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【SS?】雷神の右腕 (の想像物語)
1:円2007/11/11(日) 15:11:35 ID:z+Pg/kAk
(2005年10月13日 15時15分42秒)
物心ついたときには、彼の右腕にはその雷(ちから)が宿っていた。
他の者たちは持たぬ雷。破壊することにしか使えぬ雷。人を救うことも、癒すことも出来ない。なぜ自分なのか。雷に振り回される自我。なぜ自分なのか。
揮えば奮うほど、その雷はチカラを増した。砕かれる岩、なぎ倒される木々。その雷がついに山を砕き、大陸に入り江を生み出した時、彼は人々に恐れられ、いつしかこう呼ばれるようになっていた。
その名は・・・・
強靭な肉体、自らの意思に従い、山を砕く雷。付きまとう疑問。なぜ自分なのか。
恐れる人々は言う。奴は雷神だ。そうなのだろうか。付きまとう孤独。なぜ自分なのか。
肉を喰らい、酒を飲み、女を抱いても、消えない感情。それは恐怖。なぜ自分なのか。
そして、彼の恐怖と疑問、そしてその雷が最高潮に達した時、それは来た。
名も無き存在、撒き散らされる死、朽ち果てる大地。邪神。
一人の息も絶え絶えな老人が、彼の元を訪れた。
私はこの地よりはるか遠くの島から参りました。勇者達は倒れ、もはや頼るべきものは他に無し。どうか・・・・どうか・・・・・
自らの雷(チカラ)の奔流。留める堰はもはや限界。その時に現れし邪神。怯える子供たち。女たちは目で訴える。行かないでほしい。雷があればこの土地は守れるに違いない。
なぜ自分なのか、この右腕(チカラ)を授けられたのがなぜ自分なのか。
襲いくる嵐。その咆哮は大地を割り、強靭な爪牙は唸りを上げて天を裂く。神の証、人には在らざる6対12枚、燃え盛る翼。命を奪うその瞳は光を飲み込む混沌。
船には一人、彼のみが立つ。
闇を切り裂く一条の閃光。それは槍。全身全霊、唯一無二、初めにして終わり。
細く、狭く。長く、強く。積み上げてきた過去、紡がれ行く未来。そのすべて。
見敵と同時に放たれた最後の一撃。雷<チカラ>の具現、雷神の右腕。
彼がなぜ、邪神に立ち向かったのか、彼以外には知りえない。
ある者は、彼が正義の心に目覚めたのだと言った。
ある者は、彼が自らの邪魔になる存在を消したかったのだと言った。
ある者は、チカラ在る者の義務だと言い、ある者は悪意の発露にすぎないと言った。
彼は知りたかった。自らの疑問。
なぜ自分なのか。その右腕の意味を。
彼は答えを得た。そう確信した。
残った左腕で、我が子の頭を撫でながら。
水を撒こう。既に種は蒔かれている。
振り返ると、故郷に残してきた者達がいた。
彼に怯え、その雷を恐れていた者達。危険を顧みず、邪神に怯えながら、それでも彼を追って来た者達。
ここで種を育てよう。左腕で花を咲かそう。邪神の封印が解ける日がいつなのか、それは彼にも分からない。だが、この命ある限り・・・
それから後、十数年。第2の嵐が訪れる。>>>>>雷神の左腕に続く。
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