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★しょーとれんじすと〜り〜スレッド 二学期!★
21:彩鳳2007/03/01(木) 01:38AAS
『王者の征途』
第二章 『嵐は三たび』
蒼天学園の構内は、再び緊張感が高まり始めている。
10月が始まって僅かな日数しか経ってはいない。しかし、荊州校区から司隷校区・豫州校区にかけての一帯は、厳戒体制さながらの緊張感に包まれている。
特にそれが顕著なのは荊州校区の北方、連合会との境界地帯だ。現地ではいくつもの小戦隊(国境警備隊に相当)が配置に付き、曹操の南下に目を光らせている。境界の向こう側には曹操の率いる蒼天会の大兵団が集結している。そのことは配置に付いている全員が知っていた。
あとはもう、来るのが早いか遅いか、それだけの違いでしかない。
「来るとしたら今日かと思っていましたけど…来ませんね」
警戒班の一人(以降班員A)が、班長に話しかけた。
今日は土曜日。大きな作戦を行うには絶好の週末である。しかし、太陽はすでに南の空を通り過ぎ、時計の針は午後二時の位置へ近付きつつあった。朝から厳戒体制を敷いていた警戒部隊の全員が、拍子抜けした気分を味わっている。
「まだ、来ないと決まった訳じゃないわよ…」
立場上『もう来ないと思うけど』とは言わずにおいたが、班長の言葉にはそう言いたげな響きがある。
『秋の空は釣瓶落とし』と言うが、10月の日の入りは早い。日が沈むのは夕方の五時二十分頃。あと三時間半ほどしかない。いま目の前で蒼天会の連中が動き出したとしても、もう遅すぎる。残された三時間半でどれだけのことが出来るというのか?
幾多の修羅場をかいくぐってきた連合会の人間なら『何でもできるさ!』と言うだろう。しかし、彼女たちは校区境界部で時たま起こる紛争や治安維持など、実戦と呼ぶに値しない“荒事”に従事した経験しか持っていなかった。荊州校区内でそういった修羅場を知る人間といえば、長湖部と相対している黄祖とその麾下の者たちくらいだろう。先日の抗争で飛ばされてしまったが。
「ああ・・・せっかくの週末がこんなコトに・・・」
いつ来るか分からない敵のために、私たちの週末が消えてゆく。警戒任務に付いている者たちの士気は決して高くなかった。
姿こそ見えないが、目の前には蒼天会の大部隊がいるのである。校区境界部の警備班程度で太刀打ちできる訳がない。こういう時こと待機している(はずの)主力部隊の出番だというのに、その姿は影も形もない。
「一体どうなってるの・・・」
圧倒的な敵への不安、動かない味方への不信が彼女たちを厭戦気分に陥れてゆく。周囲を包む沈黙が、余計に嫌な空気を形成してゆく。
「ひょっとして、向こうの大将が生○にでもなったんじゃないですかぁ?」
嫌な空気を感じてかどうかは知らないが、班長の背後で別の班員(以降班員B)が馬鹿げたことを口にした。本当に馬鹿げていると思ったが、前途は暗い上に手持ち無沙汰でやる気など失せかけている。結局、班員Bを叱ることもなく話に付き合うことにした。
烏丸高校との抗争が終結してから二週間あまり。蒼天会の主力部隊は、早くも荊州校区との境界地帯での集結を完了させていた。
学園北辺部から南の荊州校区近辺へと、主力部隊の配置を大転換させるのに5日を要した。時間を惜しむあまりに、移動しつつ諸部隊の再編成を行うという荒業を行い、続いて移動先では、待ち受けていた各部隊の補充要員の受け入れを行ったためさらに1日を費やした。
移動を終えてようやく腰を落ち着かせた諸部隊が、全員の休養と再編成後の合同訓練を行いつつ一週間が過ぎ、そして出撃の日を迎えた。戦場での戦闘経験だけではなく兵站の移動など、様々な局面を知っているからこそ出来る芸当だった。
数字的な戦力や戦闘経験では圧倒的に分があるものの、新入りたちの練度にはまだ不安がある。これまでの北伐行に従事してきた者たちは、スタミナ面での不安が残る。攻撃部隊の指揮官たちはその点を気にしている。もっとも、今度の作戦はそのような状況にも配慮したものであったが。
決してこちらはベストの状態ではない。そのような状況であっても、状況に合わせた戦い方というものがある。例えば、長丁場を避けて速攻を狙う戦い方などがそうだ。
この方針は「高潮作戦」の第一段階に反映されている。とにかく遮二無二突っ込んで敵の中枢を一気に押さえ、出来る限り早く事を片付けるのだ。
この速攻策を実現させるための戦力が、荊州校区の北東境界部前面に集結している。
楽進隊:強襲部隊“ドンナー”
(Donner=雷部隊 オートバイ2個大隊・100名にて編成)
張[合β]隊:強襲部隊“ケンプファー”
(Kampfer=剣部隊 武装風紀2個大隊(100名)及び生徒会執行部員50名の混成部隊。サイドカー付バイクにて移動)
于禁隊:強襲部隊“アドラー”
(Adler=鷲部隊 歩兵4個大隊(200名)MTB大隊2個(100名)の混成部隊)
(※なお、MTB部隊は突破後の投入まで温存の予定)
以上の三個強襲部隊が南征軍の前衛を構成し、そして第一段階の主役を担う部隊である。曹操と彼女の参謀陣の企図――機動戦力を集中させての速攻――を明確に反映させた陣容だ。
指揮系統の上では「雷部隊」を率いる楽進が前衛部隊の総指揮を執り、副将格の張[合β]と于禁が彼女を補佐するが、部隊の参謀役として曹操の本営からは程Gが派遣されていた。彼女は荊州校区首脳陣との折衝役も兼ねて前衛部隊に加わっているのだ。
前衛部隊の戦闘準備は前日から整いきり、いつでも仕掛けられる状態を維持している。歴戦の三人がその辺りの手配りを間違えることはない。
あとは、攻撃時刻を待つばかりであった。
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