下
小説、書いてみました。
11:左平(仮名)2002/12/22(日) 00:50
十、
「久しぶりですな、董卓殿。いや、漢の流儀で言えば、仲穎殿か」
「おぉ、あなたは! あの時の族長殿ではありませんか!」
「はは…。 まぁ、お元気で何よりじゃ。いかがお過ごしかな?」
「まぁ、おかげさまで。兄に田と牛を分けてもらいまして、何とか暮らしております」
「何と。そなたほどの勇者が、その程度の暮らしに甘んじておられるのか」
「いやいや、武勇といっても、ここでは何の役にも立たんのですよ。第一、狩りをしようにも、獲物もおりませんし」
「それはまた、物足りんのぅ…」
「そうだ、せっかくお越しいただいたのです。何かご馳走いたしましょう」
「いやいや、たまたま近くを通ったので寄ったまでの事。お気遣いは無用ですぞ」
「いえ、それではこちらの気がすみませぬ」
そう言うと、董卓は家屋に隣接する小屋に足を運んだ。
「兄上」
「ん? どうした?」
「実は、以前世話になった方がお見えなんです」
「うん」
「ご馳走しようと思うのだが、あいにく、何もないのです」
「で、どうしようってんだ?」
「こないだいただきました牛、あれを料理しようかと思いまして」
「牛を!? あの牛を食っちまったら、明日からどうやって田を耕すんだ?」
「それは、何とでもします」
「まぁ、そなたがいいと言うのなら構わんが…。うちにいる牛は少ないからな。もう分けてやるわけにもいかんぞ」
「構いません」
董卓は、自らの牛を殺し、それを調理して族長達をもてなした。
「さぁさぁ。粗末なものですが、紛れもなく牛の肉です。どうぞ、お召し上がり下され」
「よろしいのですかな? この牛は、そなたの田を耕すのに必要なものではないのですか?」
「いいんですよ。田を耕すのは、何とでもなります。幸い、体力は十分にありますしね」
「そうですか。では、いただきますぞ」
「どうぞどうぞ。少しですが、酒も支度いたしましたぞ」
「おぉ、酒まで。いや、これはこれは」
ささやかな宴が催された。それは、臨トウ【シ+兆】の人にとっては、珍しい光景であった。漢人と羌族とが、和やかに談笑しているのだから。
たらふく飲んで食べて、羌族の人々は帰っていった。彼らは、口々に董卓を賞賛した。なにしろ、自らの大事な財産を割いてもてなしてくれたのだから。
(漢人にあれほどの好意を受けるのは初めてじゃ。何とかして、それに報いてやりたいのぅ…)
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