★しょーとれんじすと〜り〜スレッド 二学期!★
7:韓芳2007/01/24(水) 00:53
夢幻泡影

その少女は、平和に暮らせるはずだった。
あの日、あの時までは―――

「嘘じゃないわ。間違いない。」
「そこまで言うなら試してみるが、無駄だと思うぞ。」
「いいからお願い。」
ここはとある道場。ある少女の父親が代々受け継いできた場所である。
そこに、その少女と両親、親類達が集まっている。
「一応スポンジで出来ているから怪我はしないけど、ちょっと痛いかもしれないんだ。ごめんな。」
「うん・・・わかった。」
「じゃあ、いくぞ。」
そう言って父親はスポンジの剣を構え、少女の前に立った。
「無理に決まってる。」
「ああそうじゃ。手を抜いているとはいえ、まだ4つの子に避けられるはずが無い。」
誰もがそう思った。
手で顔を隠しつつも、指の間から覗いている人も居る。
父親は若干加減しつつ、剣を振り下ろした。

バン、と道場に鳴り響いた音。
誰もが少女の心配をした。だが・・・
「おっ、おい・・・嘘だろ・・・」
「まさか・・・」
「ね。言ったとおりでしょ。」
その少女は、父親の剣を見事にかわし、平然と立っていた。
「これは凄い・・・!もっとやってみてくれ!」
「あっ、ああ。」
父親は次々に剣を繰り出したが、少女はすべてかわしていた。
「これは・・・!」
「おい!この子は10年に1人の逸材だぞ!」
「明日からでも剣術を習わせるべきじゃ!」
「いや、剣術だけじゃなくほかの武術もだ!」
周りの大人は活気づいていた。
ただ少女のみ、この後の状況を把握できずに呆然と立ち尽くしていた。

それからと言うもの、毎日さまざまな道場へ通い、その力を十二分に発揮していった。
だが、
「もう嫌だよ!みんなと一緒に遊びたいよ!」
「駄目だ。今日は稽古の日だろ。」
「そんなの毎日じゃん!お母さんも何か言ってよー!」
「・・・」
「ほら、行くぞ。」
「何で何も言ってくれないの!?」
「静かにしろ!いい加減あきらめなさい。」
いつもこうだった。
その少女は遊ぶ暇も無く、毎日道場へ通わされていた。
少女の意見など通りもしなかった。
ただ、母親が何も言わないのがいつも気がかりだった。
そして、少女が中学1年生になったある日―――

少女は、すでに10個近くの武術を極め、もはや最強と言っても良い強さを持っていた。
ただ、その代償として感情をほとんど表には出さなくなっていた。
そんな時、母親がその少女を呼び出した。
「どうか致しましたか?」
「・・・そのしゃべり方はもうやめなさい。」
「あなたがそうするよう教えたのでしょう。」
部屋の中に夕日が差し込み、日が暮れようとしているのが良く分かった。
「そんなあなた、もう見てられない。耐えられない。あなたは私を許すことは無いかもしれないけれど、それでもいい。ここから逃げましょう!」
「えっ・・・?母上・・・?」
「嘘なんかじゃない。この数年、あなたと暮らすためにお金を貯めておいたのよ。さあ、2人でここから逃げ出しましょう。2人で暮らしましょう。」
母親は優しい顔と声で言った。
少女はしばらく呆然としていたが、ふと我に返ると涙目でこう言った。
「やっと・・・やっと自由に・・・!母上・・・!お母さん!」
ようやく掴んだ自由。もう、こんなつらい生活続けなくていい。これからは2人で生きていこう、そう思った。が。
「やはりか・・・。こっそり金を貯めていると思ったら、そういうことか。」
見ると、部屋の入り口に父親と親類数人が立っていた。皆、手には武器を持っている。
「!!お父さん・・・。」
「師匠と呼べ。・・・お仕置きが必要だな。」
「あなた、待って!話を聞いて!」
「問答無用だ。下手に逃げ出そうとすれば、お前といえども・・・斬る。」
そう言った父親の目は、冷たく憎悪がにじみ出ていた。
「さあ、こっちにおいで。稽古の時間だ。」
そう言って、父親は少女の腕をつかむ。
「あ・・・」
「だめよ!言っちゃ駄目!」
「邪魔をするな!」
父親はとっさに手にしていた剣を振りぬいた。
「あっ・・・」
薄暗い部屋に赤い雨が降った。

「し、しまった!おい、誰か!救急車を!」
「あ・・・ごめんね・・・ごめ・・ね・・・」
「お母さん!だめ、しっかりして!!」
だが傷は深く、出血の量も多い。誰の目に見ても死を感じずにはいられなかった。
「私が・・・あの時あんなことを・・・言わなければ、こんな・・・」
「もういい!お願い、しゃべらないで・・・!」
父親も親類も、母親から目を背けていた。
「ごめんね・・・ごめ・・・ほ・・・」
「お母さん・・・?・・・お母さん!」
だが、返事は無かった。
「・・・すまない・・・」
「・・・一緒に暮らすって・・・言ったのに・・・!」
その少女の目に、涙が光っていた。もう、何年ぶりだろうか。
「悪気は無かったんだ。許してくれ・・・」
少女が変わった。
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