下
小説、書いてみました。
7:左平(仮名)2002/12/22(日) 00:42
六、
はるか彼方に、煙が立ち昇っているのが見えた。
(国境か? もうすぐ西域に入るのか?)
一瞬、そう思った。…だが、違う様だ。第一、煙が薄い。あの煙では、狼煙にはなりそうもない。
(と、なれば…。近くに、集落があるのか…)
獲物と草を確保しつつ進むので、どうしても町や村からは離れがちになる旅をしている。長らく人の姿を見ていないので、多少、人恋しくもある。恐らく異民族の集落であろうが…まぁ、何とかなるか。董卓は、まっすぐ煙の方向に向かった。
数件の家屋がある。中に入ったわけではないので詳細な造りまでは分からないが、漢人の住居とは異なるという事くらいは分かる。それにしても、やけに静かである。
(誰もいないって事はないだろうが…)
ゆっくりとあたりを見回していると、突然呼び止められた。
「きさま、何者だっ!」
多少の訛りはあるが、漢語である。
(えっ!? 漢人?)
多少の戸惑いを覚えながら、声のする方向を振り向いた。そこに立っているのは、武器を持った一人の青年であった。独特な髪型をしている。話に聞く、羌族だろうか。
「あんた、羌族の人間か?」
そう話しかけてみた。争うつもりはないが、向こうの態度によっては、戦わざるを得まい。
「そうだ。…漢人が何しに来たっ!」
「怪しい者ではない。俺の名は董卓。一介の旅人だ」
「旅人? 信じられんな。…だいたい、漢人にろくな奴はいねぇ」
「信用せんか…ならば」
そう言って弓矢に手をかけようとした、その時である。
「待たんかっ!」
武器を繰り出そうとした青年を、その声が制した。
「ぞっ、族長! どうして止められるのですかっ!」
「分からぬか。その男には戦うつもりがない」
「でっ、ですが…」
「そなたには、この男の力量が分からぬのか。この男が本気を出したなら、そなたは一撃で倒されておったのじゃぞ。…失礼を致した。わしは、この部族の族長である。いかなるご用かな?」
「いや、用という事はないのです。久しぶりに集落を見かけたので、一晩泊めていただこうかと思いまして…」
「ふむ…。だが、泊めるわけにはいかんな」
「何故ですか?」
「なんと。そなた、先年の戦いを知らぬのか?」
その数年前まで、羌族と漢軍とは激戦を繰り広げており、双方に多大な犠牲が生じていたのである。
「は? 戦い、ですか?」
「あの激戦を知らぬとはのぅ…。ならば、くどくどとは言うまい。我らは漢人を嫌っておる。早く立ち去られよ」
「漢人はどうか知りませんが、この董卓は信用していただけませんか?」
「どういう事じゃ?」
「ただで一晩泊めていただくのも気がひけます。どうでしょう。今夜は、私から皆さんに肉を振る舞いましょう。それでいかがですか?」
「肉を? 一体、どうしようと言うのじゃ?」
「私が、獲物を仕留めて来るという事です」
「そなた一人でか?」
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