下
小説、書いてみました。
14:左平(仮名)2002/12/22(日) 00:59
十三、
光和七(西暦184)年。太平道が蜂起した。世にいう、黄巾の乱である。董卓も、その征討軍の一員として、前線に赴いていた。
既に五十に届こうかという年である。さすがに、自ら武器をとって戦うという事は少なくなっていた。とはいえ、ひとたび武器を手にとれば、そんじょそこらの兵どもには負けはしない。素手で鹿を締めた膂力は、なお健在であった。
眼前に、黄巾の賊の姿が見える。頭に黄色の布を巻いた群衆の姿は、あたかも黄河の奔流を思わせた。
(宮中にいる宦官やら官僚どもであれば、この光景を目の前にしただけでも震え上がるであろうな。いや、気絶してしまうかな?)
歴戦の猛将である董卓には、大敵を前にしてもなお、そんな事を考える余裕がある。
(あやつら、乱を起こすにあたって「蒼天すでに死す。黄天まさに立つべし」などとぬかしておったらしいな…。蒼天とは漢を、黄天とは太平道を指すのだろうが…。漢が、もう長くはないというのはいえるだろう。だが、黄巾の賊がそれにとって代わるほどのものか? 笑わせるな! 安易に妖しげな教えにすがる様な惰弱な輩のつくる政権が、まともなわけがないわ!)
漢の圧政に対して蜂起したという点においては、彼ら黄巾の賊と羌族とは似ている。人は、そう見るかも知れない。だが、董卓には、そうは思えなかった。
彼は、いつしか、煩瑣な礼教というものを敵視する様になっていた。彼にとって、素朴で精悍な羌族は、たとえ敵になったとしても、敬意をもってみる事ができた。しかし、眼前にいる、あの様な漢人には、敬意を払えそうにない。
董卓は、ふと頭を上げた。頭を上げたその先には、曇って白く見える天があった。
(白…。そういえば、白には「西方の色」「金」とかいう意味があるらしいな。そうだ、あっちは、西だ。…待てよ、やつらの説にのっとれば、青の次が黄だが…五行にのっとれば、その次は、白じゃねぇか! ふふ…そうか、そうなるのか…)
剣を抜き、それを天に向かってかざす。いよいよ、攻撃命令か。兵士達に、緊張が走る。
雲が切れ、切れ間から、陽光が差し込んでくる。光が剣先にあたり、輝きを四方に放った。戦場には似つかわしくない様な、汚れのない輝きであった。
「おぉ! 我らの前途を、天が祝福してくださっておるわ!」
兵士達が、喚声をあげる。士気は、十分だ。
(蒼天も、黄天も、このわしがすぐに終わらせてやるわ! 次は、白き天…。新たな世は、このわしが切り開いてくれようぞ!)
董卓は、心の中でそう叫んでいた。
「者ども! 突撃じゃ−っ!!」
「お−っ!!」
その叫びとともに、全軍が突撃していった。彼、董卓の戦いは、まだこれからである。
白き天 完
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