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31:彩鳳 2007/03/07(水) 22:24 ◎作者後記 非常にお待たせいたしました。『王者の生徒』第三章です。 ここ数日、こちらにアクセスできなかったのですが、いったい何が・・・。 「学園三国志」で検索したら来れましたが。(←早く気づけよ) さて、第三章ですが恐るべきことに、荊州校区の要人(幹部)たちのキャラ設定を全く考えないままに書いてしまいました。 そのため作中でも彼女たちの容姿にはあまり触れていません。(滝汗) 演義では蔡瑁らの操り人形だった劉Nですが、正史では曹操との交戦も考えていたそうです。しかし、曹操が襄陽に到着したことにより降伏を余儀なくされました。 劉表の跡を継いだばかりで、立場に反してそれほど発言力も無かったのでは・・・と愚考したので、作中では気の毒な役回りになっています。 書いた後で気付いたのですが、この第三章って柴桑会議の荊州版と言えるかも知れません。 周瑜があの場にいなかったら・・・と改めて考えてしまいました。 >海月亮さま 実は某モビルスーツの件は私も意識してました。 確信犯です。(笑) ゆえに作中では「突撃大隊」“Sturmtruppe” が「強襲部隊」になっていたりします。 >韓芳様 本作は基本的に連合会サイドで書いているので、劉備と孫権は出ないと思います。ご期待に沿えず申し訳ありません。 ただ『王者の生徒』の劉備side版は、これとは別に書くかも知れません。(まだプロットを考えてないので、断言できません)
32:彩鳳 2007/03/07(水) 23:11 今更ですが、第二章の訂正箇所を発見しました! 『特に時間の余裕が厳しくなるのを承知の上で、敢えて攻撃時刻をズラしたのはした』 の部分ですが、正しくは 『特に時間の(中略)敢えて攻撃時刻をズラしたのが功奏した』 となります。大変失礼致しました。 >雑号将軍様 荊州が無血開城なので、楽進の見せ場はちょっと・・・。申し訳ないです。 張遼ですが、襄陽陥落後に劉備を追撃したのは彼(彼女?)ではなかったかと。 韓芳様へのレスにある『王者の征途』の劉備サイド版が実現できれば、大いに活躍するでしょう。 (こうなったらマジでプロット考えねば)
33:彩鳳 2007/03/11(日) 00:26 『王者の征途』 第四章 『襄陽棟の落日』 「見えた、目的地だ! 襄陽棟の校舎が見えたぞ、各小隊は散開用意!」 前衛部隊の先頭で「雷部隊」を引っ張ってきた楽進が、ついに目的地を視界に捉えた。 時計の針は、間もなく3時を過ぎようとしている。障害物の撤去作業で思わぬ時間を取られたが、それ以降は大した邪魔も入らずに突き進むことができた。このおかげで、攻撃開始から1時間半経たずに目的地に到達するという驚異的な猛進撃が実現できたのである。 西に傾いた太陽が、かなり赤みを帯び始めた光で校舎を照らし出す中、「雷部隊」のバイク班は散開して校舎の各ゲートを封鎖しにかかる。同時に、後続してきた「剣部隊」と 楽進の本部中隊は正門へと雪崩込み、校舎の敷地内へと乗り込んだ。 剣道着姿に身を固めた武装風紀部隊と、運動着姿だが身のこなしの鮮やかな執行部員の精鋭たちがバイクから飛び降り、速やかに隊列を形成する。 「楽進さん、張[合β]さん、二人とも有難う。おかげでここまで来ることが出来た。ここから先は、この私にお任せ願いたい」 そう言って張[合β]の脇に座していた程Gは、校舎に向けて歩き出す。長身の彼女ゆえに、その様は真剣になった時の曹操とは異なる威圧感がある。その彼女を護衛すべく周囲を張[合β]と武装風紀が取り巻くと、その光景はまさに「主従の一行」という趣である。 外への警戒のために楽進らを残した一行が、校舎へ向けて歩いてゆく。 歩きながら程Gは「張[合β]さん、気づいているか?」と前を進む張[合β]に語りかけた。 急に問いかけられた張[合β]だったが、慌てる素振りを全く感じさせずに「戦の空気のことかな?」と返事する。曹操ほどではないが(いや、失礼)一見どこか抜けているようで、実は誰よりも鋭いのが彼女である。ある意味、一種の本能と言えるかも知れない。 「そうだ、我々が攻めてくることは(正確な日時はさておき、だが)ここの連中も分かっていたはず。だというのにこの警戒感の無さ。何かの罠かも、と最初は思ったがこれは明らかに違う」 「・・・荀揩ウんや賈詡さんが言っていたように、降伏派の力が強い、と?」 「それ以外に無いな、これは・・・で、噂をすれば何とやらか」 突然、程Gの突き刺すような鋭い視線が正面を向いた。彼女たちの正面――大校舎の玄関口に人の影が立っているのが見えたのである。 その影が「失礼ですが、連合生徒会の方々ですね?」と問いかけた。 影の問いに「そのとおりだ、あなたは?」と程Gが応じる。 「お初にお目にかかります。わたくし、荊州学院校区の生徒会役員を務めております蒯良子柔と申します。どうぞお見知り置きを」 「ご丁寧な挨拶、恐れ入る。私は連合生徒会の程G仲徳。何のためにここに来たかは、今更語る必要もないと思うが」 二人の脇では、張[合β]が蒯良の馬鹿丁寧な挨拶(なんだこいつ、司隷校区出身か?)に辟易しつつもこのやり取りを見守っていた。二人とも知恵者であるだけに、会話はとんとん拍子に進んでいく。 「程Gさんのお名前は、荊州校区の我々もよく存じ上げております。お会い出来て光栄ですわ。確かに、あなた方がここに来られた目的はよく存じ上げております。失礼ですが、なぜわたくしがここに居るかについても―――」 「―――ああ、語る必要の無い事だ。早速だが生徒会長の下へご案内願いたい」 「はい、会長の劉Nもみなさまをお待ちしております。それではこちらへ・・・」 こうして、荊州校区の中枢はいとも容易く曹操の手中に納まった。 襄陽棟制圧の報を受け取った曹操は直ちに現地へ赴き、降伏の手続きを行っていた程Gらと合流した。 そして、直後の交渉によって、劉Nらの処遇が正式に決定した。 生徒会長の劉Nは、生徒会長の座を降りることになったものの蒼天章の剥奪には至らなかった。さしたる抵抗をせずに降伏したことが評価されたのである。(曹操たちの予想通りの降伏ではあったが)ただし、荊州校区に留まることは許されず襄陽から、そして荊州校区から遠く離れた青州校区への転校となった。 蒯良・蒯越らをはじめとする文官グループの者たちは、連合会役員に加わることになり、改めて連合会(つまりは曹操)から現在のポストに任命されると言う形で、新たな部署(地位)に転属したり元の地位を維持することが出来た。 蔡瑁・張允ら、武官グループの面々も引き続きそれまでのポストに留まることになった。彼女たちはそれまで預かっていた部隊の指揮を引き継いで、曹操の南征軍に加わることになった。 かくして、劉表の会長就任以来続いていた荊州校区の独立運営は、ここに終わりを告げたのである。
34:彩鳳 2007/03/11(日) 00:27 『どんな物事にも、必ず終わりがある』と人は言う。その言葉は正しいと思う。今までの人生で一番目まぐるしい、今日という日にも当てはまったのだから。 そんなことを思いながら、劉Nは街灯に照らされた夜道を寮へ向けて歩いてゆく。 曹操と相対しての降伏手続きが終わった頃にはすでに日は沈んでおり、夜空には無数の星々が浮かんでいた。 歩きながら、彼女は今日一日の出来事を思い返してみる。 普段と違う緊張感の張り詰めた朝がやって来て、しかし何ごともなく午後になったと思ったら、突然曹操の侵攻が始まった。 それ以降は上級生たちと進展のない議論に終始し、気がついた時には連合会の大軍が目の前に迫っていた。 そして、曹操との対面の時が訪れた。 (本当に、凄い人だったな・・・) 先程まで顔を合わせていた人物の印象が、劉Nの頭を離れない。 彼女の想像とは全く違った“学園統一に一番近い女”の幼げな容姿。 初対面の劉Nは驚いた。だが、そこで驚いてはいけなかった。本当に驚くべきなのは、それからだったのだから。 曹操が見せたのは、姉や姉を支えた上級生たちにも似た余裕綽々の態度。 そんな彼女に付き従う錚々たる面々と、それを動かすリーダーシップ。 そして「臨機応変」の言葉を地で行く瞬間的な判断力。 どれも劉Nが必要だと思いつつ、持ち合わせていなかったものだ。しかし、曹操は持っている。 (無理だ。私じゃ敵わない) 自分と曹操の間にある巨大な“差”の存在を、劉Nは認めざるを得なかった。 姉には悪いが、たとえ姉の引退が遅れたとしても荊州校区の独立は守り切れなかったと思う。 学内最大の実力者の力量を目の前で見せつけられて、劉Nは格の違いを思い知ったのだ。 しかし、劉Nの驚きはそれだけではなかった。曹操は、劉Nを青州校区総代に任じたのである。 青州校区総代。軍権は無く、階級章も2000円から600円にランクダウンしてしまうが、それ以外は生徒会長と大差のないポスト。すなわち青州校区の責任者である。 荊州校区の降伏によって自分の学園生活は終わったと覚悟していた劉Nにとって、全く予想出来なかった決定だった。初対面ではあるが、自分は曹操の敵のはずである。その自分が一校区の責任者だなんて、それで良いのだろうか。意思決定を行う力こそ持っていなかったが、それでも荊州校区のトップにいるという自覚は持っている。 校区の降伏手続きと、連合会主導による人事処理が終わった後、意を決して劉Nはそのことを曹操に問いかけた。だが、劉Nの訴えを聞いた曹操は呆れたように言った。 「敵同士だったのはさっきまでの話でしょ。それに、蒼天章まで取られなくちゃいけないことをあなたはやったの? やってないでしょ。そんな終わったことより、来週のことを心配したほうがいいんじゃない?」 これが曹操の返事だった。こうして、劉Nの青州転属は正式なものとなった。 (明日も忙しそう・・・) 月曜日には、青州校区での初仕事が待っている。そのため、明日の日曜日は引越しに専念しなければならない。荷物の移動は連合会のほうで受け持ってくれるというが、見知らぬ校区へ転校するのだ。楽な一日にはならないだろう。 明日への不安を抱えつつ、一人孤独に彼女は夜道を歩いてゆく。 道の半ばで、劉Nは後ろを振り返った。視線の先には毎日を過ごした校舎がある。曹操の事や明日の事に気を取られ、他にも気になる事が多すぎて、襄陽棟で過ごすのもこれで最後だということを彼女は失念していたのだ。 彼女の視線の先では、見慣れた校舎が暗く静かにそびえ立っている。 重々しい夜闇に包まれたその姿は、まるで墓標のようだと劉Nは思った。 ○作者後記 前章に続いて、劉Nには辛い章になってしまいました。後で補完ストーリーでも書かねば。 さて『王者の征途』は次章で完成予定ですが、早く載せられるように尽力いたします。
35:雑号将軍 2007/03/14(水) 21:40 彩鳳様。お疲れ様です!今回もお見事でありますな。荊州閥の保身に走る姿がなんとも生き生きと映し出されている気がしました。 まあ、彼らは彼らでいろいろ考えてた結果なんでしょうね。 これから、曹操が劉備とどう対峙していくのかが楽しみです。
36:海月 亮 2007/03/16(金) 00:19 「蒼天航路」ファンとしては何の後ろめたさもなく保身に走る蒯越の姿がテラカナシス( ノД`)w 個人的な嗜好はさておいて(何)、実際の荊州政権も結局は豪族の連立政権しかなく、長いものに巻かれろ的な考え方があった感じですが…そのあたりが巧く表現されてますね。 劉Nは史実でも最後まで抵抗を試みようとしたみたいですけど…
37:韓芳 2007/03/22(木) 22:55 2週間出掛けているうちに次がラストですか〜。 本当にご苦労様です。 演義しか読んでない私には、劉Nの見方がガラリと変わる内容でしたね。各々の心情が良く伝わってきました。 次章お待ちしてます。 劉備サイドはご無理をなさらない程度でお願いします(頼むのかよ
38:韓芳 2007/03/25(日) 00:50 風凛華惨 其ノ壱 風は、時には凛と、時には華やかに吹くが、時には惨酷である。 ここは小沛棟より少し離れたところ。 そこで、2人の女性が話し合っていた。 「高順様どうしましょう? この数では苦戦は必死かと。」 「かといって、逃げ出すわけにも行かないわ。突撃するのみよ。」 「はぁ、まあそうなんですけどね。」 「曹性、今どのくらいいるんだっけ?」 「バイク持ちが20人と歩きが30人ですね。」 「そう。 じゃあ、歩兵は任せるわ。 私たちがバイクで敵陣をかき乱すから、そこをついて攻撃して。」 「はい! …しかし、呂布様にも困ったものですね。 慣れてきましたけど。」 「そういう素直なところがいいのよ。 …はぁ〜。」 「ダメだこりゃ。」 実は今、劉備が曹操と通じているということを知った呂布が、烈火のごとく怒って小沛棟を攻撃中だったのだが、曹操側の援軍が迫ってきているという知らせを受けたために迎撃に来ているのである。 とはいえ、呂布自体もこちら側に来ているのでほとんど転進ではあるが。 ただ、呂布の部隊は最前線に居た為ここへはまだ到着しておらず、後方に居た高順の部隊が待機していた。 「う〜ん、ざっと100…いや、150は居るかな?」 「倍以上かぁ。 まあ、なんとかなりそうね。 突撃用意!」 高順が攻撃するときは、大抵『突撃』である。この戦場での突撃の多さが陥陣営と呼ばれるきっかけになっているのかもしれない。 「本隊はまだかすかに見える程度ですね。 …先に仕掛けていいのですか?」 「仕掛けなければ向こうから来るよ。 …ん?指揮官は夏候惇か? 少し厄介ね。 まあ、でも――」 そこへ、あわただしく伝令がやってきた。 「呂布様より伝令です!」 やや疲れが見える。 まだ本隊は時間がかかりそうだ。 「『高順は本隊が来るまで獲物を抑えておけ』だそうです!」 「そうか、ご苦労様。」 「はっ!」 「…聞いたな曹性? 行くよ。」 「了解!」 風は送り風である。 絶好の突撃のタイミングだ。 「バイク部隊、進め!」 高順の率いる部隊は、爆音を響かせ目前の敵へと向かっていった。 颯爽と敵へと向かっていく高順の背中に憧れるものも多いという。 「私たちも行くよ! 歩兵部隊、突撃!」 曹性は気合を入れ、バイク部隊の後を追った。 その後の運命など知らずに。
39:韓芳 2007/03/25(日) 00:54 こんなの書いてみました。 やっぱり呂布軍団ですw 一応主役は曹性ですが、分かりにくい… 文句は注文の多い料理店より多いでしょうが、お手柔らかに…
40:彩鳳 2007/03/31(土) 23:16 『王者の征途』 第五章(終章) 『湖南へのうねり』 太陽は西に大きく傾き、目に映る何もかもを紅く染め上げていた。眼下に広がる長湖の湖面は凪いでおり、夕日を浴びて鏡のように輝いている。その穏やかな光景は激しい嵐の訪れた地であることを忘れさせてしまう。 襄陽棟の陥落から一日。同棟の南に位置し、長湖の西岸に建つ江陵棟の屋上には、二人の生徒の姿があった。 江陵棟の新たな主となった曹操と、そのパートナーで生徒会執行部長の夏候惇だ。 屋上から長湖の西岸一帯を眺めながら、曹操は一人考えに耽っている。その少し後ろに控える夏侯惇は無言のままで口を開くことはない。 夕暮れの冷気を孕んだ夕風が、二人きりの屋上を吹き抜ける。 その日の蒼天学園は、学内全体が異様な空気を孕んでいた。戦乱による混乱が常態化した学園にあって、極めて珍しいことであった。 異様な空気の原因は言うまでもない。曹操の速攻による荊州校区の降伏だ。何しろ学園有数の校区が半日持たずに降伏してしまったのである。その信じ難い事実は津波のように学園中に伝わり、学園全体を揺さぶる衝撃をもたらした。 曹操の目論見どおり『三度目の嵐』が吹き荒れたのである。 異様な雰囲気の中、曹操は早くも江陵棟へ進駐した。襄陽の校区首脳陣がすでに降伏していたため、抵抗する者は皆無だった。 江陵棟は、襄陽棟と共に荊州校区を代表するキャンパスだ。長湖に面しており、校舎に隣接した船着き場は校区第一の水運拠点として活況を呈している。同棟を手に押さえたことは、連合生徒会が揚州校区へ侵攻するための拠点を手に入れたことを意味する。 だが、曹操の見せた動きはそれだけではなかった。江陵へ入るのと同時に、手元に温存していた最後の強襲部隊――張遼率いる「嵐部隊」(Sturm=強襲部隊“シュトゥルム”)――を投入し、南へ逃走する劉備を叩かせた。 張遼は江陵と襄陽の中間点辺りで帰宅部の集団を捕捉した。「嵐部隊」は勇戦し、多大な損害を敵に与えたが張飛・趙雲・陳到らの必死の防戦により劉備を仕留めることは出来なかった。 散々に叩かれた劉備たちは、劉Nの姉・劉Kがいる江夏棟へ落ち延びたという。 江夏棟は、荊州校区と長湖部の抗争の地だ。相応の備えはあるだろうから、迂闊な手出しは出来ない。逃げ延びた帰宅部に、立て直しを図る時間を与えてしまうことになるだろう。 結果的(戦術的)には、張遼の強襲劇は失敗に終わった。 (でも、戦略的な見地からすると、全てがマイナスに作用したわけじゃぁないんだよね) 特に、劉備を中心にして敵対する抵抗勢力が一か所に集まったことを曹操は密かに喜んでいた。 襄陽・江陵を手にしたことで「高潮作戦」の第一段階は達成された。今日以降は占領地域の安定化・治安回復を行う「高潮」の第二段階に着手する。 このとき、抵抗勢力があちこちで活動するようでは第二段階の早期達成はおぼつかない。 だが、危険視すべき不満分子は劉備と共に去っていった。これにより第二段階の早期達成が見込まれる。この点だけは劉備に感謝しても良いと曹操は思っていた。 体勢を立て直した劉備たちはこの期に及んで降伏などしないだろうし、こちらも受け入れるつもりはないことは理解しているだろう。 (と、なると劉備に残された道はただ一つだけ) 帰宅部が生き残る術は長湖部と連携する意外にあるまい。その可能性はかなり高いと曹操は見ている。 両者が組むのは厄介だ。だが、考え方を変えて邪魔者をまとめて片付けられると思えば、これまた悪い話ではない。 幸いなことに、荊州校区の保有する水上戦力を無傷で手に入れることが出来たのだ。 これにより水陸両面からの作戦が可能となり、第三段階の決戦に際して行い得る作戦の幅が大きく広がる。 (そう、総合的に考えてプラス面のほうが大きいと判断して良いんだよね。あとは―――) 「孟徳、もう日が沈むぞ?」 不意に響く夏候惇の声に、曹操の思考は断ち切られた。二人きりの屋上では、実際の声量以上に声が大きく響く。 西の空に目をやると、彼女の言う通り半ば沈んだ太陽が最後の光を放っていた。その陽光が照明となって、益州校区の山々を黒く浮かび上がらせている。 「ごめん。もう少しだけ、いい?」 夏候惇の沈黙を了承の意と解釈すると、曹操は長湖の湖面に視線を戻した。 明日から数日は「高潮作戦」の第二段階に着手する。第二段階は事務仕事が中心となるため、戦闘部隊に休養を与える時間ができる。おかげで各部隊は満を持して第三段階に移ることが出来るはずだ。 (――あとは、揚州校区の態度次第) この時間を利用して、曹操は長湖部に決断を求めるつもりでいる。何の決断かは言うまでもない。抗戦か、それとも降伏か。果たして向こうがどう出てくるか。実に楽しみだ。 曹操は視線を少し右に移した。その空の下には彼女が目指す揚州校区がある。 (あの空の下に『王者の征途』の終着点がある。今日は江陵までたどり着いたけど、まだまだ先は遠いね) 東の空は暗い藍色に染まり始めており、湖岸を彩る街灯が星のように小さく見える。 空の下に広がる長湖の湖面は白波を立てず、どこまでも穏やかに広がっていた。 ―『王者の征途』完―
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