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★しょーとれんじすと〜り〜スレッド 二学期!★
29:彩鳳 2007/03/07(水) 22:18 襄陽棟。荊州学院校区でも最大の規模を誇り、同校区の生徒会室が置かれた巨大キャンパス。言うまでも無く荊州校区の中枢となる棟である。 その巨大キャンパスに、普段とは勝手の違う異様な空気が漂っている。 現地より北の校区外縁部、あるいはさらに北の司隷校区や豫州校区ではお馴染みの、しかし荊州校区では久しぶりの殺伐とした空気。 戦いの気配だ。 その原因は言うまでもない。校区北方に迫りつつある曹操の脅威である。 そして先刻、連合会の大部隊が境界を突破したとの連絡が入り、襄陽棟の大会議室に校区を預かる主な者たちが集まることになった。しかし、その後の続報が全く入らず状況が把握出来ずにいた。このため室内の空気は暗く沈んでおり、明るい話題など全くなかった。 「確認しますが、皆さんは校区の降伏に賛成なのですね?」 重苦しい空気の中、荊州校区の新生徒会長・劉Nが口を開いた。目の前には蔡瑁、蒯良、蒯越、張允、王粲ら、姉であり前会長の劉表が、妹の補佐役に残した幹部たちが座している。その中の一人である蒯越が言う。 「真に残念ですが、降伏は止むを得ないかと思います。全員の意見は一致しております」 神妙な表情、神妙な声で降伏を勧める蒯越だったが、劉Nは釈然としないものを感じていた。 確かに戦力差は大きいが、引退した姉は校区の安定の為に尽力してきたのだ。学園統一の好機を逸したとの声もあるが、荊州校区を大事に思っていることは誰もが知っているはずではないか。平和を愛した姉が守り続けていたこの校区を、僅か一日で手放してしまうというのか。 何より不愉快なのは、それをよりにもよって姉と共に校区を支えてきた者たちが口に出していることだ。その点を劉Nは訴えるが、幹部たちの考えは変わらない。 蒯越に続いて校区の実戦部隊を預かる蔡瑁が、軍事的な観点を持ち出しての説得を開始する。 「会長・・・前会長が積み上げてきた実績を、ひいてはこの荊州校区をお守りしようとするその姿勢は真に立派なものです。ですが、荊州校区全体の戦力を集めても曹操の擁する兵力には敵いません。増してや―――」 そこで、言葉を遮り劉Nが口を挟んだ。 「ええ、分かりますよ。―――増してや、荊州校区は南に長湖部という難敵を抱えています。戦力の集中は望むべくもなく、どのように戦っても敗北は必至。それでは我々に、そして荊州校区に対する処罰が過酷になるだけ。そう言いたいのでしょう? 蔡瑁さん」 「その通りです。何の益も無い戦いに、何の意味がありましょう? 今なら間に合います。会長、どうぞご英断を!」 何度も繰り返された会話。何の進展も無いやり取り。 表情に出さないように注意しているが、劉Nの苛立ちは高まっていた。この幹部たちは、なぜこうも悠然としていられるのか? こうしている間にも連合会の者たちは襄陽へ近づいているというのに。自分よりもずっと経験を積んでいるはずの彼女たちに、切迫した状況が理解できないはずが無いというのに。 そこまで考えたところで、劉Nの頭の中で閃いたことがあった。 (この人たち、時間稼ぎを・・・!) 劉Nは理解した。この上級生たちの間で、曹操への降伏は以前からの既定方針だったに違いない。このまま何の進展も無い議論を続けて、連合会の軍勢が襄陽に達するまで時間を稼いでしまう。そうなれば目の前に敵がいるという事実がある以上、降伏以外に残された道はない・・・! 劉Nは思う。もし、姉の引退がもう少し遅ければ、この場にいたのが姉の劉表だったら、結果はどうだったろうか。目の前の幹部たちは、容易に降伏論を唱えたりしただろうか、と。 少なくとも、姉が曹操との交戦を決断していれば彼女たちは反対しなかったのではないか。たとえ降伏論を唱えるものがいたとしても、最終的には従ったのではないか。 いや、そもそも曹操は積極的に動いただろうか。動きはしなかったのではないか。 そのことに思い至ったとき、劉Nは改めて自分の無力さを思い知った。 劉Nは孤独だった。肩書上は生徒会長の立場にあるが、校区の実権は目の前の上級生たちに握られてしまっている。そのことは会長職を引き継いだ時から分かっていたが、この時ほどそれを恨めしく思ったことはなかった。先ほどから延々と続く進展のないやり取りにしてもそう、自分の言葉や気持ちが理解されていないのではない。相手にされていないのだ。考えれば考えるほど、暗鬱な気分に押しつぶされそうになる。 (確かに私には何の実績もない。でもこんなのって・・・) 彼女の言葉に耳を傾けるものは、この会議室内にはいない。 「会長、大丈夫ですか。 どこかお具合でも・・・?」 突然割り込んできた蒯良の声に、劉Nの意識が現実に引き戻された。 「いえ、大丈夫です」と何とか言い繕う。しかし、こちらの胸中を向こうは見抜いているだろう。目の前で見せ付けられる、余裕綽々の態度。これが年長者の強みというものか。 今の自分が何を言っても、恐らく受け入れられはしないだろう。そう思いつつも彼女は口を開いた。曹操たちが来ないうちに確認を取らねばならない事がある。頼りにすべき上級生たちがこの有様では、極めて不安だが。 「もし襄陽が降伏するのであれば、江夏の姉や帰宅部の劉備さんはどうするのですか? まず黙ってはいないと思いますが」 「ご心配には及びません。私どもが何もしなくとも、曹操は劉備を叩くはずです。昔は一緒に組んでいた時期もありましたが、今は天敵同士ですので―――」 蔡瑁がそこまで言ったところで「ちょっと待ってください」と劉Nは思わず言葉を遮った。期待はしていなかったが今の言葉は聞き捨てならない。“不安的中”というレベルの話ではなかった。 「―――ちょっと待って下さい? 帰宅部を・・・劉備さんたちを見捨てると言うのですか!?」 思わず声を荒げてしまい、慌てて我に帰った劉Nだったが、目の前の上級生たちは憎たらしいほどに冷静だった。 「会長、騙されてはいけません。あの劉備は油断のならない相手です。考えてみてください。今まであの女が何度主人を変えてきたことか。ですがご安心ください。あの人の良い態度で前会長に取り入ることは出来ても、私どもを騙すことは出来ません」 なんだその物言いは。危険な相手を受け入れた姉は唯のお人好しだと言いたいのか(実際思っていたのだろうが)。仕える相手も変えようとしているのは自分たちもだろうに。強い反発を覚えた劉Nだったが、その話は後だ。 「たっ・・・確かに何度も転校を繰り返してはいますが、徐州校区を曹操から守ったのはあの方たちの筈ですし、帰宅部から恩恵を受けたのは我が荊州校区もそうです。紛争の沈静化だけでなく、校区の文化活動の振興に帰宅部は大きく貢献しています。このような時こそ、我が校区を挙げて感謝の気持ちを見せるべきではないのですか!? その帰宅部を見捨てるなんて・・・」 特に帰宅部連合の面々と親しくしていたわけではないし、彼女たちが荊州校区で活動したのも長い期間は無い。だが、その短い期間の間にどれだけ荊州校区が恩恵を受けたかは承知している。それを思うと「見捨てる」という選択肢は劉Nには選択できるものではない。 しかし、上級生たちの反応は冷ややかだ。 「いけませんねぇ・・・会長。よろしいですか? 確かに帰宅部の我らが校区に対する貢献度は認めましょう。ですが、曹操から徐州を奪い、袁紹の下を離れて我が校区に流れてきたあの者たちの行いを思い出してください。確かに律儀な一面もありますが、基本的に劉備は野心家です。故に、あの者たちを信用し重用するなど断じてなりません」 「蒯良の言うとおりです。あの者たちに心を許してはなりません。あの者たちは曹操と交戦する姿勢を見せておりますが、これは幸いです。この機会に劉備一派をまとめて曹操に始末させてしまえば良いのです」 待っていましたとばかりに、劉備の批判を始める上級生たち。彼女たちからすれば、劉備たちは完全な余所者であり、邪魔者だった。
30:彩鳳 2007/03/07(水) 22:20 元々、荊州校区は文化系のサークル活動が活発な校区の一つである。同校区の生徒会役員の中でも、文官の蒯良や王粲らは荊州校区の生徒会役員としての肩書以外に、各自が所属するサークルの幹部としての肩書も併せ持っている。これらのサークルは彼女たちの支持基盤と言っていい。 これまでは荊州校区内で平和に共存しつつ、独自の勢力圏を形成していた彼女たちだったが、官渡決戦以降は状況が変わった。劉備率いる帰宅部連合会が、荊州校区に編入したのである。 帰宅部連合会の参入は、荊州校区のサークル活動に大きな波紋を投げ掛けた。 規模の面では既存のサークルと大きな差は付かないものの、周囲に与える影響力には格段の差が出たのである。 荊州校区に流れ着いた時点で、帰宅部連合と劉備の名前がある程度知れ渡っていたのに加え、文化系サークルが活発な校区だったことが劉備たちには幸いした。 言うまでもない事だが、帰宅部連合の所属サークルは多くの校区を渡り歩いている。このため既存のサークルとは毛色の違う彼女らの存在は、校区内の注目の的となったのである。これには劉備の気さくな人柄も一役買っているのだが、既存のサークルのリーダー達がこの状況を好ましく思わないのは当然と言えよう。必然的に生徒会の主要メンバー(特に文官たち)の間では、反劉備の空気が形成された。 蔡瑁一派や張允ら、荊州校区では少数派に属する体育会系サークル出身の生徒会幹部たちも、この空気に同調した。 彼女らは、文化系サークル出身者の危機感とは別に、帰宅部連合の持つ軍事力を警戒していた。人数自体は取るに足らないものの、劉備に従う関羽、張飛、趙雲らが本気になった場合これといって対抗できる人間がいなかったことも、彼女たちの警戒感を強めさせた。 だが校区の幹部たちにとって何よりも恐るべき事は、劉備に心酔する人間が日々増加し、劉備を荊州校区の会長に、つまり劉表の後継者に推す声が高まったことであった。万が一これが実現しようものならそれまで構築してきた校区の運営体制のみならず、自分たちの「聖域」、すなわちサークル内での地位までもが失われることになると考えたのだ。 このため、彼女たちは事あるごとに劉備を校区から追い出そうと画策した。敵もさるもので中々成功しなかったが、ここにきて大きなチャンスが訪れた。曹操の南征が現実のものとなったのである。 曹操と劉備は敵同士。必ずや曹操は劉備を攻撃するだろう。結局は仕える相手が劉表の妹から曹操に代わることになるが、劉備がトップに来るよりはマシなはずだ。 なぜなら、劉備がトップに立ち、幸い校区内での地位が維持できたとしても、いずれは南下する曹操との交戦になる。そのような不安定な情勢では、特に文化系サークルの活動に悪影響が出るのは必然であった。それならば、最初から強大な力を持つ曹操に校区を守ってもらった方が都合がいい。 荊州校区は安定した状況を作る力を持つ、強力なリーダーを欲しているのだ。 劉Nの目の前では、蔡瑁が劉備の危険性を彼女に激しい恨みでもあるかのように劉Nに訴えていた。その話題が終わり、今度は話の矛先が姉の劉Kへと向けられる。 「それから劉Kさんの処遇についてですが、私どもの方で曹操に降伏されるよう説得いたします。ですので、この件については我々にお任せください」 劉Nには分かっている。この者たちは劉備同様、姉に対して手を差し伸べるつもりなど全くないのだ。「今すぐ手配します」と言うならまだしも「私たちにお任せを」? 二人を見捨てるつもりとしか考えようがないではないか。 もはや看過できない。目の前の上級生たちに苦言を呈すべく、それまで俯きがちだった顔を上げた劉Nだったが口を開くことは出来なかった。複数の視線に射すくめられた彼女の体は、動くことを許されなかったのだ。 孤独な沈黙が室内を支配する。そのとき劉Nは気が付いた。外から聞こえてくる騒音に。 そして彼女は理解した。荊州校区の終焉が訪れたことを。 嵐を告げる高波が、ついに襄陽棟まで届いたのである。
31:彩鳳 2007/03/07(水) 22:24 ◎作者後記 非常にお待たせいたしました。『王者の生徒』第三章です。 ここ数日、こちらにアクセスできなかったのですが、いったい何が・・・。 「学園三国志」で検索したら来れましたが。(←早く気づけよ) さて、第三章ですが恐るべきことに、荊州校区の要人(幹部)たちのキャラ設定を全く考えないままに書いてしまいました。 そのため作中でも彼女たちの容姿にはあまり触れていません。(滝汗) 演義では蔡瑁らの操り人形だった劉Nですが、正史では曹操との交戦も考えていたそうです。しかし、曹操が襄陽に到着したことにより降伏を余儀なくされました。 劉表の跡を継いだばかりで、立場に反してそれほど発言力も無かったのでは・・・と愚考したので、作中では気の毒な役回りになっています。 書いた後で気付いたのですが、この第三章って柴桑会議の荊州版と言えるかも知れません。 周瑜があの場にいなかったら・・・と改めて考えてしまいました。 >海月亮さま 実は某モビルスーツの件は私も意識してました。 確信犯です。(笑) ゆえに作中では「突撃大隊」“Sturmtruppe” が「強襲部隊」になっていたりします。 >韓芳様 本作は基本的に連合会サイドで書いているので、劉備と孫権は出ないと思います。ご期待に沿えず申し訳ありません。 ただ『王者の生徒』の劉備side版は、これとは別に書くかも知れません。(まだプロットを考えてないので、断言できません)
32:彩鳳 2007/03/07(水) 23:11 今更ですが、第二章の訂正箇所を発見しました! 『特に時間の余裕が厳しくなるのを承知の上で、敢えて攻撃時刻をズラしたのはした』 の部分ですが、正しくは 『特に時間の(中略)敢えて攻撃時刻をズラしたのが功奏した』 となります。大変失礼致しました。 >雑号将軍様 荊州が無血開城なので、楽進の見せ場はちょっと・・・。申し訳ないです。 張遼ですが、襄陽陥落後に劉備を追撃したのは彼(彼女?)ではなかったかと。 韓芳様へのレスにある『王者の征途』の劉備サイド版が実現できれば、大いに活躍するでしょう。 (こうなったらマジでプロット考えねば)
33:彩鳳 2007/03/11(日) 00:26 『王者の征途』 第四章 『襄陽棟の落日』 「見えた、目的地だ! 襄陽棟の校舎が見えたぞ、各小隊は散開用意!」 前衛部隊の先頭で「雷部隊」を引っ張ってきた楽進が、ついに目的地を視界に捉えた。 時計の針は、間もなく3時を過ぎようとしている。障害物の撤去作業で思わぬ時間を取られたが、それ以降は大した邪魔も入らずに突き進むことができた。このおかげで、攻撃開始から1時間半経たずに目的地に到達するという驚異的な猛進撃が実現できたのである。 西に傾いた太陽が、かなり赤みを帯び始めた光で校舎を照らし出す中、「雷部隊」のバイク班は散開して校舎の各ゲートを封鎖しにかかる。同時に、後続してきた「剣部隊」と 楽進の本部中隊は正門へと雪崩込み、校舎の敷地内へと乗り込んだ。 剣道着姿に身を固めた武装風紀部隊と、運動着姿だが身のこなしの鮮やかな執行部員の精鋭たちがバイクから飛び降り、速やかに隊列を形成する。 「楽進さん、張[合β]さん、二人とも有難う。おかげでここまで来ることが出来た。ここから先は、この私にお任せ願いたい」 そう言って張[合β]の脇に座していた程Gは、校舎に向けて歩き出す。長身の彼女ゆえに、その様は真剣になった時の曹操とは異なる威圧感がある。その彼女を護衛すべく周囲を張[合β]と武装風紀が取り巻くと、その光景はまさに「主従の一行」という趣である。 外への警戒のために楽進らを残した一行が、校舎へ向けて歩いてゆく。 歩きながら程Gは「張[合β]さん、気づいているか?」と前を進む張[合β]に語りかけた。 急に問いかけられた張[合β]だったが、慌てる素振りを全く感じさせずに「戦の空気のことかな?」と返事する。曹操ほどではないが(いや、失礼)一見どこか抜けているようで、実は誰よりも鋭いのが彼女である。ある意味、一種の本能と言えるかも知れない。 「そうだ、我々が攻めてくることは(正確な日時はさておき、だが)ここの連中も分かっていたはず。だというのにこの警戒感の無さ。何かの罠かも、と最初は思ったがこれは明らかに違う」 「・・・荀揩ウんや賈詡さんが言っていたように、降伏派の力が強い、と?」 「それ以外に無いな、これは・・・で、噂をすれば何とやらか」 突然、程Gの突き刺すような鋭い視線が正面を向いた。彼女たちの正面――大校舎の玄関口に人の影が立っているのが見えたのである。 その影が「失礼ですが、連合生徒会の方々ですね?」と問いかけた。 影の問いに「そのとおりだ、あなたは?」と程Gが応じる。 「お初にお目にかかります。わたくし、荊州学院校区の生徒会役員を務めております蒯良子柔と申します。どうぞお見知り置きを」 「ご丁寧な挨拶、恐れ入る。私は連合生徒会の程G仲徳。何のためにここに来たかは、今更語る必要もないと思うが」 二人の脇では、張[合β]が蒯良の馬鹿丁寧な挨拶(なんだこいつ、司隷校区出身か?)に辟易しつつもこのやり取りを見守っていた。二人とも知恵者であるだけに、会話はとんとん拍子に進んでいく。 「程Gさんのお名前は、荊州校区の我々もよく存じ上げております。お会い出来て光栄ですわ。確かに、あなた方がここに来られた目的はよく存じ上げております。失礼ですが、なぜわたくしがここに居るかについても―――」 「―――ああ、語る必要の無い事だ。早速だが生徒会長の下へご案内願いたい」 「はい、会長の劉Nもみなさまをお待ちしております。それではこちらへ・・・」 こうして、荊州校区の中枢はいとも容易く曹操の手中に納まった。 襄陽棟制圧の報を受け取った曹操は直ちに現地へ赴き、降伏の手続きを行っていた程Gらと合流した。 そして、直後の交渉によって、劉Nらの処遇が正式に決定した。 生徒会長の劉Nは、生徒会長の座を降りることになったものの蒼天章の剥奪には至らなかった。さしたる抵抗をせずに降伏したことが評価されたのである。(曹操たちの予想通りの降伏ではあったが)ただし、荊州校区に留まることは許されず襄陽から、そして荊州校区から遠く離れた青州校区への転校となった。 蒯良・蒯越らをはじめとする文官グループの者たちは、連合会役員に加わることになり、改めて連合会(つまりは曹操)から現在のポストに任命されると言う形で、新たな部署(地位)に転属したり元の地位を維持することが出来た。 蔡瑁・張允ら、武官グループの面々も引き続きそれまでのポストに留まることになった。彼女たちはそれまで預かっていた部隊の指揮を引き継いで、曹操の南征軍に加わることになった。 かくして、劉表の会長就任以来続いていた荊州校区の独立運営は、ここに終わりを告げたのである。
34:彩鳳 2007/03/11(日) 00:27 『どんな物事にも、必ず終わりがある』と人は言う。その言葉は正しいと思う。今までの人生で一番目まぐるしい、今日という日にも当てはまったのだから。 そんなことを思いながら、劉Nは街灯に照らされた夜道を寮へ向けて歩いてゆく。 曹操と相対しての降伏手続きが終わった頃にはすでに日は沈んでおり、夜空には無数の星々が浮かんでいた。 歩きながら、彼女は今日一日の出来事を思い返してみる。 普段と違う緊張感の張り詰めた朝がやって来て、しかし何ごともなく午後になったと思ったら、突然曹操の侵攻が始まった。 それ以降は上級生たちと進展のない議論に終始し、気がついた時には連合会の大軍が目の前に迫っていた。 そして、曹操との対面の時が訪れた。 (本当に、凄い人だったな・・・) 先程まで顔を合わせていた人物の印象が、劉Nの頭を離れない。 彼女の想像とは全く違った“学園統一に一番近い女”の幼げな容姿。 初対面の劉Nは驚いた。だが、そこで驚いてはいけなかった。本当に驚くべきなのは、それからだったのだから。 曹操が見せたのは、姉や姉を支えた上級生たちにも似た余裕綽々の態度。 そんな彼女に付き従う錚々たる面々と、それを動かすリーダーシップ。 そして「臨機応変」の言葉を地で行く瞬間的な判断力。 どれも劉Nが必要だと思いつつ、持ち合わせていなかったものだ。しかし、曹操は持っている。 (無理だ。私じゃ敵わない) 自分と曹操の間にある巨大な“差”の存在を、劉Nは認めざるを得なかった。 姉には悪いが、たとえ姉の引退が遅れたとしても荊州校区の独立は守り切れなかったと思う。 学内最大の実力者の力量を目の前で見せつけられて、劉Nは格の違いを思い知ったのだ。 しかし、劉Nの驚きはそれだけではなかった。曹操は、劉Nを青州校区総代に任じたのである。 青州校区総代。軍権は無く、階級章も2000円から600円にランクダウンしてしまうが、それ以外は生徒会長と大差のないポスト。すなわち青州校区の責任者である。 荊州校区の降伏によって自分の学園生活は終わったと覚悟していた劉Nにとって、全く予想出来なかった決定だった。初対面ではあるが、自分は曹操の敵のはずである。その自分が一校区の責任者だなんて、それで良いのだろうか。意思決定を行う力こそ持っていなかったが、それでも荊州校区のトップにいるという自覚は持っている。 校区の降伏手続きと、連合会主導による人事処理が終わった後、意を決して劉Nはそのことを曹操に問いかけた。だが、劉Nの訴えを聞いた曹操は呆れたように言った。 「敵同士だったのはさっきまでの話でしょ。それに、蒼天章まで取られなくちゃいけないことをあなたはやったの? やってないでしょ。そんな終わったことより、来週のことを心配したほうがいいんじゃない?」 これが曹操の返事だった。こうして、劉Nの青州転属は正式なものとなった。 (明日も忙しそう・・・) 月曜日には、青州校区での初仕事が待っている。そのため、明日の日曜日は引越しに専念しなければならない。荷物の移動は連合会のほうで受け持ってくれるというが、見知らぬ校区へ転校するのだ。楽な一日にはならないだろう。 明日への不安を抱えつつ、一人孤独に彼女は夜道を歩いてゆく。 道の半ばで、劉Nは後ろを振り返った。視線の先には毎日を過ごした校舎がある。曹操の事や明日の事に気を取られ、他にも気になる事が多すぎて、襄陽棟で過ごすのもこれで最後だということを彼女は失念していたのだ。 彼女の視線の先では、見慣れた校舎が暗く静かにそびえ立っている。 重々しい夜闇に包まれたその姿は、まるで墓標のようだと劉Nは思った。 ○作者後記 前章に続いて、劉Nには辛い章になってしまいました。後で補完ストーリーでも書かねば。 さて『王者の征途』は次章で完成予定ですが、早く載せられるように尽力いたします。
35:雑号将軍 2007/03/14(水) 21:40 彩鳳様。お疲れ様です!今回もお見事でありますな。荊州閥の保身に走る姿がなんとも生き生きと映し出されている気がしました。 まあ、彼らは彼らでいろいろ考えてた結果なんでしょうね。 これから、曹操が劉備とどう対峙していくのかが楽しみです。
36:海月 亮 2007/03/16(金) 00:19 「蒼天航路」ファンとしては何の後ろめたさもなく保身に走る蒯越の姿がテラカナシス( ノД`)w 個人的な嗜好はさておいて(何)、実際の荊州政権も結局は豪族の連立政権しかなく、長いものに巻かれろ的な考え方があった感じですが…そのあたりが巧く表現されてますね。 劉Nは史実でも最後まで抵抗を試みようとしたみたいですけど…
37:韓芳 2007/03/22(木) 22:55 2週間出掛けているうちに次がラストですか〜。 本当にご苦労様です。 演義しか読んでない私には、劉Nの見方がガラリと変わる内容でしたね。各々の心情が良く伝わってきました。 次章お待ちしてます。 劉備サイドはご無理をなさらない程度でお願いします(頼むのかよ
38:韓芳 2007/03/25(日) 00:50 風凛華惨 其ノ壱 風は、時には凛と、時には華やかに吹くが、時には惨酷である。 ここは小沛棟より少し離れたところ。 そこで、2人の女性が話し合っていた。 「高順様どうしましょう? この数では苦戦は必死かと。」 「かといって、逃げ出すわけにも行かないわ。突撃するのみよ。」 「はぁ、まあそうなんですけどね。」 「曹性、今どのくらいいるんだっけ?」 「バイク持ちが20人と歩きが30人ですね。」 「そう。 じゃあ、歩兵は任せるわ。 私たちがバイクで敵陣をかき乱すから、そこをついて攻撃して。」 「はい! …しかし、呂布様にも困ったものですね。 慣れてきましたけど。」 「そういう素直なところがいいのよ。 …はぁ〜。」 「ダメだこりゃ。」 実は今、劉備が曹操と通じているということを知った呂布が、烈火のごとく怒って小沛棟を攻撃中だったのだが、曹操側の援軍が迫ってきているという知らせを受けたために迎撃に来ているのである。 とはいえ、呂布自体もこちら側に来ているのでほとんど転進ではあるが。 ただ、呂布の部隊は最前線に居た為ここへはまだ到着しておらず、後方に居た高順の部隊が待機していた。 「う〜ん、ざっと100…いや、150は居るかな?」 「倍以上かぁ。 まあ、なんとかなりそうね。 突撃用意!」 高順が攻撃するときは、大抵『突撃』である。この戦場での突撃の多さが陥陣営と呼ばれるきっかけになっているのかもしれない。 「本隊はまだかすかに見える程度ですね。 …先に仕掛けていいのですか?」 「仕掛けなければ向こうから来るよ。 …ん?指揮官は夏候惇か? 少し厄介ね。 まあ、でも――」 そこへ、あわただしく伝令がやってきた。 「呂布様より伝令です!」 やや疲れが見える。 まだ本隊は時間がかかりそうだ。 「『高順は本隊が来るまで獲物を抑えておけ』だそうです!」 「そうか、ご苦労様。」 「はっ!」 「…聞いたな曹性? 行くよ。」 「了解!」 風は送り風である。 絶好の突撃のタイミングだ。 「バイク部隊、進め!」 高順の率いる部隊は、爆音を響かせ目前の敵へと向かっていった。 颯爽と敵へと向かっていく高順の背中に憧れるものも多いという。 「私たちも行くよ! 歩兵部隊、突撃!」 曹性は気合を入れ、バイク部隊の後を追った。 その後の運命など知らずに。
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