める名誉を欲しているのだ。
 各人の見せる意欲の高さに満足しつつ、曹操が口を開いた。
「―――今回の先陣は文謙にお願いするわ。」
 僅かな一瞬だが、曹操の決定に誰もが「やはり」と言いたげな気配を放つ。小柄だが歴戦の彼女の突進力や実績は誰もが認めるところだ。
 当の彼女は何食わぬ顔のまま、その大きな瞳で曹操を見据えた。
「喜んで引き受けます。どのくらいの兵力を私に預けて下さるのですか?」 
 楽進の問いに、曹操ではなく情報参謀の賈詡が答えた。
「兵力ですが、バイク部隊100名を予定しています。何かご意見は?」
「後続の援護は?」
 楽進の懸念は当然である。バイク部隊は突破攻撃の切り札だが、後続部隊の援護がなければ敵中で孤立してしまう。最悪の場合は全滅、良くてもバイクを放棄して徒歩で脱出、という事態を覚悟しなければならない。
「ご心配には及びません。張[合β]さんの武装風紀を後続させる予定です。事後承諾になりますがお願いしてよろしいですね? 張[合β]さん」
「おや? 私の出番か。喜んで」
 自分の出番になるとは思わなかったようだが、あっさり承諾する張[合β]。一見楽進の補助員的役回りだが、彼女は先を読んでいる。その先の展開を読み、美味しい役回りなのを察した上で「それで、ウチの隊の戦力は?」と賈詡の言葉を引き出しにかかった。
「武装風紀100名に執行部員の精鋭50名、合わせて150名を預けます。襄陽棟を制圧して、荊州校区のトップたちを確保してください。戦闘序列は二番手ですが、非常に重要な役目です。気を悪くしないでくださいね」
 もちろん気を悪くなどする筈がなく「承知した」の一言だけ張[合β]は口にした。その一言で十分だった。
 二人のやり取り以降も、会議は平和裏に進んだ。激しい口論など起こらずに、会議は淡々と進んでゆく。皆が参謀陣の力量を認めているためだがもう一つ、作戦案を曹操が承認しているためでもあった。ここで参謀たちに反論するのは、曹操に反論するも同然だ。
 もっとも、いざとなれば指揮官たちは現地での独断専行を辞さないつもりだ。それだけの実績や勝負勘をすでに指揮官たちは備えている。

 一方、最高指揮官である曹操は、目の前で続く幹部たちのやり取りを眺めつつ(もちろん、注意して聞いてるよ? 司令官だからね)脳裏で南征軍の行軍ルートに思いを馳せていた。
 荊州侵攻から揚州制圧に至るまで、勝算はあるが全てが順調に進むとは思わない。その困難な作戦目標を成功させるために必要な拠点が幾つか存在する。
 まずは荊州校区の中枢である襄陽棟。次に長湖に面した荊州校区の水運拠点である江陵棟。そして長湖部の本部が置かれている揚州校区の柴桑棟。この三箇所は特に重要な拠点である。
 ここで地図を見てみよう。(準備できなくてごめんネ♪)
 曹操のいる鄴棟から南西へ進むと、蒼天会本部の置かれた許昌棟だ。その許昌棟から更に南西へ進むと襄陽棟へ至る。襄陽棟から南へ向かうと江陵棟で、同地で大きく進路を転じて東へ向かうと柴桑棟だ。
 この、鄴から許昌・襄陽・江陵を経由して柴桑に至る「し」の字を斜めにしたような線こそ、曹操が思い描く南征軍主力の進撃ルートである。
 そして彼女は、この進撃ルートに自分だけの名前を密かに付けていた。

 『ロイヤル・ロード』(Royal Load)。その意味は『王者の征途』。

 このネーミングについて、曹操は誰にも口にしていない。パートナーの夏候惇に対しても。誰にも言わないでいるシークレット事項である。周囲に笑われそうだから、という理由ではない。誰にも言いたくなかったから、自分一人の構想のまま封印しておきたったからである。
 南征軍の進撃が始まれば、荊州校区・揚州校区での交戦は必然。戦闘は避けられない。それも、官渡公園以来の大規模決戦になると予想される。
 その「決戦」に至り、勝利するために歩むべき道に、曹操は「ロイヤル・ロード」という名前を与えたのである。
 蒼天学園の行方も、曹操たちの行方も「決戦」の結果によって決定するだろう。
『―――決定するだろうけど、またどこかで烏巣のようなコトが起こりそうだねぇ・・・・・・』
 声に出さず、そのまま口の中で曹操は小さく呟いた。彼女の脳裏に浮かび上がるのは、自ら指揮した烏巣襲撃作戦の光景だ。あの決戦からもう半年が経ったが、忘れなどするものか。あのときの記憶は今でも鮮明なままだ。あの時の烏巣襲撃と、それに連鎖した官渡決戦の大逆転劇は、大津波のように巨大な衝撃となって全校を震撼させたものだった。
 今回もまた然り。戦いのどこかで烏巣の時のような「戦機」が訪れるはず。それを見逃してはいけないと、曹操は固く誓う。
『今度の南征で、蒼天学園の帰趨を決めてみせる。私たちが『王者の征途』を歩むとき、全校は固唾を飲んで見守るがいい・・・!』
 彼女の呟きを耳にしたものはいない。しかし、曹操が派手に仕掛けるつもりでいることは、室内の誰もが理解していた。
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