下
小説、書いてみました。
2:左平(仮名)2002/12/19(木) 23:22
『白き天』
一、
「狭いな」
男は、そう呟いた。年の頃は、二十歳を少し過ぎた程度であろうか。並外れた巨躯と、衣服の上からでも分かる盛り上がった筋肉が、ひときわ人目を引く。
省26
3:左平(仮名)2002/12/20(金) 00:11
二、
董卓は、涼州は隴西郡、臨トウ【シ+兆】の人である。もと潁川郡綸氏県の尉・董君雅(君雅は字?)の次男として生まれた。
彼が生まれた時、父は既に初老と言ってよい年で、髪には白いものが多く混じっていた。董卓の記憶の中には穏やかな姿しかないが、若い頃は、相当な切れ者であったらしい。
省24
4:左平(仮名)2002/12/20(金) 00:14
三、
董卓は、自由奔放に育てられた。父にきつく叱られたという事は殆どない。その育てられ方は、兄の董擢とは対照的であった。董擢は、長男として厳しく育てられていたのである。普通なら、その事について、不平の一つも述べるところであろう。だが、そういう事はなかった。彼には、父の思いが分かっていたからである。厳しく育てられたとはいえ、彼もまた、父の愛情を強く感じていたのであった。
董擢の自制もあって、董家には穏やかな月日が流れた。それは、一家の顔を見れば分かる。特に、妻の満ち足りた顔は特筆すべきものであった。夫に愛されているという安らぎがそうさせるのであろう。
董擢が成人し、出仕するのを見届けると、君雅は引退した。惜しまれつつ引退したその姿は、実に清しいものであった。
省27
5:左平(仮名)2002/12/20(金) 00:15
四、
「卓よ。話がある」
「何でしょうか」
「私は、明日より再び出仕する」
「はい」
省50
6:左平(仮名)2002/12/22(日) 00:40
五、
董卓は、洛陽を出て、西に向かっていた。左手を向くと、はるか彼方には、急峻な山脈が広がっている。秦嶺山脈である。夏なので、さすがに冠雪は見えない。
「あれを越えるのはしんどいな…」
董卓は、北西に進路を取った。木々が少なくなり、徐々に風景が変わってゆくのが分かる。このまま進み続ければ、どこに着くのであろうか。
「まぁ、ゆっくり行くか…」
省27
7:左平(仮名)2002/12/22(日) 00:42
六、
はるか彼方に、煙が立ち昇っているのが見えた。
(国境か? もうすぐ西域に入るのか?)
一瞬、そう思った。…だが、違う様だ。第一、煙が薄い。あの煙では、狼煙にはなりそうもない。
(と、なれば…。近くに、集落があるのか…)
省43
8:左平(仮名)2002/12/22(日) 00:45
七、
「えっ? このあたりには、獲物となる動物がいないのですか?」
「いや、そういう事はないが…。一人で、この集落の全員に振る舞うだけの肉を用意するというのか?」
「えぇ。獲物がいるのでしたら」
「信じられんな」
省45
9:左平(仮名)2002/12/22(日) 00:46
八、
「いかがですか。これだけあれば、皆さんに肉を振る舞えるかと思いますが」
そう言って、仕留めた獲物を差し出すと、周囲から喚声が起こった。まさか、漢人の青年が、たった一人でこれだけの獲物を仕留めて見せるとは。しかも、たった五本の矢で。
「董卓殿。見事ですな」
族長も、ただただ驚くばかりであった。
省46
10:左平(仮名)2002/12/22(日) 00:47
九、
朝がきた。朝日がまぶしい。ちと飲みすぎたか。少し頭が痛い。
羌族の生業は、主に遊牧である。夜の間、狼などに襲われない様一箇所に集められていた羊が、一斉に放たれ、思い思いに草を食んでいる。
広い緑の草原に、白い毛に覆われた羊たちが点々と散らばっているその姿は、天をそのまま地上に移した様にも見える。
省32
11:左平(仮名)2002/12/22(日) 00:50
十、
「久しぶりですな、董卓殿。いや、漢の流儀で言えば、仲穎殿か」
「おぉ、あなたは! あの時の族長殿ではありませんか!」
「はは…。 まぁ、お元気で何よりじゃ。いかがお過ごしかな?」
「まぁ、おかげさまで。兄に田と牛を分けてもらいまして、何とか暮らしております」
省38
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